本稿は別項「「なぜ医療過誤は起きるのか」の本質解明」の続きです。
「医療ミス」と「誤診」
「医療ミスは、一般紙に広く報道され、
米国科学アカデミー医学研究所に分析され報告される。
薬の投薬量を間違えたり、血液を違う患者に輸血する、
患者のX線写真を裏返しに見たりするようなことだ」
誤診は結果として誤っていた診断・治療で
「医師の思考が見える窓と言える」。
(上野注:どういう思考をしたからそうなったか
が分かる、という意味)
以下に誤診を発生させる思考の偏りを
本書からご紹介します。
「医師も人間である」
著者の考えるこの問題を考える上での大前提はこれです。
「医師も人間である。
医師の内面の状態(著者注:広い意味の思考)
および緊張の度合いが
臨床判断と行動に入り込み強い影響を及ぼす」。
これは、非常に大事なことで
それ以上でもそれ以下でもないのです。
必要以上に絶対視してはいけないし、
逆に、バカにしてはいけないのです。
「医師が患者に対して否定的な感情を抱いている場合、
ほとんどの患者がそれに気づく
という事実を研究が示している」
と本書にありますが、逆も眞です。
いずれも好悪の感情は動物本能です。
相手に伝わらないわけがないのです。
否定的な感情が
相手に良い影響を与えることはないでしょう。
本書で以下の原理を紹介しています。
ヤークス・ドッドソンの法則 「鐘型曲線」
縦軸は作業達成能力
横軸が覚醒レベル
(アドレナリンや他のストレス関連の化学物質による
ストレスの度合い)を示す。
鐘の頂点のところのストレスレベルが
知力と行動が最高レベルを実現する。
【経験によるパターン認識】
「熟練した医師はパターン認識で患者のどこが悪いかの判断をする。
論理的アプローチは20―30分かかる。
パターン認識だと20秒以内」
ですが落とし穴もあるのです。
パターン認識は過去の経験から形成されています。
過去の経験に入っていない事象は
類似の異なる事象に当てはめて判断してしまう
危険性をはらんでいます。
【認識エラー、認知エラー】
何をどう見るか、どう判断するかの誤り。
「エラーの大半は技術的な問題ではなく、
医師の思考法の欠陥によるもの」
「認識エラーの原因の一部は
内面の感情によるものだが、
その感情の問題を我々は認めようとしない。
あるいは気づきもしないのである」
ある調査によると、
「患者に深刻な害をもたらした誤診の80%が
認識エラー」だそうです。
【感情のエラー】
良い兆しが少しでも現れると
願いどおりになると思いこむ。
「たまたま」を、
推論の正しさの証明と勘違いしてしまう。
「相手を思う気持ちは重要だが、
感情が優先してはいけない」
【確証バイアス】 思い込みによる偏り
自分の予想する結果のために情報を選択して
受け入れたり無視したりする傾向
固定観念に反する情報を無視する。
「ときどきみかけます(それはよくあることです)」
で片付けてはいけない
【アベイラビリティ】
ある出来事が起きる可能性を
過去の類似した知見に照らして判断する傾向
来る患者が皆インフルエンザ
→この人もインフルエンザ
→この人もインフルエンザ
【遂行思考バイアス】
何もしないでいるよりアクションをとりたがる傾向
とりあえず、風邪薬を処方する。
これは「問題先送り」を発生させます。
【垂直軸の失敗】
枠の中に閉じ込められた思考で失敗する。
「水平思考」
{待てよ、他にも何かありえないだろうか}
{待てよ、他にも何かありえないだろうか}
で対応する。
【シマウマ回避】
珍しい診断に対して強い抑止力が働く
(蹄の音を聞いたら馬と思う)。
(蹄の音を聞いたら馬と思う)。
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