2016年10月31日月曜日

人類進化の謎を解く2冊、なぜネアンデルタール人は滅びたのか?

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 最近の進歩が非常に大きい人類進化学を
                 少し勉強してみましょう。
 ネアンデルタール人が絶滅した原因がどうだったのか
                 を知りましょう。
             
ねらい:
 さらに勉強してみてください。

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2冊はこれです。

1冊は、
「人類進化の秘密がわかる本」(科学雑学研究倶楽部編、Gakken)


 
もう1冊は、
ロビン・ダンバー オックスフォード大学進化心理学教授の
「人類進化の謎を解き明かす」
です。




















前者は人類進化の状況、そして現在の研究の状況の全貌を
カラーの図・写真で分かりやすく説明されていて
素晴らしいものでした。
以下の図は一例です。


 
その章立てはこうなっています。
 序章  人類の起源を探る古人類学とは?
 第1章 哺乳類の台頭と猿人の誕生
 第2章 ホモ属の起源は謎だらけ!?
 第3章 ホモ属がたどった進化の旅
 第4章 ネアンデルタール人はなぜ滅んだのか?
 第5章 クロマニョン人は芸術家だった!?
 第6章 アジア人、日本人のルーツとは
 第7章 人類の進化に隠されたミステリー


分かりやすい「人類進化の年表」もついています。
この本はあまり人類の進化に興味のない方にもお勧めです。
こんな素晴らしい内容で、わずか600円(消費税別)です。


後者は本格的な専門書レベルの内容で、
全容理解はかなり困難です。

ロビン・ダンバー教授の人類進化論は、
「社会脳仮説」と「時間収支モデル」が基本となっています。
これによって人類の脳は大きくなり、人類が進化したのだ、
と言うのです。

「社会脳仮説」については、同書から引用します。

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一般に、霊長類(おそらくは、あらゆる哺乳類と鳥類も)
の脳が進化する原動力となったのは、
複雑な社会性の進化だったと考えられている。


行動の他の側面(生態学的な創意工夫など)にも
脳の大きさと相関をもつものがあるが、
これらの側面は大きな脳が進化した原因というよりは結果だ。


たいていの哺乳類や鳥類では、
社会脳仮説は脳の大きさと配偶体制との関係に表われる。

複数のつがい相手をもったり、
相手かまわず交尾したりする種に比べて、単婚種は脳が大きい。


生涯を通じて同じ相手と添いとげる種の場合には
この傾向がさらに高い。


長期にわたる雌雄間の深い絆は、
浮気性の種がもつ浅い関係より高度な認知能力を必要と
するのではないかと私たちは考えている。


つがい相手のいる個体は相手の利益も考慮して
行動を決めねばならない。

相手の望みを知った上でなんらかの譲歩を
引き出さなければならないのだ。


これは、実際には完璧な心の理論とは言えないけれども、
一種の原始的なメンタライジングと言える。


ちなみに、社会脳仮説は昆虫にも成立するようだ。

スズメバチやコハナバチの仲間では、社会性をもつ種
(数匹の女王蜂が一つの巣を共有するような種)は
単独性の種に比して大きな脳をもつ。


具体的には、
脳に(高次の認知機能、ことに社会的機能を支配する)
キノコ体と呼ばれる部位をもっている。


さらに種内でも、より社会性の高い個体(女王蜂など)は、
社会性の低い個体(働き蜂など)より大きな脳をもつ。

同様のことは魚類にも当てはまることがある。


霊長類および少数の他の哺乳類の科(ゾウやウマが有名)でも、
社会脳効果はその種の脳の大きさと社会集団の平均規模との
定量的関係に見ることができる。
これらの種は総じて社会的つながりをもつからだ。


それは性行動や繁殖にかかわりのない友情、
強い親しみをもつ関係と考えていい。

これはシカやレイヨウなど大半の群生動物に見られる、
やや気ままでその場限りの関係と際立った対照をなす。


霊長類の「友情」はペアボンデイングと似通っていて、
繁殖時に決まった相手とつがう他の哺乳類や鳥類と同じく、
脳のより高次の能力を必要とする。


ある個体が対処できるそうした関係の数は
脳の大きさの単関数で表わされる。

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平たく言えば、社会性が脳を発達させるということです。



「時間収支モデル」はこういうことです。


動物が生きるには、
以下の3種の活動に充てる必須時間が必要である。
 摂食
 移動(食べ物探し)
 強制的な休息


必須時間を決めるのは、 
気候変数と食べ物探し集団の規模である。


気候変数は、気温、季節、降雨量であり、

気候変数によって、
 食事の構成、体質量(体重)、植生、植生の質が決まり、
必須時間に影響する。


必須時間の残りは、自由時間となり、
この大きさが、「社交」に充てられる時間を決め
「共同体の規模」を決める。


必須時間が大きいとそれをこなすのが精いっぱいで
生活の進歩に充てる時間が取れない、
ひいては変化する環境に順応できず滅びることにもなる。
→これは現代の企業競争にも当てはまる原理のようですね。


共同体の規模が言葉の必要性を生み、
知恵を広げ、音楽や芸術に発展する。



たまたま、
その環境(気候変数)に恵まれた種が発展進化できた
ということのようです。


600万年の間の人類の進化過程で、
枝分かれした属が多数あったのですが、
ほとんどが絶滅してしまいました。
たまたま恵まれて唯一生き伸びてきたのが現人類なのです。


この「専門書」には、44もの分析結果を示す図が掲載されています。
ものすごい分析力です。
その一つをご紹介します。

それは2D・4D比率に関するデータです。
 
2D・4D比率はご存じの方もおられるかもしれません。
右手の人差し指と薬指の比率のことで、
この値が0.95未満の人(薬指が長い人)は男性的(身体・精神とも)で、
0.95以上の人(人差し指が長い人)は女性的なのだそうです。


大学でも研究しているくらい「まともな」事実です。


男性的になるのは、
胎児時代に男性ホルモン(テストステロン)に多くさらされる結果です。
胎児の時に精子の攻勢を多く受けていると男性的になる
ということです。


この点に関する2人の学者の研究成果を紹介しています。
サルと類人猿について2D・4D比率を調べると、
以下の図のようになっています。

























単婚のテナガザアルを除いて現生人類も乱婚のチンパンジー等と
同じ数値を示している、
ということは現生人類も原点は乱婚であったのであろう、
という推定をしています。


単婚の場合、
妊娠すると生まれてくるまではセックスをしない
(=男性ホルモンが襲来しない)という前提になっています。
現人類はそれに当てはまりませんね。

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絶滅で最も多くの人の関心を集めているのが、
ネアンデルタール人の絶滅です。

彼らは30万年間生きたのに3万年前に絶滅しています。

「秘密がわかる本」での解説はこうなっています。

以下の表で所説を紹介しています。






















その上で以下の解説をしています。


ネアンデルタール人の絶滅は、
突然起こったのではないと思われます。
長い年月をかけて少しずつ個体数を減らしていき、
最後は子孫を残せなくなったのかもしれません。

また、地域や集団ごとに
絶滅の原因が違っていたのかもしれません。
きっと、
ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの運命を分けたのは、
ほんのわずかな差だったのでしょう。


因みに、最近のDNA分析の結果、
アフリカを除く各地の民族にはネアンデルタール人由来の
DNAが含まれていることが判明しています。


おそらく、征服民族(ホモサピエンス)が
先住民ネアンデルタール人の女性を犯したのだろう
と推定されています。

そうなると絶滅とは言えませんね。
血は生き延びているのです。


後者の著書の解説はこうです。


一般的にはこのような説がある。
・最終氷期の厳しい寒さに耐えられなかった。
・コーカサス地方で一連の火山噴火が起きて
 「核の冬」の条件を作った。
・氷床(または火山の噴火)の前進が大型獣を南方に追いやり、
 ネアンデルタール人が追いきれなくなって獲物がいなくなった。

・現生人類との生態学的競争に敗れた。
・個体群があまりに小規模で散在していたため、
 文化的イノベーションを起こし維持することができなくなった。
・現生人類がアジアかアフリカから持ち込んだ病気で死に絶えた。

・現生人類との交配によってその個体群に吸収されてしまった。
・現生人類に意図的に皆殺しにされた。


いずれも一理あるのであろうというのが教授の意見です。
その根拠を述べておられます。


現生人類が厳しい状況で生き延びられて、
彼らが生き延びれなかったのは以下の理由だ。
1)共同体規模が小さく協力し合える限界が限られる。
2)前頭前野の発達が小さく、計画・予測能力が不足した。
3)現生人類は針を開発し衣服を縫うことができた(防寒機能大)



現生人類は、
ヨーロッパに出た4万年前にはすでに衣服を着ていたのです。
最後の氷河期は1万年前までがピークでしたから、
ネアンデルタール人が滅びて現生人類が生き延びた
理由になるのでしょう。


上野の補足説明
現生人類は、
アフリカにいて時間収支モデルで優位があり、
多少早く脳を進化させたことが勝因だった。、
先にヨーロッパに出て広範な地域で優勢だったネアンデルタール人は
環境変化に追随できなかった、
寒冷化で南下をしても追いつかなかった、のが敗因、
ということのようです。


なんとなく判官贔屓の気分になってきますね。



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