2016年10月31日月曜日

「人間の性はなぜ奇妙に進化したのか」

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 人間の性生活が他の霊長類からどのように進化(変化?)してきたのか
                                を知っていただきます。
 どこが違うのかを再認識していただきます。




ねらい:
 それでどうしましょう。ご自分に都合のよい活かし方がありますかしら?


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この件名は、
カリフォルニア大学ロサンゼルス校教授、進化生物学が専門の
ジャレド・ダイアモンドの書かれた書名です。


なんとこの方は、1937年生まれです。まだ現役の先生なのでしょうか?



人類進化の総論書が多い中で、
特定のテーマで掘り下げた非常に興味深い内容です。

他の動物と比較すると、
人間の「性」はずいぶんユニークなのですよ、
ということを、いろいろな側面から解説しています。

その内容を表に要約してみました。




人間固有の

性的特徴

状況の説明

そうなる
メリット

(想定を含む)

他の動物

での例

排卵期が認識できない

一般の動物は、性器のまわりが赤くなる、強烈な匂いを発する、鳴き声を上げる、かがんで性器を見せる、などで生殖可能な時期が分かる。

いつでもオスを誘えることで、優秀な子孫を残す機会を増やす。

男に自分の子供だと思わせて子育てに参画させる。

進化生物学の結論では、はじめは乱婚で自分の子供かもしれないと思わせて子殺しを避け、そのうちの一部の進化が子育てを確実にする一夫一妻に進んだ、となっている。

霊長類68種のうちオランウータンを含む32種(10種は一夫一妻制)は排卵のサインを出さない。

ゴリラを含む18種はわずかなサインを出す。

残りのヒヒやチンパンジーを含む18種(うち14種は乱婚)が明確なサインを出す。

乱婚のベルベットモンキーは、群れのすべてのオスに子供たちが自分の子かもしれないと思わせている。

楽しむためにセックスをする

一般の動物は、メスが交尾を誘うのは受精の可能性のあるときだけ。それ以外の時は拒絶する。

オスを自分の元に留めおくのに「いつもできる」ことが有効なのでしょう

ボノボ、イルカも。

オスが子育てに参画する

 

動物界で多数派ではない。

オランウータンは普段単独で暮らしていて交尾の時だけ一緒になり、オスは一切子育てしない。

 

 

そうなる根拠は、本文に記述。

シギの一種やある種の魚(タツノオトシゴ、トゲウオ)や両生類(サンバガエル)もオスが子を育てる。
一夫多妻のシマウマやゴリラ。一夫一妻のテナガザル。一妻多夫のセマダラタマリンもオスが子育てをする。

女性に閉経時期がある

ある時期になると妊娠できなくなる。

人間の乳幼児は手がかかり、保育に手助けが必要である。女性が一生産み続けるよりも孫の世話をする方が種族の存続にとって有効である。続き右欄へ。

野生の哺乳動物には閉経はない(衰えることはある)。

 

(ヒトの子供は10歳くらいまで大人の手を借りないと生きられない。頭が大きくなり未熟状態でないと産道を通れないからそうなった)。

人目を避けてセックスする。

一般の動物はセックスを隠さない。

生物学的には、自然な行為なので隠すという意識は生まれない。

動物が隠すのは、得た獲物をとられないように隠すということぐらい。

人間は恥を知っているからで、隠すメリットがあるから隠すのではない。

チンパンジーはオスと発情したメスが2匹だけで数日間過ごすことはあるが、その後すぐに人前でセックスするので、人目を避けるということではないようだ。

授乳期間が始まる前に女性の乳房が発達する

セックスアピールで一般的に言えるのは

男性の筋肉、両性ともの顔の美しさ(そのとらえ方は人種によって千差万別)、女性の脂肪である。

上野注:女性の体の魅力を一般化すると脂肪であるというとらえ方に感心。

女性の脂肪の魅力を発揮するのは、乳房(これは授乳能力が大きいという見せかけだという→乳の出る乳腺と脂肪は別)と臀部(安産を期待させるがこれも見せかけ→臀部の大きさ=産道の広さではない)である。

他の動物のことには触れていませんので、おそらくそういうことはないのでしょう。

男性の性器が長い

一般的に13センチといわれる。

男性のセックスアピール点である筋肉の一部である。

2足歩行をして前面対峙するようになり、「正常位」を実行するには長さが必要である(上野の推定)。

勃起状態でゴリラは3センチ、オランウータンは4センチしかない(それでも15分間もつそうだ→平均的アメリカ男性4分間)。




要約しきれない2点を本文で記します。


まず、オスとメスの性行動・生活行動の違いについてです。

オスもメスも、自分の子孫が残せるような、
種族の維持に有効となるような行動をとります。
その一面である産んだ子を放置せずに育てようとするかどうかは、
以下の3点で決まるというのです。


その1 自分が子供にどれだけの投資をしたか
 胎生動物の場合、メスは胎内で子を育てている。
 大きな投資である。
 これに対してオスは精子を放出しているだけである。
 メスの投資がはるかに大きい。


その2 子育てをすることで失う機会損失
 子育てをするより、子育ては相手に任せて
 他の異性を相手に生殖行為をした方が自分の子孫を残すチャンスが多い
 ならそうする。
 メスは性交のあと妊娠すると子を産み授乳期間が終わるまでは、
 別のオスを受け入れても新たに子を作ることはできない。
 子育てに専念することが利に適う。
 オスは次のメスと性交することで自分の子を残す機会が増える。


その3 自分が親であることを確信できるかどうか
 メスは自分が生んだ子は自分の子だと確信できるのに対して、
 オスは状況証拠でしかそれを確信できない。


ということで、一般の哺乳動物はメスが子を育てることになるのです。


次は、オスとメスの生殖戦略の違いの典型的な例です。


人間の場合の原型であると考えられ、非常に興味深いので
長文になりますがそのままご紹介します。

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父も子育てに参加する哺乳類や鳥でさえ、
オスは世話をどこまで小さく手抜きできるかを見極め、
できるだけ母親に任せて子供を無事に育てさせようとする。


さらにオスは、ほかのオスの配偶者とも交尾を行なおうとするので、
不幸にして配偶者を寝取られたオスは、何も知らずによそのオスの
子供を育てることになる。

オスが自分の配偶者の行動に病的なほど疑い深いのももっともである。


両親共同でする子育てに組み込まれたこうした緊張関係は
マダラヒタキと呼ばれるヨーロッパ産の鳥で
くわしい調査が行なわれている。


ほとんどのヒタキ科のオスは一羽の配偶者しか
もたないとされているが、複数のメスを求めるものも多く、
かなりの数のオスがそれに成功する。


ふたたび人間の性的特徴をテーマにした本書の数ページを割いて
鳥の例を紹介するが、それには意味がある。というのも、
(これから説明するように)ある種の鳥の行動は人間の行動と
驚くほど似ており、しかも人間とは違って倫理に反するといった
怒りを買うことはないからだ。


マダラヒタキの場合、
一夫多妻婚は次のような仕組みになっている。


春になると、オスは快適な巣穴を見つけ、
その周辺に縄張りを構えて、メスに求愛し、交尾を行なう。


メス(第1のメス)が産卵すると、
オスは受精に成功していたことを知り、今や抱卵に忙しいメスが
他のオスに興味をもつことはなかろう、どのみちメスは一時的に
不妊の状態にあるのだと確信する。


そこでオスは近くに新しい巣穴を見つけ、別のメス
(第2のメス)に求愛し、交尾を行なうのである。


第2のメスが産卵すると、
オスはふたたび受精に成功したと確信する。

このころには第1のメスが産んだ卵が孵化しはじめる。


オスは第一のメスの巣に戻り、労力のほとんどをつぎこんで
雛に餌を1えるが、第2のメスが産んだ雛にはめったに、
あるいはまったく餌を運ぼうとしない。


数字がこの残酷さを物語っている。

オスが第一のメスの巣に餌を運ぶ回数は一時間に平均一四回だが、
第二のメスの巣に運ぶ回数はわずか七回なのだ。


巣穴が見つかりさえすれば、ほとんどのオスは第二のメスを求め、
そのうち39パーセントのオスが首尾よくメスを獲得する。


明らかにこのシステムからは勝者と敗者が生まれる。

オスとメスの個体数はほぼ同じであり、メスは配偶者を
一羽しかもたないのだから、重婚のオスがいればその分、
一度も交尾できない不運なオスがいるに違いない。


最大の勝者は、(二羽の配偶者の分を合わせて)毎年
平均8.1羽の雛の父親となる一夫多妻のオスである。

一方、一夫一妻のオスは、平均5.5羽の雛しかもてない。


一夫多妻のオスは、
非交尾のオスにくらべて年長で身体も大きい傾向があり、
最良の縄張りを構え、最良の生息域に最良の巣穴をもつことができる。


その結果そうしたオスの雛は、他の雛より体重が10パーセント近く重く、
他の小さな雛より生き残る確率も高い。


最大の敗者は、不幸にして一度も交尾できなかったオスである。

一羽もメスを獲得できず、子孫をまったく残せない
(少なくとも理論の上では――詳細は後述)からだ。



第2メスも同じく敗者である。

第1メスよりよほど必死に餌を探して
雛を育てなければならないのだ。


第2メスは一時間に20回も巣に餌を運ぶが、
第1メスはたったの13回だ。

こうして第2メスは体力を使いはたし、
早死にしてしまうのかもしれない。


第2メスがどれだけ必死になったところで、
ひとりで集められる餌は、第1メスがオスの協力を得て
労せず集める餌の量にはおよばない。


そのため飢え死にしてしまう雛もおり、
第1メスの雛にくらべると生き延びるものが少ない
(平均して3.4羽。第1メスの雛は5.4羽)。


そればかりか、無事に成長を遂げたとしても、
第1メスの雛にくらべると身体が小さく、冬期や渡りといった
過酷な環境を生き延びることが難しい。


上の数字からも過酷な状況が見てとれるが、
なぜメスは「第二夫人」という運命を受け入れるのだろう。


生物学者たちが従来推測してきたところによると、
第2のメスがその運命を受け入れるのは、
たとえ放っておかれるにしても、
優れたオスの配偶者になるほうが、
劣悪な縄張りをもつ冴えないオスの唯一の配偶者になるよりましだからだ
ということだった
(人間の社会でも、
同じ理由から裕福な既婚男性の愛人になる女性がいる)。


しかし実際には、メスはその後の運命を承知のうえで
第2のメスるのではなく、
オスにだまされているだけだということがわかった。


一夫二妻のオスがメスをだますときのコツは、
第1の巣穴から200~300メートルほど離れた錫所に
第2の巣穴をつくることである。


二つの巣穴の間には、
いくつものほかのオスの縄張りをまたぐことになる。

驚くことに、第1の巣穴の近くに何十ものよさそうな巣穴があっても、
オスはそこでは第2メスに求愛しようとしない。


二つの巣穴の距離が近いほうが行き来の時間を節約できるし、
雛に給餌する回数も増やすことができる。

それに行き来の最中に
配偶者を別のオスに寝取られる危険も減るだろう。


このような不利な条件にもかかわらず
第2の巣穴を遠くに構えるのは、第2のメスを欺き、
すでに配偶者があることを隠しておくためだとしか考えられない。


子供を残すという切迫した問題の前では、ヒタキのメスは
とくにだまされやすくなっている。

卵を産んだあとでは、オスに別の配偶者がいることを
知ったところで、もう手の打ちようがない。


卵を見捨てて新しい配偶者を探し、
それが前のオスよりましであることを願うより
(どのみち新しいオスにしてもその多くは重婚オスだろう)、
すでに産んだ卵を育てたほうがましである。


マダラヒタキのオスにはもう一つ戦略がある。

男性の生物学者たちはこの戦略に倫理に反さないように聞こえる
「混合繁殖戦略(Mixed Reproductive Strategy 略してMRS)
という名前を付けた。


この戦略は、すでに配偶者のいるヒタキのオスが
別のオスの配偶者とこっそり交尾を行なおうとするものだ。

よそのメスが一時的に単独で巣にいるのを見つけると、
オスはそのメスと交尾をしようとし、成功することも少なくない。


メスに近づくときには大声でさえずることもあるし、
静かに忍び寄ることもあるが、後者のほうが成功率は高い。


オスのムナオビエリマキヒタキはほかのオスが
(餌を探しにいくなどして) 一時的に配偶者のもとを離れた場合、
平均して10分以内にその縄張りに侵入し、3.4分の隙があれば、
巣にいるメスと交尾を行なってしまうのである。


観祭によれば、マグラヒタキが行なったすべての交尾のうち
29%がペア外交尾(Extra-Pair Copulation略してEPC)
だとわかっており、
雛の24パーセントが「非嫡出子」であると推定されている。


またほかのオスの巣に侵入してメスと交尾を行なうオスは、
近接する縄張りの主であることが多い。


配偶者を寝取られたオスにとってはEPCやMRSは
進化がつくりだした災難だ。


短い一生のなかの繁殖シーズンをまるごと一つ無駄にして、
ほかのオスの遺伝子を受け継ぐ雛に餌を与えつづけたのだ。

逆にEPCを行なったオスは大きな成功を収めたかに見えるが、
少し考えてみると、オスのバランスシートの計算は
見かけほど単純でない。


あるオスが巣を留守にしてメスをくどいているあいだに、
別のオスがやってきて自分のメスと交尾を行なって
しまうこともあるからだ。


配偶者がメスから10メートル以内の距離にいるときには、
EPCは滅多に成功しないが、
それ以上離れると、成功率は急激に上昇する。


ということは、別の巣で過ごすことが多く、
ニカ所を行き来するにも時間がかかる重婚者のオスにとって、
MRSはとくに危険な戦略なのである。


重婚オスは自らもEPCを試み、
平均25分おきに別のオスの巣に侵入するが、
その間自分の巣にも11分おきに別のオスが忍び込み
EPCをはたそうとしているのだ。


つまり、よそのメスを求めて巣を離れているまさにその最中に、
自分の配偶者もまた別のオスに必ず狙われているのである。


このような統計からすると、マダラヒタキのオスにとって
MRSはどうかと思うような戦略だが、
彼らもリスクを最小限にする知恵はそなえている。

配偶者が妊娠するまでは、巣から2、3メートル以上は離れず、
ひたすらメスを守り、メスが妊娠してはじめて、
巣を離れて別のメスを探しにいくのである。
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こんな悪知恵は、
人間のオスだってなかなかそこまでいかないようなレベルです。


たかだか小鳥がアタマで考えてそういう行動をするとは思えません。


本能はそんなに凄いものなのでしょうか。
犬が脱糞後に後ろ足で砂か土をかけようとするのだって
凄い本能だと思っている私には信じられません。

人類進化の謎を解く2冊、なぜネアンデルタール人は滅びたのか?

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 最近の進歩が非常に大きい人類進化学を
                 少し勉強してみましょう。
 ネアンデルタール人が絶滅した原因がどうだったのか
                 を知りましょう。
             
ねらい:
 さらに勉強してみてください。

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2冊はこれです。

1冊は、
「人類進化の秘密がわかる本」(科学雑学研究倶楽部編、Gakken)


 
もう1冊は、
ロビン・ダンバー オックスフォード大学進化心理学教授の
「人類進化の謎を解き明かす」
です。




















前者は人類進化の状況、そして現在の研究の状況の全貌を
カラーの図・写真で分かりやすく説明されていて
素晴らしいものでした。
以下の図は一例です。


 
その章立てはこうなっています。
 序章  人類の起源を探る古人類学とは?
 第1章 哺乳類の台頭と猿人の誕生
 第2章 ホモ属の起源は謎だらけ!?
 第3章 ホモ属がたどった進化の旅
 第4章 ネアンデルタール人はなぜ滅んだのか?
 第5章 クロマニョン人は芸術家だった!?
 第6章 アジア人、日本人のルーツとは
 第7章 人類の進化に隠されたミステリー


分かりやすい「人類進化の年表」もついています。
この本はあまり人類の進化に興味のない方にもお勧めです。
こんな素晴らしい内容で、わずか600円(消費税別)です。


後者は本格的な専門書レベルの内容で、
全容理解はかなり困難です。

ロビン・ダンバー教授の人類進化論は、
「社会脳仮説」と「時間収支モデル」が基本となっています。
これによって人類の脳は大きくなり、人類が進化したのだ、
と言うのです。

「社会脳仮説」については、同書から引用します。

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一般に、霊長類(おそらくは、あらゆる哺乳類と鳥類も)
の脳が進化する原動力となったのは、
複雑な社会性の進化だったと考えられている。


行動の他の側面(生態学的な創意工夫など)にも
脳の大きさと相関をもつものがあるが、
これらの側面は大きな脳が進化した原因というよりは結果だ。


たいていの哺乳類や鳥類では、
社会脳仮説は脳の大きさと配偶体制との関係に表われる。

複数のつがい相手をもったり、
相手かまわず交尾したりする種に比べて、単婚種は脳が大きい。


生涯を通じて同じ相手と添いとげる種の場合には
この傾向がさらに高い。


長期にわたる雌雄間の深い絆は、
浮気性の種がもつ浅い関係より高度な認知能力を必要と
するのではないかと私たちは考えている。


つがい相手のいる個体は相手の利益も考慮して
行動を決めねばならない。

相手の望みを知った上でなんらかの譲歩を
引き出さなければならないのだ。


これは、実際には完璧な心の理論とは言えないけれども、
一種の原始的なメンタライジングと言える。


ちなみに、社会脳仮説は昆虫にも成立するようだ。

スズメバチやコハナバチの仲間では、社会性をもつ種
(数匹の女王蜂が一つの巣を共有するような種)は
単独性の種に比して大きな脳をもつ。


具体的には、
脳に(高次の認知機能、ことに社会的機能を支配する)
キノコ体と呼ばれる部位をもっている。


さらに種内でも、より社会性の高い個体(女王蜂など)は、
社会性の低い個体(働き蜂など)より大きな脳をもつ。

同様のことは魚類にも当てはまることがある。


霊長類および少数の他の哺乳類の科(ゾウやウマが有名)でも、
社会脳効果はその種の脳の大きさと社会集団の平均規模との
定量的関係に見ることができる。
これらの種は総じて社会的つながりをもつからだ。


それは性行動や繁殖にかかわりのない友情、
強い親しみをもつ関係と考えていい。

これはシカやレイヨウなど大半の群生動物に見られる、
やや気ままでその場限りの関係と際立った対照をなす。


霊長類の「友情」はペアボンデイングと似通っていて、
繁殖時に決まった相手とつがう他の哺乳類や鳥類と同じく、
脳のより高次の能力を必要とする。


ある個体が対処できるそうした関係の数は
脳の大きさの単関数で表わされる。

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平たく言えば、社会性が脳を発達させるということです。



「時間収支モデル」はこういうことです。


動物が生きるには、
以下の3種の活動に充てる必須時間が必要である。
 摂食
 移動(食べ物探し)
 強制的な休息


必須時間を決めるのは、 
気候変数と食べ物探し集団の規模である。


気候変数は、気温、季節、降雨量であり、

気候変数によって、
 食事の構成、体質量(体重)、植生、植生の質が決まり、
必須時間に影響する。


必須時間の残りは、自由時間となり、
この大きさが、「社交」に充てられる時間を決め
「共同体の規模」を決める。


必須時間が大きいとそれをこなすのが精いっぱいで
生活の進歩に充てる時間が取れない、
ひいては変化する環境に順応できず滅びることにもなる。
→これは現代の企業競争にも当てはまる原理のようですね。


共同体の規模が言葉の必要性を生み、
知恵を広げ、音楽や芸術に発展する。



たまたま、
その環境(気候変数)に恵まれた種が発展進化できた
ということのようです。


600万年の間の人類の進化過程で、
枝分かれした属が多数あったのですが、
ほとんどが絶滅してしまいました。
たまたま恵まれて唯一生き伸びてきたのが現人類なのです。


この「専門書」には、44もの分析結果を示す図が掲載されています。
ものすごい分析力です。
その一つをご紹介します。

それは2D・4D比率に関するデータです。
 
2D・4D比率はご存じの方もおられるかもしれません。
右手の人差し指と薬指の比率のことで、
この値が0.95未満の人(薬指が長い人)は男性的(身体・精神とも)で、
0.95以上の人(人差し指が長い人)は女性的なのだそうです。


大学でも研究しているくらい「まともな」事実です。


男性的になるのは、
胎児時代に男性ホルモン(テストステロン)に多くさらされる結果です。
胎児の時に精子の攻勢を多く受けていると男性的になる
ということです。


この点に関する2人の学者の研究成果を紹介しています。
サルと類人猿について2D・4D比率を調べると、
以下の図のようになっています。

























単婚のテナガザアルを除いて現生人類も乱婚のチンパンジー等と
同じ数値を示している、
ということは現生人類も原点は乱婚であったのであろう、
という推定をしています。


単婚の場合、
妊娠すると生まれてくるまではセックスをしない
(=男性ホルモンが襲来しない)という前提になっています。
現人類はそれに当てはまりませんね。

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絶滅で最も多くの人の関心を集めているのが、
ネアンデルタール人の絶滅です。

彼らは30万年間生きたのに3万年前に絶滅しています。

「秘密がわかる本」での解説はこうなっています。

以下の表で所説を紹介しています。






















その上で以下の解説をしています。


ネアンデルタール人の絶滅は、
突然起こったのではないと思われます。
長い年月をかけて少しずつ個体数を減らしていき、
最後は子孫を残せなくなったのかもしれません。

また、地域や集団ごとに
絶滅の原因が違っていたのかもしれません。
きっと、
ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの運命を分けたのは、
ほんのわずかな差だったのでしょう。


因みに、最近のDNA分析の結果、
アフリカを除く各地の民族にはネアンデルタール人由来の
DNAが含まれていることが判明しています。


おそらく、征服民族(ホモサピエンス)が
先住民ネアンデルタール人の女性を犯したのだろう
と推定されています。

そうなると絶滅とは言えませんね。
血は生き延びているのです。


後者の著書の解説はこうです。


一般的にはこのような説がある。
・最終氷期の厳しい寒さに耐えられなかった。
・コーカサス地方で一連の火山噴火が起きて
 「核の冬」の条件を作った。
・氷床(または火山の噴火)の前進が大型獣を南方に追いやり、
 ネアンデルタール人が追いきれなくなって獲物がいなくなった。

・現生人類との生態学的競争に敗れた。
・個体群があまりに小規模で散在していたため、
 文化的イノベーションを起こし維持することができなくなった。
・現生人類がアジアかアフリカから持ち込んだ病気で死に絶えた。

・現生人類との交配によってその個体群に吸収されてしまった。
・現生人類に意図的に皆殺しにされた。


いずれも一理あるのであろうというのが教授の意見です。
その根拠を述べておられます。


現生人類が厳しい状況で生き延びられて、
彼らが生き延びれなかったのは以下の理由だ。
1)共同体規模が小さく協力し合える限界が限られる。
2)前頭前野の発達が小さく、計画・予測能力が不足した。
3)現生人類は針を開発し衣服を縫うことができた(防寒機能大)



現生人類は、
ヨーロッパに出た4万年前にはすでに衣服を着ていたのです。
最後の氷河期は1万年前までがピークでしたから、
ネアンデルタール人が滅びて現生人類が生き延びた
理由になるのでしょう。


上野の補足説明
現生人類は、
アフリカにいて時間収支モデルで優位があり、
多少早く脳を進化させたことが勝因だった。、
先にヨーロッパに出て広範な地域で優勢だったネアンデルタール人は
環境変化に追随できなかった、
寒冷化で南下をしても追いつかなかった、のが敗因、
ということのようです。


なんとなく判官贔屓の気分になってきますね。



今年のギンナンの成果

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 私の今年の銀杏関連の状況を知っていただきます。
 便乗して孫の写真を載せました。

ねらい:
 休憩してください。

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今年は銀杏が豊作だという情報もあるようです。
その一例をご紹介します。
















出典:幽玄洞ブログ。見事な鈴なりです。


銀杏歴10数年の私でもこんなのは見たことがありません。


私は不作です。

そもそも私の経験では、
各漁場が一斉に豊作とか不作とかいうことはありませんでした。
その樹によって好不調の波があるのです。

今年の不作の理由は以下の通りです。

第1の漁場 蘇峰公園
 1昨年大幅剪定をされたために数本の樹が一切成らない。


第2の漁場 近くの神社
 毎年3本なっていたのが今年は1本だけでしかも実の数が少ない。
 これだと近所の人との競争(早起きなど)にも負ける。


第3の漁場 小学校改め老人ホーム
 3本の立派な樹があり昨年は、数千個以上いただいた。
 今年は「近所の人への公開はやめた」ということで自制していた。


第3の漁場の一般非公開の理由が、
元の小学校の生徒が採りに来るということでした。
しかしよく考えてみると、
小学生たちがわざわざ数百メートル歩いて
毎日来るわけないのではないか、と思い至りました。

そこで聞いてみると、入場OKのお許しが出ました。
ただし、全部持ち帰るのでなく半分くらいは、
「楽しみにもらいに来る人がいるから置いていってちょうだい」
ということでした。

それでさっそく参戦しました。
しかし、ここでも3本のうち1本しか成っていません。

特に剪定されたとかでもないので原因不明です。
小学生たちが喜んで拾ってくれないので
やる気をなくしたということでしょうか。

それはともかく、
不作ながら孫二人を引き連れて「生物」の勉強をしました。
その時の写真です。
















左が上野暖真(小2)、
右が井藤佳奈実(6歳、運動会後でお疲れ?)

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そういえば、あまりの不作にこのままではいかんと、
先日一念発起して母校の校庭まで遠征しました。

ところが、ほとんどが小粒もので、
大粒は残り物で数が少なく成果は期待外れでした。

その時も孫二人を連れて行ったのですが、
そこの池の鯉にパンなどの餌をあげているときに
孫娘が踏み外して池にボチャンと落ちてしまいました。

すぐに拾いあげて何事もなかったのですが、
衣服がビッショリです。

構内にコンビニがあり
記念品的なTシャツを売っていましたのでそれだけを着替え、
あとはタオルを1枚持っていましたのでそれを腰に巻き、
他は自然乾燥を待つ状態となってしまいました。
















この写真は、落ちた後です。
赤いカーディガンは着ていなかったので濡れていません。
その下に襟だけ赤く見えるのが買ったTシャツです。
ズボンと靴は濡れたままです。

当日は10月10日体育の日で、
比較的暖かだったので風邪もひかずにすみました。

孫娘は入手できたロゴ入りの赤いTシャツが
気に入ったようでした。
「災い転じて福となす」なのかもしれません。
何事も前向きに考えましょう!!

 

類人猿の生活・性生活は?

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 「類人猿診断」を思い出していただきます。
 その類人猿はどのような生活・性生活をしているのかを
                         知っていただきます。
ねらい:
 何らかの活用をしてください。

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人間の性格を4分類して類人猿になぞらえる
「類人猿診断」が流行っています(流行りました、かも)。

当ブログでも取りあげました。
 「類人猿から学ぶ」 
http://uenorio.blogspot.jp/2016/06/blog-post_57.html

類人猿診断を要約するとこうなります。

 




私は最近人類の歴史に関心を持ち、
類人猿についても知るようになりました。

そこで、4種の類人猿が、どのような生活、特に性生活をしているのか
を整理してみました(出典は表中に表示しています)。



ヒトとの
分岐時点
ヒトとのDNAの差
生活・性生活
 
出典:ジャレド・ダイアモンド
「人間の性はなぜ奇妙に進化したのか」
A 
オランウータン

1200万年前
3.6%
普段単独で生活。
オスとメスは交尾のときだけ一緒になる
オスは子育てを一切しない。
メスは排卵のシグナルを出さない(ヒトと同じ)
B 
ゴリラ

800万年前
2.3%
オスは数頭のメスからなるハーレムを率い、それぞれのメスとは数年間隔で(メスが授乳を終え月経が再開してから)交尾を行う。
排卵についてわずかなシグナルを出す。
オスは子育てをする
C 
チンパンジー

500万年前
1.6%
群れを作り乱婚。父親と子供の絆はとくにない。排卵(発情期)を大胆に誇示する
オスと発情したメスは群れを離れ、2匹だけで数日間を過ごす。そのメスはその後ほかのオスとも今度は群れのメンバのいる前で交尾を行うこともある。
D 
ボノボ

500万年前
1.6%
群れを作り乱婚
父親と子供の絆はとくにない。
排卵(発情期)を大胆に誇示する。
繁殖以外の目的で交尾を行う。→H好き


もともと、類人猿診断は、
類人猿の生活を踏まえて4タイプを設定したものではないのでしょう。

したがって、
この類人猿になぞらえられた人間が
こういう性生活特性を持っているということにはなりませんが、
話のネタには面白いかもしれないと思いご紹介しました。


2016年10月27日木曜日

トランプとドゥテルテ

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 目下世界を騒がせている暴言王2人の棚卸しをします。
 (皆様が思っておられることと同じです)


ねらい:
 「そうですね」で終わりでしょう。


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トランプ氏はこう言っています。

「我々が攻撃されても日本は防衛する必要がない。
米国は巨額資金を日本の防衛に費やす余裕はない」


日米安保は何を目的にした条約なのかご存じないのですね。
米ソの冷戦時代に米国はみずからの国益のために
ソ連共産主義の拡大を抑え込もうとソ連包囲網を作りました。
その一環が日米安保だったのです。
当時日本は
経済発展も安全もアメリカの傘の下で実現していましたから
米国の国益=日本の国益だったのです。


米国が日本のために、日本を守ろうなんで考えたことは
どこにもなかったはずです。


日本の防衛=米国の国益でないのなら、
巨額資金をつぎ込むのを止めればよいのです。


そうしたら日本は日本でどうするか考えるでしょう。


第一、「我々が攻撃されても日本は防衛する必要がない」
も誤った認識です。
昨年の安保条約の改定で、この条件は一部変更になっています。


あまり勉強しないで、受けそうなことを言っている、
したがって、国民のクレームを受けると気楽に訂正をしています。
これがトランプ氏です。


ドゥテルテ大統領は、これも好き勝手なことを言っていますが、
こちらは、相手によって言い方を変えています。
中国には面と向かっては、南シナ海問題をとりあげずに
経済協力をとりつける、


日本に来ると、「法の支配に向けての努力が必要だ」
と中国が紙クズだと称している「法の支配」優先の原則論を述べている、
「米軍帰れ」と言ってみたり、「いやそれはこういう意味で言ったのだ」と
修正したり、
要するに相手に合わせて切り抜けているのです。
とんでもないことを平気で言う点では似ていますが、
ドゥテルテの方がワルです。
しかし、その2枚舌はいつまでもつのでしょうか。


現代は変革・革新の時代ですが、
旧秩序を覆すということが、国のレベルでも起きてしまっています。


国のリーダが「君子豹変す」を超えて
「右顧左眄」「朝令暮改」の連続では、
下の者はどうすればよいのでしょう。
おそらくクーデターか暗殺事件が起きるでしょうね。

ハート教授、ノーベル経済学賞の「不完備契約」とは?

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 「不完備契約」とはどういうことなのかを知っていただきます。
 当社での「不完備契約」の事例を知っていただきます。

ねらい:
 今後、「不完備契約」の言葉を使いましょう。
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今年のノーベル経済学賞を受賞された
ハーバード大学のオリバー・ハート教授の業績は、
「不完備契約」論です。

それは、こういうことだそうです。

契約書ですべてを具体的に決めるのは難しく、
予測不能なことが起きた際に
誰が対策を決めるのかが重要である。

現実論としてその考えは非常に有効です。
わが社が勧めている問題解決の方法は、
「不完備契約」を知っていたわけではありませんが、
まさにそういう考え方に立っています。

例として、
要件定義段階での不備対応を
以下のようにすべきであるとしています。

もともと、システム開発の要件定義は時間があまりとれないことと、
何を決めればよいのか、ということが明確でないことによって、
頻繁にもめ事を起こしています。

そこで要件定義は不完全だという前提で、
不備はどのような場で、未決事項を捌くかを明示するように、
という指導をさせていただいています。

要件定義未完了の場合の対応法
(図1 クリックすると拡大します)




もう一つの例を挙げます。
これは要件定義段階で最も重要な
「そのシステムは何のために作るのか」を示す「目的・ねらい」
が不明確な場合の例です。


この場合は判断対応を3段階(3階層)で行うようにしています。
 現場レベル
 マネージャレベル
 意思決定層レベル


(図2 クリックすると拡大します)


このくらいのことを想定していないと、
難しい案件は回りません。


このような課題対応方法が不備だと、
頻発している訴訟にまで発展してしまうことになります
(2016年10月13日号の日経コンピュータ特集では、
11件の訴訟事件が取り上げられています)。


日本は「契約社会」ではありませんので、
あまりギリギリ契約で決めるということをしません。
「何かあったら相談して決めましょう」
的な雰囲気で契約がされています。


相談をするのはよいのですが、
その相談方法を準備していないと、
一方的に押し切られたり、
ズルズル決まらないで損害を大きくする、
という状況になっているのです。


「不完備契約」の考え方は、
現実論として非常に有効です。



2016年10月26日水曜日

「早い、うまい、安い」の変化

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 時代に相応した
  吉野家の訴求価値の変遷を知っていただきます。
 「早い、うまい、安い」が
  当社の研修で重要な役割を果たしていることを
  知っていただきます。
 
ねらい:
 「これは何のためにするのだろう?」と思うときには
 「早い、うまい、安い」で考えてみてください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

2016年10月の日経新聞「私の履歴書」は
吉野家の安部修仁会長がご担当でした。


波乱万丈・毀誉褒貶の吉野家の歴史、特に、
品質にこだわり米国の特定スペックの牛肉でなければ使わないと
一時は牛丼をやめていたことなどが
あらためてご本人の口から興味深く描かれていました。
(私はもともと吉野家ファンです)

その中にこういう記述がありました。

「外食デフレ一段と」「モーレツ低価格競争」と騒がれた
2001年夏に始めた並盛280円時代について、こう書かれています。

消費が極度に冷え込み、大衆の感覚に答える必要があったから、
「安さ」を打ち出した。
このため提供する価値の優先順位を「うまい、はやい、やすい」から
「うまい、やすい、はやい」に変えた。

創業地の築地は「はやい、うまい」の順番。
素早く牛丼を提供し、おいしさを実感してもらうためだった。

1970年代に「はやい、うまい、やすい」となったのは
多店舗化を進める際に、
誰でも利用しやすい「安さ」が価値の重要要素に加わったからだ。

時代と共に消費者が求める価値に変化があり
それに適応するメッセージだ。


時代順に並べると、こういう変化ということになります。
創業時   「はやい、うまい」        築地で「早さ」が要求された。
1970年代  「はやい、うまい、やすい」  安いが加わった。
        「うまい、はやい、やすい」  うまいに自信ができた。
2001年   「うまい、やすい、はやい」  再び「安い」の重視。

たいへん興味深いですね。

因みに、当社が提供する「価値目標思考研修」では、
企業が求める価値をQCDと言わずに
吉野家さんに倣って「早い、うまい、安い」としています。

私は、
吉野家はQCDを知っていて、
その代わりに「早い、うまい、安い」と言っているのだと思っていました。
実はQCDを意識していたのではなく、しかもその変遷があったのです。

当社の研修での解説はこうです。

現在の企業が求められる価値は「早い、うまい、安い」です。
まずは早くないとダメ、競争の土俵に上がれない。
新製品競争の世界だけでなく、
ほとんどすべての市場が「早い者勝ち」の様相を呈しています。

次いでうまいですが、これが難しい、
お客様が求めるうまい(品質)が何かを見極めなければならない。

早い、うまいで差別化できないと「安い」競争になってしまう。
こうなった世界では誰も勝者になれない。
3番手以降だったらその消耗戦から撤退した方がよい。

この時、引用するたとえ話が、
日産のゴーン社長が社内で言われていたことです。

「値引きをして売ろうとするな。
まけろ、と言われるということは、
お客様が当社のクルマの価値を認めていないということだ。
まず、当社のクルマの良さをアピールせよ!!」

(「それでも、認めない相手には売らなくてもよい」と
ゴーンさんが言ったかどうかは定かでありません)

「早い、うまい、安い」は、
システム開発や問題解決でその目的を明確にするための
ワークシートである「目的・ねらい記述書」の
記述フレームとして用いているくらいの肩入れです。


何か検討されるときに、
「早い、うまい、安い」だとどうなるか、と考えられることをお勧めします。

2016年10月3日月曜日

「AI 時代の勝者と敗者」 男性の肉体労働は残るのでしょうか?

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 AI時代になって、コンピュータが人間の能力を凌駕するようになると
 人間は何をすることになるのでしょうか、
 特に男性の仕事がコンピュータにとって代わられることになりそうです、
 考えてみましょう。

ねらい:
 だんだん押し寄せてくる変化に備えましょう。

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本稿は、ハプソン大学経営・情報テクノロジー科の
トーマス・ダベンポート特別教授の著書「AI時代の勝者と敗者」
に触発されて考えてみたことです。




コンピュータによる人工知能(AI)活動は
人間の仕事をどんどん奪っていきます。

本書は、どんな仕事はAIに奪われるのか、
AIに奪われない仕事は何かを論じています。

AIと言ってもいろいろなタイプがあります。
現在主流となって関心を集めているのは
大量のデータを分析してそこから「正解」を求めるものです。

碁の世界で「名人」に勝ったというのがその典型です。

もともとコンピュータは大量処理マシンとして登場したので
その類型は当然の帰結です。

しかし人間の判断力は、
大量処理の結果で得られているものではありません。
少量のデータ(経験)から結論を導き出すのが得意です。

そこで、日本は大量処理のAIの世界に追い付くのは諦めて、
少量処理の中で有為な結論を導き出す方法を
以下のように研究しようとしています。

政府が成長戦略の柱とする人工知能技術を
10年間で1000億円を投じ理化学研究所を拠点にして
産官学で開発する計画が公表されています。

その応用例は、たくさんあります。
 病院では診察例が少なくても患者一人一人に合う治療法を選ぶ。
 ほとんど記録のない地震に備える。
 経験の少ない河川の氾濫に備える。
 工場で数十枚の製品写真から不良品を検査する。


私はこの方が人工知能的だと思いますし、
応用領域も広いと思われます。
その研究の成果と日本勢の活躍に期待したいと思います。

それはともかく、本書のテーマですが、著者の主張は、
コンピュータではできない仕事は
以下の領域です。
そちらの仕事に転換なさい、と言っています。

1)ステップ・アップ
 自動システムの上をいく仕事に転じなさい。
 「大局的にものごとを見れる人、十分なデータなしで判断できる人は
 今後も機械よりも高いレベルで問題を解決する。

2)ステップ・アサイド
 機械にできない仕事に転じなさい。
 機械が得意でない作業を人間がする。
 人間との交流、人間への説明や説得など。

3)ステップ・イン
 ビジネスと技術をつなぐ仕事に転じなさい。
 機械の仕組みを理解し、監視し、改善する仕事は
 人間の仕事として残っていく。

4)ステップ・ナロウリー
 自動化されない専門的な仕事に転じなさい。
 機械を導入しても経済的でないニッチな専門分野には、
 人間が活躍する仕事が残る。

5)ステップ・フォワード
 新システムを生み出す仕事に転じなさい。
 技術力を持ち、次世代のスマートマシンをつくる仕事は
 今後もなくならない。

ステップで並べた工夫は面白いのですが、
そもそも、ここで「転じなさい」と著者が言っている対象者は、
それなりの知能を持った技術者です。
その人たちは何とかするでしょう。

それよりも、機械に置き換えられる大量の人たちは、
もっと「低レベル」の仕事をしている人たちです。

その人たちが何を仕事とすればよいか、の方が問題です。

そもそも、どういう仕事がコンピュータやAIに奪われるのでしょうか。

力仕事、危険な仕事、したくない仕事、単純な仕事です。

知識労働者も心配かもしれませんが、
そうでない多くの人たちは、
コンピュータが自分たちの仕事を奪うなんて考えてもいないでしょう。

例えば、掃除をしているパートの「ご婦人」です。

ダベンポートさんの区分で言えば、ステップ・アサイドですが、
人間関係中心の仕事、人と接する仕事は最後まで
機械化の対象外でしょう。

それは、
 人のケアをする人。
 人を喜ばせる仕事、お話し相手もそうです。
 社交場、バー、クラブ、キャバレーの従業員です。

その延長のセックスサービス提供は機械化は絶対できません。


こうして見ると、男性が圧倒的に不利です
男性には何ができるのでしょうか。

男性向きの対人関係業務って何でしょうか?

いずれにしても対人関係が苦手な人は生きる道がなさそうです。


タクシー運転手は?

トラックの運転手も自動運転になっても完全自動化はありえないでしょう。

力を出す仕事は何が残るでしょう?
土木現場作業員も、道路工事作業員も完全自動化はなさそうです。

しかしこれらの仕事だけでは不足するでしょうから、
女性の方が向いている「生活関連サービス業」に
進出せざるを得ないでしょう。
どんな領域の仕事が考えられるのでしょうか。

以下検討してみました。

業種別労働人口とパート比率  注:出典は不明になってしまいました。



業種

従事者
(千人)

パート
(千人)

パート比率
(%)

運輸業、郵便業

3,333

585

18

卸売業、小売業

8,943

3,920

44

学術研究等  

1,385

154

11

飲食サービス業等

4,648

3,559

77

生活関連サービス業等

1,779

851

48

教育、学習支援業

3,104

973

31

医療、福祉

6,704

2,037

30

複合サービス事業

  342

46

13

その他のサービス業

3,831

1,091

28

  合計

49,029

14,910

30

 
パート比率が高い職業は、
他の職業からの転職も容易ではないかと考えます。
そうすると、
卸売業・小売業(おそらく小売業の方がパート比率が高いでしょう)、
飲食サービス業等のパートはほとんど女性が活躍する職場です。

 
生活関連サービス業の新しい定義 
以下の表のように、
新たな「生活関連サービス業」という捉え方をしましょう
という提案がされています。
経済産業省 関東経済産業局資料


























この新しいグルーピング方法の生活関連サービス業だと
その業種は以下の表のようになります。
これで、男性向き職業を探してみましょう。


分野

主なサービス例

業種の例示

健康・福祉サービス分野
健康増進・疾病予防サービス、栄養管理食宅配サービス、
福祉機器サービス等
N:73 医療業、75社会保険・社会福祉・介護事業(児童福祉事業を除く)
O:77その他の教育、学習支援事業(フィットネスクラブ)
Q:84娯楽業(スポーツ施設提供業)
また、製造業のうち、
F:食品製造業、医療品製造業、医療用機械器具製造業

育児支援サービス分野
病中・病後児保育サービス、安全提供サービス、
幼児教育サービス、宅配食サービス、家事代行サービス等
M:70一般飲食店
N:753児童福祉事業
O:77その他の教育、学習支援事業(フィットネスクラブを除く)
Q:82洗濯・理容・美容・浴場、83その他の生活関連サービス業
(831旅行業除く)、906:警備業
また、卸・小売業のうち、
J:55:各種商品小売業、56:織物・衣類・身の回り品小売業、57:飲食料品小売業

観光・集客サービス分野

産業観光・集客サービス、娯楽サービス
I:42鉄道業、43道路旅客運送業、46航空運輸業
M:72宿泊業
Q:831旅行業、84娯楽業

 
この表を吟味してみても、男性向きの頭脳労働ではない領域は
運送業と介護くらいしかなさそうです。

それ以外は、女性と同じようなサービス提供を努力するか、
女性の手伝いをするという位置づけの仕事になるようです。

医療関係は、医師1人に対して看護師4.5人、医療技術者0.7人、
事務職員1.3人だといいます。
肉体労働者が担当できる仕事はあるのでしょうか。

介護の領域は男性の働き場を作れるのではないでしょうか。
力が必要な仕事も多く、女性には過酷のようです。

我が娘も介護福祉士、ケアマネージャーの資格を取りましたが、
現在は辞めてしまいました。
勤務が不規則で過酷で給与が低いのです。

給与のことは別として過酷な労働という点に関しては
男性の方が向いています。
(ときどき問題を起こす人がいるのが問題ですが)

以上の検討からすると、
AI時代には、女性が正規に働いて、
男性は主夫+パート労働ということになるのかもしれません。
それこそたいへんな社会変革です。


原始の時代から男が外で獲物を掴んできて、
女性は残って家族を守ってきたのです。
その人類数万年の歴史が塗り替えられようとしているのです。


多くの男はそのように「進化」できるのでしょうか。