2016年10月1日土曜日

「私たちは今でも進化しているのか?」

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 人類は今でも進化しているという証拠を知っていただきます。
 ほとんどの人間はミルクを消化する酵素を持っていない、
                     ことを知っていただきます!!
 人類はどこから来たかについてさらに関心を持っていただきます。
 生物進化学はどんな研究をしているのか知っていただきます。

ねらい:
 いろいろ考えてみましょう!
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本稿は、
専門が進化生物学のマーリーン・ズックという
ミネソタ大学教授(女性)の著書の紹介です。



この本のテーマは、興味深く刺激に富むものなのですが、
私が苦手な人文科学系の要素もあり300ページの読破は
たいへんでした。

人間は進化の結果、現在の姿があることは誰でも知っていることですが、
内実でどのような進化が行われているのかは、
あまり知られていません。

現人類を含むヒト科の動物のスタートは、
600万年前なのですが、現人類のホモサピエンスまで
何系統かの属が認定されています。

しかしそれらが進化して、
ホモサピエンスになったということにはなっていません。

ホモサピエンスに最も近い時代に生息していた
ネアンデルタール人は、絶滅したのです。

ただし、ホモサピエンスとの交配も行われ
一部地域の現人類には
ネアンデルタール人固有のDNAが入っていることが
最近の研究で分かって来ています。

考古学では、
いつ頃、その生物が存在していたかは解明できますが、
その間の関係は明らかにすることができません。

伝統的考古学の研究手段は以下のとおりです。

1)人骨
2)動物の遺骨
3)道具の遺品(石、金属、木)
4)文字・文書

これに遺伝子(DNA)という強力な武器が加わって
対象者間(ヒトとネアンデルタール人)の関係の有無が
解明できるようになったのです。

いずれヒト科の人類の相互関係が分かるのかもしれません。

いずれにしても、滅びた種があったことは確かです。

なぜ滅びたのかは興味津々ですが、
そういう証拠は出てこないでしょうね。

近世になってからの人種の消滅は、
相互の武力差による征服が原因です。

アメリカインディアン、オーストラリアのアポリジニ、日本のアイヌ、
ここではほとんど混血は生まれていないようです。
外見だけでなく言葉も違えば交流は起きにくいのでしょう。

そもそも、ホモサピエンスの源流から
各地の人種が派生したのは環境順応なのでしょうが、
何万年・何千年も続くとこれだけ違う外見になるのですね。

肌の色(強い紫外線を避けるために黒くなる)
顔の形(寒い地域では表面積が小さくなるように扁平な顔になる)
は推定されている原因があります。

それだけでなく、東南アジア人でも何系かという特色があります。
すべて何らかの理由があるのでしょうが解明されていません。

ホモサピエンスとネアンデルタール人の交流関係は
どうなっているのでしょう。
興味深いところです。

本書によれば、進化には以下の種類があるそうです。

進化とは、
ある遺伝子の頻度、あるいは個体群における頻度が変化すること、
例えば、
10匹のハムスターのうち3匹がひげを動かせる遺伝子を持っていたのが
6匹になる、という場合である。

進化が起きるメカニズムは4つある。
1)遺伝子浮動
  偶然の出来事でいずれかの能力を持っていた種の多くが死ぬ場合。
2)遺伝子流動
  特定の遺伝子を持ったものが移動をして遺伝子を他に広める場合。
3)突然変異
  環境や体内での不調の結果により遺伝子が変化する場合。
4)自然選択
  環境に適した特性が増加する場合
  負の選択:有害な突然変異が遺伝子から除かれる
  正の選択:以前はなかった新しい遺伝子や
                   数が少なかった有益な遺伝子を増やす


おそらく、ネアンデルタール人は
気候・温度変化やそれに関連した食生物の変化
に適応できなかったのでしょう。

今後あらためて研究してみます。

本書の本題ですが、
著者の功績は、
進化は従来考えられていたように時間がかかるものではなく
短期間で起きることを証明したことです。

著者は、2003年にハワイのカウアイ島で
鳴かなくなったコオロギを発見したのです。

コオロギ自体は150年前くらいにこの島に持ち込まれて生息していた。
ところが、この島にはコオロギの鳴き声を聞きつけて
そこに寄生するハエが住んでいた。
このハエはコオロギの体に穴をあけてもぐりこみ
相手の体を生きたまま食べて成長する。
1週間ほどでコオロギは死んでしまいハエのウジが誕生する。

たいへんな天敵です。

このコオロギに突然変異が起き、
オスが鳴かなくなったのです。
5年ほどで鳴かないオスばかりになりました。
たいへんな進化です。


著者は他の学説に対して的確な疑問を呈しています。
それにならって
私もこのコオロギの突然変異(遺伝子の変化)が起きた
ということに対して疑問を呈します。


もともと鳴かないオスの遺伝子も存在していたのではないか、
たまたまそのオスは優勢でなかっただけだったのが、
この件で優勢になったということは言えないのでしょうか。
現存するコオロギの遺伝子を調べればそのことは分かるでしょう。
調べてあるのかしら?


本題に戻ります。
ところが問題発生です。


オスが鳴くのはそれによってメスを引き寄せるためです。
オスが鳴かなくなったらメスは行き場所が分かりません。

著者たちの観察によると、まだ鳴くオスもいたので、
鳴かないオスは鳴くオスのそばにいてメスにありついていたのです。

しかし、鳴くオスが絶滅すると
この島のコオロギも絶滅ですね。

種の維持にとっては、
個体の維持本能よりも種の維持本能の方が強い
というのが生物学の教義です。

個体を犠牲にして種を守る行動は動物の世界でよく見られています。
ご存じですか?
 女王蜂を中心にした蜂の世界
 ライオンの襲撃から円陣になって守るシマウマの世界
 ある種のクモやカマキリのオスは交尾の最中にメスに食べられてしまう。
 (メスに栄養を与えて元気な子を作ることが種の維持につながる)


人間は食とセックスはどちらが大事なのでしょう?

この教義からするとこの島のコオロギの自然選択は
個体の維持を優先していますから誤っているのです。
寄生バエを受け付けない変異が生まれればよかったのです。

この他、
ガラパゴスフィンチ、グッピー、ヒキガエル、それを捕食するヘビ
漁獲される魚類などが、
環境変化に対応して数世代で変化していく例が紹介されています。
興味深い人間の例も紹介されています。


1.ミルク消化能力

本来の成人はお乳(ミルク)を消化する機能を持っていないが、
地域によってそれが可能となった人類がある、のだそうです。

その「進化」が起きたという発見よりも、
そもそものことがビックリです。

私は毎日牛乳を飲んでいますが、それを消化することができないのなら
何と無駄なことをしたのだろう、と思います。

ミルクにはラクトース(乳糖)と呼ばれる糖が含まれていて
その消化にはラクターゼという酵素を必要とする。
このラクターゼは小腸で生産されるが、
離乳直後に生産が止まるのです。
ということはミルクの消化能力がなくなる
ということなのです。


なぜ、離乳直後に消化不能になるのでしょうか。

必要でなくなるからというような消極的な理由であるとは考えられません。
害がないのならそのままでもよいからです。

やめる積極的理由があるはずです。

これは私の推定ですが、
男が母親のミルクを吸って生存の糧にするようなことがあると、
弱い乳児は生きられません。
よくできていますね。

授乳に関連して過去に私が感心した知識があります、
授乳することによって母親の産道が引き締まっていくのだそうです。
したがって、母乳の出ない母親はそういう機会に恵まれません。


原始の時代には母乳が出ない=育児ができない=種にとって存在価値がない
=男が相手にしない=子供ができない
というサイクルが回って、
母乳が出ない女性は少数になっていった(退化した)ようです
(このことはあまりおおげさに公表はされていません)。

ミルクの消化能力の点の進化は、世界人口の3分の1に発生し、
北ヨーロッパ(特にスカンジナビア半島)、アフリカおよび中東の一部だけ
に起きています。
アジアの国は含まれていません。

推定では牧畜をしている人種に発生した進化だと想定されています。
砂漠ではミルクは汚れていない貴重な水分なのです。

因みに、北ヨーロッパとアフリカ近辺の遺伝子変異は
別の時期にたまたま同じことが発生した珍しい例のようです。


2.高地生活順応

チベットの高地(3千メートル以上)に住む先住民は高山病になりません。
その遺伝子が解明されています。

通常は酸素濃度が低いと赤血球が運ぶヘモグロビンが増える、
しかしヘモグロビンが増えると血流が停滞して障害を起こす。
ところが、チベット人の場合は
酸素濃度が低くなってもヘモグロビンは増えずに
代りに速い呼吸で補っている、
のです。

チベット人が高地に住むようになったのが数千年前ですから、
遺伝子の変化がそのくらい最近に起きている、ということです。

実は高地に住むのは、アンデスにもあり、
こちらは1万1千年前ですが、
そちらの低酸素対応方法は、チベット方式とは異なり
ヘモグロビンが増えても血流停滞を起こさない方式だそうです。

人間が対応方式を考えるのではないので、
目的に合致したいろいろな方式ができるのですね。

その他、青い目はせいぜい6000年~1万円前の間に
染色体のランダムな変化によって起きた 最近の進化の事例
なのだそうです。
なぜ青いのがよいのかの解説はありません。

そもそも本書執筆のきっかけの一つは、
「人類の歴史は10万年、このほとんどが狩猟・採集生活で、
農耕生活はほんの数千年に過ぎず、
したがって人間の身体は狩猟・採集民族のままだ、
それなのに穀物中心の生活をするから不健康になる、
狩猟採集生活に戻るべきだ」
という「パレオ」主義者の主張への反論です。

パレオ とは 「パレオリシック (旧石器時代)」 の略で
パレオ主義は狩猟採集時代の生活に戻ろうという主張です。

著者の反論は
「人類は進化して農耕生活に順応できるようになっている。
狩猟採集生活のどこがよいのですか?
進化には終わりはない、今も人間は進化している」
ということなのです。


セックスの習性
この点についても1章を割いています。
過去の人類の生活がどうであったのかの研究手法は
考古学的アプローチでは不可能です。
せいぜいどんな道具を使って何を捉まえていたかしか分かりません。

それで、以下の方法で補っています。
1)類人猿や他の動物の習性
2)現在も原始生活を送っている人種の生活


他の動物や類人猿との対比は参考にはなりますが、
決めてに欠けます。

 チンパンジーとボノボは乱婚
 ゴリラは一夫多妻
 オランウータンは雌雄とも一生涯単独で行動

人間は最も枝分かれが最後のチンパンジーに近い
のではないか、と考えることは参考になりますかしら?

生物学的には
オスの大きな種は一夫多妻だそうです。
ゴリラのオスはメスの2倍、オランウータンもそのくらい。
一夫一妻のテナガザルは雌雄同じ大きさ
ブラジルに棲むムリキは雌雄同じ大きさだが乱婚

その点からすると人間は
多少男が大きいの程度なので、
一夫多妻の時期は少しはあった程度であろう
としている学者が多いのだそうです。


このテーマでは、もう一つの考えが提示されています。
指の長さです。
男性の指は人差し指が薬指よりも短いことが多く、
女性の場合は、どちらも同じくらいか人差し指が少し長いのです
(知りませんでした)。


類人猿たちの人指し指の比率をみると、
テナガザルは  1.009
チンパンジーは 0.901
現在の人間は  0.957


チンパンジーは乱婚、
テナガザルは一夫一妻性
ということからこの指の比率が男性の強さを表すと考えられている。

その理由は、胎児がお腹にいるときに男性ホルモン(射精)の影響を
どれだけ受けるかで男性性が強くなるかが決まるのだと
考えられているのです。

セックステーマでは、これらの学問の結論は説得力に欠けますね。

まだまだいろいろなことが論じられています。
章立ては以下のとおりです。


序文  速い進化と遅い進化
第1章 マンションに住む原始人
第2章 農業は呪いか、祝福か
第3章 私たちの眼前で生じる進化
第4章 ミルクは人類にとって害毒か
第5章 原始人の食卓
第6章 石器時代エクササイズ
第7章 石器時代の愛とセックス
第8章 家族はいつできたのか
第9章 病気と健康の進化論
第10章 私たちは今でも進化しているのか


しかし著者は 博識すぎるために、引用がすごく多く
また脱線が多くて話の筋が分かりにくくなっている面もあります。
そういう点では生物学だから自然科学なのでしょうが、
著書は完全に人文科学的です。
もっと明快な構成・主張にしていただけたら良かった、と思います。


しかしおそらくありとあらゆる進化生物学のテーマに触れていますので、
本書は進化生物学事典といってもよいような内容です。
このテーマに興味のある方は是非ご一読ください。


ご参考までに
第6章と第10章の見出しを以下に示します。


これらの項目の表現に著者の優れたセンスが伺えます。
たいへん興味をそそられますが流れは読めません。


第6章 石器時代エクササイズ
 積み重ねた石を運ぶ
 座るのは堕落だ
 肥満はなぜ進化で淘汰されなかったのか
 糖尿病と倹約遺伝子
 動かないことは危険信号
 ジョギングは健康に悪い
 団体スポーツは石器時代向き?
 人間は走るようにできているのか
 人類はマラソンの優勝者
 史上最高の空冷エンジン
 賢く走る「耐久ハンティング」
 経験を積めば持久走は上達する
 マラソン嫌いが存在する理由
 マラソンは現代の悪習か
 初期人類は待ち伏せ型
 ランナーが怪我をする理由
 裸足で走るテクニック
 運動能力を司る遺伝子
 五輪選手向きの遺伝子はあるか


第10章 私たちは今でも進化しているのか
 ワニが菜食主義者になる日
 弱肉強食の掟に反する?
 文化も自然選択の一つ
 進化が起きるメカニズム(注:こんなところに基本論があるのです)
 自然選択は今も起きているのか
 身近で起きている進化
 太り気味だが低血圧
 低下した出産年齢
 最速の進化をとげたチベット人
 高地に順応した遺伝子
 自然選択の実例
 自然選択を検知する方法
 さまざまな反論
 耳あかには二つのタイプがある
 進化の急流に流される
 進化自体を過去のものとするパレオファンタジー
 人間は進化の最終形ではない


進化の最終形は何だと思われますか?
寿命のI延長よりもピンピンコロリでしょうね。
ですからまだまだ進化の余地があるのです。


まとめ
著者の主張の要約は以下のことなのでしょう。


人間もまだまだ進化している。
その例は、ミルク消化能力と高地生活順応である。
動物の世界ではもっと高スピードでの進化が見られる。
人類は狩猟採集時代が長かったが、
 その後の農耕生活にも順応しているはずである。


最後にに著者の「ユニークな」文書スタイルの例をご紹介します。


ガラバゴス・フィンチのくちばし

詩人のロビンソン・ジェファーズは、 1936年に発表した
『ワシのくちばし』という詩の中で、
「ワシのくちばしが一万年前から変わらないのと同じように、
人の欲求と本質も、実は昔と変わらないことを知るべきだ」と、
殊勝ぶって忠告している。

フィンチが″急速な進化の殿堂入り″をしたことを考えると、
ジェフアーズが詩の題材としてフィンチ
(スズメ目フウキンチョウ科の鳥)ではなくワシを選んだのは、
おそらく正解だった。

もちろんワシのくちばしが昔から変わっていないかどうかは
正確にはわからないのだから、
「人の欲求と本質」云々もすべて怪しいということになる。

けれども、少なくとも南アメリカの沖合に浮かぶ
ガラパゴス島のフィンチについては、この数十年間で
くちばしだけでなく体の他の部分も変化してきたことが
はっきりしている。

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