2024年3月26日火曜日

急に賃上げラッシュ!どうしたことか?

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 30年ぶりの高率の賃上げの要因を研究していただきます。
 今後どうなるかを考えましょう。
ねらい:
 日本経済が「失われた30年」を脱却できることを
 期待しましょう。 
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30年間、ほとんど動かなかった給与水準でしたが、
急に賃上げの動きが活発になってきました。
賃上げの傾向は、中小企業にまで及び
中小企業の賃上げ率は32年ぶりの高水準となりました。

 (3月14日日経新聞)

























同じ記事の続きです。










































これも上掲の記事の図ですが、これまで企業は配当金を増やしても
人件費は増やさなかったのです。











































なぜ急に賃上げが動き出したのでしょうか?
あらためて、その要因を探ってみます。

Ⅰ.これまで賃金が上がらなかった要因
2017年に以下の書籍が出ています。
編者は玄田有史東大教授で、
21人の専門家にこのテーマで書いていただいたものを収録しています。 
「人手不足なのに、なぜ賃金が上がらないのか」

このブログでもその内容をご紹介しました。
2017年6月20日

以下、そのブログの内容です。
2017年時点のほぼ一般的な認識を示しています。
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主としてその著書の要約から、
「人手不足なのに賃金が上がらない」理由を整理します。

1.労働市場の需給関係からの考察
1)経営がギリギリで少しでも人件費ががると撤退となる。
2)多くの高齢者や女性が求職するので賃金が上がらない。
3)競争激化のため、経営が賃上げできない。

4)離職者を防ぐための賃上げ効果は限定的である。
5)日本の労働市場は企業内に閉じているため
               市場全体の需給関係を反映しない。


2.行動経済学等の観点からの考察

1)日本の給与体系・給与決定方式だと 
  いったん上げるとなかなか下げられないので、
  経営は給与上げに慎重になる。

  過去に賃金カットを回避した企業ほど、
  その後の賃上げの度合いが小さい。
  賃金カットを実現した企業はその後に利益率が向上すると
  大幅に給与を引き上げている、
  という事象も報告されています。


3.賃金制度などの諸制度の影響

1)能力主義・成果主義を標榜する中で
  平均的には給与水準の引き下げが行われた。
2)社会保障費負担の増加も給与引き上げ原資を奪っている。

4.賃金に対する規制などの影響

1)雇用面の最大の成長産業である医療・福祉系の賃金が、
  診療報酬制度や介護報酬制度の規制によって
  上限が抑えられている。
2)その低賃金が、
  他の対人サービス業全体の足を引っ張っている。

 
5.非正規労働者の増加の影響

1)賃金の低い非正規労働者の増大は平均賃金を引き下げる。
2)定年再雇用の場合も低賃金となる。


6.能力開発・人材育成の弱体化の影響

1)高い技能を有する労働者が少ないから低賃金となる。
 それは社内の能力開発・人材育成の機会が減少したからである。
 

 企業が職場外で行う訓練であるOFFJTの
 従業員一人当たり支出額は
 リーマンショック後、それ以前に比べて半減している。

 労働者が自身で行う自己啓発も同じく半減している。

7.高齢問題や世代問題の影響

1)就職氷河期の「第2次ベビーブーム時代」及びその後の世代は、
 卒業時に有利な条件での就職ができず、
 その後の転職等の場合でも恵まれていない。
 この世代が平均賃金を引き下げている。

2)高齢者は役職定年や再雇用で大幅な賃金低下となっている。
 この影響も大きい。

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この指摘は正鵠を射ていたと思われます。
しかし、重要な視点が抜けています。
このブログで上野は以下のように述べています。
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8.給与が低いのは、
その労働が産み出す付加価値が小さいからである。


付加価値が高く、売上が得られるのであれば、
経営はその雇用を増やし、給与も上げます。

多くの労働者が従事している旧来型の労働は、
競争激化で付加価値を生み出さないか、
低生産性で生み出す付加価値が小さいのです。

そこで、賃金・給与を引き上げるには
労働の生産性向上が必要です。

ところが、従来型の労働者は、
「言われたことをこなす」という思考にはまっていて
より良い仕事の方法を自ら考えるという思考法を
持っていません。

その源流は、よく指摘されているように、
日本の教育制度にあります。
既存のでき上った体系を覚えることが中心で、
考える・創造する、ということに力点を置いていません。

ご承知のように、
ようやくその反省から大学の試験制度も
見直されるようになっています。

私共研修事業者の立場から見る新入社員層は
「指示待ち人間」です。
それをどうやって変革させるかが、
新入社員研修の最大の課題なのです。

研修でそれを成功させている例は殆どありません。
成功例は、日本電産殿が社長の発案で実施されている
「新入社員に毎日便所掃除をさせる」でしょう。

それを乗り越えられない社員は落第ですね。

新入社員だけでなく、
多くの社員が場合によって部長層までが
指示待ち人間なのです。
それを嘆いておあられる社長のなんと多いことでしょうか!

今後、日本はどうやって事業の競争力を高めていくのでしょうか。

人件費コストダウンの切り札だった非正規の増加は頭打ちです。
多くの企業で非正規社員の正規化に舵を切っています。

産業構造変化も頭打ちでしょう。
金融はアメリカに敵わないし、
製造業も、後進国やダイソンを考え出す国の後塵を拝しそうです。

トヨタのカイゼン活動は製造現場が中心です。
日本の製造現場のカイゼン力はおそらく世界一でしょう。

しかし、デスクワークで「カイゼン」を旨とする企業は、
日本のほんの一部です。

日本のデスクワーク現場の人たちは変化を好まないのです。
変化を嫌うのです。

「変化しないと企業が持たない!
変化を拒絶するものはクビだ!」
くらいのことを社長が言わない限り現場は変わりません。

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Ⅱ.2024年に変化した要因
それでは、これらの給与が上がらない要因のうちで、
何が改善されたのでしょうか。

以下の3点でしょう。
1.労働市場の需給関係からの考察

前掲資料では、離職者防止のための給与アップ効果は限定的である、
との記述があります。
今回は、DX等の先端的技術者確保のための給与アップが前面に出ています。
事業によってはそれらの技術者確保は死活問題なのです。

また、人材確保のための新入社員給与引き上げも目立っています。
給与が高くないと優秀な人材を採用できなくなったのです。

それらの影響で、全体の給与水準も見直しがされている、という状況です。

4.賃金に対する規制などの影響
賃金は抑制傾向から賃上げの積極的支持に轉換しています。
政府は、今年度から従来からの賃上げ分の一部を税額控除する
「賃上げ促進税制」を拡充して、積極的な賃上げの旗振りをしています。
物価高に対して給与が上がらないと、
国民の不満は日に日に大きくなって、
自民党政権の維持もおぼつかなくなってしまいます。

何としても、以下の好循環の歯車を回したいのです。


8.給与が低いのは、
その労働が産み出す付加価値が小さいからである。

日本経済としてのその抜本策は未解決ですが、
物価上昇が受け入れられる社会的環境になってまいりました。
物価高要因の大半は原料高ですから、
国民が「仕方ない』と受け入れているのです。

値上げ是認の風潮は、企業の収益改善の後押しとなります。
おそらく、これまで抑えていた値上げをこの際実現する、
ということも起きているでしょう。
これは、労働が産みだす付加価値増に該当します。

課題は中小企業がどうなるか、です。
上掲のグラフでも、中小企業は既に労働分配率が高くて
賃上げ余地は少ないのです。

取引先が値上げを引き受けてくれないと、
賃上げのしようがありません。
連合の2次集計では中小企業の賃上げ率が4.5%になりました。
好調の自動車産業の関連中小企業の賃上げが
他の産業にも波及しているようです。

中小企業の経営者は
事業採算的には給与アップはできにくいのです。
しかし、給与アップが一般的傾向になった中で、
その波に乗れないのは、従業員の意欲確保の点から致命的です。
中小企業の経営者としては苦渋の決断でしょう。
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こうして見てきますと、賃上げのラッシュには、
日本社会の付和雷同型思考も影響していると思われます。

以上を整理しますと、賃上げラッシュになった要因は、
特に目新しいことはありませんが、以下のとおりとなります。
1.高度人材確保が必須な企業が先陣を切って賃上げした。
2.国が賃上げに対して積極的な促進をしている。
3.原材料高でどうにもならない企業から値上げを始めた。
4.物価上昇を受入れる社会的意識が生まれた。
5.後続企業が値上げと賃上げをしだした。
6.様子見だった多くの企業が賃上げをしだした。

これが一過性に終わらずに、上掲の図の好循環が回れば、
日本経済の失われた30年から脱却できることになります。
そのキーは、一般の国民の消費拡大です。
先行き不安があれば、
給与増は消費に回さず貯蓄に回ってしまいます。

先行き不安の解消を実現するには、
国の強いリーダが現れて「こうすれば日本の将来は安定できる」
ということを示さなければなりません。
「こうすれば」の中には少子化対策も含まれます。
そういうことができる国のリーダは期待できるのでしょうか。

それが困難であれば、その効果は限定的ですが、
せいぜい「消費促進策」を大々的に打つしか手がないでしょう。
「GOTOトラベル」や「耐震・耐火リフォーム促進」などです。

いかがでしょうか。
皆様もお考えください。

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