2023年1月26日木曜日

「『丁寧』なのに仕事が速い人の習慣」

[このテーマの目的・ねらい]
目的:
 いい加減な書名に惑わされた例をご報告します。
 丁寧な仕事が結局生産性も高いことを再確認いただきます。
ねらい:
 「急がば回れ」を肝に銘じましょう!
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本項は、池田ピアノ運送株式会社代表取締役池田輝男氏の著書のご紹介です。
この書名の大きな新聞広告を見て、
「丁寧なのに仕事が速い」とは、どうやって実現するのだろう?
と興味を持って読んでみたのです。

いかに「丁寧」に仕事を遂行するかについて、
たいへん『丁寧』に真面目に解説されていましたが、
それでいて「速い」については一言も触れていませんでした。

「丁寧なのに仕事が速い」ではなく
「丁寧でお客様の信頼をえる」
[丁寧な仕事で売上が倍増」の内容なのです。
それだと当たり前のことで、本は売れないでしょうね。

明らかに羊頭狗肉です。
おそらく出版社(幻冬社)が売らんかなで付けたものでしょう。
しかし、書名は著者の了解も得ているはずですから、
著者にも責任があります。

こういういい加減な書名は結構あります。
このブログで取り上げたものでも以下の例があります。

「目的思考」で学びが変わる
内容的には、そういうことを書いているのですが、
本書の中には一切「目的思考」という言葉は出てきませんし、
書名の由来の説明もありません。

「男性中心企業の終焉」
終焉する、ことを書いているようですが、
男性中心企業はダメになります、改めなさい、という提言書なのです。

「格差の起源」
原著は「人類の繁栄と格差の起源」なのですが、
日本の書名では関心を集めそうな格差だけにしています。
この点は、日経紙に記載された書評でも批判されていました。

「上脳・下脳」 右脳・左脳はもう古い
「右脳・左脳はもう古い」の文言は書名ではなく、
帯に大きく書いてあるものです。
上脳・左脳の区分が右脳・左脳にとって代わるような表現ですが、
本書の内容ではそういうことは書いていません。
上脳・下脳という側面もあるということで、
つまりORではなくANDなのです。
これも明らかに出版社の勇み足です。

これらに比較して、今回の場合は、
書名として誤っていますから最悪のケースです。
 

本書では、以下の章立てで意見陳述をされています。
第1章 なぜ池田ピアノ運送が、お客様に愛されるのか?
第2章 これが本当の整理・整頓!
    「丁寧な仕事」は「準備」が8割
第3章 「丁寧な社員」を育てるために大切なこと
第4章 「丁寧な仕事」を「仕組化」する
第5章 仕事が丁寧になると、人生は豊かになる

要約するとこういうことになります。
・丁寧な仕事をするとお客様に喜ばれます。
・お客様に喜ばれると
 担当者(従業員)も嬉しく仕事に対する意欲が向上します。
・その結果、会社も成長します。
・丁寧の基本は仕事をする時の精神が重要でそれをしつけます。
・丁寧な仕事をするには準備が肝要です。
・準備の基本は5S、特に整理・整頓が重要です。

このことは、どれをとっても常識的な基本論ですが、
それを具体的に解説されています。
たとえば、こういうことです。

「整理・整頓」とは次のような意味です。
・整理―――いるものといらないものを分け、
      いらないものを徹底的に捨てること
・整頓ーーー整理したものを使いやすいように、
      向きと線を揃えて並べること
(中略)
先に述べたように、本格的に整理・整頓をやろうと思えば、
意外と頭を使います。
ひとつひとつの物品と向き合って、
「それは必要なものか、不要なものか」
「どのようにすれば、最も使いやすいか」
と考えていかなければなりません。
だから私の会社では、広い部分ですべてをやろうとせず、
約1メートル×1メートルを「1マス」と決め、
毎朝、その中だけを徹底的に整理・整頓死ともらうようにしています。
オフィスであれば、「今日は机の上」「明日は引き出しの中」
「次の日は本棚」などと、ブロックを決めて取りかかる
のが効率的でしょう。
(中略)
捨てるものを放置しておけば、何度もそれを見返したりすることになり、
結果的には大量の時間を損失することになるのです。

私は、本書を読んでこう考えました。
1)本書の内容からすると、書名は「丁寧な仕事が売上を伸ばす」となる。
 実際に、池田ピアノ社はそうなっています。
2)丁寧な仕事が仕事を効率化する、と明確に主張する。
 なぜなら、丁寧な仕事はミス・失敗を起こさない
 ピアノ運送でのミス・失敗は、ピアノや周辺に傷をつけること、が最大。
 そうなると、修復やクレーム対応に多大な労力・費用を要する。
 (この点は述べられています)
 ゆっくり丁寧な運搬は、時間がかかっても、
 修復やクレーム対応等のロスは発生せずに(この点も主張されています)
 結果的には仕事全体としては大きく効率化される(この点を明示する)

多くの仕事では、ミスの修復に大きな労力が投入されている、
ことが認識されています。

これとは少し違うことですが、
多くのビジネス用プログラムは、正規処理1に対して
不正処理の対応にその何倍ものロジックが埋め込まれている、
と言われています。
システムのテストでは明らかに、
不正処理の対応に何倍もの労力がかけられています。

以前、システム開発作業における「開発ロス(手直し、手戻り、手待ち)」
を調査したところ、開発ロスの対応時間は正しい処理と同程度ある、
ことが判明しました。

ミスが発生しなければ、そのリカバリ作業がなくなりますから、
正しい処理に多少時間をかけても、全体としては「速い」のです。
「急がば回れ」とか、
準備の重要性という点では「転ばぬ先の杖」とか
言われている格言のとおりなのです。

開発ロスが5割あるという前掲の状態だと、
正規作業を2割増しの時間でやっても、ロスが2割になれば
全体としては、
0.5×1.2+0.5×0.2=0.7で3割減になるのです。

本書の主張はそういうことでしょう。

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