2017年6月20日火曜日

「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 人で不足なのに賃金が上がらない理由を
                  考えていただきます。
 その事例を知っていただきます。
 
ねらい:
 どうすれば、その窮状を打開できるか考えてください。

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同名の図書は素晴らしい編集です。
編者は玄田有史東大教授で、
21人の専門家にこのテーマで書いていただいたものを
収録しています。

ところが、単なる寄せ集めでなく、
その著述内容を、当問題の切り口で分類し、
なおかつ、巻末にその要約が載せられています。

その要約が素晴らしく
それだけを読めば、
このテーマの論点が明確に分かるようになっています。

私はこんな素晴らしいまとめを見たことがありません。
編者の才能に感銘いたします。

以下、主としてその要約から、
「人手不足なのに賃金が上がらない」理由を整理します。

1.労働市場の需給関係からの考察

1)経営がギリギリで少しでも人件費が上がると撤退となる。
2)多くの高齢者や女性が求職するので賃金が上がらない。
3)競争激化のため、経営が賃上げできない。

4)離職者を防ぐための賃上げ効果は限定的である。
5)日本の労働市場は企業内に閉じているため
               市場全体の需給関係を反映しない。

2.行動経済学等の観点からの考察

1)日本の給与体系・給与決定方式だと 
  いったん上げるとなかなか下げられないので、
  経営は給与上げに慎重になる。

  過去に賃金カットを回避した企業ほど、
  その後の賃上げの度合いが小さい。
  賃金カットを実現した企業はその後に利益率が向上すると
  大幅に給与を引き上げている、
  という事象も報告されています。

3.賃金制度などの諸制度の影響

1)能力主義・成果主義を標榜する中で
  平均的には給与水準の引き下げが行われた。
2)社会保障費負担の増加も給与引き上げ原資を奪っている。

4.賃金に対する規制などの影響

1)雇用面の最大の成長産業である医療・福祉系のの賃金が、
  診療報酬制度や介護報酬制度の規制によって
  上限が抑えられている。
2)その低賃金が、
  他の対人サービス業全体の足を引っ張っている。
 
5.非正規労働者の増加の影響

1)賃金の低い非正規労働者の増大は平均賃金を引き下げる。
2)定年再雇用の場合も低賃金となる。

6.能力開発・人材育成の弱体化の影響

1)高い技能を有する労働者が少ないから低賃金となる。
 それは社内の能力開発・人材育成の機会が減少したからである。
 
 企業が職場外で行う訓練であるOFFJT
 の従業員一人当たり支出額は
 リーマンショック後、それ以前に比べて半減している
 労働者が自身で行う自己啓発も同じく半減している。

7.高齢問題や世代問題の影響

1)就職氷河期の「第2次ベビーブーム時代」及びその後の世代は、
 卒業時に有利な条件での就職ができず、
 その後の転職等の場合でも恵まれていない。
 この世代が平均賃金を引き下げている。

2)高齢者は役職定年や再雇用で大幅な賃金低下となっている。
 この影響も大きい。

一方で、
個人に着目すると多くの場合緩やかであるが賃金は上昇している
という地道な研究成果も発表されています。

こういう研究をする研究者がいるということに感心しました。


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私はこの問題について、以下のように考えます。

給与が低いのは、
その労働が産み出す付加価値が小さいからである。

付加価値が高く、売上が得られるのであれば、
経営はその雇用を増やし、給与も上げます。

多くの労働者が従事している旧来型の労働は、
競争激化で付加価値を生み出さないか、
低生産性で生み出す付加価値が小さいのです。

そこで、賃金・給与を引き上げるには
労働の生産性向上が必要です。

ところが、従来型の労働者は、
「言われたことをこなす」という思考にはまっていて
より良い仕事の方法を自ら考えるという思考法を
持っていません。

その源流は、よく指摘されているように、
日本の教育制度にあります。
既存のでき上った体系を覚えることが中心で、
考える・創造する、ということに力点を置いていません。

ご承知のように、
ようやくその反省から大学の試験制度も
見直されるようになっています。

私共研修事業者の立場から見る新入社員層は
「指示待ち人間」です。
それをどうやって変革させるかが、
新入社員研修の最大の課題なのです。

研修でそれを成功させている例は殆どありません。
成功例は、日本電産殿が社長の発案で実施されている
「新入社員に毎日便所掃除をさせる」でしょう。

それを乗り越えられない社員は落第ですね。

新入社員だけでなく、
多くの社員が場合によって部長層までが
指示待ち人間なのです。
それを嘆いておあられる社長のなんと多いことでしょうか!

今後、日本はどうやって事業の競争力を高めていくのでしょうか。

人件費コストダウンの切り札だった非正規の増加は頭打ちです。
多くの企業で非正規社員の正規化に舵を切っています。

産業構造変化も頭打ちでしょう。
金融はアメリカに敵わないし、
製造業も、後進国やダイソンを考え出す国の後塵を拝しそうです。

トヨタのカイゼン活動は製造現場が中心です。
日本の製造現場のカイゼン力はおそらく世界一でしょう。

しかし、デスクワークで「カイゼン」を旨とする企業は、
日本のほんの一部です。

日本のデスクワーク現場の人たちは変化を好まないのです。
変化を嫌うのです。

「変化しないと企業が持たない!
変化を拒絶するものはクビだ!」
くらいのことを社長が言わない限り現場は変わりません。

その好例が、
ERPパッケージの導入です。
現場は、従来の仕事の方法が変わることを嫌い
「これができないならこのシステムは使えない」
と主張し、パッケージの良さを台無しにしました。

日本人が変化を嫌うのは、
「永年の農耕文化に起源があり日本人のDNAに近い」
ということは、
私が著書「価値目標思考のすすめ」で解説しました。

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日本の事務現場が変化を好まない例を
ご紹介しましょう。

それは、事務ソフトウェアの維持・機能拡張業務です。
ソフト保守業務とか維持拡張業務、
エンハンス業務と言われます。

事務用のソフトウェアは一度開発されると
10年以上に亘って使い続けます。

その間にビジネスが変化成長していきますから、
それを受けて対応する仕事が
事務ソフトウェアの維持・機能拡張業務なのです。

したがって、事業の競争力維持の観点から、
非常に重要なな役割を担っています。

ところが、保守業務という後ろ向きの言葉のせいもあり、
社会全般および経営層がその認識をしていないために、
経営はその業務に優れた人材・必要な予算を振り向けません。

その結果、その業務の担当は、
キツキツの状態で、業務の実施方法を見直し、
生産性を上げることができていません。

仕事の方法は10年1日進歩がないのです。
それでは、給与を上げる余地も生まれないでしょう?

そういう仕事に従事している幸せでない人は
日本に40万人から50万人もいるのです。

これでは、その人たちが浮かばれないし、
本来なすべきシステム強化ができていないことによる
日本の産業の競争力強化のネックにもなっている、と考え、
当社が有志を募って、従来時間の半分でできる
革新的業務実施方式を開発しています。

ところが、
この新方式を普及させるネックが現場の壁なのです。

壁の一つは、「変わりたくない」症候群です。
生産性が低かろうが慣れたものがいいという考えです。

私が、この新方式の普及のために、
社長のところにお勧めにいきますと、
社長は当然ながら賛成されます。

しかし、仕事は現場がするのだから、と
現場に検討を委ねますと、
現場は、なんだかんだと言って賛成しないのです。

強いトップであれば、
「とにかくやってみよう。責任は私がとる」
というのでしょうが、
現場を知っていてなおかつリーダシップをとる社長が
なかなかいません。

二つ目の壁は「他人が考えたものはいや」NIH症候群です。
NIHとは(Not Invented Here)の略で、
よそのものを嫌う自前主義です。

今や、多くの企業で従来型の自前主義を捨てています。
それは、そうしないとどうにもならないと
明確に認識されるようになった場合であって、
日本ではまだまだ自前主義がはびこっています。

そんなことで、
40万人ー50万人をハッピーにする革新方式は
なかなか普及しません。

このような状態では、
経営的には給与を上げる余地はないですね。

この解決策は二つです。
一つはトップが先見性を持つことです。
今はどういう時代なのか、この先どうなっていくのかを
真剣に考えていただかなければなりません。

もう一つは、現状維持は停滞・負けであり、
変革・革新をしていかなければならない、と
多くの社員が考えることです。
それが変革の時代の職業意識でしょうに。

両方とも、その処方箋は難しいですね。

目下、私はその処方箋づくりに
頭を悩ませています。




2017年5月30日火曜日

そんな理不尽なこと その3 人間ドックの受付システム


【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 いい加減なシステムがたくさんある例を知っていただきます。
 いい加減なシステムは
  身の回りにずい分多いのだということを再認識していただきます。


ねらい:
 どうしたらいいのでしょうね。
 やはり、クレームをつけてあげた方が
               改善につながるのではないでしょうか。
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私は毎年1度、人間ドックを受けます。
「手遅れでした」は悔しいからです。


例年は3月に受けるのですが、
今年は時間が取れなかったので、
先日受けようと思い申し込みました。


そうしたら、以下の2通の連絡がきました。



その1 件名:お申込みありがとうございます(確認メール)  2017/05/18 17:09



健診予約システムより
以下の内容でお申込みを受付いたしました。
--------------------------------------------------------------------
お申込みの内容
--------------------------------------------------------------------
[
コース]
日帰りドック
[
ご希望受診日]
2017
5 26()
[
お名前]
上野 則男
[
お名前(フリガナ)]
ウエノノリオ
[
性別]

[
生年月日]
昭和○○年○月○
[
メールアドレス]
ueno@newspt.co.jp
[
連絡先(勤務先)]
システム企画研修株式会社
[
自宅電話番号]

[
携帯電話番号]
080-****-****
[
オプションメニュー]
肝がん検査
前立腺がん検査
[
備考]
--------------------------------------------------------------------
お申込み内容を確認し、3日以内(土・日・休日は除く)にご予約可・不可のEメールをお送りいたします。
メールが届かない場合は、電話(03-3443-9555)にお問合せください。
東京高輪病院


その2 件名:RE: 健診申込み通知      2017/05/18 17:47
上野様
この度は当院にて健康診断をご検討いただき誠にありがとうございます。
ご予約取得の為、事前に下記の必要事項にご回答お願いします。
お手数ですが、【3日以内】にご返信ください。

ご返信内容を確認させていただき、当院担当者よりメールまたはお電話にて
ご連絡いたします。
※※※ 現時点ではご予約は確定しておりません。ご注意ください ※※※
ご自宅
1.
郵便番号:
2.
住所:
健康保険証情報
1.
健康保険組合名:
2.
保険者番号:
3.
記号:
4.
番号:
5.
続柄(区分)
勤務先
1.
勤務先名:
2.
郵便番号:
3.
住所:
4.
代表電話番号:
当センターでの健診受診歴(あり・なしのどちらかをご回答ください)
問診票送付先(自宅・勤務先のどちらかをご選択ください)
お支払方法(窓口払い・会社請求のどちらかをご選択ください)
ご回答よろしくお願いいたします。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
108-8606
東京都港区高輪31011
独立行政法人 地域医療機能推進機構
東 京 高 輪 病 院
健康管理センター ○○
電話03-3443-9555 FAX03-3443-9873
kenshin@takanawa.jcho.go.jp
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
皆さまならこの2通をどう判断されますか?


私は、着信トレイの上にありましたから、その2を先に開けました。
「何だ、もう10年も毎年受けているのに、基本的な事項を書けというのか」
と思いました。
すぐに、もう1通来ているのに気が付き開けてみると
「お申し込みを受け付けいたしました」とありましたので、
「そうか、それでいいのだ」と下までは見ないで受付終了と思いました。


ところが、なかなか受診表が来ないので
問い合わせをしました。
そうしたら受付処理がされていないというのです。


「どうしてか!」と怒りました。
当初は空いていて申し込んだ日が既に満員になっていて
申し込めませんでした。


紛らわしいのが2通来るからいけないのです。
その1は、人間が送り、
その2はマシンが自動的に送信しているのですって。


人間の方のはサービスのつもりで出しているのでしょう。
私に関する情報が少し入っています。
ですが、機械の方の文章の方が丁寧です。


誰がこの仕組みを仕切っているのでしょうか。
責任を持って見ている人がいないのでしょう。
余計な手間をかけてなおかつ利用者に不信を与えているのです。


私が時間順に見ていれば、「まだ受け付けていません」が後になりますから
間違えなかったのかもしれません。
ですがこういう仕組みを考える人はそういう逆転状況も考えて、
システムを作らなければなりません。


結論:通知を2通出す必要はなく、機械的の方の1通にすべきです。


因みに、この件での被害者は私だけでなく、
「受け付けていないのか」という電話の応対に出た女性です。
彼女の責任ではないのに、私にしこたま怒られましたから。
ゴメンナサイ。お詫びします。



そんな理不尽なこと その2 駐輪場のシステム

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 利用者から見た公共システムの不備の2例目を知っていただきます。
 (ガイドには忠実に従わないとダメというのはレベルが低いシステムですね)


ねらい:
 仕方がないのかもしれません。


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先日、家族3人で映画鑑賞に出かけたとき、
大井町線戸越公園駅横の自転車駐輪場を利用しました。


帰りの精算の際に、
注意書きを見ないで500円玉を先に入れてしまいました。


ガイドはこうなっていました。
1.駐輪番号を入力する。
2.確認ボタンを押す。
3.金額が表示されるのでその金額を入れる。
4.解錠される。


先に入れた500円は無効になってしまったのです。
戻りボタンでも戻りません。
何度やってもです。

注意事項を見ると、
「番号を間違えてお金を入れてしまうとお金は戻りません」
とはありましたが、
「お金を先に入れると戻りません」
とは書いていませんでした。

そこで、センター呼び出しをしました。
すると、解錠はされましたが、
差額のおつり350円は戻らないのです。


戻す方法は、以下の二つだそうです。
郵便局で受け取る方法と
次回利用の際に、名前を申告すると解錠されるのでその方法による。
この場合50円が余るので、その次に100円出して終了、
と3回ごしになるのです。


確かにこちらが間違えているのだけれど、
そんなこと頻繁にあるのではないでしょうか。
そのたびにそんな面倒なことをしているのでしょうか。


考えてみました。
払い戻すことはそう難しいシステムではないでしょう。
それでもしていないのは、おそらく怠慢なのではなく、
返金にからんだ不正防止の観点なのでしょうね。


と、腹を立てるのを少しやめました。


因みに、後日確認しましたらこの駐輪場の管理運営は、
以前創立50周年を迎えた元祖IT企業としてご紹介したNCD殿でした。
http://uenorio.blogspot.jp/2017/03/50.html


ここまで、普及しているのかという感心と、
「もっと何とかならないの?」という疑問とが湧きおこりました。

「なぜ、残業はなくならないのか」 なぜ日本の労働生産性は低いのか?



【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 残業の必要性について再確認していただきます。
 長時間労働と合わせて問題にされる日本の労働生産性の低さ
  についても考えていただきます。


ねらい:
 残業についての偏見を正しましょう。
 日本の労働生産性の改善については諦めましょう。


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「なぜ、残業はなくならないのか」は常見陽平氏の書籍のタイトルです。
常見陽平氏は、
労働社会学が専門の千葉商科大学専任講師をしておられる方です。




当書では、
電通事件を初め働き方に関わるテーマを幅広く取り上げておられますが、
当稿では、論点を絞らせていただきました。


政府が推進している「働き方改革」では、
残業=悪というイメージで残業を減らす
ことを推進しているような印象を受けます。


これは常見氏の主張ですが、
私もそう思ってきています。

本書では、以下の調査結果が紹介されています。
1.厚生労働省「平成28年版過労死等防止対策白書」の調査
(1)残業が発生する理由 経営者側の意見
 1)顧客(消費者)からの不規則な要望に対応する必要があるため
 2)業務量が多いため
 3)仕事の反感の差が大きいため

(2)同 従業員側の意見
 1)人員が足りないため(仕事量が多いため)
 2)予定外の仕事が突発的に発生するため
 3)業務の繁閑が激しいため

2.2007年「独立行政法人労働政策研究・研修機構」の調査
(1)経営者側に対する質問
 「長時間労働が発生するのはどのような要因からだと思うか」の回答

 1)所定内労働時間では対応できない仕事量だから     47.6%
 2)事業活動の繁閑の差が大きいから              38.4%
 3)突発的な業務がしばしば発生するから            36.3%
 4)仕事の性格上、
       残業や休日出勤でないとできない仕事であるから             32.5%
                                  
 5)取引先との関係で、時間を合わせる必要があるから       29.5%
 6)最近の人員削減により、人で不足だから               23.3%
 7)組織または個人の仕事の進め方にムダが多いから          16.2%

(2)従業員側の回答
 1)所定時間では片付かない仕事量だから                             57.2%
 2)突発的な業務がしばしば発生するから                               45.9%
 3)最近の人員削減により人手不足だから                              20.3%
 4)取引先との関係で、時間を合わせる必要があるから          18.8%
 5)事業活動の繁閑の差が大きいから                                     16.5% 

常見氏は、この二つの調査から、
仕事量、突発的な業務、業務の繁閑の問題の3点を
残業の主たる要因として整理しています。


私はこう整理します。
1.恒常的に残業が発生するのであれば、それは人員不足である。
2.ある時期、残業が発生するのであれば、正当な企業経営である。
  
一般的業務では、仕事量が毎日一定だということはありません。
たとえば、
 週末に仕事量が多い。
 月末に仕事が集中する。
 季節的にある時期に仕事量が多い。
 予算編成時に仕事が増える。
 ランダムに仕事量にばらつきがある。


一般的なビジネスの状況では
以下のような繁閑のばらつきがあるということです。




その場合に、ピークに合わせて人員を用意していれば残業は発生しませんが、
ピーク以外はアソビが出る、ということになります。


営利目的の民間企業では、
そんな非効率な経営はしません。


ある水準を目安に人員を設定し、
それを超える仕事量は残業(超過勤務)で対応するのです。
その水準以下の場合は、
納期条件の緩い業務(学習を含みます)を行います。


ですから、残業=悪なのではなく、
通常は残業=必然なのです。
その残業がどの程度かが問題であって、
恒常的残業の場合は、人員不足で経営の責任です。




政府が規制しようとしている月間最大100時間は
正規な労働時間を150時間(7.5時間×20日)とすると
67%になります。
対案の60時間でも40%でかなりの高率です。


150時間を平均労働時間だとすると、
こんなイメージになります。




もう一つ、重要な当書の指摘があります。
それは、今や日本だけが長時間労働国ではない、
ということです。


むしろ、過去30年以上の間の改善状況は、
先進他国を抜いてダントツの好成績なのです。
以下の図をご覧ください。



しかし、これは正規労働者・非正規労働者込みの数字で
正規労働者の労働時間は横ばいなのだそうです。


日本の労働生産性が低いことも俎上に載せられています。
この労働生産性とは、国のGDPを総労働時間で割ったものです。


GDPは国が生み出している付加価値で、
それを生み出しているのは、
最終的には機械ではなく人間の労働ですから
労働生産性の出し方としては間違っていません。


それにしても先進国中最下位というのは納得できません。
どこにそのからくりがあるのでしょうか。


この労働生産性は
人口一人当たり国民所得であったり
就業者一人当たりであったり
労働時間1時間当たりであったりします。


多くの議論は就業者数がおかしい、
労働時間の取り方がおかしい、ということに集中しています。
つまり労働生産性の分母を問題視しているのです。


私の見るところでは日本の労働生産性が低い原因は、
分母よりむしろ分子つまり稼ぎの方にあるのです。

儲かる産業が少ないということです。


米国の金融業/IT産業を見てください。
労働生産性世界一のルクセンブルグも金融で稼いでいるのです。


日本の労働者が従事している産業は、
サービス業ーーー超過当競争で儲かりません、
製造業-ーーここも右へ倣えの同質競争で儲かりません。


オリジナリティがあって儲かっているのはごくごく一部の企業です。

私はこの点について詳しい分析はしていませんが、
今度時間が取れたら分析してみようと思います。
この結論は間違っていないでしょう。


したがって、日本の労働生産性が低いのは、
「だらだら働いている」労働者の責任ではなく、
経営の責任なのです。

だから、会議の改善や働き方改革をしたって、
日本の生産性が世界のトップに近づくことはありえません。

本当にオリジナリティがあるビジネスが少ないからなのです。
人の真似しかできないのではだめです。


その点、ソフトバンクの孫社長、日本電産の永守社長、
ユニクロの柳井正社長、ユーグレナの出雲充社長、
の後に続けですね。




 

2017年5月28日日曜日

組体操から踊りへ ― 運動会の進歩

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 小学校の運動会の近況報告です。
 昔を知っている人に昔を思い出していただきます。


ねらい:
 日本が良くなっていくことを期待しましょう。


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5月27日土曜日、近所の小学校の運動会がありました。
孫娘が1年生で参加しますので、
全プログラムをシニア席で観戦しました。


当日のプログラム これも工夫されていますね。




プログラムがよく考えられていて感心しました。
校長先生がしっかりした方でそのリーダシップなのでしょう。
近所では人気の小学校です。
この品川区では、児童は好きな学校を選択できるのです。
ダメ学校は廃れていっています。


1.組体操はなく代りに踊りでした

組体操は、運動能力を鍛えるだけでなく、
チームワークの強化も重要な目的でした。


踊りは、運動能力を鍛える方には少ししか貢献しないでしょうが、
チームワークの方は組体操以上かもしれません。


1・2年生は花笠音頭、
3・4年生はソーラン節
5・6年生はみかぐら舞 でした。


1.2年生の花笠音頭
















皆たいへん上手で感動的でした。
5・6年生の踊りの時に、近くにいた先生が
「鳥肌が立った!」と言っていました。
そんな感じです。


毎年、同じ踊りなので、
全員が2年間取り組めるのです。
「昨年より上手に踊ろう」と思えるようになっています。


なおかつ、当日の案内では、
上級生は下級生の指導をするようになっているのですって。
縦のつながりができて良いことです。


2.5・6年生のプログラムに騎馬戦がありました

4人ひと組でチームを作るのは昔と同じです。
違うのは、女子児童も参加すること、と
騎士は鉢巻をとるのではなく被っている赤白の帽子をとることです。


女子は女子同士で戦うのですが、
戦いぶりは男子とそん色ありません。
まったく危なげなく感心しました。


鉢巻と帽子の違いは何でもないようですが大きなことです。
相手の鉢巻をとるとなるとかなりの取っ組み合いをしなければならず、
落馬も普通でした。


これは場合により怪我を招き、
騎馬戦反対論者―クレーマの根拠となっていました。


ところが、帽子だとお互い両手を挙げて向き合うのですが、
すぐに両手の握りあいとなってもみ合います。
しかし、力があるか作戦が上手かの方が
瞬間の隙で相手の帽子をとります。


1組も落馬はありませんでした。
練習の時はどうなのか分かりませんが。
あれだと、「危険だ」という人はいないでしょう。


昔の運動会は、鉢巻きと決まっていて
それが当然と思っていましたが、
赤白の帽子の方が分かりやすくてよいのです。


おそらく帽子の方が倍以上のコストでしょう。
国力が上がった一つの証拠と思いました。


騎馬戦でもう一つ感心したのは、
騎士が軍手をはいているのです。
相手をひっかいて怪我をさせない配慮です。
「なるほどね」と思いました。


3.全学年に徒競争がありました


児童数が少ないので1組は4人です。
一時、競争心をあおるからとか言ってみんなで手をつないで走る
なんてことが話題になったこともありましたが、
そんなことはありませんでした。


スタート地点のすぐ近くで観戦していたのですが、
スタートの時の緊張した顔と
スタート直後のカーッと目を見開きダッシュする顔、
感激的でした。


狭い校庭なので、2年生以上は円周コースなのですが、
リレーを含めて転倒者は一人もいませんでした。
私は、手抜きをして走っているのではなく、
事前の練習や先生のガイドの成果なのだと思いました。


4.事前準備がよくできていました


徒競争の時は、1人ずつ走者の紹介があります。
呼ばれた児童は「ハイ」と言って手を挙げます。
大きな声を出すと緊張がほぐれて良いのですが、
そういう指導はされていないようでした。


この走者紹介アナウンスは児童が行いました。
欠席者も数人いたようです。
しかし、欠席者(欠番)の名前を読み上げるということは
ありませんでした。


また、走者の名前を間違えたのは
全学年を通してたった1回でした。
当たり前のようですが、その運営の仕組みは大したものです。

5.熱中症対策がよくできていました

当日は曇りの予想でしたが、
お昼前から快晴になり30度近くになりました。

先生たちは頻繁に、
児童に持参の水を飲むように注意していました。

こういうこともありました。
1年生から4年生までの待機席はテントがあるのですが、
テントが少ないのでしょう、5・6年生は炎天下です。

そうしましたら、こういう放送がありました。
「1・2年生が出場で席にいない時は
5・6年生は1・2年生の席に移動してください」

行き届いた配慮に感心しました。

これは当然と言えば当然かもしれませんが、
最近の社会ではこのような気遣いがなされなくなっていますね。

6.保護者達の場所取りはありませんでした

校庭が狭いので、シニア席(椅子)以外は立ち見でした。
そのため、一般的運動会恒例のシートによる場所取りがありません。
これはパーティの立食と同じで、
少し楽でないかもしれませんが、
自由に移動して知り合い同士がコミュニケーションとりやすいのです。


広い校庭でも、「場所取りなし」にした方がよいのかもしれません。
年寄り席を設ける前提で。


7.最後に蛇足


孫娘は、1年生4人による「児童代表の言葉」宣言の一人でした。
保育園の学芸会で準主役の役を担当したのに、
緊張により台なしにした「実績」があるので心配していました。


前日、一緒に風呂に入りながら、
「たくさん見える人間はゴミと思えばいいのだよ」
「いや、イチゴと思う」
「そうだ、うまそうだ。食べてしまえ、と思えばいいんだ」
などと話していました。


結果は見事な活舌で大任を果たしました。
あとで聞くと、「先の方の樹を見ていた」と言っていました。


左が孫娘















残念なのは、走るのが好きでいつも走っているのに
団子状態でしたがビリでした。
ジジババは断トツ1位を期待していたのに残念でした。
来年を目標に競走用の走り方を特訓しなければ、
と思いました。

2017年5月16日火曜日

そんな理不尽なこと???

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 そんなこともあるのかという雑談を読んでいただきます。

ねらい:
 例外対応をしているとシステムはどんどん膨らんでしまいます。
 例外処理の切り捨ては必要です、ということを納得しましょう。

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大きなことではないのですが、
最近、少し腹を立てたことがありました。

私は、3月24日に東急線の不動前駅からPASMOで入場し、
目黒駅経由で都営線を利用し人形町駅まで
都営線フリーパスで乗りました。
このことで、以下のような不具合がありました。
 




1)人形町で出場の際、東急線分を精算すべきなのにしなかった。

2)翌日JR大井町駅でPASMOで入場しようとしたら、
 PASMOの出場記録がないとストップされた。

3)そこで、その場で前日の精算をしてもらった。

4)ところがその精算は、駅員の間違いで
 本来タダの都営線分の195円までPASMOから引かれてしまった。

5)私がそのことに後日気がついて、
 都営線の駅で過払い分の払い戻しを請求すると
 PASMOにはその記録があるが駅にその記録がないので
 払い戻しできないという。

6)そこでさらに後日、大井町駅で払い戻しを請求すると、
 駅にその記録はあるが、お金は都営線に入っているので
 払い戻しはできないと言う。


都営線はその記録がないので払い戻しできない、
JRはその記録はあるが、お金は入っていないので払い戻しできない
という理屈です。


本件は以下の私の不始末が原因です。
1)私が人形町駅出場の際、精算すべきを忘れた、
2)大井町での誤精算にすぐに気が付かなかった、
3)その精算を大井町駅でしたことを忘れていたので
 誤精算の返金要求が遅くなってしまった。


しかし当方の要求は、どちらの金であろうと、
間違えたのは大井町駅なのだから返金してほしい、
ということです。

こにような場合でも取り消し処理ができる
ようなシステムになっていれば対応できたのでしょう。
おそらく、直後であれば精算データが都営地下鉄に回っていなくて
取り消しができたのかもしれません。


そういう例外中の例外までシステムに織り込むと
システムの機能は膨れ上がり大変なことになるでしょう。
「ごめんなさい」で済ませた方がよいのです。
仕方ないですね。




2017年5月14日日曜日

「もっとも美人な女性芸能人ランキング」

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 息抜きです。


ねらい:
 「なんでだろう?」を考えていただきます。
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テレビ朝日の番組です。
20代から60代までの5万人の人気投票だそうです。
番組では年代別のベスト10を発表していました。
私はたまたま見ていました。


60代の1位は吉永小百合でした。
そうでしょうね。
70代、80代だと誰が1位かしらとか考えてしまいます。
80代は山本富士子でしょうか。


しかし驚いたことに、
20代から50代まではすべて北川景子さんなのです。
60代でも2位でした。


しかも全体の得票数は、
5万の中の3,836票断トツで
2位の吉永さんの2,414票を引き離しています。


私はテレビをあんまり見ないので、
よく分かりませんが、
北川さん、そんなに断トツなんですかね。


そんな日本一の美人をヨメさんにした
DAIGOは”超”ラッキーですね。


全体のランキングはこうなっていました。
1位 北川景子
2位 吉永小百合
3位 佐々木希
4位 石原さとみ
5位 夏目雅子
6位 新垣結衣
7位 桐谷美玲
8位 沢尻エリカ
9位 深田恭子
10位 綾瀬はるか


本当に惜しまれて世を去った夏目雅子さん、
悪名高かった沢尻エリカさん、
名前がいいので覚えていた綾瀬はるかさん
以外はほとんど知らない人です。


それでどんな顔をしているのだろうと思って
確認してみました。


 misako‘blog 
 http://misaco.hatenadiary.jp/entry/2017/05/09/023942


キツネさん顔、タヌキさん顔というのをご存じですね。
タヌキさん顔は、野球のホームベースのような形です。
キツネさん顔は、タマゴ形の顔です。


日本人の歴史は大ざっぱに言うと、
狩猟民族の原始人が住んでいたところに、
農耕民族が半島から渡って来て混血した、
ということになっています。


この原始人系がタヌキさん顔で、
渡来系がキツネさん顔だと言うのです。
原始人系の影響が色濃く残っているのがアイヌと沖縄人で
この人たちはタヌキさん顔ですね。


それでこの美人10人がどちらの系統かを確認したのです。
現日本人はほとんどが混血ですから、
完全なタヌキやキツネではなく
どちらの傾向が強いかということです。


そうすると、北川さんだけがキツネさん系で
あとは典型的タヌキさんの吉永さんはじめ
全員がタヌキさん系です。


因みにDAIGOは典型的キツネですね。
この夫婦の子供は
典型的キツネさん形美男美女になるのでしょうか。


美人かどうかは主観的なものなので、
昔は山本富士子さんのようなキツネさんが好まれたのです。


今回のランキングを見ると、
日本人の美女意識が変わったのでしょう。
なぜかはよく分かりません。


タヌキさんの方が顔の縦が短いので、
今の美人の条件の小顔になりやすい面はあるでしょう。


どなたか解釈してみてくださいませんか?


5万人の投票内訳をみると、
北川さん1人がキツネの得票を稼いでいますが、
全体ではキツネとタヌキは半々なのかもしれません。



2017年5月13日土曜日

認知症について調べてみました

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 認知症の危険因子(かかりやすい条件)・予防因子について
 の調査結果を知っていただきます。


ねらい:
 この調査結果を積極的に活用しましょう。


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我が友人にもボチボチ認知症気味の人たちが出てきました。
それで認知症について少し調べてみました。
と言いましても、一つのレポートを読んだだけです。


そのレポートとは、
清原 裕さんという九州大学大学院教授の
學士会会報2017-Ⅰ号「生活習慣と認知症の発症予防」
です。


でもこれは凄い研究です。
1985年から現在も継続している
福岡市の東に隣接する人口約8500人の久山町での定点観測です。
こういう地道な研究をしている先生たちがおられるのですね。


この調査期間内に設定した集団を追跡して、
認知症の発症率・死亡率、危険因子・防御因子を検討しています。
ほぼ7年おきに過去5回調査しているのですが、
受診者は各回1000人~2000人でそれなりの数です。


結果はどうだったのでしょうか。
以下をご覧ください。


ADとは、アルツハイマー病、VaDは血管性認知症で
なぜかADは急速に増えているのだそうです。



認知症の危険因子・防御因子

検証した因子
認知症の発症リスク
糖代謝異常
糖代謝異常(糖尿病)は認知症の発症率(特にAD)が高い。
高血圧
高血圧のVaD発症率は高いが、中年期の高血圧の方が老年期の高血圧よりも高い。ADの発症率は高血圧と関係ない。
喫煙
生涯にわたり喫煙しなかった群に比べ、中年期から老年期にかけて喫煙を続けた群における発症率はAD2.0倍、VaDは2.8倍。
老年期になって禁煙した群も非喫煙群と同じ成績(効果あり)
運動
海外の追跡調査の結果を含めた数値で、余暇時の運動によってADのリスクが45%減少する。
食事パターン
大豆・大豆製品、緑黄色野菜、淡色野菜、海藻類、牛乳・乳製品の摂取量が多く、米の摂取量の少ない食事パターンの発症率が低い。

 
これらの調査結果によると、高齢者の2人に1人は生涯のうち
いずれかの時点で認知症になるのですって。
恐ろしいですね。
積極的に予防しましょう!!



2017年4月26日水曜日

「仕掛学」?そんな学があるのですか!

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 仕掛学とは何かを知っていただきます。
 そう言われてみればそうだな、
 という事例を思い出していただきます。

ねらい:
 そういう目で世の中の仕組みを見てみましょう。
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仕掛学

普通にこの字を読むと、しかかり学となるでしょうね。

しかし著者はしかけ学と読ませたいのです。
それなら、仕掛け学と書いた方がいいように思います。


 
著者の松村真宏大阪大学大学院経済学研究科准教授は
仕掛けとはどういうものかを研究しておられます。

いろいろな先生がおられるのですね。

仕掛けとは

本書でいう仕掛けとはこういうものであると定義されています。

本書では、
問題解決につながる行動をいざなうきっかけになるもののうち、
以下の3つの要件からなる「FAD要件」を全て満たすものを
「仕掛け」と定義する。

1)公平性:誰も不利益を被らない
2)誘引性:行動が誘われる
3)目的の二重性:仕掛ける側と仕掛けられる側の目的が異なる


本書では、FAD要件を満たすものを「仕掛け」と呼ぶ。

一般的な意味で用いられる「仕掛け」よりも
かなり限定されていることに注意されたい。


以下でそれぞれについてもう少し説明する。

「公平性」(F要件)は仕掛けによって誰も不利益を被らないことであり、
人を欺くものは「仕掛け」の定義から外れる。


上述した「悪い仕掛け」は公平性を欠くので、仕掛けとは呼ばない。

「誘引性」(A要件)は行動を「誘う」仕掛けの性質のことであり、
行動変容を「強要」するものは仕掛けの定義から外れる。


この要件を満たす前提として、仕掛けが行動の選択肢を増やしていること、
および私たちが自分の意志で自由に行動を選べることが必要である。


その上で仕掛けによる行動の選択肢を選んでもらえれば誘引性が
あったと判断できる。


誰からも見向きもされない仕掛けは誘引性が足りないのである。

「目的の二重性」(D要作)は、仕掛ける側の目的(解決したい問題)と
仕掛けられる側の目的(行動したくなる理由)が異なることであり、
この二重性のないものは「仕掛け」の定義から外れる。


多くの場合、仕掛けが対象としている本当の問題は明示されていないので、
問題を意識することなく興味の赴くままについ行動してしまう。


中には仕掛けと本当の問題の関係に気づく人もいるが、
良い仕掛けであれば仕掛けの価値を高めることはあっても
人を遠ざけるものにはならない。


「仕掛け4」の駐輪場の線や「仕掛け8、9」のトイレの的のように、
利己的な目的と利他的な目的をつなげることも可能である。


これらの仕掛けのFAD要件は仕掛けられる側に明示的に意識して
もらうものではないので、気づかないことも多い。


しかし、いったん仕掛けの考え方が身につくと
身近な仕掛けに気づくようになる。


著者が気に入っている身近な仕掛けは
「仕掛け11」のホームベーカリーである。


夜寝る前に強力粉250g、バター10g、砂糖17g、スキムミルク6g、塩5g、
水180m、ドライイースト2.8gを入れて予約タイマーをセットすれば、
朝の指定した時間にパンが焼きあがる。


そのときにとてもいい匂いがするので心地よく目覚められる。
しかもパンは焼きあがるとすぐに取り出さないと縮んでしまうので、
眠くてもがんばって起きなければと奮い立たせてくれる。


誘引性は抜群である。

がんばって起きた結果、焼きたてのパンが食べられて嬉しいだけでなく
目覚まし時計としても機能するので目的の二重性も満たされている。


ホームベーカリーを使っても誰も損をしないので公平性もある。

このようにホームベーカリーはFAD要件を満たしているので、
仕掛けといえる。


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著者が気に入った事例を写真入りで多数紹介されています。
 
写真は著作権が面倒ですので掲載しませんが、
以下のような事例です。

1)駐輪場の斜めに引かれた線(はみ出しにくい)
2)男子用公衆トイレの便器に書かれた的の絵(そこを狙う)
3)バスケットゴールの付いたごみ箱

4)ごみを入れるとしばらくして衝撃音のするごみ入れ
5)小さな鳥居または鳥居の絵(そこにおしっこをかけない)
6)消費カロリー表示の付いた階段

7)お立ち台が前に付いた大型ディスプレイ
8)コインスライダーの付いた募金箱
9)丸くなく三角に巻いてあるトイレットペーパ
  (スルスルといかずにガタンガタンとなるので消費量が減る。
   なるほど!!)

仕掛けの原理
 
仕掛けはこういう原理を使って成り立っているという解説です。
事例付きで解説されていてたいへん分かりやすくなっています。

▼クリックすると拡大します▼
 


 仕掛けの発想法
 
以下の解説がありますが、極め手はないようです。

1)仕掛けの事例を転用する
2)行動の類似性を利用する
3)仕掛けの原理を利用する

関心のある方は是非本書をお読みください。

結び
 
たいへんいいことが書いてありました。
同感です。
 
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人が努力しなくても技術で解決できるなら、
それほど楽なことはない。


しかし、各人がちょっと気をつければ解決する問題の
解法としては大げさすぎて、実現可能性は低い。
 
技術だけに頼るのではなく「つい分別したくなる」
ように誘う仕組みこそ実現可能なアプローチになる。
 
百歩譲って自由に動きまわって問題を解決するロボットが
開発されたとしても、総合的に見ると今のところ人間のほうが
圧倒的に優れている。
 
目は環境や物体を正確に認識し、足はどこにでも自由に
移動することを可能にし、手は複雑な操作をこなす。
 
人間なら極めて簡単にこなせることでロボツトには難しい
ことがほとんどである。
 
人間はこれまでの人生で培った知識と経験も持っているので、
身体能力だけでなく総合的に物事を判断できる能力も優れている。
 
とどのつまり、機械に頼っても大したことはできないし、
壊れるし、何より膨大な金銭的コストがかかる。
 
人が立ち入れない危険な場所での作業や工場のような
単純作業、介護現場のような肉体的負担の大きい現場を除けば、
今のところはメリットよりデメリットのほうがはるかに大きい。
 
実現可能性を考えると、機械に頼るところは必要最小限に留めて
行動を誘うことに注力するのは一つのアプローチであろう。
 
仕掛けを作る際には、ハンマーにとらわれて(注)本質を見失って
いないかを常に心に留めておくべきである。



注:「マズローのハンマーの法則」
 ハンマーを持てばすべてが釘に見える、のことを指しています。
 
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私は以前から仕組みと仕掛けを対比させていました。
業務の改善をする時には「仕組みではなく仕掛けにしろ」
と言ってきたのです。
 
仕組みは「こうしよう」と設計して作るものです。

しかしながら、人はそのとおりにしないことがある、
またはしないことが多いのです。
 

それに対して、仕掛けにすると、
そうしないようにはできないのです。

業務系の情報システムは、仕掛けです。
しごとの方法が徹底できます。

それでは、この業務系システムは
著者の仕掛け要件を満たしているかどうか
チェックしてみます。

1)公平性(誰も不利益を被らない) 
  この条件は満たしているでしょう。
  会社にとって
  そのシステムが不利益になることはないでしょうし、
  本人にとっても、
  そのシステムが気に入るかどうかはあっても
  不利益にはならないはずです。
 
  この項目は○でしょう。


3)目的の二重性
  (仕掛ける側と仕掛けられる側の目的が異なる)
  仕掛ける側=会社側の目的は業務の効率化・品質向上です。
  
  仕掛けられる側=業務実施者、
  通常は会社側の目的が業務実施者の目的にも合致するでしょう。
  異なる目的があるとすると「考えなくてよいので楽」
  ということでしょうか。

  この項目は△でしょう。
  
2)誘引性(行動が誘われる)
   
    業務系の情報システムは誘われて従うものではなく、
  「それしかない」強制です。
  業務系の情報システムは「それしかない」ようにすることが
  目的ですから誘引ではありません。


   この項目は☓です。


そうすると、我々が仕掛けといってきたものは
著者の基準からすると仕掛けに合致しないということになります。


ここで、情報システム改善のヒントが得られました。
利用する人が楽しいようにシステムを作れば、
システム利用上のミスも減らすことができるのかもしれません。  

「まだ科学で解けない13の謎」

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 その謎って何だろう?を知っていただきます。
 そういう謎に多くの科学者が取り組んでいるのだということを
  再認識していただきます。

ねらい:
 関心のある方は本書をお読みください。 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この本は2010年に、
マイケル・ブルックスというアメリカの科学ジャーナリストが
書いたものです。
私はこの書名に惹かれてこの本を開けてみました。



「よくこんな壮大なテーマで本を書く気になるなー」
と著者の見識に脱帽です。

13項目は、同書の目次によれば以下のとおりです。

 1.暗黒物質・
   暗黒エネルギー
 宇宙船の大問題。
 でもそんなものは存在しない?
 2.パイオニア変則事象 物理法則に背く
 軌道を飛ぶ2機の宇宙探査機
 3.物理定数の不定 電磁力や強い力、
 弱い力の強さは昔は

 違っていた?
 4.常温核融合 魔女狩りのように糾弾されたが、
 それでよかったのか
 5.生命とは何か? 誰も答えられない問い。
 合成生物はその答えになる?
 6.火星の生命探査実験 生命の反応を捕えた
 バイキングの
 結果はなぜ否定された?
 7.”ワオー“信号 ETからのメッセージとしか
 思えない信号が一度だけ―――
 8.巨大ウイルス わたしたちはウイルスの子孫?
 物議をかもす異形のウイルス
 9.死 生物が死ななければならない
 理由が科学で説明できない
 10.セックス 有性生殖をする理由が
 科学ではわからない
 11.自由意志 「そんなものは存在しない」という
 証拠が積み重なっている
 12.プラシーボ効果 ニセ薬でも効くなら、
 本物の薬はどう評価すべきか?
 13.ホメオパシー
    (同種療法)
 明らかに不合理なのに
 なぜ世界中で

 普及しているのか?


現在、出版から7年経っていますが、この中の火星の生命探査が
いくらか進展しているのでしょうか。

13を選んだのは著者の見識によるもので、
他の人が選べば別の項目が上がる可能性はあります。

ですが、この13項目が謎であることには間違いないのでしょう。

皆さまはどれに関心を持たれますか?

私は、この中から自分に理解できそうな4項目ほどを
読んでみました。

各章とも冒頭に問題提起部分があります。
何が問題なのかを解説しているのです。
以下の4章についてその部分をそのまま掲載させていただきます。


そのテーマについて世界中の学者さんたちが、
実験結果等を踏まえて甲論乙駁しています。
甲論乙駁の一例をもご紹介します。


その甲論乙駁は決着していないのです。
決着していないので「謎」となっているわけですが、
何となく気持ちが落ち着きません。

でも仕方ないのでしょう。

第5章 生命とは何か

【問題提起】

生命を変則事象としてとらえるのは、いくつかの意味で難しい。
だが、それはたぶん身近であるがゆえに軽視しているからだろう。

ここでいったん、生命をあたりまえのものと考えるのをやめて、
生物の世界と無生物の世界とを分けるものは何かについて、
しばし考えてみよう。


科学的観察の対象として、実例には事欠かない。
わたしたちが”生きている”と呼ぶ特質を備えたものは、山ほど存在する。

一方、誰も”生きている”とは呼ばないものも、身の回りに山ほど見かける。

ところが、地球上の科学者の誰ひとりとして、
両者の状態のどこに根源的な違いがあるのかを語れない。

また誰ひとりとして、”生きていない”状態のものを、
”生きている”と万人が納得するようなものに変えることもできない。

それどころか、いまだに科学者たちは、無生物から生物への転換を
もたらすものは何かについて、意見をまとめようともがいている始末だ。


【議論の一例】

合成生物学はゴールに近づいているのか?

生命の創造をめざして最初の意義深い実験を行なったのは、
シカゴ大学の化学者、スタンリー・ミラーとハロルド・C ・ユーリーだ。

1953年、ふたりは、アンモニア、メタン、水素の混合気体と水を入れた
フラスコを密封して、原始地球の大気成分を再現し、
その中に電気の火花を飛ばした。

原始地球の雷雨が無機化合物を刺激して最初の生命を創り出した
のではないか、という仮説にもとづく実験だった。

この実験は、並々ならぬ成果をもたらした。

一週間にわたって放電を続けたところ、メタンを作っている炭素の
約2パーセントからアミノ酸が、すなわち蛋白質の基本成分となる
有機化合物が合成されたのだ。じつに驚くべき新発見だった。

問題は、この実験に不備があったことだ。

したがって、ミラー・ユーリーの実験は、
真の意味で成功を収めたわけではなかった。

それでも、この試みは生命創造の可能性を示した。

そして1961年、
スペイン・カタルーニャ州出身の生化学者ヨアン・オローが、
ミラーらの実験をさらに進展させた。


オローは、水、水素、シアン化物、アンモニアを用いて、
大量のアデニンを生成させた。

アデニンはDNAを作る四つの塩基のひとつであるだけでなく、
アデノシン三燐酸(ATP)のおもな構成要素でもある。

このATPという化合物は、動植物の活動に必要なエネルギー源になる。

人間はATPを消費しなければ、走ることも、成長することも、
呼吸することさえもできない。

ノーベル生理学・医学賞を受賞したベルギーの生化学者
クリスティアン・ド・デューヴは、かつてこう言っている。

「生命とは、一定の条件が整えば再現しうる、
ほとんど日常茶飯事とも言える物質現象であるか、
そうでなければ奇跡である。


生命の誕生はあまりにも多くの過程を伴っているので、
物質現象と奇跡とのはざまに、
生命が生まれた原因を見出すことはできない」。


もしアミノ酸やアデニンをつくるのが
ほんとうにそれほど単純なことなら、
生命を創始するのもたやすいのではないか。


本気でそういう展望を持つだけのもっともな理由がある。

それは、生命が地球上に誕生した際の驚異的な速さだ。


 
第9章 死

【問題提起】

1965年の夏、
ジョージア大学の若い研究者がミシガン湿地でカメを捕まえた。
それは成長しきった雄のブランディングガメで、
少なくとも25歳にはなっていた。

その特徴を書き留めると、研究者はカメを元の場所に返した。

それから33年後の1998年、J・ホイットフィールド・ギボンズが
ふたたびそのカメを捕まえた。カメは健康そのものだった。

ブランディングガメは生物学上の謎だ。

知られている中で最も長寿の個体は、
1980年代に77歳だったと記録されている
――そのカメは雌で、なおも卵を産んでいた。


トラックに轢かれて背骨を折らなければ、十中八九、
今でも生殖を続けていただろう。


ブランディングガメは老いることも弱ることもない。
一生のあいだ、病気への抵抗力がまったく低下しないのだ。

変化があるとすれば、年を取るにつれて精力的になることぐらいだろう。
平均的に見て、雌の産む卵の数は年々増えていくのだから。



”老化”すること、
すなわち時間の経過とともに衰えて最終的に死に至ることは、
動物界全体に共通する定めだ。


この標準的な理論によると、ありとあらゆるものが年老いて、
力尽き、死んでいく。


これはまっとうな理論だが、事実と照らし合わせると、つじつまが合わない
――どう合わないのかというと、これがとても興味深い。

カメは脊椎動物であり、
したがって、わたしたち人間とよく似た進化を遂げてきた。


わたしたちの分子機構が時間とともに壊れていくなら、
カメにも同じことが起こるはずだ。
ところが、実際は違う。


南カリフォルニア大学の老年学教授ケイレブ・フィンチによると、
プランディングガメの存在は間違いなく、人間の老化は
避けられないという概念に対する”痛烈な挑戦”だという。


ブランデイングガメだけではない。

脊椎動物では、
魚類や両生類や爬虫類の中に、老化しない種がいくつもある。


なぜこれらの種が老化しないのか
――また、なぜわたしたち人間が老化するのか――
を解明すれば、即座に明白な利益がもたらされるだろう。


しかし、事態は想像をはるかに超えて錯綜している。

じつのところ、理にかなっていないのはブランデイングガメではない。
死それ自体が次なる変則事象なのだ。


【議論の一例】

とはいえ、ケニヨンによる初の大発見は、
”カロリー制限”にまつわるものではない。

ケニヨンは線虫の寿命を延ばす遺伝子をまたひとつ見つけたのだ
――しかも、その寿命延長率は100パーセント。


1993年12月2日発行の《ネイチヤー》誌によると、
通常の寿命が2、3週間のシノラブディス・エレガンス(Cエレガンス)
という虫が、最長で6週間生き延びたという。


本来の寿命の2倍長生きした線虫が情勢を変えてしまったようで、
加齢の遺伝子スイッチが存在する可能性
――そして、そのスイッチを切ることができるかどうか――
について議論が始まった。


ケニヨンの大発見以降、
研究者らは寿命の違いが生じる原因をいくつか特定した。

線虫の遺伝子を少しいじるだけで、
分子シグナルの増幅反応がうまくいかなくなる。


この分子シグナルは、
インシュリン・ホルモンが人体に引き起こすシグナルに似ている。


人間で実験するのはむずかしいが、このシグナルの反応が、
ショウジョウバエで起こるシグナルのホルモン駆動型増幅反応に似ている
ことが発見されたとき、すべてが始まった。


ショウジョウバエは生活環(ライフサイクル)が短いので、
かねてから世界じゅうの遺伝子研究で便利な実験体として用いられてきた。

おかげで加齢の研究も進み、今日では遺伝子スイッチによって
ショウジョウバエの寿命を廷ばせるようになった。


これと同じ策をもっと大きな動物にも応用できる。

一連の遺伝子スイッチを入れるだけで、
長命な哺乳動物を作り出せるのだ――例えば、メトセラマウスなどを
〔メトセラは旧約聖書に登場する長寿の族長。高齢長寿の代名詞〕。


興味深いことに、細胞の死減を止める方法はわかっている。

癌細胞には”テロメラーゼ”という酵素が含まれている。


これは分裂のたびにテロメアを完全に元どおりの長さに復元する酵素だ。

このテロメラーゼのせいで複製が止まらなくなり、腫瘍が急成長する。


細胞がテロメラーゼを生成できれば、
テロメアが短くなるのを避けられるということになる。
そして、生成は可能だ。


1998年初め、カリフォルニア州メンローパークにあるジェロン社の
アンドレア・ボドナル率いる研究者集団が、
テロメラーゼを活性化する遺伝子を
通常のヒト細胞に埋め込んだことを発表した。


その細胞は、なんの処理もしていない細胞の2倍長生きしたという。

そして、《サイエンス》誌での発表時にもなお健在だった。

その細胞は健康そうで、若い細胞の特徴を備えていた。


テロメアが活性化すれば、複製老化の呪いを避けられる。
つまり、どこからどう見ても不死身だ。


第10章 セックス

【問題提起】

近年の状況に話を移すと、
2007年の《ネイチャー》誌の解説論文では、
「性交が生殖方法としてこれほど広まっている理由は
今もなお理解しがたい」と言明されている。


突き詰めて考える人は少ないかもしれないが、
セックスは摩訂不思議なしろものだ。


最大の謎は、ごく単純に、
生命体が自分自身の複製を作り出す無性生殖のほうが、
ずっと効率的に遺伝子を次世代へ伝えられるのではないかという点だ。


無性生殖は実際に行なわれている。

爬虫類と魚類を中心とする多くの種が、限られた回数の無性生殖を実践し、
雄の遺伝物質を受け取ることなく、自分自身を複製する
(雌だけを産もうとする雌の生殖活動ということになる)。


例えば、ロンドン動物園にいるコモドオオトカゲは、
2006年に雄の助けを借りずに子孫を増やした。

わからないのは、なぜ無性生殖が優位に立てないのかということだ。


有性生殖では、相手となる生命体を必要とするうえに、
自分の遺伝子を半分しか伝えられない。

おまけに、有性集団と無性集団が共存する場合、
無性集団では各個体が全員子孫を産めるが、
有性集団ではそれが半数にとどまる。


セックスは絶滅を招く生殖法であり、無性生物がたちまち環境を
支配することになるだろう。


メイナード・スミスに言わせれば、セツクスには”2倍のコスト”が伴う。

遺伝学的に言つて、本来の半分しか力を発揮できない
――おまけに繁殖の速度も半分に落ちる――ような生殖法が、
なぜ洵汰されずに今も残っているのか?


しかも、それはあくまで遺伝学上の謎に過ぎず、ほかにも、
つがう相手を奪い合う労力、卵子と精子の合体に伴う非効率性、
交尾中に捕食者に襲われる危険などの問題点がある。


さらにまた、優良な遺伝子組み合わせ、
つまり進化の途上で選択された組み合わせが、
再結合の過程でばらばらになってしまい、
次代に伝えられない可能性もある。
理論家の観点から見て、セックスはほとんど欠陥だらけの生殖法だ。


ところが、この理論的な評価に反して、周囲を見渡してみると、
セックスの欠陥が一般的に認識されているとは言いがたい、
それどころか、地球上で最も広く行われる生殖法となっている。


【議論の一例】

例えば、オータムの無性ヤモリは、
有性生殖で生まれたヤモリより運動能力が高く、
より長い距離をより速く走った。


ところが、それ以前に別の種を使って行なわれた研究では、
逆の結果が出た。

一連のミジンコの実験で、無性生殖から生じる有害な突然変異の率が、
有性生殖の4倍に達したのだ
(ミジンコは有性生殖と無性生殖の両方を行なう)。


しかし、線虫の研究では、有害な突然変異の発生数は、
無性集団も有性集団もまったく差がなかった。


ゲノム進化のコンピューター・シミュレーションによると、
ここでは集団の大きさも問題になってくる。

小集団は有性のほうがうまくいくが、有性生殖種の大集団では、
有害な突然変異が多く蓄積される。


有性集団では遺伝子が再編成されるので
環境の変化にすばやく適応できるという説については、どうだろう? 


ここでもまた、種々雑多な証拠が入り交じっている。

1997年の酵母菌の研究では、有性生殖を行なう種の酵母菌には、
新たな環境に適応するうえでの利点は何ひとつ見当たらなかった
(酵母菌には有性生殖を行なう種とそうでない種がある)。


ところが、別の研究では、環境が悪化した場合は、
有性種の個体数が勝るが、環境が改善されると、
両集団の個体数が均等に保たれることがわかった。


2005年に行なわれたもうひとつの研究では、
有性と無性両方の酵母菌変種が
最小限の栄養分とともに試験管に入れられた。
結果は無性変種の勝ち。


同じ混合物をマウスの脳に塗りつけると
(高度に変化に富んだ環境を再現するため)、今度は有性集団が勝った。


ところが、この結果はふたりのカナダ人研究者の発見と齟齬をきたした。

1987年に、グレアム・ベルとオースティン・バートは、
有性生殖では変化に富む環境に住む子孫に利益をもたらすような
遺伝的多様性は、得られないことを明らかにした。
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【上野注】
これらの議論に専門家でない私は参加しようがないのですが、
思ったのは以下のことです。


有性生殖が有利な場合と無性生殖が有利な場合、
どちらも存在するとすればどちらが有利なのかを明らかにするのではなく、
どういう場合に有性生殖が有利で、
どういう場合に無性生殖が有利なのか
を明らかにすればよいのではないでしょうか。

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 第11章 自由意志

【問題提起】

恐ろしくて、ひどく気の重い話だが、
わたしたちは脳によって動かされる機械なのだ。

わたしたちが自由意志だと思っているものを、
じつはわたしたちは持っていない。


何十年にもわたるきわめて再現性の高い実験から、
この推論が導き出されたのだが、まだ筋の通らないところがある。


人間としてわたしたちは、自律性、自己決定能力、自由意志を、
自分に当然備わったものと信じている。


ほぼすべての人間が、自由意志を否定するような実験結果は
異常なものだと言うだろう。

そのような結果は意識的経験の枠組みとは合わないのだ。


しかし、パトリック・ハガードと話してみれば、
わたしたちのその自己欺瞞こそが珍奇な変則事象であって、
誰もが懸命にしがみつく自由意志の概念など幻想にすぎない、
と言われるはずだ。


ハガードだけではなく、ほとんどの神経科学者が同じ見解を持っている。

ただ、少数の学者はいまだ自由意志にこだわり、
実験結果のほうを変則事象として切り捨てる。


この論争の持つ意味は、これ以上ないほど大きなものになってきている。

自由意志には確かに割り切れない部分があり、
この変則事象の解明は、人間とは何かという問いへの答えとなるだろう。


【議論の一例】

1970年代後半のある日、
リベットはノーベル生理学賞受賞者ジョン・エクルスらとともに、
自由意志に関するシンポジウムに参加していた。


エクルスは自発行為が行われる際に”準備電位”と呼ばれる脳信号が、
必ず行為より1秒以上早く生じるという最新の研究を話題にした。


当時エクルス自身は、
すべての自発行為は自由意志が起こすものだと信じていた。


したがって自由意志のほうが、自発行為よりも少なくとも
1秒は早く生じているはずだ、と述べた。


リベットはすぐに、それがあくまでエクルスの信念であって、
裏づけとなる証拠があるわけではないことを見抜いた。


そこで、裏づけを探す実験を始めた。

リベットはボランティアをつのって、頭皮と手首に電極をつけ、
ごく簡単なある作業をするよう頼んだ。


まず時計を見ながら、いつでも好きなときに手首を曲げる。

次にその行為をしようという意図を最初に感じたのは
いつだったかを報告する、というものだ。


頭部の電極で、リベットは、
準備電位が徐々に高まっていくのを測定した。

手首の電極は、筋運動の行なわれた正確な時刻を教えてくれた。

被験者が、手首を動かそうという意図を感じた時刻を述べると、
それは常に行為より先に起こっていた。


快調な出だしだ。しかし、吉報はそこまでだった。

リベットは脳の準備作業、すなわち準備電位が、
意図を知覚するより先に生じていることを発見してしまったのだ
――それも、かなり大幅に。

脳が行為の準備に入るのは、
意図が知覚される最大0.5秒前、平均でも0.35秒前で、
その時点で被験者はまだ、動こうという意図に気づいてすらいない。


知覚するころには、脳は完全に起動していた。

被験者が意識的に決断したと思ったことが何であれ、
実際には、その行為を起こす決断ではなかったのだ。

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科学に関心のある方は、
是非、本書を研究なさってみてください。