2022年10月24日月曜日

仏教の「教え」で英語の勉強をしてみませんか?

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 「仏教伝道協会発行の日めくりカレンダー」で
  英語の勉強をしてみましょう。
ねらい:
 日めくりカレンダーは教えが身についてきます。
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近所のお寺のご住職で、
毎朝散歩をされているときにお会いする方がおられます。
私はその時、道路の掃除をしています。

その方が日めくりカレンダーをくださいました。
仏教関係の教えが書かれているのですが、そこに英語訳も示めされています。
トイレに掛けて毎日見ているのですが、いろいろと勉強になります。

日本語の原典の教えは、もちろんたいへんためになるのですが、
その英語訳がなるほどということが多いのです。
そこで、英語の勉強を兼ねてこのブログを作りました。

当然ながら、
「仏教の教え」にコメントすることは畏れ多くてできません。
したがって、以下の表の「上野のコメント」は、
日本語の原典に対する疑問提示はありません。
コメントは、念のための原典の解釈の提示(受け売り)と、
英語の勉強になるかと思われます英語の訳に対する意見です。

因みに私は、高校のときに三省堂主催の全国英語学力テストで、
98点でトップになって優勝カップをいただいた経験もあり、
英語の文法等には関心が深いのです(実用英語はダメですが)。

今回のブログのことを、
当ブログの「英語の言葉遊び」シリーズを書いてくださっていて、
実用英語に強い米野忠男さんに相談しましたところ、
以下の情報をいただきました。
ご参考までにご紹介します。相変わらず凄い知見ですね。

個々の英訳に関するコメントについても、
多数の貴重なご意見をいただきました。
ここであらためてお礼を申しあげます。

このカレンダーを発行している公益財団法人仏教伝道協会について

この教会を設立した沼田恵範氏は、
戦前、仏教の伝道・普及の資金を得るために、
三豊製作所(現ミツトヨ)を設立した。
精密測定器のノギスやマイクロメーターでは国内シェア90%という、
年間売り上げ1200億円の立派な会社で、
技術屋なら誰でも知っている企業。

この教会は世界に進出しており、米国ではシカゴにお寺があった。
ここに私の知人の坊さんがいたので訪問したことがあった。
たまに米国人から仏式の葬儀を頼まれるとのことだった。

ドイツではデュッセルドルフの私が住んだ家の近くに、
この教会が運営するお寺があり、敷地内に素晴らしい日本庭園があった。
地元 住民との交流のために年に何度かイベントが開催された。

沼田恵範氏は、仏教の教えを世界に広めるために、
早くから経典の全文の英訳プロジェクトを立ち上げ、
1966年には日英対訳仏教聖典を完成し刊行した。

当然翻訳には豊富な資金を使い、
内外の専門家や有識者が関わったに違いない。
貴兄も経験したと思いますが、海外のホテルに泊まると、
ホテルの引き出しに聖書が入っている。
私はアメリカのホテルで何度も、
聖書と一緒に英文の仏教経典が置いてあるのを見つけ、
伝道協会は大したものだと、その都度感心した。
調べたら1975年に和英対照仏教聖典を、
内外のホテルに寄贈を開始したことを知った。
今ではフランス語訳の仏教聖典も完成している。

2.日本語の英訳について
まず日本語の英訳の際に日本語と英語の文体の違いを考える必要がある。
日本語では主語が略されることが多いが、
英語では主語がないと文章にならない。
特に経典では金言・格言のように簡潔な日本語で表されるから、
主語や動詞が省略されることが多い。

四文字熟語はその典型で、主語も動詞もないが、意味はバッチリ通じる。
四文字熟語でなくても、
例えば、「勝てば官軍」は主語はないが動詞はある。
これに対応する英語の諺は「Might is right(力は正義なり)」で、
たった3語なのに主語も動詞もあり、さらに韻を踏んでいる見事な文だ。

逆に日本語の諺には主語も動詞もあるのに、
対応する英語の諺に主語も動詞もないケースもたまにはある。
「去る者は日々に疎し」の英語版は、「Out of sight, out of mind」で、
主語も動詞もない。これも韻を踏んでいて面白い。

日本語にはピッタリの英語に訳せない言葉は多い。
よく例に挙げられる「ワビ,サビ」などは英語に訳しようがない。
また自説だが、
夕焼けの情景を表す「茜色」にピッタリの英語の色表現がない。
勿論逆に日本語にうまく訳せない英語も多い。

経典の言葉のように奥深い言葉のぴったりの英語はない方が自然ですね。
「大悲」などもその例でしょう。

英訳が外交上の問題を生んだ歴史的案件を思い出した。
大戦末期に日本政府は降伏を求められた「ポツダム宣言」を
「黙視する」と発表したが、
英語で「ignore」と訳されたので完全拒否と受け取られ原爆投下に繋がった。
日本語の「黙視」は「無視」とはニュアンスが微妙に違うが、
英語で違いが表現できないのでしょう。

ここから本論

仏教伝道協会発行「令和4年一日一訓カレンダー 持戒」の内容

(注)日本語欄の出典に対する注記は、Wikipedia等のネット情報

日本語

英訳

上野のコメント

現在の一瞬を強く生きよう

(仏教聖典)

Concentrate on the present moment.

「生きよう」という投げかけを、より明確なConcentrateという命令形にしています。

欲の薪が智慧の火となる

(仏教聖典)

The fire of wisdom burns off greed like firewood.

注1

卑下も自慢のうち

(ことわざ)

Even humility can become a point of pride.

元は「卑下は自慢の変形です」と諫めているのですが、英訳は、「卑下は一種の自慢だ」ということで、良しあし不明のようです。

さとりへの機縁はどこにでも現れる

(仏教聖典)

Opportunities for attaining

enlightenment appear everywhere.

原典がしっかりした文章になっていますので、直訳でいけています。

人々の利益(りやく)のために幸せのために

(サンユッタニカーヤ 仏教経典の一部)

Let’s live for the benefit and happiness of others.

原典の言葉を、Let’s liveを入れてその意図を明確にしています。

はからいの心から離れる

(仏教聖典)

Be free from the mind of contrivance.

原典の「はからい」は「たくらみ」のような意味なのでしょうか。英訳もそのようになっています。contrivanceはあまり使わない単語です。

大海の一滴

(ことわざ)

We are just drops in the ocean.

素直な訳です。We areを入れて文章にしています。

一切の法は皆これ仏法なり

(金剛般若経 仏教般若経典の一つ)

Every teaching of the Buddha originates from the Dharma.

Dharmaは仏教で「法(自然の摂理)」を示す言葉のようですが、英訳はお釈迦様の教えは、すべて元の「自然の摂理」からきていると言っています。

原典の意図は不明です。

別離は避けられない

(ブッダチャリタ 仏教僧侶である馬鳴の著作とされる仏教叙事詩

It is impossible to avoid separations.

素直な訳です。そういうものですね。

10

心を一方に置けば九方は欠けるなり

(不動智神妙録 江戸時代初期の禅僧・沢庵宗彭が執筆した書物)

If you persist in only one direction,you cannot see the other nine directions.

persistを使っているところが的確です。

11

十人十色

(ことわざ)

Everyone has their own character.

的確な訳です。ただし、主語が単数ですからhasで受けていますが、そのあと、theirと複数形で受けています。そういう言い方もありなのでしょうか。注2

12

道の楽しみをともにせよ

(仏教聖典)

Enjoy the way to enlightenment.

「ともにせよ」を一歩進めて,Enjoyと命令形にしています。

13

花は根にかえり真味は土にとどまる

(報恩抄 日蓮上人の述作)

Beautiful flowers fall and return to their roots,while their delicious fruits decay on the ground.

注3

14

人は愛欲より憂いを生ず

(四十二章経 仏教経典として中国に最初に伝えられたとされる経典

Grief arises from our desires.

文章の構成が違うけれども意味するところは同じです。英訳は「人は」をourとすることで簡明な句にしています。

15

災いは内からわく

(仏教聖典)

Misfortune originates within one’s own mind.

「内」をより明確にone’s own mindと表現しています。

16

正しい目的のために努力せよ

大パリニッバーナ経 ブッダ最後の旅の言行録

Strive to achieve righteousness of purpose.

「正しい目的」を「目的の正当性(あるいは正当性のある目的)」と表現しています。これは的確な翻訳です。right purposeとすると「正しい目的とは何か?」となりますね。

17

仏の光明は是れ智慧の相なり

(教行信証 鎌倉初期の仏書。親鸞の著)

Light from the Buddha is a representation of wisdom.

これも、文章の構成が違うけれども意味するところは同じとなっています。この意味は、仏の教えは智慧の塊です、と言っているのでしょうか。

18

心不浄なるときは仏を見ず

(弁顕密二教諭 空海の著作。顕教(けんぎょう)密教との区別を明らかにしたもの。)

No one can see the Buddha with an impure mind.

英訳は主語を明示していますが、両者の意味は同じです。

心が不浄な時は、大事な原理原則を忘れるぞ、と言っています。

19

自分のつとめに専念せよ

(ダンマパダ。 Dhammapadaは、仏典の一つ

Dedicate yourself to your duty.

元が命令形ですから、英訳はそのままの表現となっています。

20

善悪の二つは両輪の如し

(車僧。謡曲に登場する僧侶

Good and evil are like a pair of wheels.

素直な訳です。

21

沈思冥想

(仏教聖典)

Immerse yourself in deep thought and meditation.

沈思冥想「しなさい」と訳しているのは正解でしょう。

22

事ごとに信あるべし

(十七条憲法)

Trust is important for everything.

信をtrust(信用)と訳していますが、原典の信は「真心、誠実」の方で,その信を持って事に当たれという意味でした。少しニュアンスが違います。

23

一切を捨離すべし

(一遍上人語録)

Free yourself from all attachments.

本当に一切を捨てれば生きている意味がないので、余計なものは捨てろと訳しています。

24

月満つればすなわち欠く

(史記)

A waxing moon will surely wane.

名訳です。waxing moon(満ちていく月)として、動きを表しています。waxとかwaneはあまり使わない単語です。

「調子が良いときは調子に乗るな」といういい教えです。

25

仏の大悲は平等である

(仏教聖典)

Buddha’s compassion is equal toward all people.

大悲をcompassion(哀れみ)と訳しています。大悲はもう少し広い意味だと思われますが、いい英語がないのでしょう。

26

まるまるとまるめまるめよわが心

(木喰行道の歌)

Make your mind calm and serene.

優れた意訳です。

「木喰行道」は18世紀の真言宗の僧です。

27

自己を護り正しい念いをたもて

(ダンマパダ)

Protect yourself and maintain right thinking.

直訳です。

28

もともとものに差別はない

(仏教聖典)

Essentially there can be no discrimination against anything.

「もともと」をEssentiallyと訳したところがミソです。

discriminationの対象を示すのはagainstなのですね(英語のおさらいです)。

29

理を攻めて言い勝つは悪しきなり

(正法眼蔵随聞記。道元の法語を、弟子 懐奘 えじょう が記録した書。 嘉禎年間(12351238)の成立。

Even if you are right,you should not argue to put someone down.

元の意味を的確に捉えた良い訳です。you should not argue to put someone down.で元の意味を表現できていますが、Even if you are rightを付け加えることで、言いたいことをより明確にしています。

30

深い川は静かに流れる

(ことわざ)

Still waters run deep.

注4

31

欲を離れて安らかに生きよう

(仏教聖典)

We should live peacefully by being free of greed.

「生きよう」という投げかけを、We shouldを使ってより明確にしています。

free offree fromよりも免れられている状態を示しています。


注1;欲の薪が智慧の火となる The fire of wisdom burns off greed like firewood

智慧の火というのは、仏教聖典で、智慧煩悩(ぼんのう)を焼き尽くすことを火にたとえた言葉だそうですが、欲がその火の薪になるということを言っています。

英訳は智慧の火が欲を焼き払うとしていますので、意味を取り違えているようです。


注2:everyoneは単数形ですが、意味は複数の人がいる前提ですからtheirは違和感はないのですが、文法的にはどうなのでしょうか、と思いましたら、米野氏からこういう指摘をいただきました。

「確かに動詞は単数なのに代名詞は複数で,我々の習った英文法ではおかしい、しかしこれは,いわば英文の特例で,間違いではないのです。everyoneeverybodyも同じで,単複同形の集合名詞だが、動詞も代名詞も単数になる場合が多い。ただし,この場合のように動詞は単数でも代名詞は複数にすることもある。例文を探すために手元の「新英和大辞典(研究社)」を見たら、「Everyone is cominng, arent they ?(みんな来るんだよね)」という文を見つけた。本来なら「isnt he ?」となるべきです。でも「みんな」というからには「they」の方がピンときますね」

英語の特例として「God say」が正しく,文法に従って「God says」は正しくないと習いましたよね。神様は文法を適用しない例外扱い。孔子曰くも同じで,「Confucious(孔子) say」と言って自分の意見を加える冗句をアメリカでは使いました。

 

注3:花は根にかえり真味は土にとどまる Beautiful flowers fall and return to their roots,while their delicious fruits decay on the ground.

花は咲いたあと散ってその養分は土に蓄えられる、きれいな花が咲くのは、養分を蓄えている土のおかげである、ということで、先祖や先人に感謝しなさいということを説いています。英訳の後半はやや意味不明です。fruitsflowersに含む養分のことを指しているのであれば、decay on the groundでなく、stay in the groundの方がよさそうです。


注4:深い川は静かに流れる Still waters run deep.

主語を入れ替えています。これは諺なのですが、徳のある人、分別のある人は、静かに構えていますよ、という意味で「軽薄」をたしなめているのです。

それに対して、英訳は「物静かな人は奥ゆかしい(のでそういう目で人をみましょう)」となっています。どちらに視点を置くかで伝えたいことが違ってくるのです。

私は当初Still waters run deep.は静かな川は深いから気をつけろ、という警告の言葉かと思ったのですが、米野氏にそういう解釈なないと指摘されました。 










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