2018年7月20日金曜日

「しっくりこない日本語」

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 言葉の変遷を実感していただきます。
 言葉の変遷をどう受け止めるべきかを考えていただきます。
ねらい:
 新しい言葉、変な用語に気を使ってまいりましょう。
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これは學士會会報2018-Ⅳ号に記載された
北原保雄筑波大学名誉教授の同名の論文の
ご紹介です。


氏は、「古語大辞典」(1983年小学館)、
「日本国語大辞典」(2002年小学館、全13冊75万語収録)
の編集をなさった方です。


こういう方や小学館は偉いですね。大尊敬します。


氏がしっくりこない日本語の代表例として挙げられた
言葉をご紹介します。


1.日本出身力士
 2016年1月場所で優勝した琴奨菊を、
 NHKアナウンサーが日本出身力士と紹介したそうです。
 「モンゴル出身」なら分かるけれど、
 この言い方はないだろうというわけです。
 たしかに違和感があります。


 外国出身で日本国籍を持っている力士と区別するために
 その表現をしたのだろう、と理解はしておられました。
 相撲界が情けないことになっている結果ですね。


2.世間ずれ
 この意味は
 1)世間を渡ってずる賢くなっている人
 2)世の中の考えからずれていること
 のいずれでしょうか。


 1)なのですが、文化庁の調査では、
 正しく理解している人は少数で、
 2014年で55%の人が2)としている、
 16-19歳では85%が2)なのだそうです。
 70歳以上では2)は33%で
 だんだん「ずれて」きていることが分かります。


 世間ずれのは「すれ」の濁りで、「ずれ」ではないのです。


3.一匹羊
 一匹狼に対抗した最近の言葉のようです。
 気が弱くて群れに入って行けず1人でいる人のことです。
 おそらく誰かの造語でしょう。


4.ぼっち
 ボッチは一人ぼっちの略なのですが、
 みんなボッチという言葉があるそうです。
 大勢でいても、皆一人ぼっちで連帯感がない、
 事を指すようです。
 社会現象を反映して新語ができているのでしょうね。


5.噴飯もの
 1)腹立たしくて仕方がない
 2)おかしくてたまらない
 噴は吹き出すなので、2)が正解のようです。
 1)だと憤慨するなら、憤の字だというわけです。


 しかし、1)の意味で使われていることも多く、
 私も1)だと思っていました。
 そのことは、フンパンモノというほどではないですね。


6.流れに掉さす
 流れに抵抗するように棹をさすのではなく、
 勢いを付けるように棹をさすのが正しいのだそうです。
 これも私は間違えていました。


 夏目漱石「草枕」の
 「情に棹させば流される」の意味も誤解していました。
 お恥ずかしい!!


7.住めば都
 1)どんなところでも住みなれてしまえば、そこが
  最も住みよい土地になる
 2)住むのなら都会がいい
 
 これは間違えようがないと思ったのですが、
 若い世代の過半数は2)と答えるそうです。
 これも世相の変化を表しているようです。


8.一姫二太郎
 多くの若い人が、子どもは男二人と娘一人がいい
 の意味だと取っているようです。
 これは願望も入っているのでしょうか。


9.きれくなる、みたく、違くない、
 これこそ変な言葉使いです。


辞書の編集者らしく、若者新語もたくさん紹介されています。


結びのご意見がこうです。


【しっくりこない日本語とのつきあい方】

若い人の使う日本語で気になる表現は、他にもあります。


例えば、「〇〇とは思います」と、
わざわざ「は」をつける言い方です。
この場合、
後ろに反対意見を続けるのが本来の言い方ですが、
大抵、省略されます。
省略するなら、「は」を入れるのは間違いです。


また、最近では若い人だけでなく中高年も、
「私的には〇〇です」という言い方をします。
中には、「学士会館的には」「私がこう言った的な」
と何にでも「的」をつける人がいます。


「学士会館の都合としては」「私の考えでは」「私の経験では」
と正確に話すべきです。

これらの表現は、
「言葉は時代と共に変わるものだ」と思うと、
注意しにくいので困ります。
しかも、本来の意味で言葉を使う人の方が少数派になると、
ますます「それは間違いだ」と指摘しにくくなります。


実際、私が辞書を編纂する際も、
「この使い方は間違いです」と断定的には書けず、
「本来はこの使い方が望ましい」
と控えめな書き方をしたりします。


とは言え、人生の先輩たる私たち大人は、
おかしな日本語を話す若者たちに対し、
言葉の本来の意味と正しい使い方を
教えなければなりません。


彼らの日本語がおかしいのは、
自然な変化の結果ではなく、
言葉をいじり過ぎる結果だからです。


私の場合、「若い人同士で話しているうちはいいけれど、
入社試験の時や年配の人に会う時、
その日本語では恥をかくよ。教養を疑われるよ」
と言って注意しています。


ただし言葉は生き物なので、
「その使い方は間違い。正しいのはこちら」
という言い方はしないようにしています。
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先生の悩みがよく分かる言い回しですね。
難しいテーマです。





















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