2018年7月23日月曜日

類人猿からの「食の進化と共生」

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 人類の歴史を再認識していただく。
 人類の進化を再認識していただく。
 新しい発見をしていただく。
ねらい:
 そういう観点で人類の先行きを考えてみましょう。
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この項は、學士會会報2018-Ⅳ号に掲載されました
山極壽一京都大学学長の「食の進化と共生」のご紹介です。


氏は、ゴリラ研究の第1人者だそうです。
人類の祖先、類人猿の生活については、
かなり多くのことが分かって来ていますが、
このレポートでずい分新しいことがありました。


その一部をご紹介します。


1.基本
 現在、地球上に霊長類は約300種類いる。
 約6500万年前、最初の霊長類が誕生した。
 約3千万年前、霊長類はサルと類人猿に分かれた。
 1300万年前、オランウータンが分かれた
 次に、ゴリラが分かれ、チンパンジーが分かれた。
 700万年前、人類の祖先が誕生した。


2.現在,アフリカで類人猿が住む地域は熱帯雨林地帯である。
 類人猿はずっと熱帯雨林に閉じこもって生きてきたのに対し、
 人類の祖先は700万年前に、熱帯雨林を離れサバンナに出ていった。


3.アフリカに生息する類人猿の種類とサルの種類の総体割合をみると、
 2千万年前は、ほぼ類人猿しかいなかったのに、
 その後サルがどんどん増え、
 現在は、50種類以上のサルがいるのに対して。
 類人猿は4種しかいない。


4.類人猿がサルに追われて衰退した理由
 サルは、咀嚼と消化の機能が強く、
 果物を青いうちに食べる。
 完熟果しか食べられない類人猿は食べるモノに不足をきたした。
 つまり負けである。


5.そこでヒトは、熱帯雨林を捨てサバンナに出て行った。


6.食べ物を分配する類人猿と、分配しないサル
 類人猿は育児負担が大きく、
 しかも少い食物を子供に分け与えないと種族の維持ができない。
 成長が早く食物が多いサルは、分け与える必要がない。


7.人類だけが、他人にも食物を分け与える。
 厳しいサバンナでは
 お互いに助け合わないと敵から身を守れなかった。


8.人類は、直立2足歩行になって手が自由になり、
 食物を運べるようになった。
 家族や仲間のところに食物を運び共有できるようになった。


9.260万年前に肉食が始まり、
 脳容量を増大させるエネルギーを確保できるようになった。
 その頃、脳は600ccを超えた。


10.180-100万年前、3回目の食物革命で、
 火を用いて調理するようになった。


11.12000年前、4回目の食物革命で
 食糧生産が始まった。


12.群れの規模と脳に占める新皮質の割合は相関がある。
 350万年前、脳容量はゴリラ並みの500cc 集団は10―20人
 200万年前、脳容量は800cc 集団規模は30‐50人
 現代人 脳容量は1500cc 集団規模は150人
 アフリカのピグミーやブッシュマンの平均的な村の規模は150人


13. 現代人の脳容量に最適の集団規模が150人だとすると、
 我々の社会がそれ以上に拡大したことに、
 人間の脳が追い付いていないのかもしれない。


14.集団のサイズに応じたコミュニケーション
 10-15人 スポーツチームのコミュニケーション
        目配せや体の動きで意思を伝える。
 30-50人 学校のクラス、軍隊の中隊
        互いに顔と性格を熟知し、
        1人の指導者の下で動ける。
        歌などで気持ちを共有する。
 100-150人 顔と名前が一致する数で、
        信頼できる仲間の最大値
        言葉が必要になり、言葉が生まれた。


15.類人猿にはない、人間のの特徴
  重い赤ちゃん、早い離乳、遅い成長
  700万年前にサバンナに出たのが原因
  幼児は肉食獣の餌食になったので多産で補った。
  それには早い離乳が必要だった。
  成長が遅いのは、体の成長より脳の成長を優先したから。


16.脳は12―16歳で完成する、その後体が急成長する。


17.人間の赤ちゃんがよく泣き、よく笑うのは、
  新生児が重く母親が抱き続けていられないので
  様々な人に保育に参加してもらうため。
  →へーそうなのですか。


18.2足歩行で産道が狭くなったので、
 胎内で脳を大きくすることができなくなった。
 出産後の1年で脳は大きくなる。


19.子供を産めない老年期が長いのは。
 幼児の保育を支援するため。これにより人類の生存率を高めた。


20.人間の認知能力は若いうちに急成長し、
 26歳でピークを迎えた後、
 ゆっくり減退し老年期まで高いレベルを維持する。
 老年世代は高い認知能力を用いて次世代に自分の経験を伝え、
 子孫の生存価を高めている。
 認知能力の維持と言葉の発明が「老年期」を長くした。


21.現代人は、非感染性の慢性的疾患に苦しんでいる。 
 糖尿病、心臓血管疾患、腎不全、関節リューマチ、がん、」
 骨粗しょう症、アレルギー、喘息、パーキンソン病、自閉症
 近視、不眠症、扁平足など。
 原因は、人工的環境と体のミスマッチで、
 人体は長い年月かけて自然環境に適応してきたので、
 人工的環境にすぐに適応できない。


最後に、山極先生の提言をお伝えします。
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「現代の危機を乗り越えるために」


現代は環境を整備して安全を得ることはできても、
安心を得るのは困難な時代です。
安心をもたらすのは、人との直接の繋がりだからです。


「無条件で信頼できる人の数は百五十人」と申しましたが、
こうした社会資本が身の周りから消え、
不安は増大する一方です。

個人や家族が、コミュニティから切り離され、
裸で国や制度と向き合わなければならない。
インターネット上で
見えない人々から評価される場面が拡大したことも、
不安を増大させています。


私が特に心配しているのは若者です。


彼らは「知識はネットから簡単に手に入る」と思っているので、
「他者の中に蓄積された知識を教わり、
自分の中で様々なものと混ざり、
自分の一部となったものを表出する」
という一番重要な過程を知りません。


仲間との繋がりも、身体の繋がりではなく、
ITを通じた脳の繋がりに時間を使っているため、
若者は孤独になる時間がなく、
他者との交流も自己決定も苦手です。

ITにも長所はあります。
ITが作るネットワーク社会は格差が見えず、
しがらみも中心もなく参加しやすい点です。


しかし、中心がない故にリーダー不在で意見がまとまらず、
顔が見えないために信頼関係が欠如し、
炎上や修復不能が起こりやすいのが欠点です。


今は子育てさえ効率化が求められ、家族が崩壊しつつあります。


私は数年前、『”サル化″する人間社会』を書き、
「子どもの成長に合わせた社会を作っていかないと、
サルの社会に逆戻りする」と警告したことがあります。

サルの社会は
予め優劣が決まっている厳密な序列社会なので
喧嘩さえめったに起こりません。


効率を重視してルールだけに従う社会になれば、
相手の事情も考慮しないので、共感能力が減退し、
それを元にした信頼関係も消失します。


このままだと人間社会も、
「自分の利益を高める人とだけ繋がり、
それ以外の人は排除する」
という閉鎖的な社会になっていきかねません。

さらに今後、これまでの多子高齢化社会ではなく、
少子高齢化が進んでいきます。
人類初の事態です。

これらの危機を乗り越え、次世代のコミュニティを築くために、
IT技術を賢く利用し、
ネットワーク型の連携をしつつも身体や五感を使い、
集団規模に適した交流を深めていくことが大事です。


人工的環境と身体のミスマツチを克服するため、
環境に優しい制度を作り、
自然と付き合う時間を増やすことも大事です。
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本当にそのとおりです。 
並の大局観ではなく、何万年のレンジでモノを考える必要が
ありそうですね。

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