2012年3月31日土曜日

消費増税議論の是非

【このテーマの目的・ねらい】
 目的:消費増税議論の本質を考えていただく
 ねらい:消費増税に対するご自分の考えを再確認いただく
      (それでこれから反対しても遅いですかねー)

現時点で日本最大のテーマはこれです。
そこで、この議論の論点を整理してみました。

1.現在の国家財政のバランスでは税収不足で
 国家財政は破たんする(すでに破たん状態である)。
      ↓ 
  これは誰も異論がありません。
  国家財政の破たん救済策としては、
  税収増のみでなく、財政支出の見直しもすべきである
  という点については、論者によって強弱があります。

2.特にこれから増えていく社会保障費は賄えなくなる。
      ↓
  この点については概ね異論なしですが
  一部に社会保障費の内容を見直すべきだ
  という意見もありますが、
  その人でも税収増なしでいけるとは言っていません。

3.税収増の方法は消費税が現実的である。
      ↓
  消費増税反対意見は、
  消費増税では選挙に負けるから先送りしたい、が主です。
  「民主党のマニフェストで消費増税しないとなっていたので、
  それに反する」という意見も出ています。
  (これは表面的な強弁で、「選挙に負ける」が本音でしょう)

  より本質的に見える反対意見は、
  「この経済状態が悪い中で、
  さらに足を引っ張るような増税はすべきではない」というものです。

  この意見の背景には、経済は回復し成長軌道に乗るときがある、
  という前提があるようですが、そうなる保証はありません。

  そうなると、さらに財政赤字が拡大し、
  重大な局面に至るぞ!というのが増税派の意見です。
  この10年間、日本の名目GDPは横ばいかマイナス成長です。
  どうしてプラス成長が期待できるのでしょうか。
  

  賛成意見は、
  消費税は高齢者も含めて国民全員が負担することになるので
  公平である、と言っています。
  「日本の消費税率は低いから上げ余地がある」
  ということを根拠に挙げている場合もあります。


上記の1項、2項を認めても
その帰結として3項になるとは限りません。

1.2.を全員が認めるのであれば、
どういう方法で税収増を図るのが、
公平であるのか、あるいは、
今後の日本がどんどん落ち込んでいかずに
明るい将来が描けるのかということになります。

法人増税は、日本の産業が競争力を失って
結果としてますます税収減の悪循環
になってしまいますからダメです。

消費税は公平だと言われますが、
国民全員が収入のすべてを消費するなら、
同じ率で負担することになるので公平と言えるでしょう。

ところがエンゲル係数の例を出すまでもなく、
低所得者ほど消費の比率が高いのです。

であれば、収入に対する消費税負担率は
低所得者ほど高いということになり、
公平ではありません。

ではどの税が公平なのか、ということになります。
その候補に挙げられているのが、
遺産相続税、資産課税、所得税です。
お金持ちに多く出していただこうというのは
負担能力という面からの公平です。

お金持ちに多く出していただくことに対して、
必死であるいは一所懸命働いた人から
その成果を分捕るのはどうか、
働く意欲が低下してしまう、という意見があります。

私は、働いたのはその人かもしれませんが、
得たのは社会からなのですから、
社会にお返しをしたってよいのではないか、
と考えてほしいと思います。

この議論が十分なされていないのは、
政治従事者がお金持ちの反対を恐れるからです。
お金持ちはいろいろな組織を使って反対します。
それに勝てる自信がないのです。

このあたりから、総理大臣を直接選挙制にすべきだ、
選挙の支持者の顔色を見る議員に選ばれる総裁では
思い切ったことができない、
現に橋下大阪市長が強いのは議会の代表ではなく、
市民の直接選挙で選ばれているからだ、
ということも言われ出しています。

日本の国がどういう国を目指すのか、
ということにも関係します。

そういう議論を避けて、
消費増税の是非を論じるのは短絡すぎます。
そういうことであれば、
1項・2項を認めても消費増税には反対すべきです。

以上の議論を目的・ねらい論で整理するとこうなります。

目的は、「国家財政の破たんを救う」ということです。

そのねらいは、
国民が日本の将来に不安を抱かずに
生活できる、働ける、子供を育てる、ことができる、
そうして日本が誇れる国として存在し続ける、
ということでしょう。

消費増税は、
上記の目的・ねらいを達成するための手段です。
手段と言うことは代案がありうるということになります。
消費増税でなくてもよいのです。


なお、波頭 亮氏は「成熟日本への進路」の中で
こういうことを述べられています。

 個人金融資産1400兆円に対して
 固定資産税並みの1.4%の資産課税で
 毎年20兆円が得られる。

 遺産相続に対する実効税率を50%にすると
 毎年14兆円が得られる。

 この合計金額は
 消費増税10%で期待する税収22兆円を上回ることになる。

この「成熟日本への進路」は
明快に今後の日本の進路を示唆しています。
あらためてご紹介したいと思います。

「日本人の価値観」 日本人は政治に関心高い?

【このテーマの目的・ねらい】
 目的:日本人の価値観について考えていただく
     日本人は政治に関心が強いのかどうか考えていただく
     統計調査の解釈の難しさについて考えていただく
 ねらい:今後の皆様の何らかの行動に活かしていだだく

「日本人の価値観」という本が日経新聞の読書欄で
紹介されていましたので読んでみました。

価値目標思考の提唱者としては、
逃せないタイトルです。

この本は、2012年1月に出たもの(著者は鈴木賢志氏)ですが、
調べてみると、以下のように類書があるのです。

「日本人の価値観・世界ランキング」 高橋徹氏著
「日本は世界で第何位?」 岡崎大五氏著

知らなかったのは甚だ不勉強でした。

これらの本の題材は、世界規模で実施されている
アンケート調査の結果数値の分析です。

したがって、数値をどう分析・解釈するかが
「ウリ」になります。

分析好きの私としては、
「その解釈は違うのではないの?」
という部分を見つけだしてご紹介したいと思います。

どちらの解釈が当っているかは皆様のご判断です。

本書の一説にこういうタイトルがあります。
「日本人は世界的にみて政治への関心が高い民族である」

私たちは
「日本人は政治に対する関心が低い」と考えがちですが、
実はそうではないのです、と書かれています。

その根拠として、
政治に関心のある人の割合が64%で世界8位である
国政選挙の投票率が69%で世界17位である
 (イギリスは65%、フランスは60%、アメリカは48%)
が挙がっています。

しかし、
関心があるかどうかは意識を聞いている調査であって
事実ではありません。
こういう設問では、どう答えたら良いかと考えて回答します。
重視していると答えた方がよい、
というバイアスがかかっている可能性があります。

伝統的な日本人の思考法は、
私の表現では「前例・みんな主義」です。

「前例・みんな主義」とは、こういうことです。

「農耕文化」「他国との孤立」による永年の思考の熟成の結果、
安定社会の継続を願っています。
その結果、その社会の秩序を乱さないように、
自分はどう考えるかの前に、
「前例はどうか」「みんなはどうしているか」と考えます。

「TPPのことを知っていますか」と聞かれると
知らないとまずい、と思えば知っている、と答えます。

そういう思考をうかがい知ることができるのは、
「関心がある」の内訳です。

本書では内訳を示していませんので、
前掲の高橋氏の著書でみますと
「非常に関心がある」と「やや関心がある」に分かれた
数字が示されています。

どの国でも後者の方が多いのですが、
合計のランキングで10位(調査年次が違います)の日本は
「非常に関心がある」のみのランキングでは16位で
相対的にあいまいな「やや関心がある」が多い
という結果になっているのです。
これは付和雷同的な回答者の存在を想定させるものです。

投票率は考え方を聞いているのではなく、
事実ですから、考え方の設問より客観性があります。
ですが、投票はすべきだ、棄権はいけないという
「みんな」の意見があれば、
「前例・みんな主義」の思考法の方は
政治を大事と思うかどうかは別にして投票するでしょう。

ということで、数字に表れているほどは、
日本人は政治に対する関心は高くないでしょう。

その証拠に、同じ項で
「政治的問題を友人とよく議論する人の割合」
が示されていますが、
「よくする」人の割合は日本人は7.4%で69カ国中で64位です。

鈴木氏はこの解釈として、
「みんなが政治に関心がない」と思っているから
友人と議論しないのではないか、としています。

そうでしょうか。

「前例・みんな主義」の日本社会では、
政治はお上(オカミ)に任せておけばよい、
という思考です。

つまり、
オカミは自分たちのことを考えてうまくやってくれるだろうから
任せておけばよい、余計な口出しをしなくてよい、
という考えなのですね。

本書の別項で、「政府・メディアに対する信頼感」
というのがあって、そこでは
「日本人は政府をあまり信用していない、
でも活字やテレビはとても信用する」
という数字と解釈が示されています。

活字は別として、
多くの国民はテレビをよく見ます。
報道番組も見ているでしょう。
報道番組で視聴率の取れる政治ネタは
多くの国民が見ることになります。

事業仕分けとか消費増税とかです。
政策ではなく政局ネタという面もあります。

多くの日本人の政治に対する考え方は
「信頼されている」マスコミが誘導しています。
マスコミは多くの国民に受け入れられる
(視聴率のとれる)題材を探します。

「政府を信用していない」ということも
マスコミからの情報です。
たしかに政府は力不足です。
ダメなネタはいくらでもあるでしょう。
ダメなネタの方が分かりやすくて受けもよいのです。

これがダメだ、あれがダメだ、という人に
ではどうすればよいのですか?と聞くと
ダメな逆を言うだけす。
「増税がダメだ」に対して「増税しない」です。

本来の意見は「増税しない」ではなく、
こうして財政再建すべきだ、でなくてはならないのに。

「ではどうすればよいのですか」
をマスコミに対して聞いても同じことでしょう。
大衆=マスコミなのですから。

「政府を信用しない」ことに戻れば、
どんな政府でも大衆(=多くの国民)は信用しないでしょう。
前掲のようにダメなネタは常にあるからです。

そのことと、オカミ頼みであることとは矛盾しません。
大衆は、
「なんとか誰かがうまくやってほしい」と思っているのです。
自らの責任を自覚して動こうという気はあまりありません。

それは、自由や責任を革命等によって勝ち取った国民と
長らくオカミ頼みで過ごしてきた国民の差で
かなり致命的なものでしょう。
ということで、
マスコミと国民多数派がキャッチボールをして
ドンドンかダンダンか
ある方向に世論を高めていっているのです。
その基は「前例・みんな主義」です。

高まった世論は何かの事件かきっかけがあると
目が覚めてご破算になりことも起きます。
これは日本人のバランス感覚と言われているものです。

いずれにしても、
日本人の政治そのものに対する関心度は
あまり高いとは言えないのでしょう。

ところで、そもそも、これらの議論の基になっている
数字は何かということです。

それは、世界価値観調査というもので、以下の内容です。
世界各国の研究機関が同一の調査票で
5年に1度実施する。
18歳以上の男女合計1000人程度が対象。

1000人程度ですから、
サンプリングの方法が非常に重要です。
特に思考法は年代によって大きく変わります。

私の言う「前例・みんな主義」は
若い世代にはほとんど保有されていないでしょう。
「前例・みんな主義」は戦前の文化に染まっている
高齢者の思考法なのです。

分析は、世代構成を考慮しないと
確実なことは言えません。
そうしないと
数字の独り歩き的な分析になってしまいます。

鈴木氏の分析も私の分析も、どちらが当っているか
何とも言えない、ということになります。
皆様の実感で合致するものを受け止めていただけば
よろしいのではないかと思います。

2012年3月22日木曜日

花だより

【このテーマの目的・ねらい】
 目的:花の写真をみていただく。
 ねらい:気分転換。春を感じていただく。

難しいテーマが続いていますので、
少し気分転換しましょう。

今年の冬は寒い日が続いたせいか、
梅や早咲き桜である河津桜の満開が遅れました。

我が家の河津ざくらも
例年ですと2月初めから咲きだして
2月末には満開になりその満開が1月近く続きます。
十分楽しめるのです。

ところが、今年はようやく3月になって満開近くになり
今頃まだ満開状態ですが
中途半端でボリューム感がありません。

伊豆の河津への観桜ツアーやお祭りは
まるで駄目で
業者さんは売り上げ減で散々のようです。

我が家の3月11日時点のサクラの状況です。













我が家の3月20日時点のサクラの状況です。

















私の土曜日のジョギングコース品川中央公園
3月25日の寒緋桜です。美しいですね。























日曜日のジョギングコース蘇峰公園の3月25日の梅です。
この時点で満開は異常です。












紅いのは武蔵野、白いのは白加賀という種類だそうです。


















我が家の前のお宅の3月25日の桜(種類不明)
鳥居はわが一族が維持している伏見稲荷です。



















ソメイヨシノは1週間くらい遅れるようですね。

状況対応型問題解決の方法

【このテーマの目的・ねらい】
 目的:緊急案件への対応原則を論じる。
 ねらい:その対応原則を理解し、
     今後の対応をしていただく。


ここで論じるのは、
予想していない緊急の問題が発生した時に、
どのように対応したらよいか、というテーマです。
緊急対応の例として
福島原発事故の際の対応が不適切だったと、
言われています。

「想定外」であったためにマニュアルが不備であった
とも言われていますが、
「こういう場合にはこうする」というのを
完全にマニュアル化しておくことは困難です。

ではどうすればよいのでしょうか。
コンピュータ処理の障害(事故)の場合を題材にして
検討してみました。


ある研究会で、
「夜中の2時に起きた問題を朝までに解決して、
次の日に起きないようにすることができるような
教育・訓練はどうしたらよいのか」
という検討テーマが提起されました。

それに対する結論はこうでした。
あらゆる問題を想定して
その対応法をマニュアル化することは困難である。
また、マニュアル化されていないことを
応用力で問題解決ができる能力を教育・訓練することは
かなり困難である。
仮にできたとして、そのような優秀な人材を、
常時コンピュータ処理(「運用」)の現場に張り付けておく
ことは現実的ではない。
ではどうすればよいのか、の解答が以下です。


        
  • 担当者は、発生した問題に対して的確な対応を行うこと
  (善後策の実施をすること)が基本使命である。

  • 「的確な対応」には、「2次災害を起こさないこと」
  類似災害を起こさないこと」を含む。

  • 基本的には、問題解決のために使用するのは、
   検討メンバが持っている経験・知識・判断力・想定力である。
   問題解決手法はあまり役に立たない。
      
  • こういう問題の問題解決方法は、
     問題発生した時の対応手順を明確にして、
     問題発生の際にあわてずにその手順に従って検討を行うこと、
     である。

  • このことの必要性があからさまになったのは、
     福島原発事故である。
      
  • 事故等の発生時に備え、
     日ごろからその行動パターンを訓練等で叩き込んでおく
     ことが必要である。

  • そのため、別図のような指示書を現場に常備しておくとよい。

  • 基本的な留意点は、
     担当が問題を抱え込まずに早い段階で
     直接の上長に連絡をすることである。

     障害が発生した現場では舞上がり状態になっているので、
     難しい判断をさせずにまずは上長に連絡することとする。
    
     そういうルールにした後で、
   上長への連絡があまりにも多いという状況であれば、
     内容分析をして現場で連絡可否の判断が的確につけられる範囲で、
     連絡対象を絞るようにしていく。
      
  • 別図の場合、サービスが停止か結果不良か、
     結果不良の場合は不良の成果物が利用者に届いてしまっているか、
     だけを判断させている。
     この程度は、いくら舞上がり状態でも判断できるはずである。
    
   サービス停止の場合に、
     停止の範囲を把握してから上長への連絡をするようになっているが、
     これも直ちに分からないようであれば、先ずは一報せよ、
     ということにしている。
      
  • 連絡を受けた上長が状況判断して、
     さらに上の上長への連絡を含め適切な対応を行うのである。

  • 現在の複雑なIT環境の下では、
     一人が広範な領域の問題に精通することは困難である。
     問題が発生した時には、衆知を集めて検討するしかないのである。



2012年3月19日月曜日

問題解決ってどんな種類があるのですか?

【本テーマの目的・ねらい】
 目的:広い意味の問題解決の種類を整理する。
 ねらい:問題解決の検討をする際に、
      「これはどのタイプか」と考えることによって
      的確な検討の進め方ができる。

私の所属するシステム企画研修株式会社は、
広い意味の問題解決手法を提供しています。

私どもでは、問題解決と目的達成を分けています。

「問題解決」は、発生している、あるいは意識されている
問題を解決するもので、まさに問題解決です。

これに対して、今問題が発生しているわけではないけれども、
問題が発生しないように、あるいはより良くするために、
手を打っておこう、というタイプの対応法があります。

これを私どもでは、「目的達成」と称しています。

先ほど、広い意味の問題解決と申しあげたのは、
通常の「問題解決」と「目的達成」を含めたものを意味します。

「問題解決」も「目的達成」も
特定案件に対応するもの(これを何とかしたい)と
類似複数案件に対応するもの(こういうことが起きないようにする、
または、こういうことができるようにする)とがあります。

特定案件に対応する例は以下のとおりです。

特定案件対応の問題解決の例:
ーー障害が発生してしまった。どうしよう。
特定案件対応の目的達成の例:
ーーこの見積りをすぐに出してほいい。

さらに、類似複数案件に対応する問題解決は、
好ましくない現象を発生させる原因を一つずつつぶしていく
予防的問題解決と
好ましくない現象を発生させる根本原因をつぶす
根本対策型問題解決とに分かれます。

前者の例:
ーー廊下が滑ってけがをしないように毎日拭く。
後者の例:
ーー滑らない材質に変える。

また、類似複数案件に対応する目的達成は、
改善型目的達成と改革型目的達成に分かれます。

前者の例:
ーー現在の見積り方法の中で、
ーーー少しでも早くできるように改善する。
後者の例:
ーーまったく別の見積り手法を開発して早くする。

以上を整理すると、以下のようになります。






       



個別案件対応の場合は、
対応原則を決めておくことはできますが、
「こうすればよい」
というすべての答えを用意しておくことは至難です。

福島原発事故の場合もこれに該当します。
瞬間の判断力や応用力が要請されます。

そういう際の判断や応用力を強化できるような
訓練を行っておけば、
いざという時に役立ちます。
そういう訓練をしていないと、
いざという時に舞い上がってしまうのです。

これに対して、
複数案件対応型の問題解決や目的達成に対しては、
いわゆる問題解決手法や、当社の目的達成手法があります。

これらを利用すると、
複数人が共通の土俵の上で、
衆知を集める検討が可能となります。

この場合でも、出てくる対策の有効性は、
検討しているメンバの総力に依存します。

この6区分を理解する「目的・ねらい」は?

この6タイプを頭に入れておくと、
問題が発生した時に、
「これはこのタイプだ、こういう対応が基本だ」
という判断ができ、
適切な問題解決または目的達成の一歩を踏み出す
ことができます。

2012年3月17日土曜日

ソフトウエア保守の10年後??

【このテーマの目的・ねらい】
目的:ソフトウェア保守の将来を想定する。
ねらい:ソフトウェア保守業務の方向付けを誤らない。
ソフトウェア保守のあり方を検討する際に
広さと幅を持たせることができる。


ソフトウェア保守業務のあり方は
この10年はおろか20年間ほとんど変わっておりません。
人力依存、人頼みなのです。

最近、少しだけ風向きが変わってきました。
それは、以下の理由によります。

1)多くの企業では開発がほとんど行われない。
2)保守の困難性(時間・費用がかかる、障害を起こす)が
経営の足を引っ張る。
3)経営・事業の要求にシステムが付いていけない。

そこで、
これからの10年では保守業務がどう変わるのかを
予測してみます。

1.保守業務の対象案件

現在の保守業務の対象案件は、以下のような構成です。
(JUAS「ソフトウェアメトリクス調査2011」)

 システムバグへの対応      17%
 OS変更への対応         4%
 ハード・ミドルソフト変更への対応 3%
 制度・ルール変化への対応    14%
 データ量変化への対応      10%
 業務方法変化への対応      16%
 担当者要望への対応       23%
 ユーザビリティ変化対応      8%
 経営目標変化           3%
 その他              2%
 
 
 
ほとんどすべてが、後ろ向きか守りの案件です。

システム再構築を含む新規開発が
ほとんど行われなくなっていますから、
「ビジネスを強化するのは保守しかない」
にも拘わらず、です。

この状態になっているのは、
「システム開発」がビジネスを強化するものであり、
「システム保守」は、その言葉にも表れているように
守りの役割を果たせばよい、という時代の名残りです。

これではいけない、という機運は
盛り上がりつつあります。

そこで、私の希望的予測では、
現在の守り型の保守は半分の力でできるようになり、
残り半分の力は積極的にビジネスを支援する攻めの
システム強化に振り向けられるようになります。

2.保守の主体

当然、保守の主体・責任は、
システムを使う企業のシステム担当です。

ところが、多くの企業(特に大企業)では、
保守の実作業を外部企業に依存しています。

長くその体制を続けているうちに、
システムを使う企業側では、
保守業務の実態が分からなくなっています。

そのため、前掲の「時間・費用がかかる、障害を起こす」
に対して有効な手が打てず、
経営およびシステム利用者から不信を抱かれる
状態となっているのです。

その状態は今や限界です。
システムの経営における重要性が高い企業から
順次、外部依存をやめて行くことになるでしょう。

外部企業は、
システムを使う企業に要員を派遣して、
その企業が主体性を持って実施するシステム運営業務
のお手伝いをすることになります。

2.の変化も含めて考えると、
外部企業の要員の役割の重要性は
社内要員と同じになるはずです。

3.保守の担当

現在は、すべて内作(外部依存なし)の場合でも、
保守業務をその作業プロセスで分けて
分担している場合が一般です。

要件定義→詳細仕様決定→プログラム修正・作成→
テスト、などと分担するのです。

前掲の外部依存の場合は
当然プロセスでの分担となっています。
(組織分業区分でいえば、「横割り」です)

横割りだと、
一つの保守案件をこなすために、
他の担当との受け渡しが必要となります。

そのため、以下のマイナス面が発生しています。

1)作業を引き渡すための「ドキュメント」を作成する必要がある。
→工数・コスト増加となる。

2)引き渡しの際に齟齬が発生する。
→障害発生原因となる。

3)前工程の不備が、後工程の作業を阻害していても
自動的にはフィードバックされずに
生産性低下要因を温存したままとなる。

横割り方式は、システム開発時には
プログラミング部分がそれなりの量を構成しているために
正当化された方式です。

その方式を、保守でも踏襲したのが誤りだったのです。
保守では、ご承知のように
プログラミング部分はごくわずかですから、
分業するメリットはありません。

横割りをやめて縦割りにすると、
以下のような利点も実現できます。

保守の担当は、システム利用者との接点から始めて
保守業務固有のの検討、プログラミング、テストまでを
一貫して体験できます。

業務が分かるようになって、システム。ソフトウェア、
インフラまですべてを把握できるようになるのです。

これからは、業務が分からなければ、
経営に貢献できません。
実務の分からないシステム担当という汚名も挽回できます。

そうして、いくつかの業務を経験すれば、
経営全体に通暁するようになり、
ビジネス部門に転出すれば、
経営トップになれる可能性が大きくなります。

4.仕事のやり方

現在は、以下の理由で、仕事の実施方法は
個人依存で「属人化」状態と言われています。

1)明確な手順化がされていない。

2)対象システムの状態を説明する「ドキュメント」が
頼りにならない。

3)システムの作りが悪くて、変更を行う際の影響範囲が広く、
経験豊富な担当でないと検討範囲を押さえられない。
(これまでのシステムの作りは開発時に有利になっていて、
保守には向いていないようになっている)

4)作業を改善するためのツールがほとんど利用されていない。
ある調査では、各種ツールの利用率は10%以下です。

このやり方は、多くの問題を発生させますので、
この1)~4)は改善されて行きます。
その前提で、担当のローテーションも可能となるのです。

5.対象システムの作り

10年後にどこまで進んでいるかは未知数ですが、
現在の開発中心型システム構造は棄却されて
保守向きのシステム構造になります。

データベースは必要な範囲で分割し、
プロセスも分割してコンポーネント化し、
連携は疎結合方式(ファイル連携方式)とする。

こうしながらシステムとして整合性を保つために
MDMやSOAの技術を用いる。

ビジネスの要求によって、必要であれば
どんどんコンポーネントあるいは「サービス」単位で
入れ替えて行くことが可能となります。

このことによって、
システムが経営の期待に機敏に対応していく
ことが実現するのです。

6.情報システムを作る技術

現在の多くの情報システムは
パッケージを利用して作るか
プログラマが手作りする「手組み」
(スクラッチ開発)です。

パッケージを利用する場合も、
追加部分は多くは手組みです。
手組みは極めて、開発・保守の生産性が低く、
誤りも起きやすい方法です。

手組みが行われたのは、
プログラムの自動生成方式だと
コンピュータ処理のスピードが遅いために、
実用にならない場合が多かったからです。

ところが、
コンピュータの処理能力は飛躍的に高まりました。
そして、
プログラムの自動生成方式も大きく進歩しています。
手組みの必要性は薄れてきています。

2012年3月15日号の日経コンピュータ誌の特集
「超高速開発が日本を救う」で
以下のようなツールの利用実績が紹介されていました。

 innoRules (韓国製)
 GeneXus (ウルグアイ製)
 Sapiens (イスラエル製)
 ProgressCorticon (米国製)
 Web Perfomer (日本製)
 PEXA (日本製)

これらのソフトウェアは機能の幅がありますが、
基本的には、プログラミングレスです。

この特集の中では、オリックス銀行の執行役員の方の
次のような発言が紹介されていました。

「自動生成なんてできるわけがないと思っていたが、
誤りだった。念願のノンプログラミングが
ついに実現できた」

今後のシステム再構築では、
順次このようなツールが利用されるようになり、
保守の際にも、
ソースプログラムをさわる必要は
なくなっていくでしょう。


これ以外にも、変化は起きると思われます。
この続きは、いずれまた掲載させていただきます。

0311 1周年

【このテーマの目的・ねらい】
 目的:大震災から1年経ち日本社会では
     何を学ぶべきだとなっているかを知る。
     突発事故への対応法を考える。
 ねらい:今後に活かす。
 

  3月11日、どんな報道がされるかと期待して
 新聞を見ましたが、
 これといったものが見当たりませんでした。

 重大すぎて手に負えないという感じなのでしょう。
 
【大新聞での取りあげ方】
 
 朝日新聞の1面の見出し
 
 東日本大震災きょう1年
   死者 1万5854人
   行方不明者 3155人
   避難者 34万3935人
   
 (仮設住宅に住む1033人の面接調査結果)
 家族離ればなれ 3割
 仕事失ったまま 4割

 朝日新聞の2面の見出し

 マイナスからのスタート。今やっとゼロ
   海の町 再生への船出 気仙沼、田老、大槌


 日経新聞の1面の見出し

 再生へ 底力今こそ
    東日本大震災1年
    復興の歩みなお遅く
   
 東日本大震災の被害状況
    朝日新聞と同じもののほかに 
    関連死(日経まとめ)1407人
    負傷 2万6992人
    建物全半壊 38万3246戸
 
関連死とは聞きなれない言葉ですが、
   避難生活で体調を崩すなどして死亡した人のことで、
   日経新聞が各自治体に聞き取り調査したそうです。
 
 この数を含めるとこの震災で亡くなった方は
  2万人を超えるということになるようです。


 日経新聞の社会面の見出し

 共に歩んだ1年 涙ぬぐい明日へ
  (身内を失った家族の紹介記事)

 「めそめそするより」仮設住宅、孫娘と支え合う
  「息子の背 伸びたはず」
   あの日、母は叫んだ「生きろ」
   娘を介助「仕事戻れたら」

 「なぜ」検証求め 再発防止願う
     大川小で犠牲 娘の最期は
   (大川小学校では84人が犠牲になった)
 
 大変なことが起きた、
 多くの人の人生を変えてしまった、
 復興はまだまだ遅い、

 大筋はこういうことのようです。

【有事対応能力の強化が必要】

 今後のために反省すべきことを示唆しているのは、
  日経新聞の大川小学校の記事だけです。
 日経新聞の社会部は、大震災関係では
 かなり精力的な取材・分析をしています。
 
 その日経新聞の大川小学校の記事では
「市教育委員会は最近になって
  避難マニュアルの不備を認めた」
  とありました。

 
 避難誘導の先生の判断ミスがなければ、
  すぐに裏山に登って1人も死なないで済んだはずです。
 
  遺族の無念が分かります。
 許せませんね。
 ドジな先生のために子供がいなくなってしまうなんて。

 おそらくマニュアルが悪かったのではないでしょう!!
 
 3月11日のフジテレビでは、
 細野豪志大臣がこう言っていました。
 
 「どんなにマニュアルを整備しても
   マニュアルだけで事故対応するのは無理です」

 
 そのとおりです。
   マニュアル社会といわれるアメリカだって、
   応用動作はマニュアルに頼るわけではありません。
  
  各種の「有事対応」に対して、
   どう対応するかの訓練がされているのです。

 
 日本では、ろくなマニュアルもなく、
  有事に対する備え(どう対応するかも含め)
 もしていないものですから、
  「想定外」で万歳になってしまいます。

 
 原発事故の対策本部で議事録をとっていなかった
  ことが最近になって露呈いたしました。
  対策本部のようなところであれば、
  直ちに「誰が議事録をとるか」
  を決めなければなりません。
 
 そんな基本もできていなかったのか、と
   あらためて、
   日本の緊急対応能力のなさにあきれてしまいます。
   これだって当時の菅総理の責任です。


【抜け漏れを防ぐ対策】

 30年前からある、当社で作成している
   プロジェクト管理マニュアルでは、
  「プロジェクトがスタートしたら直ちに
   役割とその役割の人の責任範囲を決める」
  となっています。
 
 それを一々決めるのは厄介なので、
   デフォルトの表があって、それに従えば、
   プロジェクトで必要な仕事はすべて誰かに
   割り振られます。
 
 いったんそれで初めて、
   具合が悪ければ変更していけばよいのです。
   こうしていれば、担当の空白は起きません。
 
 誰かが「P/Cスタフ」になると、
  「議事録作成はその人の仕事」となるのです。
 
 こういうようになっていれば、
   議事録作成をしていなかったなどという
  「夢のような話」は起きようがありません。


【有事対応の訓練強化が必要】
  そんな低レベルの話ではなく、
  日本ではもっともっと、緊急時にはどうするか、
  という思考訓練をするべきです。
 
 最近は,BCP(ビジネス継続計画)のアプローチが
  普及してきましたので
  大企業では多少改善されてきていますが、
  「平和ボケ」した日本にその思考が浸透するには
  まだまだ時間がかかるでしょう。

 
 私が、ある研究会でまとめた
   障害(事故)対応のガイドを別項
  【状況対応型問題解決の方法】でご紹介しています。

  その要約は以下のとおりです。
 
「こういう障害が起きた時はどうする、こうする」
  という細かいことを決めるのではなく
  (それはそれで必要ですが)
  「先ず真っ先に上司に連絡せよ」
  としています。


 上司の方がより広い観点から判断ができるはずです。

 大震災、特に原発事故では、
  現場からの、下からの、報告が上に上がらずに
  後手を踏んだということが多々あり
  問題となっています。
 
 いろいろな事件でも、
   情報の囲え込みが問題になっています。
   隠した結果は、かえって悪いことになっているのですが。

 私はその原因をこう見ます。

 日本人の村意識

 具合の悪いこと、「世間体」の悪いことは隠そう
   という意識が根底にある。


  あいまいな責任体制

 仕事の権限責任はあいまいな部分が多い。
 そうすると、
   自分の周りで起きたことは自分の責任と考え
   何とかしようとしてしまう。


 この考え方をやめて、
  「先ず一報」を徹底しようではありませんか。