2022年10月13日木曜日

「内政の小泉、外交の安倍」「知の小泉、情の安倍」ではないでしょうか?

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 安倍政権と小泉政権の成果の総括的比較を行ってみます。
 (たいへん大きなテーマにチャレンジしてみました)
ねらい:
 小泉純一郎氏に再登板していただきたいですね。
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何とか「失われた20年・30年」を挽回できないものかと
日頃から考えている私がたいへん参考になる著書を見つけました。
それは、星岳雄他著「何が日本の経済成長を止めたのか」
(2013年1月刊)です。

約10年前の著作ですが非常に的確な分析がされています。
書名の問題提起の答として以下が挙げられています。
1.追いつき追い越せ型経済の終焉
2.人口の高齢化
3.増大する非製造業の低生産性
4.ゾンビ企業の助成
5.政府の強い規制
6.マクロ経済政策の失敗(金融・財政)

そして「再生への処方箋」としては、
「規制改革、開国政策、マクロ経済政策の改善」を
具体的に挙げられています。
その対策は今もって実現すべき課題です。

この著書の内容の全体的なご紹介は今回実施しませんが、
この著書の中で、
小泉改革は「正解」で、その後その改革をなし崩しにしているのが、
日本の窮状を招いている、という詳細な指摘があります。

そこで、安倍政権の成果の評価が始まっていることでもあり、
小泉政権の成果と安倍政権の成果を私なりに整理してみよう
と思い立ちました。
それが、今回のテーマです。









1.小泉政権の実績
小泉政権の主要な実績をまとめますと、以下のような表になります。
出典は、前掲書と自由民主党「党のあゆみ 小泉純一郎総裁時代」、
その他のネット情報です。

小泉政権も1982日の長期政権でした。
小泉政権と言えば、
郵政民営化に代表される国内経済の改革を実施したイメージが強いのですが、
安全保障面の改革や外交面での成果も挙げています。
後掲3.の表にありますように、
小泉首相は在任期間中に60か国・地域を訪問しているのです。

ですが、やはり国内経済の改革がすばらしく、
以下のように経済活性化のためのあらゆる側面に手を入れています。
たいへん失礼ながら、よくもこれだけのことに知恵が回ったな、
と思います。
 金融機関不良債権の処理促進
 民の活性化
 地方の活性化
 労働市場の流動化
 農業助成政策の転換
 弱者(ゾンビ)救済をやめ生産性増大指向
 全面的規制緩和指向
 年金財政の長期目標設定

どの課題も、その実現には時間がかかるものばかりですし、
国の長が信念と力を持って推し進めなければ実現しないものです。
残念ながら、5年間の政権では道半ばだったのです。

前掲書にありますように、
その後の政権でそのなし崩しをしたり、手を緩めたりしているのが、
日本経済が停滞から脱出できないでいる原因なのです。

小泉氏の政策を失敗だったというのは、改革反対派の意見で、
そういう人たちにせっかくの改革の実現を台無しにされてしまいました。

小泉政権の実績 2001年4月26日から2006年9月26日まで

時期

名称

内容

備考

2001/6

日米首脳会談

ブッシュ大統領とキャンプデービッドで。

外交

2001/10

テロ対策特措法案

米国主体のテロ対策軍事行動に対する支援方法を定めた。

安全保障

 

自衛隊改正法案

海上自衛隊の海外派遣を可能とした。

安全保障

 

海上保安庁法改正案

海上保安官等が武器を使用する場合の要件を改正

安全保障

2002/9

北朝鮮電撃訪問

金正日に拉致を認めさせ謝罪させた。拉致被害者5人が帰還。

外交

 

金融機関の不良債権処理

不良債権の償却促進、健全化

内政

2003

労働者派遣法改正

労働者派遣の規制緩和

内政

2004/6

民営化関連4法案成立

道路関係4公団の民営化等実現

内政

2004

地方財政の三位一体改革

地方の中央依存を脱却し地方を活性化させる意図

内政

2003

有事関連3法案成立

有事の対応を定める「武力攻撃事態対処法案」「自衛隊法改正案」「安全保障会議設置法改正案」

安全保障

2004

有事関連7法案3条約成立

「武力攻撃事態対処法案」の具体化

安全保障

2004

年金制度改革

年金財政の長期均衡

内政

2005

郵政民営化法案成立

郵政公社の民営化

内政

2005

新憲法草案発表

1955年の結党の際の綱領の一歩前進

憲法

 

大規模農業の促進

補助金支給を大規模農家に限定する方針

内政

2004

食糧需給等に関する法律改正

米の流通が完全に自由化された。

内政

2002年~

FTA締結

シンガポール、メキシコ、マレーシア、フィリピン、タイと締結

外交

2003年~

構造改革特区

サービス部門の規制を緩和する目的で創設された。

内政

まとめ

内政の成果(安全保障)


有事対応の法制化

内政の成果(経済)

金融機関の不良債権処理促進

労働市場の流動化促進

年金財政の長期均衡方針設定

公社・公団の民営化

地方財政の自立性促進

農業の大規模化促進

構造改革特区の創成

外交の成果

北朝鮮金正日総書記と会談

米国との信頼強化

FTAの複数締結

 出典:内閣府「構造改革の考え方」


2.安倍政権の実績
同じように、安倍政権の実績を整理するとこうなります。
主な出典は、自由民主党「党のあゆみ 第二期安倍晋三総裁時代」
とネット情報です。

これで見ますと、集団的自衛権の発動を認める安全保障面の成果や
外交面の成果がかなりあります。
しかし、内政面での成果は
アベノミクスというキャッチフレーズが脚光を浴びたのですが、
結果的には、ほとんど見るべきものがなかったのです。
経済はほとんど成長しませんでした。
ただし、財政対策として、国民が嫌う消費増税を2回実施したのは
評価されるべき成果だと思われます。

外交面では、後掲の表にありますように、歴代の総理大臣の中では
外国訪問数で1位の実績です。
8年弱で、訪問先国・地域は80か国で訪問回数は延べ176回です。
100日当りの訪問数が6.2回でダントツです。
短期だった第1次安倍政権のときにもこの数値は5.5でした。

前掲の小泉首相も在任中に60か国を訪問していますが、
延べの訪問回数で安倍首相が大差でトップです。
同じ国に何度も出向いて「親交を深める」というのが安倍スタイルです。

安倍政権の実績 2012年12月26日から2020年9月16日まで

時期

名称

内容

備考

2006

QUADの原型提唱

第1次安倍内閣時に提唱。2007年の訪印時にもその構想を持ちかけている。

外交

2013年~

アベノミクス発表

大胆な金融緩和、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略

金融政策でデフレからの脱却を試み、財政出動で当面の景気を維持しつつ、その間に痛みを伴う構造改革を実施し、経済を成長軌道に乗せるという流れだったことが分かる。

内政

2013年~

安倍外交スタート

ベトナム、タイ、インドネシアの東南アジア3カ国訪問

外交

「地球儀を俯瞰する外交」と自称し、中東、欧州、アフリカ、南米と、平均して一カ月に一回の割合で頻繁に外国へ飛び、しかも、外遊を単なるトップ会談で終わらせず、アベノミクスと直結させて、日本の優れたインフラ技術、食文化やポップカルチャーを売り込む

外交

20132

オバマ大統領と会談

幅広い分野での日米間の協力強化を確認

外交

20134

プーチン大統領と会談

経済協力、文化・人的交流の促進に加え、安全保障分野において「2プラス2」設置で合意

外交

20139

2020オリンピック東京招致成功

56年ぶりの開催決定。

安倍外交の成果である、という評価もある。

その他

201312

安全保障会議設置法改正

これまでの安全保障会議が国家安全保障会議に再編され、外交・安全保障の司令塔となる

安全保障

20147

限定的な集団的自衛権の行使容認を閣議決定

国民の生命と財産を守るため、憲法の許す範囲内で、同盟国たる米国や価値観を共有する国々と連携して日本はもとより、国際社会の平和と安全を確保することが可能となった。

安全保障

2015

平和安全法制を成立

安全保障

2014年4月

消費税率引き上げ

5%から8%へ。

内政

2015年5月

オバマ大統領と日米共同ビジョン発表

引き続き、日米間の連携を世界規模で深めていくことが示された。

 

外交

米上下両院議員総会で安倍首相演説

54年前の池田勇人首相以来の米国議会での演説。

「私たちの同盟を、『希望の同盟』と呼びましょう。アメリカと日本、力を合わせ、世界をもっとはるかに良い場所にしていこうではありませんか」と訴えた。

外交

201910

消費税率引き上げ

8%から10%へ

内政

内政の成果(安全保障)

集団的自衛権の容認化

国の安全保障体制強化

内政の成果(経済)

(アベノミクスの成果)

 

アベノミクスの3本の矢のうち、成長戦略は具体策がなく、財政出動も不十分で金融政策のみの一本足打法となってしまった。

安倍首相在任期間中の平均GDP(国内総生産)成長率を計算すると、実質でわずか0.9%しかない(2020年はコロナ危機があるので除外してある)。小泉政権は1.0%、民主党政権は1.5%(リーマンショックの反動あり)、大型公共事業を連発した橋本・小渕政権は0.9%と、安倍政権は同率で最下位となっている(四半期ベースの実質GDPを基に年率換算)。しかも安倍政権下の個人消費はマイナスだった。国民の将来不安が原因であると想定されている。

外交の成果

1) 対中国戦略では、インド・豪州・米国と中国囲い込み作戦であるQUADの創成に成功した。

2) 対ロシア戦略では、北方領土返還に対して成果が挙げられていない。

3) 米国との関係緊密化では、トランプ大統領とは緊密な連携を築き、日本の存在感を高めた。

2016年の大統領選に勝ったトランプ氏と安倍首相は約4年間で14回の対面会談と37回の電話協議を重ねた。首相は大統領選直後の同年11月、各国首脳に先駆けて会談。中国、北朝鮮を中心とした国際情勢を説明し、意気投合した。トランプ氏も首相を自らの「指南役」として重視。ともにゴルフを楽しむ仲で。「シンゾー」「ドナルド」と呼び合った。

4) 世界各国との交流では、80カ国を訪問し、日本の存在感をアピールできた(東京オリンピック招致はその一環である)。

3.近時の総理大臣の外国訪問実績

外務省のデータを基に上野が作表。
この実績には、首脳会議等への参加は算定していません。
「訪問国・地域数」は、在任中に何カ国・地域を訪問したかを示し、
「延べ回数」はその延べ回数を示します。
安倍首相の「訪問国・地域数」が80に対して、延べ回数が176ということは、
同じ国・地域に平均2回以上訪問しているということです。     









「人付き合いが苦手な」菅直人氏や菅義偉氏は
ほとんど外へ行っていません。
延べ訪問回数で見ると、こういう順序になります。
 第2次安倍晋三 6.2
 第1次安倍晋三 5.5
 麻生太郎    4.2
 鳩山由紀夫   4.1
 小泉純一郎   3.9
 岸田文雄    3.5
 野田佳彦    3.3
 福田康夫    2.7
 菅直人     1.8
 菅義偉     1.3
やはり、小泉首相は内政重視の方ですね。

4.小泉首相と安倍首相の総括的比較
以上の比較からすると、こういうことが言えそうです。
小泉首相は、経済に対する鋭い認識をお持ちで
その認識に基づく信念
「聖域なき構造改革」を進められました。
安全保障や外交にも的確な判断で目配りをされています。

これに対して、
安倍首相の信念のもとは極めて強い愛国心です。
これはゆるぎないもので,
QUADの発想や米国との関係強化を実現しています。
小泉首相が安倍氏を官房長官にしたのは、
おそらく、この愛国心の真摯さに惹かれたものでしょう。

経済政策に対しては、
残念ながらご自分の見識や信念をお持ちではなく人頼みでした。
(アベノマスクの選定もいい加減でしたね)
消費増税だけは、どこから判断されたか分かりませんが、
英断されています。

小泉首相の評価が、それほど高くないのは、
改革に反対するゾンビ軍団が足を引っ張ったからです。
マスコミも、
多くの国民の短期的な痛みを嫌いますからね。
それがユデガエル民族である「日本的な」国民感情です。

逆に、安倍首相の土俵である外交では、
日本のステータスが上がることに反対する人はいません。
減点がないのです。

安倍首相は、国を愛する気持ちが強いだけでなく、
周りの人々に対しても優しい気持ちをお持ちでした。
人に優しいということは、
「人を見る目が甘い」ということになります。
その気持ちが、「ワルイ」相手にだまされることになりました
(森友学園事件、不適切な大臣選定、「統一教会」との関係、など)。

この状況を総括すると、
表面的には「内政の小泉、外交の安倍」ですが、
その根本は「知の小泉、情の安倍」ある
と言えるのではないでしょうか。

今、日本に必要なのは、
小泉首相が提唱した「聖域なき構造改革」です。
それを実現できる「非日本的」リーダに登場していただきたいですね。

10/15追記
安倍首相の国葬が問題になりました。

1.国葬とは何か 以下、Wikipedia
第二次世界大戦後、1926年に制定された国葬令が失効したことにより、
それによって規定された国葬はなくなりった。
新しい皇室典範の葬儀に関する規定は、
第25条の「天皇が崩じたときは、大喪の礼を行う」という記述のみとなった。
「大喪の礼」は国家儀式として行われ、
その費用が国庫から支出される国葬として扱われている。

第二次世界大戦後、天皇・皇后以外で国葬が行われた初めての例は、
1967年(昭和42年)10月20日に死去した元内閣総理大臣の吉田茂である。
閣議決定による「国葬儀」形式での国葬とし、
国葬の国費負担額は1810万円である。

2022年(令和4年)7月8日に死亡した元内閣総理大臣の安倍晋三も、
国の儀式開催を規定した内閣府設置法第4条第3項第33号を法的根拠として、
閣議決定により同年9月27日に日本武道館で「国葬儀」が開催された。
国庫負担予定額は16億6000万円であった。
(実績費用は当初見積もりより4.2億円少な12.4億円でした)


2.問題となった点
安倍首相の国葬反対運動が発生したのは、
安倍首相が国葬に値しないという主張ではなく、
中には、多額の国庫負担に対して反対という人もいましたが、

基本的には、国葬にする基準が不明である、ということだと思います。

3.改善すべき点
吉田茂のときにも、
吉田茂ならではの功績があったのかどうかはあいまいですが、
その後の歴代首相の中で、安倍首相が大きな貢献をしている、
ということを明確にすべきだったのです。
ドタバタで時間がなかったでしょうが、
見識のある人たちが知恵を絞ればできなくはなかったと思います。

安倍首相を評価するとすれば、
外交での成果ということになるでしょうが
 対米関係の改善、
 中国・北朝鮮などのリスク削減、 
 東南アジア各国との関係改善、
 世界各国との関係改善、
などでの貢献を「具体化・定量化」すればよかったのです。

今後のためにも、そのような基準作りをしておくべきでしょうね。
 

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

素晴らしい分析・比較です   一気に読みました
上野さんが、おっしゃるように小泉さんが返り咲いたら
良いと思います

上野 則男 さんのコメント...

匿名様
コメントありがとうございます。
このテーマについて、あまり反応がないので、
どうなのか、気になっていました。
内容に賛同していただいて嬉しいです。
ありがとうございました。