目的:
「今の経済を作ったモノ50」をご紹介します。
「そういうことだったのか」と再認識していただきます。
ねらい:
ご関心あれば、本書をお読みください。
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この件名の書籍は、ティム・ハ―フォードさんという
英国フィナンシャル・タイムズ紙の編集委員も務め、
長年に亘りコラムを執筆されていた「偉人」が書かれたものです。
人類の経済社会に影響を与えたものを50点選び紹介しています。
その博識ぶりには脱帽です。
まずはその50テーマをご紹介します。
50テーマ一覧
章
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項目
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イントロ
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プラウ(鋤)
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1.勝者と敗者
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蓄音器、有刺鉄線、セラーフィードバック、グーグル検索、パスポート、ロボット、福祉国家
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2.暮らし方を一変させる
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育児用粉ミルク、冷凍食品、ピル、ビデオゲーム、マーケットリサーチ、空調、デパート
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3.新しいシステムを発明する
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発電機、輸送用コンテナ、バーコード、コールドチェーン、取引できる債務とタリ―スティック、ビリーブックケース、エレベーター
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4.アイデアに関するアイデア
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楔形文字、公開鍵暗号方式、複式簿記、有限責任株式会社、経営コンサルティング、知的財産、コンパイラ
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5.発明はどこからやってくるのか
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iPhone、ディーゼルエンジン、時計、ハーバー=ボッシュ法、レーダー、電池、プラスチック
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6.見える手
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銀行、カミソリと替え刃、タックスヘイブン、有鉛ガソリン、農業用抗生物質、モバイル送金、不動産登記
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7.車輪を発明する
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紙、インデックス・ファンド,S字トラップ、紙幣、コンクリート、保険、
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結び
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電球
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この50テーマの中から、私が印象に残ったものの
概要を以下にご紹介します。いくつかの内容のご紹介
プラウ(鋤) |
2頭の牛にひかせるスクラッチプラウが農業を食糧獲得手段の主流になることに貢献した。その後モールドボード・プラウが発明され北欧の湿った粘土質の土地を農業適地とした。このプラウは8頭の牛で引く必要があり集団化を促進した。生産性が上がり女性は家で家事をすればよいようになり、妊娠する回数も増えた。
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有刺鉄線
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アメリカ西部で、有刺鉄線で囲うことによって牛など家畜を飼うことが可能となり(逃げていかない)、土地所有の概念も定着化した。
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育児用粉ミルク
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育児用粉ミルクは、女性の労働力化を促進した。
しかし、母乳に比較して弱点があり、それによる幼児の死亡率が高く、知能指数にも差があることが分かってきた。
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冷凍食品
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言わずと知れた食事を作る時間の節減効果以外に、容易に食べられることから間食が増え肥満につながっている。
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ピル
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1960年にアメリカで始めてピルが承認された。ピルにより避妊の成功率は飛躍的に高まり、妊娠により学業を中断しなければならないリスクを避けられるようになった。その結果、女性の進学率及びその後の就業率が高まり、社会を変えていった。
因みに、日本でピルが承認されたのは、1999年で30年も遅れをとっている。
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エレベーター
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エレベーターがなければ高層ビルは成り立たないが、交通機関(地下鉄)の整備もなければ高層ビルは利用できない。エレベーターの普及促進は、早く移動する能力強化ではなく、非常停止できる機能の確立であった。
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経営コンサルティング
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経営コンサルティングの元祖マッキンゼーは、未来会計を作成することが企業の発展につながる説き顧客を集めた。しかしコンサル業が確立したのは、アメリカの金融業界に対する政府規制が財務調査を独立した第3者に依頼することを義務付けた(だから米国のコンサル集団は会計系なのだ)。一旦入り込むとなかなか切られないという実績もある。
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カミソリと替え刃
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ジレットがカミソリを安くして替え刃で稼ぐ方法を開発した。この方式はプリンターとインク、携帯機器と通話料、キンドルと電子書籍、プレイステーションとゲームなどで活用されているビジネスモデルとなっている。
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実際の文章がどういう感じなのかをみていただくために
いみじくも「知的財産」という項目がありましたので、
転載させていただきます。
「知的財産」問題は、トランプ大統領と中国でもめているホットなテーマです。
知的財産の保護については、先進国と後進国でいさかいがあるのは世の常で、
以下をお読みいただくと、19世紀には、今は保護にやっきなアメリカも
保護などしていなかったことが分かります。
こういう調子で50テーマの展開をしているのです。
前掲の50テーマのどれかにご関心がおありなら、
是非本書を読んでみられればよいと思います。
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1842年1月。
チャールズ・ディケンズははじめてアメリカの地に降り立った。
マサチューセッツ州ボストンで
ロック・スターさながらの歓迎を受けたが、
この文豪はある目的をもってアメリカを訪れていた。
雑なつくりで廉価な自作の海賊版がアメリカで出回っており、
この問題に終止符を打ちにきたのである。
アメリカは外国人の著作権を保護していなかったので、
海賊版が横行していた。
ディケンズは苦々しい思いを友人に宛てた手紙につづり、
この状況は、強盗に襲われたあげく、
おかしな格好をさせられて通りを引き回されているようなものだ、
と訴えた。
「作家は、大切なものを奪われ、銃をつきつけられるばかりか、
いかなる姿にされようと、いかなる下品な服を着せられようと、
いかなるたちの悪い輩のところであろうと、
否応なしに引きずり出される。こんな辱めがあるだろうか……」。
力強く、メロドラマを思わせるような比喩だ。
まさにディケンズの真骨頂である。
しかし、ディケンズの主張は明快きわまりない。
ディケンズが求めていたのは、
放っておくと自由にコピー、改変されてしまうアイデアを法律で保護することだった。
特許と著作権とは、
それを独占的に利用することを認めるものだが、
独占は厄介な問題である。
ディケンズのイギリスの出版社が
『荒涼館』の本の価格を不当につり上げていたら、生活の苦しい一般庶民は
大好きな本を読みたくてもあきらめるしかなかった。
けれども、莫大な収入を手にする可能性があるから、
新しいアイデアが生まれやすくなるのである。
ディケンズは長い年月をかけて『荒涼館』を書き上げた。
もしもほかのイギリスの出版社がアメリカ人のように作家を食い物にすることができていたなら、
ディケンズは
心血を注いで作品を生み出してはいなかっただろう。
このように、知的財産について考えるときには、
経済面でのトレードオフが問題になる。
トレードオフとは
メリットとデメリットのバランスをとることである。
創作者に寛大すぎれば、
すぐれたアイデアをコピーすることも改変することもできず、
普及が遅れてしまう。
逆に厳しすぎたら、
すぐれたアイデアが一つも生まれなくなってしようだろう。
テクノクラートたちが善意をもって慎重にトレードオフを
判断するだろうと期待する人もいるかもしれないが、
そこには政治の影がつきまとう。
1800年代のイギリスの法制度が
イギリスの作家と発明家の権利を強力に保護したのは、
当時のイギリスが
世界の文化とイノベーションをリードする存在だったからだ
(それはいまも変わらない)。
しかし、ディケンズの時代には、
アメリカの文学とイノベーションは揺籃期にあった。
アメリカ経済はコピー天国だった。
ヨーロッパが生み出す最先端のアイデアを
できるだけ低コストでとりこもうとしていた。アメリカの新聞は、
ディケンズの作品を堂々とコピーして掲載する横で、
それに苦言を呈するディケンズ氏を攻撃した。
それから何十年かすると、
アメリカの作家や発明家が影響力をもつようになり、
アメリカの立法当局は、
知的財産という考え方を
受け入れるようになりはじめた。
新聞も
かつては反対していた著作権に頼るようになった。
1891年、
アメリカはついに国際著作権を尊重しはじめる。
ディケンズがアメリカで
海賊版撲滅キャンペーンを行ってから、
すでに半世紀がすぎていた。
今日の発展途上国も、
きっとアメリカと同じ道を進むだろう。
他人のアイデアをコピーすることが減って、
自分でアイデアを創造することが増えるほど、
アイデアを保護するようになる。
この分野では、短い期間に大きな動きが起きている。
中国には1991年まで著作権という
システムそのものがなかったのだ。
多くの発明や発見がそうであるように、
近代的な知的財産の概念も、
15世紀のヴェネツィアで生まれた。
ヴェネツィアの特許は、
イノベーションを促進するためにつくられた。
特許のルールは一貫していた。
ある発明が世の中の役に立つものであれば、
それを発明した者に自動的に特許が与えられた。
特許には有効期限があったが、
有効であるあいだは特許を売却したり、譲渡したり、
場合によっては相続させたりすることもできた。
特許が使われないと権利は没収された。
そして、その発明が、
既存のアイデアに強く依存していることがわかったら、
特許は取り消された。
どれもとても現代的な考え方だ。
そしてすぐ、
これもまたとても現代的な問題が生まれる。
一例をあげよう。
イギリスの産業革命期に
偉大な技術者であるジェームズ・ワットが
蒸気機関の設計を改良した。
ワットは何カ月もかけて試作機を開発したが、
その後は、
特許を守ることにそれ以上の労力をつぎ込んだ。
辣腕のビジネスパートナー、マシュー・ボールトンは、
政治力を駆使して議会に働きかけ、
特許延長までさせている。
ボールトンとワットは特許使用料を請求し、
ライバルを叩きつぶしていった。その一人がジョナサン・ホーンブロワーで、
すぐれた蒸気機関を開発したが、破産に追い込よれ、
投獄されることになった。
やり方は汚かったかもしれないが、
ワットの有名な発明には、
そうするだけの価値があったのではないか。
ところが、そうではないかもしれないのだ。
経済学者のミケーレ・ボールドリンとデヴィット・レヴァインは、
蒸気動力を使用した工業を大きく発展させたのは、
ワットの特許の終了だったと論じている。
1800年にワットの特許が切れると、
ライバルの発明家たちは
長年伏せておいたアイデアを解き放った。
ライバルたちを訴えることができなくなった
ボールトンとワットはどうなったのだろう。
結論から言うと、
二人の事業はその後も繁栄をつづけた。
二人の関心は訴訟から、
世界最高の蒸気機関を生産する挑戦へと移った。
蒸気機関の価格を高く維持し、大量の注文を獲得した。
そうだとすると、
特許は蒸気機関の改良を促すどころか、
遅らせていたことになる。
それなのに、ボールトンとワットの時代以降、
知的財産の保護は縮小せずに、拡大している。
著作権の保護期間はどんどん長くなっている。
アメリカでは、
著作権の保護期間はもともと14年間で、
一度だけさらに14年間更新することが
認められていた。
ところがいまでは
著作者の死後70年間保護されるので、
100年以上つづくのがふつうになっている。著作者の死後70年間保護されるので、
特許の幅も広がっており、
漠然としたアイデアにも与えられている。
たとえば、アメリカにおける
アマゾンの「ワンクリック」特許は、
ボタンを一回クリックするだけで
インターネット上の商品を買えるようにするという、
斬新さのかけらもないアイデアを保護するものだ。
いわゆる「貿易協定」に
知的財産に関するルールが盛り込まれているので、
アメリカの知的財産システムは
グローバルに適用されるようになっている。
さらに、
知的財産に合まれる範囲がどんどん広がっている。
プラント、ビル、ソフトウェアはもちろん、
レストランチェーンの外観・イメージでさえ、
知的財産として扱われている。
こうした流れを正当化するのはむずかしいが、
説明するのは簡単だ。
知的財産は、所有者にはとても価値があるので、
弁護士やロビイストを雇うコストを十分に埋め合わせることができる。
一方、知的財産の利用が制限されるコストは
広く分散するため、それに気づくことはまずない。
マシュー・ボールトンやチャールズ・ディケンズ
のような人たちには、
知的財産法をもっと厳格にすることを求めて
積極的にロビー活動する強いインセンティブが働く。
しかし、
蒸気機関を買う人と『荒涼館』を買う人には
接点がまったくないので、
厳格化に抗議する強力な政治運動を
組織できるとは思えない。
ボールドリンとレヴァインは、
この問題に対してこんな過激な提言をしている。
「知的財産をすべて廃止せよ」。
いずれにしても、発明の報酬はほかにもある。
ライバルが少ない状態で「先行者」利益を得られるし、
強力なブランドを確立できる。
商品のことをどこよりも深く理解している
というメリットを活かすこともできる。2014年、電気自動車メーカーのテスラが、
保有するすべての特許を開放した。
電気自動車産業全体が拡大すれば、
テスラの利益につながるという算段だ。
ほとんどの経済学者は、
知的財産をすべて廃止するのは乱暴すぎると見ている。
その重要な事例としてあげられているのが、新薬だ。
新薬は、発明するコストは莫大だが、
コピーするコストはとても小さい。
それでも、知的財産保護派は、
いま認められている権利の幅は広すぎるし、
期間が長すぎるし、異議を申し立てるのがむずかしすぎる
と訴えることが多い。
作家と発明家の保護を狭く、短くすれば、
バランスが戻るうえに、
新しいアイデアを創造するインセンティブが
たくさん与えられるという。
チャールズ・ディケンズ自身は、
著作権の保護が弱まると稼ぎは増えるのだと、
身をもって知ることになった。
アメリカをはじめて訪れてから25年後、
ディケンズはふたたび彼の地に降り立った。
家族の浪費が激しくて、
お金をつくらなければいけなくなったのだ。
アメリカ各地で開いた朗読会はどこも盛況だった。
ディケンズは、
大勢の人が安いコピー本を読んでいたから、
自分の知名度が上がり、
大金を稼ぐことができたのだと思いいたった。
まさにそのとおりだ。
海賊版のおかげで、公開朗読会に人が集まり、
チャールズ・ディケンズは一財産を築くことが
できたのである。
開放したほうが価値が上がるのかもしれない。
海賊版のおかげで、公開朗読会に人が集まり、
チャールズ・ディケンズは一財産を築くことが
できたのである。
その額はいまの価値で言うと何百万ドルにもなる。
もしかしたら知的財産は、開放したほうが価値が上がるのかもしれない。
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