2020年9月16日水曜日

「イスラームからヨーロッパをみる」

[このテーマの目的・ねらい]
目的:
 イスラム教とは何なのかを再確認していただきます。
 イスラム教徒と非イスラム教徒の共存は可能なのかを
  研究いただきます。
ねらい:
 イスラムと非イスラムが敵対しない道を見つけたいですね。 
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あまりにもイスラム教について知らないので
勉強しようと思い、当件名の本書を読んでみました。
著者は、おそらく日本のイスラム研究の第1人者であられる
一橋大学名誉教授(社会学の博士)です。

本書は著者にとって、
2004年の前著「ヨーロッパとイスラームーー共生は可能か」の続編であり、
基礎的なことの記述はありませんでした。
そこでネットで以下の情報を把握し整理しました。

1.イスラム教に関する基礎的事項の整理
(1)イスラム教の教義 スンニ派の場合。六信五行 
シーア派は五信十行  出典:Wikipedia
六信
1.(アッラー)
来生:この世の行いの結果としての来生がある。
定命:すべての人間(あるいは万物そのもの)の運命がアッラーフ)によって定められていること。

他は説明省略
2.天使(マラーイカ)
3.啓典(クトゥブ)
4、使徒(ルスル)
5.来世(アーヒラ)
6.定命(カダル)

五行
1.信仰告白(シャハーダ)
アッラーフ(神)の他にはなし。ムハンマドはアッラーフの使徒である。」
2.礼拝(サラー)
ふだんは家庭などで個人で行ってもいいが、イスラムの祝日である金曜日の礼拝(全5回)のうち、少なくとも1回はモスクに集まってみなで行うことが奨励される。
礼拝は15回行う。各礼拝は夜明け前から夜までとなっていて、具体的な時間はその場所での日の出と日没の時間によって変わるため場所と季節の影響により時間が細かく変化する。
3.喜捨(ザカート)
困窮者を助けるための義務的な喜捨を指す。制度喜捨あるいは救貧税とも訳される。本来の意味は「浄め」。
4.断食(サウム)
ヒジュラ暦(イスラム暦)での第9月。この月の日の出から日没までの間、ムスリムの義務の一つ「断食(サウム)」として、飲食を絶つことが行われる。
ただし、昼間に飲食を断つが、日没から日の出までに1日分の栄養補給を行う。
5.巡礼(ハッジ)
すべてのムスリム(イスラーム教徒)にとって、少なくとも人生のうちに1回は、メッカ巡礼が義務付けられている。ただし、すべてのムスリムに課せられる他の四行(信仰告白(シャハーダ)礼拝(サラート)喜捨(ザカート)断食(サウム))と異なり、巡礼は実行できる体力や財力のある者のみが行えば良いものとされている。巡礼期間中にハッジを済ませたものはハーッジュ حاجّ ājj(女性形はハーッジャ حاجّة ājja)、あるいはハーッジー حاجّي ājjī という尊称を得て、ムスリムの社会で尊敬を受ける。

(2)イスラム教の宗派 出典:Wikipedia 

スンニ派
シーア派
生い立ち
後継血のつながりと関係なく、教義(スンナ)を重視する皆の話し合いで決めた。
ムハンメドと血のつながりのあるアリーを後継者とした。
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9
1
教義
大きな違いなし
礼拝
1日5回
1日3回
偶像崇拝
禁止
寛容
特別な儀式
アシュラ
なし
年に1度、自分の体に鞭打つ
代表的国家
サウジ、イラク、トルコ、シリア
イラン、レバノン、アフガニスタン、クウェート、バーレーン
大きな両派の争い
中東の石油利権の帰属・収益配分
アウジがスンニ派重用でシーア派冷遇。

(3)イスラム教の国としての扱い 出典:イスラムへの偏見をなくす会
区分
定義
該当国
タイプ1
法律もイスラム法で支配されている国
イラン、パキスタン、サウジアラビア、モーリタニア、イエメン
タイプ2
イスラム教は国の宗教として認められており、人口の大半(およそ9割)がムスリムである国
エジプト、ヨルダン、クウェート、アルジェリア、マレーシア、モルディブ、モロッコ、リビア、チュニジア、アラブ首長国連邦、ソマリア、プルネイ
タイプ3
イスラム教は国教ではないが、国民の多くがムスリムである国
ニジェール、インドネシア、スーダン、ボスニアヘルツェゴビナ、シエラレオネ、ジブチ
タイプ4
イスラム教徒が国民の大半だが、政教分離をしている国
アルバニア、アゼルバイジャン、バングラディッシュ、ブルキナファソ、チャド、ガンビア、ギニア、カザキスタン、コソボ、キルギス、マリ、ナイジェリア、セネガル、シリア、レバノン、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、トルコ

(4)イスラム教の信者人口
世界の宗教別人口予測 米ピュー・リサーチ・センター予測

イスラム教徒
人数  世界人口比
キリスト教徒
人数  世界人口比
2010
16億人    23.2
21億7千万人 31.4
2050
27億6千万人 29.7
29億2千万人 31.4
2070
       32.3
       32.3
2100
       35.0
       34.0
対岸の火事ではすまされません。

2.著書の主張
著書の構成はこうなっています。
具体的な事実を人文科学者らしく丹念に調査し報告しています。

序章 ヨーロッパのムスリム社会
1章 女性の被り物論争

2章 シリア戦争と難民
3章 トルコという存在
4章 イスラーム世界の混迷
5章 なぜ共生できないのか
おわりに 共生破綻への半世紀

具体的なことをお知りになりたい方は、
是非本書をご覧ください。

当然ですが奥深くて、とてもその全貌を整理することは
私の手に負えません。
せめて分かったことは、以下の点です。

1)イスラム教は、唯一無二の神アラーの命を受けた
  ムハンメドの伝える経典コーランを絶対視する。
  これは一切変えることはできない。
  
  ムハンメドを冒涜することはアラーを冒涜することになるので
  絶対に許せない。

  「悪魔の詩」の関係者にホメイニが死刑宣告をしたのは
  自然なのです。
  肝心のこの著者は英国の本人保護により、難を逃れましたが
  日本語訳を作成した五十嵐一氏は筑波大学内で刺殺されました。
  他には「死刑」の目に遭った者はいません。
  五十嵐氏は本当にお気の毒でした。
  これは1991年で、9・11事件の10年も前のことです。
  心から氏のご冥福をお祈りいたします。

  この事件には後日談があります。
  それまで五十嵐氏の支え役だった奥様の雅子さんが、
  社会の表舞台に登場し、社会的に大活躍をされています。
  この事件がなければ、
  雅子さんは支え役で人生を終えられのではないでしょうか。
  Wikipedia五十嵐雅子  https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%94%E5%8D%81%E5%B5%90%E9%9B%85%E5%AD%90
  
2)その経典にどこまで従うかは本人に委ねられていて、
  本人が経典に従うと決めたら妥協はしない。
3)しかし他人に経典に従うことを強制はしない。

4)イスラム教徒(ムスリム)の対立問題が発生しているのは、
  イスラム教を国の宗教として認めていない国に
  イスラム教徒が移住したことが発端である。
5)ヨーロッパ各国は、労働者として利用するために
  イスラムの移民や難民を受け入れてきた。
6)ムスリムは、毎日礼拝をする、女性の被りもの、など
  日常生活習慣の違いがある。

7)ヨーロッパ各国は、
 同化主義(フランスやドイツ、
  国の制度・習慣に従えば国民として認める)や
 多文化主義(オランダやイギリス、
  あらゆる宗教を同等に扱い国の制度の対象にする)
 で対応しようとしたが、いずれも失敗している。

8)ムスリムは、基本的行動を変更しないからである。
 移民や難民でも、ムスリムにとっては経典は絶対であり、
  妥協して同化されることはなかった。
9) 時に欧米社会に対して敵対的であるのは、
  自分たちが経典に従った行動ができる場を確保するためであって
  自衛的行動である。

10)各国はそういう人たちを自国民として扱うことはしないので、
  彼らは下層階級から脱出することはできなかった。
  移民たちの不満は鬱積していた。
  正社員と非正規社員の区別のようなものです。

11) それでも9・11事件までは、
  イスラムを排斥する積極的な動きは見られなかった。
12) 9・11からはヨーロッパ各国でイスラム=自分たちの敵
  という認識が急速に広まってしまった。

13)そうなると、関係悪化はエスカレートしていく。
14) (著者の結論)
 ムスリムの行動を暴力から引き離すための唯一の方策は、
 ヨーロッパ社会が彼らに対する優越意識を捨てて、 
 ムスリムとはどういう人間であるのかを
 イスラームの文脈から理解しようとすることである。
 その中には当然、弱者を迫害したときにムスリムと言う人間が、
 どれほど怒るかというごく単純な事実の理解も含まれていることは、
 いうまでもない。


何か物足りないですね。

以上の「勉強」を踏まえて
イスラムと非イスラムの共存方法について
以下のようにこの分野に素人の「上野見解」をまとめてみました。

中国の独裁主義・覇権主義を抑え込むよりは、
可能性がありそうです。

1. ヨーロッパ各国は、歴史に裏打ちされた
 国民としてのアイデンティティを持っています。
 このアイデンティティは国境線を引く意義です。
  ドイツは民族(血統)、フランスはフランス語を話す文化、など
  これをとやかく言うことはできません。
 これを認めないと、国家の存在そのものを認めないことになります。
  (注)EUはその方向に進みうるのでしょうか?

2.したがって、
  各国はこれに反する者は対等な自国民として認めません。

3. イスラム教は、ヨーロッパ人から見ると、
  その国のアイデンティティに反する異文化です。

  移民を受け入れているのは人道主義からではなく、
  国民数を増やそうとしてのことでもなく、
  労働力を必要としているからです。
  したがって、労働力が必要なくなると、
  明確に排除の方向に転換するでしょうね。

  名宰相メルケル首相は、2018年3月に
  「イスラム教徒は、ドイツ社会の重要な一部を担っている」
  と発言していますが、
  「ドイツ国民として認める」とは言っていません
 
4. キリスト教とイスラム教を併存させようという多文化主義は
  破綻しています。
  著者の言うように、イスラムの本質を理解しても、
  それを受け入れるということにはならない、でしょう。

5.そこで、ヨーロッパ各国の移民は、
  相手国のアイデンティティを認めて同化し留まるか、
    同化せずに今の冷遇に甘んずるか、
  母国に帰るか、
  を選択するしかないのではないでしょうか、

  それ以外の解決法は、中国がウイグルに対して実行しているように
  強権による強制的な改宗か
  (中国以外ではそんな非人道な対応はできないでしょう)、
  1947年にイギリスから独立した際のインドとパキスタンの関係
  での処理
  (それまでインドに住んでいたイスラム教徒はパキスタンに移住、
  逆にパキスタンに住んでいたヒンドゥー教徒はインドに移住した)
  しかない、でしょう。
  この後者の方法が採れれば良いのですが、
  今さらそれができる状況があるとは思えません。

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