2017年4月26日水曜日

「仕掛学」?そんな学があるのですか!

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 仕掛学とは何かを知っていただきます。
 そう言われてみればそうだな、
 という事例を思い出していただきます。

ねらい:
 そういう目で世の中の仕組みを見てみましょう。
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仕掛学

普通にこの字を読むと、しかかり学となるでしょうね。

しかし著者はしかけ学と読ませたいのです。
それなら、仕掛け学と書いた方がいいように思います。


 
著者の松村真宏大阪大学大学院経済学研究科准教授は
仕掛けとはどういうものかを研究しておられます。

いろいろな先生がおられるのですね。

仕掛けとは

本書でいう仕掛けとはこういうものであると定義されています。

本書では、
問題解決につながる行動をいざなうきっかけになるもののうち、
以下の3つの要件からなる「FAD要件」を全て満たすものを
「仕掛け」と定義する。

1)公平性:誰も不利益を被らない
2)誘引性:行動が誘われる
3)目的の二重性:仕掛ける側と仕掛けられる側の目的が異なる


本書では、FAD要件を満たすものを「仕掛け」と呼ぶ。

一般的な意味で用いられる「仕掛け」よりも
かなり限定されていることに注意されたい。


以下でそれぞれについてもう少し説明する。

「公平性」(F要件)は仕掛けによって誰も不利益を被らないことであり、
人を欺くものは「仕掛け」の定義から外れる。


上述した「悪い仕掛け」は公平性を欠くので、仕掛けとは呼ばない。

「誘引性」(A要件)は行動を「誘う」仕掛けの性質のことであり、
行動変容を「強要」するものは仕掛けの定義から外れる。


この要件を満たす前提として、仕掛けが行動の選択肢を増やしていること、
および私たちが自分の意志で自由に行動を選べることが必要である。


その上で仕掛けによる行動の選択肢を選んでもらえれば誘引性が
あったと判断できる。


誰からも見向きもされない仕掛けは誘引性が足りないのである。

「目的の二重性」(D要作)は、仕掛ける側の目的(解決したい問題)と
仕掛けられる側の目的(行動したくなる理由)が異なることであり、
この二重性のないものは「仕掛け」の定義から外れる。


多くの場合、仕掛けが対象としている本当の問題は明示されていないので、
問題を意識することなく興味の赴くままについ行動してしまう。


中には仕掛けと本当の問題の関係に気づく人もいるが、
良い仕掛けであれば仕掛けの価値を高めることはあっても
人を遠ざけるものにはならない。


「仕掛け4」の駐輪場の線や「仕掛け8、9」のトイレの的のように、
利己的な目的と利他的な目的をつなげることも可能である。


これらの仕掛けのFAD要件は仕掛けられる側に明示的に意識して
もらうものではないので、気づかないことも多い。


しかし、いったん仕掛けの考え方が身につくと
身近な仕掛けに気づくようになる。


著者が気に入っている身近な仕掛けは
「仕掛け11」のホームベーカリーである。


夜寝る前に強力粉250g、バター10g、砂糖17g、スキムミルク6g、塩5g、
水180m、ドライイースト2.8gを入れて予約タイマーをセットすれば、
朝の指定した時間にパンが焼きあがる。


そのときにとてもいい匂いがするので心地よく目覚められる。
しかもパンは焼きあがるとすぐに取り出さないと縮んでしまうので、
眠くてもがんばって起きなければと奮い立たせてくれる。


誘引性は抜群である。

がんばって起きた結果、焼きたてのパンが食べられて嬉しいだけでなく
目覚まし時計としても機能するので目的の二重性も満たされている。


ホームベーカリーを使っても誰も損をしないので公平性もある。

このようにホームベーカリーはFAD要件を満たしているので、
仕掛けといえる。


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著者が気に入った事例を写真入りで多数紹介されています。
 
写真は著作権が面倒ですので掲載しませんが、
以下のような事例です。

1)駐輪場の斜めに引かれた線(はみ出しにくい)
2)男子用公衆トイレの便器に書かれた的の絵(そこを狙う)
3)バスケットゴールの付いたごみ箱

4)ごみを入れるとしばらくして衝撃音のするごみ入れ
5)小さな鳥居または鳥居の絵(そこにおしっこをかけない)
6)消費カロリー表示の付いた階段

7)お立ち台が前に付いた大型ディスプレイ
8)コインスライダーの付いた募金箱
9)丸くなく三角に巻いてあるトイレットペーパ
  (スルスルといかずにガタンガタンとなるので消費量が減る。
   なるほど!!)

仕掛けの原理
 
仕掛けはこういう原理を使って成り立っているという解説です。
事例付きで解説されていてたいへん分かりやすくなっています。

▼クリックすると拡大します▼
 


 仕掛けの発想法
 
以下の解説がありますが、極め手はないようです。

1)仕掛けの事例を転用する
2)行動の類似性を利用する
3)仕掛けの原理を利用する

関心のある方は是非本書をお読みください。

結び
 
たいへんいいことが書いてありました。
同感です。
 
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人が努力しなくても技術で解決できるなら、
それほど楽なことはない。


しかし、各人がちょっと気をつければ解決する問題の
解法としては大げさすぎて、実現可能性は低い。
 
技術だけに頼るのではなく「つい分別したくなる」
ように誘う仕組みこそ実現可能なアプローチになる。
 
百歩譲って自由に動きまわって問題を解決するロボットが
開発されたとしても、総合的に見ると今のところ人間のほうが
圧倒的に優れている。
 
目は環境や物体を正確に認識し、足はどこにでも自由に
移動することを可能にし、手は複雑な操作をこなす。
 
人間なら極めて簡単にこなせることでロボツトには難しい
ことがほとんどである。
 
人間はこれまでの人生で培った知識と経験も持っているので、
身体能力だけでなく総合的に物事を判断できる能力も優れている。
 
とどのつまり、機械に頼っても大したことはできないし、
壊れるし、何より膨大な金銭的コストがかかる。
 
人が立ち入れない危険な場所での作業や工場のような
単純作業、介護現場のような肉体的負担の大きい現場を除けば、
今のところはメリットよりデメリットのほうがはるかに大きい。
 
実現可能性を考えると、機械に頼るところは必要最小限に留めて
行動を誘うことに注力するのは一つのアプローチであろう。
 
仕掛けを作る際には、ハンマーにとらわれて(注)本質を見失って
いないかを常に心に留めておくべきである。



注:「マズローのハンマーの法則」
 ハンマーを持てばすべてが釘に見える、のことを指しています。
 
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私は以前から仕組みと仕掛けを対比させていました。
業務の改善をする時には「仕組みではなく仕掛けにしろ」
と言ってきたのです。
 
仕組みは「こうしよう」と設計して作るものです。

しかしながら、人はそのとおりにしないことがある、
またはしないことが多いのです。
 

それに対して、仕掛けにすると、
そうしないようにはできないのです。

業務系の情報システムは、仕掛けです。
しごとの方法が徹底できます。

それでは、この業務系システムは
著者の仕掛け要件を満たしているかどうか
チェックしてみます。

1)公平性(誰も不利益を被らない) 
  この条件は満たしているでしょう。
  会社にとって
  そのシステムが不利益になることはないでしょうし、
  本人にとっても、
  そのシステムが気に入るかどうかはあっても
  不利益にはならないはずです。
 
  この項目は○でしょう。


3)目的の二重性
  (仕掛ける側と仕掛けられる側の目的が異なる)
  仕掛ける側=会社側の目的は業務の効率化・品質向上です。
  
  仕掛けられる側=業務実施者、
  通常は会社側の目的が業務実施者の目的にも合致するでしょう。
  異なる目的があるとすると「考えなくてよいので楽」
  ということでしょうか。

  この項目は△でしょう。
  
2)誘引性(行動が誘われる)
   
    業務系の情報システムは誘われて従うものではなく、
  「それしかない」強制です。
  業務系の情報システムは「それしかない」ようにすることが
  目的ですから誘引ではありません。


   この項目は☓です。


そうすると、我々が仕掛けといってきたものは
著者の基準からすると仕掛けに合致しないということになります。


ここで、情報システム改善のヒントが得られました。
利用する人が楽しいようにシステムを作れば、
システム利用上のミスも減らすことができるのかもしれません。  

「まだ科学で解けない13の謎」

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 その謎って何だろう?を知っていただきます。
 そういう謎に多くの科学者が取り組んでいるのだということを
  再認識していただきます。

ねらい:
 関心のある方は本書をお読みください。 

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この本は2010年に、
マイケル・ブルックスというアメリカの科学ジャーナリストが
書いたものです。
私はこの書名に惹かれてこの本を開けてみました。



「よくこんな壮大なテーマで本を書く気になるなー」
と著者の見識に脱帽です。

13項目は、同書の目次によれば以下のとおりです。

 1.暗黒物質・
   暗黒エネルギー
 宇宙船の大問題。
 でもそんなものは存在しない?
 2.パイオニア変則事象 物理法則に背く
 軌道を飛ぶ2機の宇宙探査機
 3.物理定数の不定 電磁力や強い力、
 弱い力の強さは昔は

 違っていた?
 4.常温核融合 魔女狩りのように糾弾されたが、
 それでよかったのか
 5.生命とは何か? 誰も答えられない問い。
 合成生物はその答えになる?
 6.火星の生命探査実験 生命の反応を捕えた
 バイキングの
 結果はなぜ否定された?
 7.”ワオー“信号 ETからのメッセージとしか
 思えない信号が一度だけ―――
 8.巨大ウイルス わたしたちはウイルスの子孫?
 物議をかもす異形のウイルス
 9.死 生物が死ななければならない
 理由が科学で説明できない
 10.セックス 有性生殖をする理由が
 科学ではわからない
 11.自由意志 「そんなものは存在しない」という
 証拠が積み重なっている
 12.プラシーボ効果 ニセ薬でも効くなら、
 本物の薬はどう評価すべきか?
 13.ホメオパシー
    (同種療法)
 明らかに不合理なのに
 なぜ世界中で

 普及しているのか?


現在、出版から7年経っていますが、この中の火星の生命探査が
いくらか進展しているのでしょうか。

13を選んだのは著者の見識によるもので、
他の人が選べば別の項目が上がる可能性はあります。

ですが、この13項目が謎であることには間違いないのでしょう。

皆さまはどれに関心を持たれますか?

私は、この中から自分に理解できそうな4項目ほどを
読んでみました。

各章とも冒頭に問題提起部分があります。
何が問題なのかを解説しているのです。
以下の4章についてその部分をそのまま掲載させていただきます。


そのテーマについて世界中の学者さんたちが、
実験結果等を踏まえて甲論乙駁しています。
甲論乙駁の一例をもご紹介します。


その甲論乙駁は決着していないのです。
決着していないので「謎」となっているわけですが、
何となく気持ちが落ち着きません。

でも仕方ないのでしょう。

第5章 生命とは何か

【問題提起】

生命を変則事象としてとらえるのは、いくつかの意味で難しい。
だが、それはたぶん身近であるがゆえに軽視しているからだろう。

ここでいったん、生命をあたりまえのものと考えるのをやめて、
生物の世界と無生物の世界とを分けるものは何かについて、
しばし考えてみよう。


科学的観察の対象として、実例には事欠かない。
わたしたちが”生きている”と呼ぶ特質を備えたものは、山ほど存在する。

一方、誰も”生きている”とは呼ばないものも、身の回りに山ほど見かける。

ところが、地球上の科学者の誰ひとりとして、
両者の状態のどこに根源的な違いがあるのかを語れない。

また誰ひとりとして、”生きていない”状態のものを、
”生きている”と万人が納得するようなものに変えることもできない。

それどころか、いまだに科学者たちは、無生物から生物への転換を
もたらすものは何かについて、意見をまとめようともがいている始末だ。


【議論の一例】

合成生物学はゴールに近づいているのか?

生命の創造をめざして最初の意義深い実験を行なったのは、
シカゴ大学の化学者、スタンリー・ミラーとハロルド・C ・ユーリーだ。

1953年、ふたりは、アンモニア、メタン、水素の混合気体と水を入れた
フラスコを密封して、原始地球の大気成分を再現し、
その中に電気の火花を飛ばした。

原始地球の雷雨が無機化合物を刺激して最初の生命を創り出した
のではないか、という仮説にもとづく実験だった。

この実験は、並々ならぬ成果をもたらした。

一週間にわたって放電を続けたところ、メタンを作っている炭素の
約2パーセントからアミノ酸が、すなわち蛋白質の基本成分となる
有機化合物が合成されたのだ。じつに驚くべき新発見だった。

問題は、この実験に不備があったことだ。

したがって、ミラー・ユーリーの実験は、
真の意味で成功を収めたわけではなかった。

それでも、この試みは生命創造の可能性を示した。

そして1961年、
スペイン・カタルーニャ州出身の生化学者ヨアン・オローが、
ミラーらの実験をさらに進展させた。


オローは、水、水素、シアン化物、アンモニアを用いて、
大量のアデニンを生成させた。

アデニンはDNAを作る四つの塩基のひとつであるだけでなく、
アデノシン三燐酸(ATP)のおもな構成要素でもある。

このATPという化合物は、動植物の活動に必要なエネルギー源になる。

人間はATPを消費しなければ、走ることも、成長することも、
呼吸することさえもできない。

ノーベル生理学・医学賞を受賞したベルギーの生化学者
クリスティアン・ド・デューヴは、かつてこう言っている。

「生命とは、一定の条件が整えば再現しうる、
ほとんど日常茶飯事とも言える物質現象であるか、
そうでなければ奇跡である。


生命の誕生はあまりにも多くの過程を伴っているので、
物質現象と奇跡とのはざまに、
生命が生まれた原因を見出すことはできない」。


もしアミノ酸やアデニンをつくるのが
ほんとうにそれほど単純なことなら、
生命を創始するのもたやすいのではないか。


本気でそういう展望を持つだけのもっともな理由がある。

それは、生命が地球上に誕生した際の驚異的な速さだ。


 
第9章 死

【問題提起】

1965年の夏、
ジョージア大学の若い研究者がミシガン湿地でカメを捕まえた。
それは成長しきった雄のブランディングガメで、
少なくとも25歳にはなっていた。

その特徴を書き留めると、研究者はカメを元の場所に返した。

それから33年後の1998年、J・ホイットフィールド・ギボンズが
ふたたびそのカメを捕まえた。カメは健康そのものだった。

ブランディングガメは生物学上の謎だ。

知られている中で最も長寿の個体は、
1980年代に77歳だったと記録されている
――そのカメは雌で、なおも卵を産んでいた。


トラックに轢かれて背骨を折らなければ、十中八九、
今でも生殖を続けていただろう。


ブランディングガメは老いることも弱ることもない。
一生のあいだ、病気への抵抗力がまったく低下しないのだ。

変化があるとすれば、年を取るにつれて精力的になることぐらいだろう。
平均的に見て、雌の産む卵の数は年々増えていくのだから。



”老化”すること、
すなわち時間の経過とともに衰えて最終的に死に至ることは、
動物界全体に共通する定めだ。


この標準的な理論によると、ありとあらゆるものが年老いて、
力尽き、死んでいく。


これはまっとうな理論だが、事実と照らし合わせると、つじつまが合わない
――どう合わないのかというと、これがとても興味深い。

カメは脊椎動物であり、
したがって、わたしたち人間とよく似た進化を遂げてきた。


わたしたちの分子機構が時間とともに壊れていくなら、
カメにも同じことが起こるはずだ。
ところが、実際は違う。


南カリフォルニア大学の老年学教授ケイレブ・フィンチによると、
プランディングガメの存在は間違いなく、人間の老化は
避けられないという概念に対する”痛烈な挑戦”だという。


ブランデイングガメだけではない。

脊椎動物では、
魚類や両生類や爬虫類の中に、老化しない種がいくつもある。


なぜこれらの種が老化しないのか
――また、なぜわたしたち人間が老化するのか――
を解明すれば、即座に明白な利益がもたらされるだろう。


しかし、事態は想像をはるかに超えて錯綜している。

じつのところ、理にかなっていないのはブランデイングガメではない。
死それ自体が次なる変則事象なのだ。


【議論の一例】

とはいえ、ケニヨンによる初の大発見は、
”カロリー制限”にまつわるものではない。

ケニヨンは線虫の寿命を延ばす遺伝子をまたひとつ見つけたのだ
――しかも、その寿命延長率は100パーセント。


1993年12月2日発行の《ネイチヤー》誌によると、
通常の寿命が2、3週間のシノラブディス・エレガンス(Cエレガンス)
という虫が、最長で6週間生き延びたという。


本来の寿命の2倍長生きした線虫が情勢を変えてしまったようで、
加齢の遺伝子スイッチが存在する可能性
――そして、そのスイッチを切ることができるかどうか――
について議論が始まった。


ケニヨンの大発見以降、
研究者らは寿命の違いが生じる原因をいくつか特定した。

線虫の遺伝子を少しいじるだけで、
分子シグナルの増幅反応がうまくいかなくなる。


この分子シグナルは、
インシュリン・ホルモンが人体に引き起こすシグナルに似ている。


人間で実験するのはむずかしいが、このシグナルの反応が、
ショウジョウバエで起こるシグナルのホルモン駆動型増幅反応に似ている
ことが発見されたとき、すべてが始まった。


ショウジョウバエは生活環(ライフサイクル)が短いので、
かねてから世界じゅうの遺伝子研究で便利な実験体として用いられてきた。

おかげで加齢の研究も進み、今日では遺伝子スイッチによって
ショウジョウバエの寿命を廷ばせるようになった。


これと同じ策をもっと大きな動物にも応用できる。

一連の遺伝子スイッチを入れるだけで、
長命な哺乳動物を作り出せるのだ――例えば、メトセラマウスなどを
〔メトセラは旧約聖書に登場する長寿の族長。高齢長寿の代名詞〕。


興味深いことに、細胞の死減を止める方法はわかっている。

癌細胞には”テロメラーゼ”という酵素が含まれている。


これは分裂のたびにテロメアを完全に元どおりの長さに復元する酵素だ。

このテロメラーゼのせいで複製が止まらなくなり、腫瘍が急成長する。


細胞がテロメラーゼを生成できれば、
テロメアが短くなるのを避けられるということになる。
そして、生成は可能だ。


1998年初め、カリフォルニア州メンローパークにあるジェロン社の
アンドレア・ボドナル率いる研究者集団が、
テロメラーゼを活性化する遺伝子を
通常のヒト細胞に埋め込んだことを発表した。


その細胞は、なんの処理もしていない細胞の2倍長生きしたという。

そして、《サイエンス》誌での発表時にもなお健在だった。

その細胞は健康そうで、若い細胞の特徴を備えていた。


テロメアが活性化すれば、複製老化の呪いを避けられる。
つまり、どこからどう見ても不死身だ。


第10章 セックス

【問題提起】

近年の状況に話を移すと、
2007年の《ネイチャー》誌の解説論文では、
「性交が生殖方法としてこれほど広まっている理由は
今もなお理解しがたい」と言明されている。


突き詰めて考える人は少ないかもしれないが、
セックスは摩訂不思議なしろものだ。


最大の謎は、ごく単純に、
生命体が自分自身の複製を作り出す無性生殖のほうが、
ずっと効率的に遺伝子を次世代へ伝えられるのではないかという点だ。


無性生殖は実際に行なわれている。

爬虫類と魚類を中心とする多くの種が、限られた回数の無性生殖を実践し、
雄の遺伝物質を受け取ることなく、自分自身を複製する
(雌だけを産もうとする雌の生殖活動ということになる)。


例えば、ロンドン動物園にいるコモドオオトカゲは、
2006年に雄の助けを借りずに子孫を増やした。

わからないのは、なぜ無性生殖が優位に立てないのかということだ。


有性生殖では、相手となる生命体を必要とするうえに、
自分の遺伝子を半分しか伝えられない。

おまけに、有性集団と無性集団が共存する場合、
無性集団では各個体が全員子孫を産めるが、
有性集団ではそれが半数にとどまる。


セックスは絶滅を招く生殖法であり、無性生物がたちまち環境を
支配することになるだろう。


メイナード・スミスに言わせれば、セツクスには”2倍のコスト”が伴う。

遺伝学的に言つて、本来の半分しか力を発揮できない
――おまけに繁殖の速度も半分に落ちる――ような生殖法が、
なぜ洵汰されずに今も残っているのか?


しかも、それはあくまで遺伝学上の謎に過ぎず、ほかにも、
つがう相手を奪い合う労力、卵子と精子の合体に伴う非効率性、
交尾中に捕食者に襲われる危険などの問題点がある。


さらにまた、優良な遺伝子組み合わせ、
つまり進化の途上で選択された組み合わせが、
再結合の過程でばらばらになってしまい、
次代に伝えられない可能性もある。
理論家の観点から見て、セックスはほとんど欠陥だらけの生殖法だ。


ところが、この理論的な評価に反して、周囲を見渡してみると、
セックスの欠陥が一般的に認識されているとは言いがたい、
それどころか、地球上で最も広く行われる生殖法となっている。


【議論の一例】

例えば、オータムの無性ヤモリは、
有性生殖で生まれたヤモリより運動能力が高く、
より長い距離をより速く走った。


ところが、それ以前に別の種を使って行なわれた研究では、
逆の結果が出た。

一連のミジンコの実験で、無性生殖から生じる有害な突然変異の率が、
有性生殖の4倍に達したのだ
(ミジンコは有性生殖と無性生殖の両方を行なう)。


しかし、線虫の研究では、有害な突然変異の発生数は、
無性集団も有性集団もまったく差がなかった。


ゲノム進化のコンピューター・シミュレーションによると、
ここでは集団の大きさも問題になってくる。

小集団は有性のほうがうまくいくが、有性生殖種の大集団では、
有害な突然変異が多く蓄積される。


有性集団では遺伝子が再編成されるので
環境の変化にすばやく適応できるという説については、どうだろう? 


ここでもまた、種々雑多な証拠が入り交じっている。

1997年の酵母菌の研究では、有性生殖を行なう種の酵母菌には、
新たな環境に適応するうえでの利点は何ひとつ見当たらなかった
(酵母菌には有性生殖を行なう種とそうでない種がある)。


ところが、別の研究では、環境が悪化した場合は、
有性種の個体数が勝るが、環境が改善されると、
両集団の個体数が均等に保たれることがわかった。


2005年に行なわれたもうひとつの研究では、
有性と無性両方の酵母菌変種が
最小限の栄養分とともに試験管に入れられた。
結果は無性変種の勝ち。


同じ混合物をマウスの脳に塗りつけると
(高度に変化に富んだ環境を再現するため)、今度は有性集団が勝った。


ところが、この結果はふたりのカナダ人研究者の発見と齟齬をきたした。

1987年に、グレアム・ベルとオースティン・バートは、
有性生殖では変化に富む環境に住む子孫に利益をもたらすような
遺伝的多様性は、得られないことを明らかにした。
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【上野注】
これらの議論に専門家でない私は参加しようがないのですが、
思ったのは以下のことです。


有性生殖が有利な場合と無性生殖が有利な場合、
どちらも存在するとすればどちらが有利なのかを明らかにするのではなく、
どういう場合に有性生殖が有利で、
どういう場合に無性生殖が有利なのか
を明らかにすればよいのではないでしょうか。

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 第11章 自由意志

【問題提起】

恐ろしくて、ひどく気の重い話だが、
わたしたちは脳によって動かされる機械なのだ。

わたしたちが自由意志だと思っているものを、
じつはわたしたちは持っていない。


何十年にもわたるきわめて再現性の高い実験から、
この推論が導き出されたのだが、まだ筋の通らないところがある。


人間としてわたしたちは、自律性、自己決定能力、自由意志を、
自分に当然備わったものと信じている。


ほぼすべての人間が、自由意志を否定するような実験結果は
異常なものだと言うだろう。

そのような結果は意識的経験の枠組みとは合わないのだ。


しかし、パトリック・ハガードと話してみれば、
わたしたちのその自己欺瞞こそが珍奇な変則事象であって、
誰もが懸命にしがみつく自由意志の概念など幻想にすぎない、
と言われるはずだ。


ハガードだけではなく、ほとんどの神経科学者が同じ見解を持っている。

ただ、少数の学者はいまだ自由意志にこだわり、
実験結果のほうを変則事象として切り捨てる。


この論争の持つ意味は、これ以上ないほど大きなものになってきている。

自由意志には確かに割り切れない部分があり、
この変則事象の解明は、人間とは何かという問いへの答えとなるだろう。


【議論の一例】

1970年代後半のある日、
リベットはノーベル生理学賞受賞者ジョン・エクルスらとともに、
自由意志に関するシンポジウムに参加していた。


エクルスは自発行為が行われる際に”準備電位”と呼ばれる脳信号が、
必ず行為より1秒以上早く生じるという最新の研究を話題にした。


当時エクルス自身は、
すべての自発行為は自由意志が起こすものだと信じていた。


したがって自由意志のほうが、自発行為よりも少なくとも
1秒は早く生じているはずだ、と述べた。


リベットはすぐに、それがあくまでエクルスの信念であって、
裏づけとなる証拠があるわけではないことを見抜いた。


そこで、裏づけを探す実験を始めた。

リベットはボランティアをつのって、頭皮と手首に電極をつけ、
ごく簡単なある作業をするよう頼んだ。


まず時計を見ながら、いつでも好きなときに手首を曲げる。

次にその行為をしようという意図を最初に感じたのは
いつだったかを報告する、というものだ。


頭部の電極で、リベットは、
準備電位が徐々に高まっていくのを測定した。

手首の電極は、筋運動の行なわれた正確な時刻を教えてくれた。

被験者が、手首を動かそうという意図を感じた時刻を述べると、
それは常に行為より先に起こっていた。


快調な出だしだ。しかし、吉報はそこまでだった。

リベットは脳の準備作業、すなわち準備電位が、
意図を知覚するより先に生じていることを発見してしまったのだ
――それも、かなり大幅に。

脳が行為の準備に入るのは、
意図が知覚される最大0.5秒前、平均でも0.35秒前で、
その時点で被験者はまだ、動こうという意図に気づいてすらいない。


知覚するころには、脳は完全に起動していた。

被験者が意識的に決断したと思ったことが何であれ、
実際には、その行為を起こす決断ではなかったのだ。

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科学に関心のある方は、
是非、本書を研究なさってみてください。




2017年4月24日月曜日

「原因と結果の経済学」

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 因果関係と単なる相関関係の違いを再確認していただきます。
 因果関係を証明する方法を研究いただきます。
 「それはウソ」の事例を研究していただきます。
ねらい:
 因果関係に強くなりましょう。

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二つの数値間に相関関係がある場合に、
それが因果関係によるものか単なる相関関係にすぎないのか
を論じている書です。



単なる相関を因果関係であるかのように言われることは、
結構起きています。

本書の冒頭にこういう解説があります。
相関があると言われたら以下を疑ってみようというものです。

1.全くの偶然ではないか。

 例として、ミスアメリカの年齢と暖房器具による死亡者数
 (非常にきれいな相関関係の図が示されています)、
 スタジオジブリの映画が日本のテレビで放映されると
 アメリカの株価が下がる

 「風が吹けば桶屋が儲かる」の類です。


2.「第3の変数」は存在していないか。

 「体力がある子どもは学力が高い」は、
 体力があるから学力が高いのではなく、
 体力のある子どもの家庭は裕福で
 子どもの教育にも投資できる、からだとされている。
 
 第3の変数を「交絡因子」というそうです。

3.因果関係は逆ではないか

 警察官の多い地域では犯罪が多い、のではなく、
 犯罪が多いから警察官が多いのです。
 友人が少ないから控えめになるのではなく、
 控えめだから友人が少ないのです。
 
 これらの例はすぐに分かりますが、
 実際にはこの逆転の認識が起きているようです。


しかしなぜこれらの解明が経済学なのだろう?
と思いました。

ところが、本書中に以下の記述がありました。
少し長くなりますが、因果関係論全体を理解するのにも
有効ですのでご紹介させていただきます。

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因果推論はどのように発展してきたか

経済学・統計学における因果推論

実は、経済学における因果推論の歴史はそう長くない。
1940年代にはノルウェーのオスロ大学の経済学者
トリグヴェ・ホーヴェルモが自身の論文の中で
反事実の概念をほのめかす表現を用いているものの、
正確に定義されたとはとうてい言えないものだった。


それが1990年代に入ると、大きな変化が起こる。

当時、ハーバード大学経済学部に所属していた著名な
計量経済学者であるグイド・インベンスや、
マサチューセッツ工科大学の労働経済学者である
ヨシュア・アングリストが、

ドナルド・ルービンと協働するようになり、
「ルービンの因果推論モデル」を経済学に取り入れたのである。
(注)



ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学はともに
アメリカのマサチューセッツ州ケンブリッジ市にあり、
地理的な近接性が

彼らのコラボレーションを生むことに一役買ったのだろう。


ルービンとインベンスが共著し、
2015年に刊行されたにもかかわらず、
早くも「因果推論」の最も代表的な教科書だと名高い
"Casual Inference for Statistics,Social,
and Biomedical Sciences:An Introduction"は、

彼らが長年ハーバード大学の経済学部で実施してきた
授業の講義をもとに書かれたものだ。



経済学における因果推論の歴史があまり長くないのには
理由がある。

疫学や生物統計学では
「臨床試験」や「治験」と呼ばれる実験が可能だ。


しかし、経済学をはじめとする社会科学分野では、
実験は極めて難しい。

人間を対象にした実験をするには、
資金や倫理的な面に加え、政治的に困難が伴うことも多い。


このことが経済学から因果推論を遠ざけていたと見られている。

ところが、2000年代になると、経済学にはさらに新しい動きが
起こった。



実験経済学者であるシカゴ大学のジョン・リストや、
開発経済学の専門家集団であるマサチューセツツ工科大学の
貧困アクションラボ(J-PAL)の研究者グループが、
さまざまな壁を乗り越えて、
大規模な社会実験を実施し始めたのである。



貧困アクションラボは「ランダム化比較試験の専門機関」
とも言うべきもので、

ランダム化比較試験を用いた研究ばかりしているという徹底ぶりだ。


彼らは「政治的流行に左右されやすい政策を、
エビデンスに基づくものにする」という目標を掲げ、
ランダム化比較試験を「政策評価の理想形」と呼ばれるまでに
その地位を押し上げることに成功した。



経済学では、因果推論に基づいて政策の効果測定を行う
研究領域のことを「政策評価」と呼んでおり、
近年その体系化が急速に進展している。



疫学における因果推論

経済学・統計学とは別の流れで発展してきた因果推論の
考えかたもある。

その1つが疫学における因果推論である。


個人を対象にして病気の原因や治療法を研究するのが
「医学」研究だとすると、
「疫学」とは集団を対象として病気の原因や予防などを
研究する学問のことである。



医師や看護師など医学系のバックグラウンドがある方にとっては
この疫学における因果推論のほうが馴染みがあるかもしれない。



1990年代半ばにイスラエル系アメリカ人の計算科学者である
ジューディア・パールがDAG(因果ダイアグラム)と呼ばれる図を用いて

因果関係を明らかにする方法を開発した。


その後、因果ダイアグラムは、ハーバード大学の
ジェイムス・ロビンスやミゲル・ハーナン、UCLAの
サンダー・グリーンランドらによって、
医学や疫学の世界に広められた。



その結果、医学部や公衆衛生大学院でこの方法論が受け入れられ、
教育されるようになった。


因果ダイアグラムの最大の特徴は、
矢印を用いた図で因果関係を表現することである。



実は本書でしばしば登場している、矢印を用いて因果関係や
相関関係を表した図も
因果ダイアグラムであると考えることができる。



交絡因子は「原因と結果の両方に影響を与える第3の変数」
であるため、原因と結果の両方に矢印を引くことができた場合、
この第3の変数は交絡因子であると考えられる(図表8-2)。







そして、交絡因子であることがわかれば、マッチング法や
重回帰分析を用いて交絡因子の影響を取り除かないと、
因果関係を正しく評価することはできない。



一方で、矢印の向きが逆で、
原因から第3の変数に矢印が引ける場合には、

この第3の変数は
交絡因子ではないことがわかる

(因果関係の経路の中間にあるため「中間変数」と呼ばれる。図表8-3)。













中間変数に重回帰分析などを用いて対処してしまうと、
原因の本来の影響を過小評価してしまうことが知られている。


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(注)ルービンの因果モデルでは、すべての人には2つの
「潜在的な結果」があるとされた。


つまり、介入があるときの潜在的な結果と、
介入がないときの潜在的な結果の2つである。



しかし、どの人もそのいずれか片方しか観察できない。

実際に介入を受けた人は、介入を受けなかった場合の
潜在的な結果は観察できない。



一方で、実際には介入を受けなかった人は、
介入を受けたシナリオにおける潜在的な結果が観察できない。



つまり、すべての人がいずれか片方の潜在的な結果しか
観察できないということが、
因果推論の根本的な問題であるとルービンは考えた。

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 本書の要約を以下に掲載します。
本書の記述は非常に分かりやすくなっています。
著者の聡明度がうかがわれます。


以下にご関心のある方はぜひ本書をご覧ください。


それは本当か?

設問
因果関係 有無
チョコレートの消費量が増えると
ノーベル賞受賞者が増える?
メタボ検診を受けていれば長生きできる
×
医療費の自己負担割合と健康の関係
基本的には×
高齢者の医療費の自己負担割合が
増えても死亡率は変わらない
女性医師は男性医師より優れている
ある状況で
「小さく生んで大きく育てる」は正しいか
×
受動喫煙は心臓病のリスクを高めるか
認可保育所を増やせば母親は就業するか
×
最低賃金と雇用量の間に因果関係はあるか
×
テレビを見ると子どもの学力は下がるか
母親の学歴と子どもの健康の間 に因果関係はあるか
女性管理職を増やすと企業は成長するのか
ある国で×
勉強ができる友人と付き合うと学力が上がる?
×
偏差値の高い大学に行けば収入は上がる?
×




因果関係を証明する方法
  方法名
  内容

ランダム化
比較試験
ランダムに分けた2グループを、介入群(検証しようとする条件を与えるグループ)と対照群(そうでないグループ)にして、結果の比較を行う。
例:メタボ検診受診者と非受診者で健康の差を測定する。

自然実験
たまたま起きた実験のような状況を利用して分析する。
例:入院患者のみを受け持つ医師の30日死亡率の差を過去のデータで分析した。

差の差分析
介入群と対照群の介入前後の差を比較する。
例:広告を打った地域の売上の伸び(差)と広告を打たなかった地域の売上の伸び(差)を比較する。

操作変数法
操作変数とは、結果には直接影響を与えないが、原因に影響を与えることで、間接的に結果に影響を与える可能性のある変数のことを言い、その状況下で結果を比較する。
例:テレビがない地域とテレビがある地域(家庭の生活状況等は同じ)での学力への影響の測定。

デザイン
回帰不連続
連続的な値を持つ対象に対して人為的に限界値(カットオフ値という)を設定して与える条件を変更した場合に、その限界値の前後で大きな変化がみられるかどうかを分析する。
例:70歳で医療費の自己負担割合が3割から1割になる→受診率は大幅に上がるが、死亡率に変化はない!!

マッチング法
結果に影響を与えるような共変量(共通の変量)を用いて、対照群の中から、介入群によく似たサンプルをマッチさせて、比較する方法。マッチングが成り立つための条件は、結果に影響を与えるような共変量がすべて観察可能であるということである。
例:年齢、生まれた場所、学力テストの成績、出身高校の規模、両親の学歴や職業等の条件が同じ学生が、偏差値の高い大学に入った場合に卒業後の賃金に差があるかを調査した。

重回帰分析
複数因子間の相関分析である。
例:飲酒・喫煙と肺がんの関係を分析する。それぞれの影響を測定できる。


因みに、
システム企画研修㈱が提供している問題分析の手法である
問題点連関図手法では、因果関係を本格的に追求します。
これまで、何万人かの方がこの手法を学びました。


それで分かったことは、
優秀で仕事ができる方の中に、
因果関係の整理がまったく苦手な人がいることです。


左が原因、右が結果の関係で整理します。
そこで、おかしいと思ったら「左だから右である」と読んでみなさい、
と指導するのですが、それでもダメなのです。

間違いの例:




2017年4月21日金曜日

ある東大のクラスの歴史

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 「東大に入った人はどうなったんだろう?」の疑問に答えます。
 (本当は「どうなるんだろう?」を知りたいのでしょうが)
 大学のクラス会の運営の一例をご紹介します。

ねらい:
 何かの参考になさっていただければ幸甚です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ある東大のクラスの歴史をご報告します。

このクラスはクラス会メンバの高齢化もあり、
卒業57年で会の規定を改組したのです。
その機会に記録等を整理しましたので
その一部をご報告します。

東大の新入生は、
すべて教養学部に編成されるクラスに所属します。

文科1類(主として法学部・経済学部に進学)
文科2類(文学部、教育学部等へ)
理科1類(理学部、工学部等へ)


理科2類(当時は医学部へ進学する理科3類はなく、
 ここから医学部、農学部へ進学していました。
 多くは医学部志望でこの理科2類に入学するのですが、
 希望が叶わないと心ならずも農学部へという状況でした)

ご報告するクラスは1956年入学の文科1類のクラスです。
第1外国語として何を学ぶかでクラスが編成されていました。
このクラスはドイツ語を学ぶクラスです。

クラスの担任という先生がいて、
入学最初のガイダンスのようなことをしてくださったのでしょう。
ほとんどの授業はクラス担任が行うわけではありませんので、
普通はクラス担任と学生の関係は希薄です。

先日、文化人類学で著名な業績を残された増田義郎先生の
「偲ぶ会」が行われました。
増田先生も教養学部でクラス担任をされたのですが、
そのクラスの学生が多数その偲ぶ会に参加していました。

増田先生は他の先生と違い、
クラスの学生と親密な関係を持たれたのだそうです。
こういうことは稀だということがその偲ぶ会でも話題になりました。

このクラスのメンバがその後どうなったか、
を以下にご報告します。


1.総勢63名、すべて男


2.定かでありませんが、現役入学者は10人くらい。


3.結婚の早い遅いはありますが62名は結婚


4.入学から61年経ちますが存命者は丁度3分の2の42名

5.最も早く亡くなった人は、昭和61年です
  それ以外の内訳は、後掲の表に記載しています。
  当然ながら、近年増加傾向です。


6.奥様に先立たれた人は今までで4人
  奥様の方がお元気だということです。


7.子供は、1980年時点で
   0人が3人
   1人が6人
   2人が最多で27人
  
   3人が19人います。
   4人も3人もいます。
   申告なしが3人です。
  けっこう皆さま頑張っています。
 
  申告なしを除いた平均は2.22人です。
  人口減少にならない最低の出生率が2.07だそうですから、
  このクラスは日本の人口増に若干は貢献している
  ことになります。


8.子供は男子58人 人、女子71人
  女性優位ですね。
       

9.就職先は多い順でこうなります。
  銀行    9人
  商社    9人
  化学合繊 6人
  官庁    5人
  弁護士   5人
  証券会社 4人
  電機    4人
  重工    3人
  石油    3人
  セメント   2人
  大学    2人
  鉄鋼    2人
  建設    2人
  損保    2人
  裁判所   1人
  フイルム  1人
  小売     1人
  自営     1人


高度経済成長期でしたから、官庁より待遇の良い民間企業、
特に銀行・商社・証券会社が人気でした。


商社は、
三菱商事3人、伊藤忠商事3人、三井物産1人、住友商事1人、丸紅1人
でした。


その頃、人気になりだした証券会社にも4人も入っています。
その頃までは「株や」と言われ本学の就職先ではありませんでした。


基幹産業である鉄鋼・重工・電機や化学・合繊も
それなりの人気でした。


東レ・旭化成・帝人・クラレには一人ずつ入っています。
この業界は当時全産業最高水準の給与体系でした。


文Ⅰのオハコである弁護士と裁判官の法曹関係は
それほど多くなく6人(1割)です。
 

10.その後の「出世」
民間企業に就職した人の内、
転職は僅か3人で、うち一人は家業への転職です。
それ以外の2人は
なぜか2人とも合繊メーカからでコンサル集団への転職です。


最終的に、
本体の大企業社長になった者は1人、
系列の社長になった者は2人
家業・準家業で社長になった者が2人 です。


11.定年退職(1997年ごろ)後の職業
1997年頃、多くの者が定年を迎えています。
再就職をしている人がほとんどです。
系列の子会社の社長になった者7人、
官庁・銀行の関連組織に転じた者多数、という感じです。


12.クラスのOB会
このクラスは1980年にクラス会を組織化しました。
毎年の幹事を決め、年1回の総会を開く、
本人・家族の不幸に対しては会から弔慰金を支払う、
ということにしました。

その実績が以下の表です。
参加人数欄の■は参加者名等が不明ということです。

▼クリックすると拡大します▼




総会は宿泊の場合もあり、
豪華な場所や簡素な場所で開催しています。
その年の幹事の判断です。
豪華な場所で実施しているのは「奥様の受け狙い」です。


奥様同伴の総会は1991年から始めたのですが、
開催場所によって参加人数が大きく違います。


13.積立金制度

1980年の私が幹事のときから、年会費を徴収し始めました。
会の連絡費や、会として弔慰金を出すためです。


先日、その積立金の管理もたいへんなので、
決算をして、残金を分配してしまいました。
その時の決算書をご参考までにお示しします。

□□会37年間の収支決算

対象期間:1980年4月~2017年4月


収支項目
金額
構成比
年会費振込
2,515,000
47%
年会費徴収
2,826,000
53%
年会費合計
5,341,000
100%
定期預金金利
239,139
4.5%
弔慰金支払い
-1,440,000
27%
総会収支
-1,207,754
23%
総会費徴収
11,286,749
 
総会費支払い
12,494,503
 
名簿印刷費2005年迄
-373,852
7%
通信費その他
-935,271
18%


けっこう会員の皆様は真面目に年会費を納めました。

その結果、1人3万8千円ずつの配分となりました。
従来の規定だと死亡で5万円の弔慰金がご家族に出るのですが、
「少し少なくても生きている時にもらった方がよい」
と好評でした。

実はこの幹事は私がしました。

2017年4月19日水曜日

カールビンソンってご記憶ありますか?





【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 「カールビンソン」を思い出していただく。


ねらい:
 そんなこともあったかな、です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
米空母カールビンソン号が、
有事に備えて朝鮮半島付近に北上したようです。

カールビンソンという名前は、歯切れがよく強そうな感じがしますが、
第二次大戦前後に海軍力増強に努めたカール・ヴィンソン下院議員
に因んでつけられたのだそうです。

この空母は1982年に就航したレガシーものですが、
以下のように巨大なのです。




 戦闘機最大90機搭載(戦闘可能機数は50機)
 全長333メートル(東京タワー並み)
 乗員5千人。 
 うち女性1割とか。(下司の勘ぐり、問題は起きないのかしら?)
 1度就航すると半年は戻らない。


 そのために艦内にスターバックスやバーガーキングの店がある。
 女性用に美容院もある。
 (なるべく陸上の生活と同じように、という配慮らしい)


この空母のことをご記憶の方おられますか?


私は知らないか忘れていました。


2011年5月2日に、パキスタンで米国暗殺団によって殺害された
911同時多発テロの首謀者ビンラディンの海葬を行ったのです。


イスラム教では死者は1日以内に葬送するというしきたりがあるために
遺体をすぐにカールビンソンまで運び、
イスラム教風の葬儀をした後、アラビア海に葬ったのです。
白い布を巻いて袋に入れられ重しを付けて海に滑り落とされたそうです。
これらの様子は一切画像等が公開されていません。


ビンラディンの隠れ家邸宅を空から急襲したヘリコプターを送りだしたのも
カールビンソンだったのではないでしょうか。


それにしても、ビンラディンはよく10年間も、
CIA等の探索を逃れて隠れていたものですね。


犯罪者が国外に逃げたがるのは分かりますね。





2017年4月18日火曜日

渡部昇一先生の早すぎるご逝去を悼みます

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 渡部昇一先生のご逝去を悼みます。
 ご遺構の一部をご紹介します。


ねらい:
 先生の意を大事にしましょう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
渡部昇一先生が4月17日午後1時55分にお亡くなりになりました。
心不全だそうです。
直近まで元気でご活躍だったのですから。


本当に残念です。


私は、
先生の書かれた雑誌「致知」の連載評論「歴史の教訓」の愛読者でした。
この連載は、最新の5月号が第235回でしたから、
20年間も続けられたことになります。


ときどき、対談に登場されるときがあり、
その時は連載がお休みですから、20年以上です。


私が致知を読みだしたのは10年前くらいですが、
毎号この記事だけを楽しみに致知を読んでいました。
(と言うと致知のオーナ編集長に怒られそうですが)


私のブログにもときどき時事テーマが登場しましたが、
政治や社会テーマでは、
渡部先生の意見と食い違っていることはほとんどありませんでした。
それで安心していたというわけです。


先生は強い愛国者で、
日本のためを思う明快なご意見を述べられました。、
私は、いつもたいへん心強く思っていました。


時の支配層を批判したりおもねたりする「町の評論家」とは異なり、
ご自分の愛国基準で物事を判断されていました。
その帰結として、
安倍総理の判断力と行動力を高く評価されていました。


そういう筋の通ったオピニオンリーダがおられなくなることは、
日本にとって大きな損失です。
誠に残念なことです。


ここで、先生の最後となった致知の寄稿の一部をご紹介します。
致知2017年5月号からの転載です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【瑣末に囚われず本筋を見る】
トランプ大統領という人は、ある意味、
正直な人といえるのかもしれません。


政治家といえば、意に反することやカンに障ることがあっても、
前後の事情や反響を考えて無表情に、
場合によっては温和な顔つきのままやり過ごす、
といったタイプがほとんどです。


しかし、トランプ大統領はそういう芸当が苦手で、
とっさに感じたことを表現せずにはいられない人なのでしょう。


中略
そのためにトランプ大統領の周辺が妙に騒々しくなっています。
トランプ大統領が従来の政治家には見られなかったタイプだけに、
マスメディアにとっては絶好の報道ネタということでしょう。


瑣末な片言までも取り上げて、
ああだこうだとやって騒がしさを掻き立てています。


しかしそんなことに囚われていては、本筋はみえてきません。
重要なのは、トランプ大統領の政治施策が奈辺にあり、
それは日本にとってどうなのか、ということです。


そのトランプ政治の本筋を見極めるのに重要なのが、
3月1日に行われた施政方針演説でした。
中略


トランプ大統領の施政方針演説を聞いて、
私は安部首相の顔を思い浮かべました。
2月10日に行われた日米首脳会談で
トランプ大統領とサシの話を終え、
部屋から出てきた時の安部首相の顔です。


その表情は実にすっきりしていました。
それは単に
日米同盟関係の強化で同意したといったレベルに止まりません。
 
トランプ大統領が行おうとしている施策を確認し、
安堵という以上に納得した思いがその表情には溢れていました。
中略


【何よりも軍事が大事】
政治において、ことに国際政治において、最も重要なのは軍事です。
軍事の問題さえしっかりしていれば、
その他のことはどうでもいい、といっていいくらいです。


というと「平和、平和」と口先で唱えていれば
平和であり続けることができるかのような、
平和を抽象的にしか捉えられない平和主義者は眉をひそめるでしょうが、
それは歴史を、現実を、正確に見ていないからに他なりません。


世界が平和であったり戦争に突入したりしたことに
軍事問題の動向が決定的な鍵となったのは、
紛れもない歴史的事実なのですから。


そして、現在ただいまもその例外ではありません。
地域における小さな紛争はあっても
世界を巻き込むような戦争に至らずに過ぎているのは、
各国の軍事バランスの結果なのです。


しかし、トランプ大統領はこのバランスを維持するには、
さらにアメリカの軍事力を拡張する必要があると考えています。
その具体的な現れとして、
トランプ大統領は9%の軍事予算増額を表明しました。


そうなると、アメリカの本年度の軍事予算は6030億ドル、
約68兆円になり、トランプ大統領が胸を張って見せたように
アメリカ史上最高額となります。


議会を通過するか否かは未定ですが、
トランプ大統領がこの方策を打ち出したのには、
毎年軍事予算を増額し、
旺盛に軍事力拡張を図る中国の存在があることは明らかです。


因みに中国の本年度軍事予算は前年度から7%増額の
1兆434億元、約17兆3千億円となっています。


両者の額面の差は圧倒的ですが、
それだけではありません。


アメリカが軍事拡張に注力するというのは、
単に物量の増強だけに止まりません。
これによってものすごいハイテクの進展があるのがこれまでの例です。
これに太刀打ちできる国は、そうはありません。


ソ連という国が存在していた頃です。
そのソ連が急速な軍事力拡張を図り、
世界を緊張させていた時期がありました。


これに対し、時のアメリカ大統領レーガン氏は、
断固とした軍事拡張で対抗しました。
するとソ連は、とても太刀打ちできないと見越して鉾を収め、
それがついにはソ連という連邦国家の解体に繋がっていきました。


さて、中国はどうでしょうか。
トランプ大統領の打ち出した軍事拡張を見れば、
現状では中国のそれば蟷螂の斧でしかないことは明らかです。


そこで中国はどう出るか。
それは今後の国際情勢の変化の大きなポイントになるでしょう。
注目していかなければなりません。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この後、
【米国第一への真っ当な施策】
【首脳会談がもたらした日米蜜月時代】
【権力根拠の薄弱さと権力者の恐怖、不安】  (北朝鮮の話題)
【予断を許さない危険と金正恩氏の不安感】
【韓国の混乱で膨らむ危険の火種】


と続けた後で結びとしてで以下の「遺言」を残しておられます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【日本の立ち位置から課題が見える】


一方は蜜月といっていい日米関係を中心に、
安全保障面でも経済面でもまず安心できる状況にあり、
その一方には予断を許さない危険が膨らんでいる状況がある。
これが現在ただ今の日本の国際関係における立ち位置である、
といえます。


では、この位置に立って、日本はどうするのかが問われます。
すると見えてくるのは、
ことに安全保障の面での国家としての自立性のなさではないでしょうか。


蜜月と言える緊密な日米同盟関係も、
客観視すれば
アメリカの分厚い軍事力へのもたれかかりであることは否定できまっせん。


そしてこうなっている根本原因が現行憲法にあることは
誰にも分かることです。


前に国際政治における軍事の重要さを述べましたが、
日本は軍事では全く身動きできない憲法の縛りがあるのですから、
安全保障をより確かなものにするためには、
必然的に他国の軍事にもたれかからざるを得ない
具合になっているのです。


これでいいはずはありません。
自立性をもって主体的に国際政治に関わり、
平和をより確かに維持していくには、
国家の根本である憲法を見直す必要があるということです。


前述したような国際関係での日本の立ち位置を確認すれば、
日本は憲法問題に本気で取り組む時期に差しかかっているのだ、
ということが実感できるはずです。


これこそ安倍政権が次に取り組まなければならない
喫緊の課題であると思います。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
本当に遺言らしい言葉ですね。


先生の歴史家としての的確なご判断に裏打ちされた論調は
自信あることを述べられる時も穏やかで
あまり断定されません。


それがかえって説得性を増しています。
語り口もお上手ですね。


心から渡部先生のご冥福をお祈りいたします。