2020年7月30日木曜日

「自分の心、相手の心、仲間の心」をたいせつにする社会へ!!

[このテーマの目的・ねらい]
目的: 
 これからの社会はどうなっていくのかを考えます。
 その社会を「心たいせつ」の社会ととらえます。
 それを「自分の心、相手の心、仲間の心をたいせつにする」
  でとらえることを理解していただきます。
 その中で、日本はどう生きるべきかを考えます。
ねらい:
 皆様でもっともっと考え、実現いたしましょう。
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これから急変していく社会の動向論のいくつかを目にして、
コロナ後の日本はどうなるのか、どうあるべきかを考えました。

目下の私の結論はこうなりました。
「心たいせつ」の社会が来ます。
それは「自分の心、相手の心、仲間の心をたいせつにする」社会です。
これからの日本は、IT・デジタル化で勝負するのではなく、
「心たいせつ」社会の先導役を目指す方がよい。

「心たいせつ」の思考では、人間を物理的客体としてみるのではなく、
心を持つ主体とみます。その心をたいせつにするのです。

「心たいせつ」とは以下のことを指します。
1)個人としては、自分の心をたいせつにする。
2)人に対しては、相手の心をたいせつにする。
3)組織では、仲間の心をたいせつにする。

以下に解説をいたします。

1.自分の心をたいせつにする
これには2面があります。

その第1面はこうです。
社会のIT・デジタル化によって、
ある面で便利で効率的な生活ができるようになります。

効率的な生活によって肉体的負担が減る分、
精神的活動のウェートが高まります。
結果として、人間本来の特質である
精神・心の満足をより強く求めるようになるのです。

今回のコロナによる自粛活動で、
人との交流ができずにストレスがたまりました。
あらためて、人との交流の価値を再認識したと思われます。
必ずしも学校が好きではない小学生も、
学校が再開して友達に会えると、大喜びをしていました。

効率化社会の欠点を、コロナ騒動は早送りで示してくれたのです。
今後、多くの人は、
コロナ以前よりも人との交流を求めるようになると思われます。

組織や地域のサークル的活動、趣味・娯楽などの会、
ボランティア活動などが、これまで以上に活発になるでしょう。

「自分の心をたいせつにする」の第1面は、
人との交流の中で生きていくのがあるべき姿である
ことを自覚し行動することです。

もう一面は、
情報過多の社会で情報に振り回されやすい状況なのですが、
自分を見失わずに、自分の求めることを求めよう、
ということです。

情報がどんどん流れてくるからといって、
それを受け身の姿勢で受けとめてしまうのでなく、
自分の判断で取捨選択します。
「あなたにお勧めです」とか言って画面に表示される広告だって
うかつに乗ってはいけません。
それは必ずしもあなたのニーズではないのです。

しかし、我がままであれということではありません。
あくまで「自分をたいせつに」の範囲で考えます。
それには、自分の特性はどうなのだろうと見極めることも必要です。

「己を知る」性格診断なども有効です。
簡単な性格診断としては、「類人猿診断」があります。
類人猿診断の紹介サイト http://yakan-hiko.com/gather/

当社で提供している「CAT(コンピテンス診断ツール)」も
将来に向けて自分の適性・適職を判定するのに有効です。
「CATのご案内」 
http://www.newspt.co.jp/data/menu/11CAT.pdf

2.相手の心をたいせつにする
急速に進展したIT化の波に十分乗れない人が大勢います。
あるいは、企業の業務効率化のせいで丁寧な支援が受けられないで
取り残されている人もいます。
ATMだって、きちんと使えない人がいるでしょう。

そういう隙をついて成功したビジネスの例が、
トム・ピーターズ著「新エクセレント・カンパニー」に載っていました。
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徹底してお客様のために行動するサービスの成功例
――銀行の窓口を効率化の対象にするのではなく、
お客様へ行き届いたサービスをする前線にしました――

ヒルは、「コマースメトロ」を開店し、次のように語った。
「お客様には ぜひ支店に足を運んでほしいですね。
支店では、魂のこもった業務を行ない、
人間味のない口座番号を深いつながりを感じさせる家族に変えることが
できますから」

ヒルの計画は、華やかで活力に満ちた、ワクワクする〝 ストア〟
(支店を指す コマースメトロ用語)をつくることだった。

賃金をはずみ、
とことん訓練した熱意のある従業員をたっぷりストアに配置して
真のサービスを提供し顧客を〝 ファン〟 
これもヒルのお気に入りの用語)に変える。
長い営業時間もコマース-メトロで体験できるサービスの特徴だ。

それらの支店は前例のない週七日営業に踏みきった
(しかも、金曜の夜は 夜中まで開いている)。

また、非常に複雑な商取引もあっというまに済ませることができるし、
どれほど むずかしい問題でも、文字どおり、
ぜったいに「ノー」 と言うなと教わった窓口のスタッフが
独自の方法で解決しようとしてくれる。

コンピューター の不具合が生じたとき、
る従業員は、 
顧客が必要としていた期間限定の割引航空券を手にいれるために、
分の個人クレジットカードで顧客の航空機 のチケット代を仮払いした。

彼女の機転をきかせた行動は、 顧客の驚きと畏怖の念だけでなく、
銀行の上層部からの称賛も引きだした。
 
さらに、
この銀行はつねに「ドッグ・フレンドリ」な銀行であると宣伝していた。
いたるところでみられるマスコットのダッフィー
( 英国生まれの〝 サー・ダッフィールド〟)はあらゆる宣伝に登場する。

この銀行に行くと、出るときには、
銀行のロゴがついたイヌ用の真っ赤なボウルと、
フンを掃除するときのスコップ(こちらもロゴ入り)、 
そしてもちろん イヌ用のビスケットを手にしているだろう
(ロンドンで私がそうだったよう に)。
ビスケットの景品は、
数年まえの年次報告では 総計200万個になっていた。

2007年、 ヒルは「コマースメトロ」を
トロント・ドミニオン銀行に86億ドルで売却した。
これこそ、普通とは逆に向かったファン創出アプローチの効果を
実証しているではないか。
(その後、すぐにイギリスで同じようなビジネスを
さらに大規模に展開し成功させました)
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その延長で私が考えたのは「スーパー・コールセンター」です。

IT化の進展で利用できるサービスが複雑化しています。
多くの人は、良さそうだなと思っても簡単に近寄れません。

便利なツール類の使い方も、
自分が知りたいことに到達するのに大変な手間がかかり
結局よく分からないということが起きます。

隣に精通者がいれば、「これどうしたらいいの?」
と聞けば1分で解決できることなのです。
こんな腹立ち、イライラを感じている人は多いと思います。

私は、今回自分用のPCを買い換えたのですが、
メールデータの変換を始めとして
利用しているソフトやサービスの数種類を移すのに手こずりました。

電話対応だというので喜んで電話すると、
自動案内が「〇〇の方は1番、△△の方は2番を押してください」
とかを何回か繰り返して
結局こちらの知りたいことに到達しないということもありました。
「コンチキキショー!!」と思いました。

問い合わせ窓口の業務は、
多くの企業で「できれば問い合わせはないのがよい」
という発想で効率化の対象でした
(私もその改善に加担してきました)。

昔から会社内のシステム問い合わせに対して、
FAQ(よくある質問の回答)」をユーザに公開して
自分で調べてもらおうとしてきました。

今や、製品やサービスの品質で競争していますが、
どこも大同小異です。
では何で差異化するかと言えば、
お客様への丁寧な対応ではないでしょうか。

「何でもお気軽にお電話ください」という会社があれば、
マニアックな人以外はそこを選ぶのではないでしょうか。
その発想で考えたのが「スーパー・コールセンター」です。
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スーパー・コールセンターとは
以下は主として社内に設置するコールセンターを前提に記述しますが、
自社の製品・サービスのお客様用でも同じことです。

問い合わせ対応のこれからの改善目標は、
これまで考えられてきた「効率化」ではありません。
質の向上、「サービス向上」です。

利用者は、電話ならすぐ済むことが、
FAQなどで調べていたら時間がかかるし
結局分からないことも残ります。
今のFAQ方式に不満を持っている人は非常に多いと思われます。

IT関係はどんどん複雑化・多様化します。
何でも捌いてくれる窓口があったらたいへん嬉しいことです。

スーパー・コールセンターではどんな質問でも受けます。
社内システムのことだけでなく、
流通しているオフィスツール類についての質問も受けます。

QAデータベースを作り、自動メンテします。
ときどき管理者が整理します。
これは主としてコールセンター要員が使用します。
慣れている要員であれば,QAデータベースの利用も容易です。

即答できないものは「折り返し回答」にします。
たとえば、保守担当やインフラ担当でないと分からないものは、
担当に聞いて理解して自分で回答します。
オフィスツールに関する質問でも調べて回答します。
細かい複雑な質問の場合だけ、「有識者」に回答依頼します。

このような「原則自ら回答」方式により、
コールセンター要員の能力向上になります。
(コールセンター要員の成果把握システムも必要です)。

コールセンター要員は女性でなくても、
「的確な対応をしてくれるなら男性でもよい」のです。

このようなコールセンターによって、実現するのは、
問い合わせ対応業務の効率化ではなく、
ユーザの仕事の効率化です。
価値あるユーザ業務の効率化の効果は非常に大きいと思われます。

それを評価される意思決定者のところでこの方式を実現します。

社内用の場合、
このコールセンターは自営するか、アウトソーシングか?ですが、
会社・システム部門の状況・考えによりますが、
即自営切り替えは困難でしょう。 

ウイルスバスターを提供しているトレンドマイクロ社は、
他社の製品・サービスに関する問い合わせも受ける
電話窓口を設置しています。

まさに、スーパーコールセンターなのですが、
やはり限界があり、
「それはマイクロソフトの○○に問い合わせてください」
とかになります。
それでも、その問い合わせ窓口が分かるだけでも助かります。

とにかく、
「何が本当に相手(お客様)のためになるか」
を第一に考えることが肝要です。
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これができるにはそれなりの知能と心遣いが必要で、
日本人の特性に合致していると思われます。
効率化で削減される人材の受入れ場になるという面もあります。

3.仲間の心をたいせつにする
取り組む人たちの心の和(共感)が、
物事の成功にとって重要であることを
野中郁次郎先生は最近の著書「共感経営」で主張しておられます。
共感は「人、モノ、金、情報、知識」に次いで6番目の経営資源である
とされています。

当書では、必ずしも暖かくない組織の中で、チームが一丸となって
難題を解決した成功例が9つも紹介されています。
 日産ノートe-POWER
 よみうりランド グッジョバ
 NTTドコモ アグリガール、など。

上野則男のブログ 野中郁次郎先生著「共感経営」をご参照ください。
http://uenorio.blogspot.com/2020/07/blog-post_26.html

4.日本はどうする?
以上の「心たいせつ」の社会では、日本はどうすればよいのでしょうか。

効率性を追求するビジネスは米国大手IT企業と中国企業が先行し、
他国は追随しかできません。
日本もITの先進国として発展するのはムリでしょう。

それに対して、「心たいせつ」社会では「ココロ」を大事にするのです。
この領域は、「おもてなし」で有名になったように、
おそらく世界で日本が一番得意とするところのはずです。

1)前掲のスーパー・コールセンターもビジネスになりそうです。
言葉のハンデがあるかもしれません。

2)おもてなしの心を大事にする観光立国
以前から言われていることです。
アクセンチュア社長の書かれた「2030年日本の針路」でも
強調されています。
(上野則男のブログ「2030年日本の針路」
http://uenorio.blogspot.com/2020/07/blog-post_25.html

これからの観光は、単に受け身で楽しむだけでなく、
伝統工芸とかを体験できる参加型が本命でしょうね。

3)もっと世界に先駆けることのできるビジネスがあります。
それは、高齢者の強化を支援するビジネスです。
高齢者の介護ではなく、
高齢者にもっと強く健康になっていただくことによって、
本人も幸せな生活が送ることができ、
医療費の削減にもなるのです。

それには、
高齢者にとって嬉しいことを実現すればよいのです。
基本的には人との交流ができる場を提供します。
今、高齢者が医院でたむろしているのは
他に行く良い場所がないからです。

高齢者のスポーツ・趣味のサークル活動を専門にする、
今のフィットネスクラブのような施設もいいでしょう。
ゲートボール場も増やします。

公園を高齢者向きにするのも良い案です。
集まっておしゃべりがしやすいような作りにします。
遊具なども年寄り向きにします。
今でも一部そうなっています。

「何をすれば高齢者は嬉しいか」
を高齢者の立場でトコトン考えて実現することです。
当初は国の補助も必要でしょう。

高齢者専用のお見合いセンターもいいのではないでしょうか。
現在ある高齢者用「婚活」SNSは、
抵抗がある人が多いと思われます。

その気になれば、もっといろいろ考えられるでしょう。

4)高齢者介護のビジネスも、工夫によって
よりよいビジネスモデルができるのではないでしょうか。

5)製造業は、
細かい工夫改良型高品質製品が日本の土俵でしょう。
製造自体は3D・IoTですぐできるようになるでしょうから、
発想が勝負です。その際「心たいせつ」の精神が生きるのです。

考える前提を「心たいせつ」の精神とすると、
たくさんのことを思いつきそうです。
皆様もどうぞお考えください。

というようなことを考え始めました。
とにかく「心たいせつ」ですね。

8月1日 追記
当初は、「たいせつ」を「大切」と漢字表記していました。
タイセツに特別なニュアンスを表せるようにひらがな表記にしました。

また、「心たいせつ」も当初は「心重視」でした。
思い表現ですので、それをやめて「心たいせつ」にしました。

野中郁次郎先生著「共感経営」

[このテーマの目的・ねらい]
目的:
 野中郁次郎先生の最新作「共感経営」を知っていただきます。
 「成功の基は、関係者の共感を引き出すことだ」
 ということを知っていただきます。
ねらい:
 ぜひ、本書をご覧になって楽しんでください。
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「共感経営」は、野中郁次郎先生と勝見明氏の
この5月に出たばかりの著書名です。
本書では、「共感」を
「人、モノ、金、情報、知識」に次ぐ第6の経営資源だと言っています。
知識を経営資源として主張したのは、ピーター・ドラッカーですが、
野中先生の「暗黙知、形式知」論も、「知識」の理論です。

この書も「まえがき」に本書全体の意図・概要が記述されていますので、
以下にご紹介いたします。
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共感経営とは、どのようなものでしょうか。
企業経営や事業の遂行において、共感を起点とし、
ものごとの本質を直観する中で「跳ぶ仮説」を導き出し、
イノベーションを起こす、もしくは、大きな成功に至る。
そのプロセスにおいても、さまざまな局面で共感が介在し、
共感の力がドライブや推進力となって、
論理だけでは動させないものを動かし、
分析だけでは描くことのできないゴールに到達する。

それが共感経営です。

その共感は、
顧客への共感、トップやリーダーの社員やメンバーに対する共感、
メンバー同士の共感、顧客から企業に対する共感など、
さまざまな関係性において立ち現れます。

共感経営は、
人と人との間の共感がベースですが、対象がモノであって、
モノと全身全霊で向き合って、物我一体の境地でそのモノになりきり、
モノがコトになると、そこに共感的な世界が生まれます。

「経営学の父」と呼ばれ、
著者らが尊敬するピーター・F・ドラッカーは著書の中で、
21世紀は「知識こそが唯一の意義ある経営資源となる」として
「知識社会」の到来を未来予測し、
組織はモノや情報を前提にするのではなく、
知識を前提とする観点からとらえ直さなければならない転換期にある
と指摘しました。
(中略)
本書は、その知識の中でも、
言葉や数字では表せない思いや理念などの暗黙知を共有する共感を、
いわば「6番目の経営資源」として提示するものと言えます。

なぜ、企業経営や事業の遂行において、共感が重要な意味を持つのか。
人間の活動や行動にとって、共感が不可欠なものであることを、
興味深い二つの事例で示しましょう。

一つ目は、著者らが実際に取材した
日立製作所の人工知能(AI)「H」を使った
コールセンターでの実験です。

以下事例紹介部分は上野の要約です。
それまでに実験で、人の身体の動きとその人の幸福度には相関があり、
幸福度の高い人は動きのある状態が強い、ことが分かっていた。
コールセンター要員の受注率は、その人のスキルとはあまり関係がなく、
幸福度によって34%の開きがあった。
幸福度を決めているのは、
休憩中の要員同士の雑談が盛り上がったときであり、
雑談が弾むのは、
業務中にスーパーバイザーの適切なアドバイスや励ましが
あったときだった。
スーパーバイザーの声かけを支援するアプリケーションを提供したところ、
集団の幸福度が高まり、
受注率を継続的に20%以上向上させることができた。

もう一つの事例はあるホームセンターで
人間と人工知能Hのどちらが売り上げを伸ばせるかを競った。
人間はその世界で実績のある専門家二人で、
陳列の工夫やPOP広告の強化をした。

人工知能の方は、10日間にわたり
顧客やスタッフの身体運動や店内行動を計測したデータと
販売実績データを読み込んだ。
その結果、スタッフが入り口正面の通路の突き当りの売り場
(高感度スポット)で10秒間滞在時間を伸ばすごとに、
その時店内にいる顧客の購買金額が平均145円増加する
関係が判明した。

そこで店では、
スタッフになるべく高感度スポットに長くいるように指示をした。
1か月後、専門家の対策はほとんど効果がなく、
スタッフの高感度スポットの滞在時間が1.7倍になり、
店全体の顧客単価が15%向上した。

スタッフに接客されている場面を見ると、
周りの顧客の共感を呼び起こしたのです。

これらの事例では、
人工知能があるべき方向を見つけ出してくれたのですが、
人間が対応するとすれば、どうしたらよいのでしょうか。

そこで必要なのが共感経営です。
外から相手を分析するのではなく、
相手と向き合い、相手の立場に立って、
相手の文脈のなかに入り込んで共感すると、
視点が「外から見る」から「内から見る」に切り替わり、
それまで気づかなかったものごとの本質を直観できるようになります。

そしてものごとの本質を直観するなかで
発想をジャンプさせて跳ぶ仮説を導き出す。
(中略)
人間関係の本質は共感にある。
本書は、企業経営や事業におけるイノベーションや大きな成功は、
論理や分析ではなく「共感→本質直観→跳ぶ仮説」というプロセスにより
実現されることを9つのケースおよび3つの参考事例で示します。
(中略)
さらに、共感を起点にしてイノベーションを起こすには、
市場データなどをもとにした分析的戦略では難しく、
「いま、ここ」の状況に対して、その都度、最適最善の判断を行い、
実行していく「物語り戦略」が必要であることを事例で示します。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
このように共感が人々を駆り立て、
経営としての成功につながると主張され、
紹介されている事例は以下の9つです。

紹介の方法は、事実を述べる「物語り編」と
どういう点が特徴かを述べる「解説編」からなっています。

1、佛子園 Share金沢
2.HILLTOP 遊ぶ鉄工所
3.日産 ノートe-POWER
4.よみうりランド グッジョバ
5.マツダ スカイアクティブ・エンジン
6.NTTドコモ アグリガール
7.日本環境設計 服から服をつくる
8.花王 バイオIOS
9.ポーラ リンクルショット メディカルセラム

事例に共通しているのは、こういうことです。
 そのプロジェクトは会社のメイン事業・メイン製品ではない。
 したがって、担当する体制も資源も恵まれていない。
 多くの場合、周りからは冷たくみられている。
 その中でリーダが、
 将来方向を発想し不撓不屈の精神で仲間・部下を鼓舞して
 部下の共感を引き出し、チーム力でその事業を成功させた。

とにかく、生の事例は読んで「面白い」です。
ワクワクします。
理屈が好きでない方も、ぜひご一読をお勧めします。

2020年7月25日土曜日

「2030年日本の針路」

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 日本の針路を地方再生または活性化に求めている
   具体的な主張を知っていただきます。
ねらい:
 その方向を真剣に検討すべきですね。
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このテーマ名は、アクセンチュア㈱社長江川昌史氏他著
「デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路」です。

さすが、アクセンチュア!という感じで、
データを駆使し丁寧な解説をしています。
最近、これほど具体的な提言書を見たことがありません。
すごいものです。
地域・地方に関心のある方は、是非本書をお読みください。

2030年問題につきましては、2020年1月30日の当ブログ
「2030年ショック!!『純粋機械化経済』の到来」
http://uenorio.blogspot.com/2020/01/blog-post_30.html
でも取りあげました。
「純粋機械化経済の到来」の著者は、井上智洋氏です。
その時の結論はこうでした。
a.中国が世界一の経済大国になる危機
b.AIが職を奪う危機
 その結果、人間に残る仕事は以下の3つになる。
 クリエイティビティ系   創造性  
  曲を作る、小説を書く、映画を撮る、発明する、
  新しい商品の企画を考える、
  研究をして論文を書く、といった仕事だ。
 マネジメント系  経営・管理
      工場・店舗・プロジェクトの管理、会社の経営など
 ホスピタリティ系  もてなし
  介護士、看護師、保育士、教員、ホテルマン、
  インストラクターなどの仕事だ。

どちらかと言えば,
AIの進歩で世の中はこうなっていきます、
たいへんな事です!!という警告調です。

これに対して本書は、
どうすれば日本が、日本人が幸せになれるかを
地方を活かすことで実現しようという前向きの発想です。

その際、DX化は追い風になる、という考えです。
本書の副題に「デジタル×地方が牽引する」とついているのは、
その考えを示しているのです。

著者の意図は、以下の「はじめに」でたいへんよく分かります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(前略)
その頃からかもしれない。
町とは何か、地方都市の未来はどうあるべきかについて
真剣に考えるようになったのはーー
その後も様々な地方都市を訪問する中で、
自分なりに気づいたことがある。

「地方創生」を考えるとき、
「地方」を一括りにして対策を考えても意味がなく、
地域が独自に持つ特色や個性を生かす方向で対策を考え、
講じる必要があるということだ
(上野注:この考えは今や「常識」です)。

例えば、アクセンチュアは東日本大震災以降、
社会貢献活動の一環として福島県会津若松市の復興に深く関わってきた。

会津若松市は人口12万人の地方都市で、
自然、歴史、温泉、グルメなどの観光資源や会津大学など
良いものをたくさん持っており、ある意味有利な地方都市と言える。

もちろん、有利だから復興支援を始めたわけではない。
震災後に何らかの形で東北地方の復興に役立ちたいと、
人の伝手をだどった結果が会津若松市だったのである。

その後、復興に関わらせていただき、
会津の土地が有する良さがどんどんわかってきて、
とても有利な地方都市だと気づいたのだ。
地方都市の中には、人口数万人、あるいは数千人と非常に規模が小さく、
人材や観光資源、財源などに限りがあるところも少なくない。

こうした自治体は、少子高齢化で人口減が進む中
「自前主義路線」で戦っていては生き残りが難しい。
近隣都市や、場合によっては遠く離れた都市とタッグを組んで、
新たな生き残り策、価値の創出ができないかを模索する必要がある。

こうした生き残り策を実行していくうえで追い風となっているのは、
デジタルテクノロジーの進化・深化だ。

デジタルやシェアリング・エコノミーなどの
新しいテクノロジーや思想を活用することで、
地方都市に住む人々が
圧倒的な低コストで心豊かな生活を送れる仕組みが
つくれるのではないかーーー。
私の中でそんな構想が次第に頭をもたげてくるようになった。

地方都市は元来、土地や住居にかかるコストが低い。
これに加えて、生活に欠かせない電気のコストも、
太陽光発電や蓄電技術の進化で今後下がる可能性が高い。

また、今やパソコン1台あればリモートで仕事をこなし、
都会並みの教育やエンターティンメントにもアクセスできる。
2020年春、コロナ禍により在宅勤務を余儀なくされた方の多くは、
それを強く実感したのではないだろうか。

さらに、5G(第5世代移動通信システム)や
xR(エックスアール、空間拡張技術)が本格的に進展すれば、
リモートで実現可能なエクスペリエンスの質やカテゴリーが
一層増えてくるだろう。
ただ、地方都市に住む人は、
残念ながらこの事実には気づいていないことが多い。

また最近、いくつかのベンチャーが地方都市に移転し始めているが、
非常に合理的な考えだと思う。
成功するかどうかわからないうちは、地方にいたほうが、
リスクも少ないし、メリットも大きく感じられる。

ベンチャーだけではない。
都会で買い物難民になっている高齢者や、
高い生活コストを強いられる中、
最小限の出費で暮らしている方々のニュースを見るにつけ、
アンマッチが起きていると感じる。

もちろん、長年住んでいた場所を離れて新たな生活を始めるのは、
心理的にも現実的にも難あしいことが多い。

しかし、2030年に向けた日本社会の針路を再考する中で、
大都市や地方都市がそれぞれの特徴や強みを活かした町づくりを進め、
人々が住む場所や生活の仕方を柔軟に変えることができれば、
社会全体の生活の質・人生の質(QoL=クオリティ・オブ・ライフ)
を高めることができるのではないだろうか。
(中略)
折しも、本書の最終稿を確認している2020年春、
人類は歴史的な危機に直面している。
世界中で猛威を振るう、新型コロナウィルスだ。

私は人類が英知を結集することで、
この恐ろしい脅威にもいずれは打ち勝つことができると信じている。
一方で、落ち着きを取り戻した後、
コロナ以前の世界に生活が戻るのかと言えば、そうは思わない。

私たちが今、思考すべきは「ポスト・コロナ(コロナ後)」
の世界における新たな価値観や常識だ。
これを機に、社会のデジタル化が一層加速し、
テレワークや在宅医療、遠隔教育などが定常化すれば、
地方社会にとってはプラスだろう。

さらに、誰もがどこからでも仕事をこなせる社会を経験した後、
都市、および職場という「場」の持つ本質的な意味合いとは何なのか、
大都市であれ、地方であれ、再考を迫られている。

同様に、平常時では一定の時間がかかる
「ニュー・ノーマル」へのシフトが一気に進む可能性もある。
(中略)
急激な変化は、時に人を不安にさせる。
そして、残念ながら未来を正確に予測することは誰にもできない。
しかし、身近な子どもたちの笑顔を見るにつけ、
世界、そして日本社会をより良い形で後世に残したいという気持ちは、
万人に共通する。

その想いこそが、
「ポスト・コロナ」の世界で正しい一歩を踏み出すための礎となるだろう。
本書に記した内容を、皆さんとともに進化させ、実践することで、
日本全体の活性化に貢献していきたいと切に願っている。
日本社会の未来づくりに、本書を少しでも役立てていただければ幸いです。
(後略)
そのビジョンを以下の点から説き起こしています。
例示した以下の2.以外もすべて図表などで数字が示されています。
1.地方への関心の高まり
 国土交通白書では、「地方移住に関心のある人の割合」が、
 20代でかなり多くなっている。
 
都市生活の限界を感じている人が多いことを示しています。
 在宅勤務の経験が、
 地方在住への関心を高めていることにも触れています。

2.雇用に関する意識の変化
 大企業で定年までという意識が減ってきている。
 「大企業よりも、将来性のあるスタートアップを就職先に選ぶ」
 「フリーランス」や「副業実施者」が増えている。
 
3.サーキュラーエコノミーへの意識の高まり
 「循環型経済」
  ーSDGsが要求する地球環境を大事にする経済である。
 地方の資源の有効活用はこの動きに合致する。

4.スポーツを通じた地域コミュニティの形成
 プロ野球から始まって、
 サッカーのJリーグ、バスケットのBリーグなど
 地域密着型のスポーツは地域振興につながる。

そして、本書は地域活性化の7つの提言をしています。
以下は項目しか示しませんが、すべて具体的な解説があります。

1.内在価値を発掘し、独自の個性を追求する
 その地域の価値が何かを見いだせ、ということです。
 事例1:ICTによる産業集積ー会津若松市
 事例2:食文化やサイエンスを軸とした地域デザインー鶴岡市
 事例3:アートから続く地域振興-徳島県神山町
 事例4:複合拠点による賑わいづくりを通じた移住・定住促進ー岩手県遠野市
 事例5:データ活用による観光振興ー気仙沼市
 事例6:CCRCを活用した地域活性化ー金沢市「シェア金沢」
     注:CCRC:高齢者が健康な状態で入居し、
       終身暮らすことのできる生活共同体

2、他都市との連携で、共創価値を生み出す
 近隣生活圏連携型
 近隣観光資源連携型
 遠隔観光テーマ連携型
 広域経済圏連携型

3.社会インフラ維持のため、インフラコストを構造的に効率化する
 大都市郊外における大都市との連携とコンセッション
 中規模都市におけるコンパクトシティ化とインフラ一括運営
 過疎地における分散型インフラ

4.デジタル活用と地域協調で、サービスコストを効率化する
 RPAやAIを活用した自治体におけるオペレーション最適化
 アウトソーシングの活用による効率化
 中小企業を束ねたコネクテッド・インダストリー
 サービスコストを下げる都市OS

.住民の誘致
 地域価値(内在価値・共創価値)の明確化とターゲット特定
 価値の実現・継続と拡大への投資
 正しい情報発信

6.観光客の誘致
 ターゲットやテーマの集中と選択
 認知がなければ来訪もない
 観光客の立場で考えて情報提供
 データに基づくPDCA

7.企業の誘致
 地域の特色に基づく誘致戦略を打ち出す
 地域で一体感のあるブランディングと粘り強いマーケティング
 移転場所(箱モノ)は需要が発生してから用意する

というような内容です。
久々に日本の将来に希望の持てる気になる1冊です。

日経新聞7月25日の夕刊にも、
身近な地元見直しの例が多数紹介されていました。

2020年7月21日火曜日

新型コロナの中国陰謀説は??

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 新型コロナウィルスの蔓延について習近平陰謀説を検証してみます。
ねらい:
 やはり真実は闇の中です。
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「トランプ大統領は、習近平がコロナを世界に撒いたと言っている」
米国通の日高義樹著「世界ウィルス戦争の真実」ではこう述べています。

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武漢からアメリカに引き上げてきた人々、
特に国防総省や国務省の専門家たちの報告を見ると、
現地では少なくとも2019年11月には
得体のしれない風邪や気管支炎、肺炎が流行していた。
(上野注:11月から始まっていたのですね!)

武漢を中心に新型コロナウィルスが急激に蔓延し、
市民がバタバタと死亡している中で北京政府は
1月26日、武漢を閉鎖したものの、中国人の国内の移動、
外国への旅行などは一切制限しなかった。

そのせいで新型コロナウィルスはまずアジア全域へ、
そしてヨーロッパ諸国、アメリカへと、
世界中にばら撒かれることになった。

12月と1月の2か月で
少なくとも150万人が中国からアメリカに入り込んでいる。
この人たちがウィルスを世界にばら撒いた。
ーーーーーーー
トランプ大統領をはじめアメリカの指導者は、
習近平が国際的な責任を持つ大国の責任者として
倫理的にも道徳的にも許されない行動をしたと非難している。

その証拠として挙げているのは、
中国が自ら決めた法律を破り、
世界中にコロナウィルスを拡散させたことである。

習近平は、
武漢で感染者が出たことをいつ知ったのか明らかにしていないが、
あらゆる状況と情報から判断して、
ウィルスが蔓延しはじめたのを知りながら、
WHOにも、世界の国々にも知らせなかった。

習近平は2003年、中国でSARS騒ぎが起き、
世界中の人々がその対応にあたった際の取り決めに
明確に違反したのである。
(中略)
この法律はWHOとの協定によって
「世界保健条約」と名付けられており、
とくにその第5条から9条によって通告義務を厳しく規定している。

トランプ大統領が重視しているのはこの問題である。
「中国の習近平は自らの国が決めた国際的な取り決めを破って
コロナウィルスを世界中に拡散させた。
これはまさに犯罪的な行動である」

トランプ政権の首脳はこう指摘しているが、
トランプ大統領が批判している問題はまだある。

この取り決めの第9条によると、
WHOは伝染病の感染者が出た国から連絡があった場合には、
直ちにその国を緊急事態地域に指定し、
封鎖するなどの措置を取らなければならない。
ところが
WHOは中国寄りのテドロス事務局長が中国政府の要求に屈して、
2か月以上も緊急事態の宣言を遅らせてしまった。
このことも中国の法律違反であると糾弾している。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
本書は、日高さん(日高氏は大学空手部の1年先輩です)らしい
生々しいレポートですが、要点は以上でした。

これより客観的冷静な分析と思われます小原雅博東大大学院教授の
「コロナの衝撃 感染爆発で世界はどうなる?」によれば、
時系列はこうなっています。
2019年12月8日 初の患者確認(新型ウィルスが確認できた)
     12月30日 李医師がネットでウィルスの危険性について言及
2020年1月1日 感染源と見られた武漢の海鮮市場閉鎖
            当局は「ヒトからヒトへの感染はない」と発表
     1月3日 李医師は公安当局から警告と訓戒を受けた(2/7感染死亡)。
     1月20日 中国政府専門チームが「人から人へ感染する」可能性に言及。
     同日    周氏の最初の重要指示あり。
     1月21日 医療従事者15人の感染が確認された。
     同日    「環球時報]は地方政府の情報公開の遅れを批判
     1月23日 武漢市封鎖
     1月24日 国内団体旅行の中止
     1月25日 湖北省封鎖
     同日    党中央政治局常務委員会で、多くの医者の派遣発表と、
            500億円を投じて1000床を有する臨時病院を
            10日間で建設する指示を出した。
     1月26日 湖北省長、武漢市長、湖北省秘書長の記者会見
            (3人は甚だしい無能ぶりを露呈)
     1月27日 海外の団体旅行とパック旅行の中止
     1月30日 WHOがパンデミック宣言
上野注:
1月20日の周氏の登場から1月27日までの1週間の動きは素早いです。
周氏は20日以前のかなり早い時点で状況を把握して
対応を準備していた可能性がありそうです。

少なくとも1月20日より前に、習近平は状況を把握していました。
数日間は状況把握と対策検討に要したと思われますので、
習近平の陰謀を疑わない場合は、
習近平が知ったのは1月中旬だということになります。

習近平がコロナの威力を知っていて放置したという説では、
1月の2週間、場合によって12月8日以降が空白の期間です。
日高説のような見解だと、習近平の陰謀は
最大で12月8日から1月中旬までの期間が疑われることになります。

小原教授著書後半ではこういう記述があります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
習近平国家主席は、「四つの自信」を唱えてきた。
そこには、
中国共産党統治という政治制度を至上の価値とする政治の掟がある。
自信は確信に変わり、確信は信念となる。
鉄のような信念によってこそ米国との体制闘争に勝利できるとされる。
習近平政権下では、そうした左傾化とナショナリズムが強まっていた。

そんな党の自信を武漢の感染爆発が吹き飛ばした。
情報隠蔽や中央と地方(武漢)の意思疎通の欠如が
初動対応の致命的遅滞につながった。
党は厳しい批判と圧力に晒された。
しかし、
その後の徹底した強権的措置によってウィルス封じ込めに奏功し、
「中国終息と欧米蔓延」という構図が生まれると、
習政権は反転攻勢に出た。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
こういう状況からすると、
意図して発表を遅らせて世界にウィルスをばらまいたという説には
疑問が残ります。

そのリスクがどのくらいのものかは予測が付かなかったでしょうから、
場合によって習政権の終焉につながるかもしれないことに
賭けることはできなかったと思われます。

地方政府の無能のために、
中国国内、欧米各国及び世界中にウィルスをばらまいてしまった、
というのは事実です。
WHOへの報告が遅れたのは意図したことでなくても、
明らかに国(習近平)の責任です。

それが意図したことであったかどうかは不明で、
陰謀説はやはり闇の中です。
このテーマは、継続審議です。

2020年7月20日月曜日

「『AIで仕事がなくなる』論のウソ」

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 AIで仕事がなくなるのかどうかを確認しましょう。
ねらい:
 対人関係能力が重要であることを再認識しましょう。
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本書の主張は「はじめに」に集約されていますので、
それを掲載させていただきます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーこれから15年で今ある仕事の49%が消滅する(野村総研)
ー近い将来、9割の仕事は機械に置き換えられる(フレイ&オズボーン)

オックスフォード大学のフレイとオズボーンが
「AIの進展で起きる雇用崩壊」について研究報告してから
すでに5年経った。
ほぼ同じ手法でコピーのように野村総研が後追い発表したレポートには、
たった15年で半分近くの仕事がなくなると、時期まで明言されている。

そして、両研究に追随する形で、有名なビジネス誌が
「これからなくなる仕事」「生き残るための処方箋」
などの特集を再三企画した。

ここ5年間、世の多くのビジネスパーソンは、
「俺の仕事は大丈夫か?」と冷や冷やしていたのではないだろうか?
ただ、「15年」の3分の1を過ぎた現在、
雇用は減るどころか、世界中がかつてない人手不足に悩まされている。

結果、今度は逆に「雇用崩壊なんてありえない」と
AIの進化を甘く見る人たちも増えてきたように感じる。
正直言えば「今すぐなくなる」論も
「なあに、心配ない」論もどちらにも問題があると考えている。

AIによる雇用崩壊は、実際どこからどんなペースで広がっていくか。
それを実務現場などを取材しながら、明らかにしたのがこの本だ。

なぜ、レポートから5年経った現在も、世界は人余りではなく、
人手不足に悩んでいるのだろうか。
それは先進国各国での少子化や、大規模金融緩和による空前の好景気など、レポートが想定していなかった事象が重なったせいもある。

ただ、それ以外にも決定的な「欠陥」がどちらのレポートにもあった。
それは、雇用現場を全く調べずに書かれているということ、
技術的な機械代替可能性のみを対象にした研究なのだ。

彼らのレポートの骨子を、サービス業、製造業、建設業など
「なくなる」を言われる仕事の現場で、当事者たちにぶつけると、
異口同音に「白けた」反応が返ってきた。

「現場では1人の人が、こまごまとした多種多様なタスクを行っている。それを全部機械化するのは、メカトロニクスにものすごくお金がかかる」
「ある程度大量に発生する業務はすでに、オートメーション化している。残りの部分で自動化できるところは少ない」

こんな言葉を何度も何度も聞かされたのだ。

例えば、ケーキ屋さんのレジ係の場合、
レジ打ち清算行為はAI+メカトロで代用できるだろう。
ただ彼女は、その他にも、ケーキの補充、陳列、サービング、箱詰め、
包装、ショーケース磨き、値札替えなども行っている。
これら全部を1台のAIとメカで対応できるようになど、
10年程度ではとても難しい。

流通、建設、製造の大手企業であれば、
業務効率化への研究投資を大学やメーカーと協働ですでに行っている。
でも、こまごまとした多様な作業の機械化は、どうにもうまくいかない。だから人手が残っているのだ。

ただ、この話を聞いて
「AIによる雇用代替はない」と全否定しないでほしい。
それはこの先15年では難しいだけで、
もう少し長いタイムスパンでは話が異なる。

AIの進化ステージをしっかり理解し、
「いつごろ、どのような技術が生まれると、実際に機械に代替されるのか」も考えていきたい。
フレイ&オズボーンや野村総研が行った研究の不足点を補い、
現実的な雇用代替の道筋を考えていく。

新たなポイントとして
雇用代替の前に起きる「すき間労働社会」という過渡期
の重要性について、かなりページを割いた。

遠い将来、機械が社会全体を牛耳る可能性はある。
(中略)
その時に膨大な時間を持て余すようになった人々は何をすべきか。
いきなりそんなことになったら、人間は途方にくれてしまうだろう。

ただ都合の良いことに
ほとんどの仕事が、
雇用崩壊に至る前に「すき間労働化」というプロセスを経る。
この「すき間労働化」期が
私たちにいろんなことを考えさせてくれることになるだろう。

例えば、回転寿司のような業態を考えてみよう。
比較的、ボリュームの大きい工程は、
すでに書いたとおり、機械化されている。
それは、シャリ(酢飯)を握る機械などだ。

ただ、今の機械の握りはどれも均一のため、
ネタに合わせて最適な柔らかさ・大きさ・形にはなっていない。
だから、名店よりも「おいしくない」のだ。

一方、ネタを最適に切るという機械はまだ実用化できていない。
素材や鮮度に合わせながら、一番おいしい形・厚みに切る。くくる,
それには熟練の技がいる。

近い将来,AIが発展すれば、
これらの工程が自動化・最適化されるだろう。
結果、銀座の名店並みの「切り方」「握り方」が
回転寿司で実現できるようになる。
さぞかし回転寿司屋は大繁盛するだろう。

そうなったとしても、それ以外の仕事は従来通り残る。
たとえば、魚の皮をはぐ、湯につける、氷にくぐらす、
シャリにネタをのせる、シャリとネタを海苔でくくる、
といった作業だ。

機械は、コツや熟練が必要な高度で習得しがいのある技術
(握る、捌くという行為)については、すべて人から奪っていき、
人間は機械のやらないこまごまとした「すき間」を埋める作業を
やるようになっていく。

仕事の中の難しい工程を機械に任せられると、
脱サラしたばかりの素人や、寿司など食べたことのない外国の人でも、
寿司屋で働け、しかもそんな素人だらけの店が、
銀座の名店並みの「うまさ」を誇るようになる。

どうだろう。人々は、つらい修行からは解放されるが、
一方で努力して勝ち取る成長の喜びを体験できなくなっていく。
それでいて、店は今以上に儲かるので給料は上がる。
こんな時期をすき間労働期と呼ぶ。
仕事は簡単なものばかり残り、でも給料は高い。
そして働く人は成長の喜びを失う。
(上野注:この説には異論があります。後掲します)

そう、これは遠い将来の「働かなくても大金を得られ、
膨大な時間を持て余す」時代の先取りともいえるだろう。
こんな、現状→すき間労働化→雇用崩壊という、
ホップ・ステップ・ジャンプがこの本では明らかにされている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この本では、議論の前提としてAIの技術進化を解説していますが、
非常にわかりやすくできています(私がこれまで見た中で最高です)。

「すき間労働」という概念を考案したのは素晴らしいことです。
そして「AIで仕事がなくなることはない」仮説を具体化するために、
全職種を以下の3分類をして
それぞれどうなるかを示しています。
その結論はこういうことです。

職務
現陣容
(万人)
変化
2035年までの
減少人数(万人)
事務的職務
1,850
単純事務はなくなる
310
流通サービス的職務
3,102
基本定型処理はなくなり「すきま労働」が残る。
260
営業的職務
786
対人関係が重要で残る。
合計
5,738

570

この雇用減は、人口減による労働力減とほぼ見合い、
失業状態は発生しないとしています。
著者たちは、3職務群の現場調査もし、統計的な分析もしています。
それは「はじめに」冒頭の調査レポート類と違うところで
高く評価できます。

しかし、この推論全体はマクロ的です。
個人レベルで見ると、
「AIで仕事がなくなる論のウソ」とは言えないのです。
単純事務従事者は、実際に仕事がなくなりますし、
他の職務に転換できなければ、失業者となります。
大手銀行から追い出される銀行員の多くは、
流通サービス業に行くのでしょうが、
それができない人は失業者です。

営業的職務も、
ITを駆使した上で的確な対人関係ができない人は
脱落してしまうでしょう。
上表で、営業的職務は増減なしとなっていますが、
顔ぶれとしては入れ替わりが発生する(=仕事がなくなる)のです。

もう一つ異論があるのはこういう点です。
ITやAIが労働の基本定型部分を担うようになると、
人間に残るのは「すき間」作業で、人間として工夫の余地が少なく
生きがいのない仕事になる、と主張しています。

私は、そういうことはないと思います。
ITやAIの処理と「すき間」作業を組み合わせて、
人間に提供するサービスになるのです。

どうすれば相手に喜んでいただけるか、満足いただけるか、
を工夫することが重要です。
決して無味乾燥ということはありません。

もっともそういう目標意識を持たない人にとっては、
無味乾燥かもしれませんが、
それは現在のサービス業の仕事でも同じことです。

この点も含め、AIの進展によって、
相手に喜んでいただく「ホスピタリティ系」がより重要になる、
という視点が弱いように思われます。

AIでも生き残るのは次の仕事です。
 クリエイティビティ系
 ホスピタリティ系
 マネジメント系

多くの人にとって対応可能なホスピタリティ系の充実
今後の社会のあり方だと、識者は指摘しています。
 トム・ピーターズ「「新エクセレントカンパニー」(ひとが一番)
 野中郁次郎「共感経営」(共感は第6の経営資源)

AIで仕事がなくなるかどうかの結論(上野)は、こうなります。
単純事務または単純作業は,AIまたはロボットに代替されるので、
人間でなければできないホスピタリティ系の仕事に
転換できない人は職を失う。
(失礼ながら、もともと単純事務または単純作業に従事している人で
クリエイティビティ系やマネジメント系へ転換できる人は
少ないでしょう)

2020年7月2日木曜日

「新エクセレントカンパニー」日本の生きる道はこれだ!!

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 これからのビジネスは「人がいちばん」の領域が
 より重要になる、という主張を知っていただきます。
ねらい:
 そのつもりで、ビジネスを考えましょう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
本書は1982年に「エクセレント・カンパニー」として刊行された
トム・ピーターズの40年間の蓄積を踏まえた続編です。
当時は、効率第1主義の米国型経営に対する警鐘として、
世界中に反響を巻き起こしたそうです。
その時は、日本経済も上り調子でしたから、
人を大事にする経営のモデルとして「日本に見習え」という
風潮もあったようです。
その頃、私は自己流中心型で勉強しませんでしたので、
その名著を知りませんでした。


40年間の蓄積だけあって、その主張は多岐に亘っているのですが、
「人がいちばん大事」
「理屈ではなく実践だ」
「現場から変化が生まれる」などが主張の根幹です。


エクセレント・カンパニーの単純な定義は見当たりませんが、
働く人が「お客様が感心するサービスを提供できる」会社が生き延びる。
それがエクセレント・カンパニーである、ということのようです。

本書の章立てはこうなっています。
1 とにもかくにもまず実践
2 エクセレントはいまから5分間のこと
3 組織文化は不可欠
4 中小企業という開拓者
5 何度でも言う──人がいちばん大事
6 トレーニングの鬼 (トレーニングでエクセレントになれ!)
7 テクノロジーの津波、ホワイトカラー存亡の危機、
  新しい道徳的責務
8 不安定な世界で雇用を安定させる
9 「数打ちゃ当たる」法則と「失敗は成功のもと」法則
10 付き合う相手が私たちをつくる
11 デザインへの情熱──もっとも重要な差別化因子
12 TGR(良質指標)に徹底的にこだわれ
   ──付加価値アップのためのさらなる八つの戦略
13 エクセレントなリーダーは聴き上手
14 最前線にいるエクセレントなリーダーは
  もっとも過小評価されている資産だ
15 エクセレントなリーダーへと駆り立てる26の戦術
   (効果は保証付き) 以下太字は私のお勧め。
  MBWA(歩き回るマネジメント
  50%の法則(半分はスケジュールを埋めるな)
  あなたはあなた自身のスケジュール帳だ
  エクセレント な リーダーシップ を 発揮 する重要 な 場
                           として の 会議
  重要なことは一度に一つずつ
  80%の時間を仲間に向ける
  熱意を伝染させる
  ボディランゲージ5倍の法則
  リーダーであることを愛する
  毎日がスタートだ
  リーダシップを発揮するチャンスは1日10回ある
  リーダーの仕事は人間関係
  承認欲求を満たすことは大事
  ありがとうと感謝する 
  礼節―礼儀、気配り
  リーダーの生活の糧は手助け
  読書せよ
  待て(もある)
  効果的なセルフマネジメント
  リーダーの判断に注意(認知バイアス) 
  女性重視
  コミュニケーションの失敗は100%あなたのせい
  謝罪は報われる
  メールの返信あせるな


というような盛りだくさんのご託宣がいっぱいなのですが、
私はこういうことを受けとめました。


これからデジタル化が進んでも、
人間が能力を発揮できる領域は残る、
サービス度の高い社会に変わっていくチャンスがある、
ということです。


本書の中に以下のような
「エクセレント」な事例が紹介されていました。
そういう心のこもったサービスを多くの人は期待しているのだ、
ということです。
「なるほどそうか!」と思い至りました。

ヒル は、 「コマースメトロ」 を 開店 し、次のように語った。
「 お客様には ぜひ支店に足を運んでほしいですね。
支店では、魂のこもった業務を行ない、
間味の ない 口座番号を
深いつながりを感じさせる 家族に変えることができますから」
ヒルの計画は、華やかで活力に満ち た、ワクワクする〝 ストア〟
(支店を指すコマースメトロ用語)をつくることだった。

賃金をはずみ、とことん訓練した熱意のある従業員を
たっぷりストアに配置して真のサービスを提供し、
顧客を〝 ファン〟( これもヒルのお気に入りの用語)に変える。

長い営業時間もコマース-メトロ で体験できるサービスの特徴 だ。
それらの支店は前例のない週七日営業に踏みきった
( しかも、金曜の夜は 夜中まで開い て いる)。

また、非常に複雑な商取引も
あっというまに済ませることができるし、
どれほど むずかしい 問題でも、
文字どおり、ぜったいに「 ノー」と言うなと教わった窓口のスタッフが
独自の方法で解決しようとしてくれる。

 コンピューター の不具合が生じ た とき、ある従業員は、
 顧客が必要としていた期間限定の割引航空券を手にいれるために、
 自分の個人クレジットカードで
 顧客の航空機 の チケット代を仮払いした。
 彼女の機転を きかせた行動 は、 顧客の驚きと畏怖の念だけで なく、
 銀行の上層部からの称賛も引きだし た。
 
 さらに、この銀行は
 つねに「ドッグ・フレンドリー」な銀行であると宣伝してい た。
 いたるところでみられるマスコットのダッフィー
 ( 英国生まれの〝 サー・ダッフィールド〟)はあらゆる宣伝に登場する。
 この銀行に行くと、 出るときには、
 銀行のロゴがつい たイヌ 用の真っ赤なボウル と、
 フンを掃除するときの スコップ( こちらも ロゴ 入り)、
 そしてもちろん イヌ用のビスケットを手にしているだろう
 ( ロンドンで私がそうだったよう に)。
 ビスケットの景品 は、
 数年まえの年次報告では総計200 万個になってい た。

 2007年、 ヒル は 「コマースメトロ」 を
 トロント・ドミニオン銀行 に86億ドルで売却した。
 これこそ、普通とは逆に向かった
 ファン 創出アプローチの効果を実証しているではないか。
(その後、すぐにイギリスで同じようなビジネスを
さらに大規模に展開し成功させました)

デジタル化/AI化で人間は仕事を奪われると心配されています。
極端な説では、半分の人の仕事がなくなる、としています。
この事例は、そのアンチテーゼです。

デジタル化/AI化で,ITやロボットができる仕事を、
私流で整理するとこうなります。

デジタル化/AI化で対応できる「人の価値目標」



人の価値目標体系

デジタル化/AI化

の対応可否

説明

1.五感の満足


支援可能(主体は人)

2.生活の充実


支援可能(主体は人)

3.肉体的負担の軽減


得意とする領域

4.精神的負担の軽減

△→○

部分的に支援可能

5.時間的負担の軽減


得意とする領域

6.金銭的負担の軽減


得意とする領域

7.楽しさの実現


楽しさの内容により

AIが有効である。

8.社会的欲求の実現


AIは人間ではない。

9.承認欲求の実現


AIに認めてもらっても嬉しくない。

10.自己実現欲求の実現


自己実現を助けてくれることがある。


肉体的・時間的・金銭的、そして一部精神的負担を
軽減してくれることは、デジタル/AIが得意です。

楽しくない仕事は、頭を使わない仕事、くり返し作業です。
人間にとっては苦痛(負担)です。

苦痛の対価として給与を受け取っている、と働く人は考えています。
これはAIが代替することが可能です。
人間にとって苦痛である仕事をAIが代わってくれるのは良いことです。

頭を使う仕事は、
楽しいかどうかはともかく少なくとも苦痛ではないはずです。

これから時間給ではなく、成果給に変わっていきます。
成果給は働く者にとってやり甲斐が生まれます。

以下は米国で1978年に刊行されました
ラッセル.L.エイコフ教授の「問題解決のアート」
に掲載されている事例です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 小型精密部品を製造しているある会社は、
完成品の検査員として数多くの女性を雇っていた。
これらの女性は、
彼女達の出来高とは無関係に一定の日給を支払われていた。
彼女達の生産性はかなり低下し、同時に、
まちがって合格としたり不良品としたりした品物の数も
増加しつつあった。

生産性を増加させることとミスを減らすことを期待して、
この工場の経営者は、
もし彼女達の出来高が以前に達成していた水準までもどったならば、
以前よりも、かなり多くの賃金を稼ぐことができる
歩合制の報酬制度を提案した。

ただし、この制度では、
もし彼女達がこの時点での水準を維持したとすると、
彼女達の稼ぎは減ることになるという制度であった。
女性達は、この提案を即座に拒絶した。
 その工場経営者は、
 この返答に驚いたがそれ以外の策を思いつかなかった。
 彼はたまたまこの工場で、
 この問題とは無関係の別の問題の研究にとり組んでいた
 外部の研究グループに助けを求めた。
 
 研究者達は、女性達のほとんどが結婚しており、
 彼女達の夫は仕事を持っていて、
 家族が生活するには困らない額のお金を稼いでいる
 ことを知った。

 女性達は、
 欲しいけれども実際になければ困るというほどでない
 商品やサービスを買うために
 必要なお金を稼ぐために働いていたのだった。
 これらの女性は彼女達の夫と同じくらい稼ぐと、
 夫の持っている一家の大黒柱としての自尊心を
 脅かすことになるであろう と信じていたので、
 夫と同じほどは稼ぎたいとは望まなかった
(これは、ウーマンリブ運動が行われる前の話である)。
 このように、
 彼女達はこれまで稼いでいた額よりも多くを稼ぐことは
 決して望んでいなかったのである。



その上、のんびりしたペースで神経をとがらせずに働くことで、
退屈で単調な仕事にある種のくつろぎを得つつ、
仕事をしながら同僚とおしゃべりすることができたのであった。


さらに重要なことは、
女性達の″ほとんどが就学児童を持っており、
子供達が学校から帰宅したときに家で迎えてやれない
ことに対して非常に罪悪感を持っているということを、
研究者達は発見した。

子供達は
自分で自分の身の回りのことをしなければならないので、
このことが母親達の心配の種であった。
そうでなければ、誰か他人に世話をしてもらうかだった。
このことはまた、人に子供達の世話を押しつけているという
気持の負担を母親達に感じさせていた。

どちらにしても、女性達は
このような不愉快で罪悪感を起こさせる状況を生みだした原因は
会社にあると思い込んでいた。
  研究者達がこのことを知ったとき、
  彼らはひとつの新しい奨励システムを設計した。
  ある“正当な1日の仕事量"――正しく検査された品物の数――
  が具体的に決められた。


 それは検査員の女性達が
 以前に達成していた出来高の最高水準に置かれた。
 そのかわり女性達には、
 決められた出来高に達したときには
 いつでも仕事を終えて家へ帰ることが許され、
 また、それ以上は、彼女達が働きたいと望む時間まで、
 必要生産高に余裕のある限り、
 出来高払いで仕事を続けることができるようにした。


 女性達は、この提案を熱烈に受け入れた。
 彼女達の検査の速さは2倍以上になり、
 子供達が学校から帰ってくるのを迎えるのに
 十分間に合う時間に工場を退社した。
 ミスは減り、満足感は増えた。
-----------------------------------------------
検査員の女性たちが望んでいたのは、給与の高さではなく
時間だったのです。


成果給制度は、このように目標の成果を達成すれば時間は自由だ
ということです。
それだったら、仕事をする人は一所懸命頭を使い工夫して
生産性を高めるでしょう。
本人も充実するし、会社にとってもいいことなのです。

さらに、人々が苦痛になる仕事をやめて、
人に満足・喜びを与えられるような仕事に従事するようにすれば、

今までよりも、人間の満足度が高い社会になります。

満足のいくサービスにはお客様は対価を払います。

人間でなくてはできない仕事、人間がすると喜ばれる仕事が
いくらでもあるのです。

前掲のコマースメトロバンクの例はその典型です。
そういう成功例がどんどん出てくれればいいのです。


今のIT企業の対応は人に不親切で、イライラさせます。
なかなか電話対応をしてくれないのです。
FAQとか称して、「まずそれを見てください」となっていますが、
どれを見たらよいかよく分かりません。
「クソ―」と思います。

私の友人H氏は、私の新著Kindle書籍を購入しようとしました。
しかしどうしても購入にたどりつけないのです。
ギブアップしてしまいました。
私もその著書作成段階で多くの疑問点があり、
それの答えが分かるまでにたいへんな苦労をしました。
途中で「チャット」があることが分かり、ずい分楽になりました。
「チャット」は人間が対応してくれるのです。


今のIT企業、特に米系企業は、
お客様対応をコストだと考えて、効率化を優先しています。

しかし、見ていただいた「コマースメトロ」では、
違う考え方をしています。
「お客様対応はコストではない!!
お客様に対する提供価値そのものである。
効率化をやめ、高いサービスを売りにする、
その対価を認めてもらう。
丁寧に人間が対応するようにすればよいのだ」
ということで、お客様対応に人を投入するのです。
そうすれば、お客様はそちらになびきますね!!


だから、これからのビジネスは、デジタルが担当する領域と
人間が対応する温かみのある領域に2極化していくでしょう。
デジタルが一方的にビジネスを支配するのではありません。


今の状況では日本企業は、
デジタル技術でビジネスを変革していく領域は
米国、そしてひょっとして中国のIT企業にかないません。
しかし、人と温かく接することについては、
「おもてなし」とか「思いやり」の文化を持つ日本が得意のはずで、
これを突き詰めることで、
そういうビジネスで世界に勝てるのではないでしょうか。



しかし、教育・指導をしても、
どうしてもそういう仕事に従事できない人は、
BI(ベーシックインカム)で生活していただくしかないでしょう。
その負担は社会的にみてどこかでできるはずで、
それを決めるのは政治です。


話があちこち飛んで申し訳ありませんでしたが、
そのくらいこれからの社会の行く末は混とんとしているのです。
(言い訳、ごめんなさい)