目的:
マツダの達成した偉業を知っていただく。
偉業達成の成功要因を知っていただく。
理想的マネジメントの1実例を知っていただく。
ねらい:
この成功要因の一つでも取り入れましょう。
ぜひ本書をお読みください。
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これは素晴らしい成功物語です。
力任せではなく、必死で知恵を出して
世界の並みいる競合に勝ったという日本が世界に誇れる成果です。
成果は、
1.2014年の日本カー・オブ・ザ・イヤーにマツダのデミオが選ばれた。
2.デミオに搭載したマツダの開発したSKYACTIVエンジンは
世界最高の圧縮比14で
燃費性能はハイブリッド車並みのリッター30キロを達成した。
こんな画期的なことをどうやってマツダは実現できたのでしょうか。
それを謙虚なスタイルで紹介しているのが、
マツダの常務執行役員で、
この技術開発の先導役を果たした人見光夫さんの書かれた
「答えは必ずある マツダ流「選択と集中」とは!?」です。
先ず、本題に入る前に、人見さんが指摘する
電気自動車やハイブリッドカーの限界を確認しましょう。
常識に対するアンチテーゼです。
電気自動車に対する疑問
電気自動車は排ガスが出ないというが、
火力発電で電気を起こす時の排ガスはどうなっている?
CO2の排出の少ない発電方法が確立しない限り
環境負荷が小さいとは言えない。
1充電で200キロしか走れないでいいのか?
1充電に7-8時間もかかるぞ!
大半の車が電気自動車になった時には電気が足りなくなる。
ハイブリッド車も基本的にはガソリン車である。
大きなモーターと大きなバッテリが必要で高コストである。
利用者は燃費の良さで価格差を回収しようとしたら
普通はとてもできない。
電池の交換も高い。
「ハイブリッド車に乗っているという自己満足以外のなにものでもない」
(これは上野の言葉です)。
これから本題です。
人と同じことをやっていてはダメ、
トヨタに対抗してハイブリッド車を開発してもとても太刀打ちできない、
ガソリンエンジンの改良でハイブリッド車並みの低燃費を実現しよう、
ということで2006年にSKYACTIVの開発が始まりました。
目標は、
ハイブリッド車並みの低燃費のエンジンで
走りがよい車を開発する、
でした。
ハイブリッド車全盛の時代に
マツダは腹をくくった賭けに出たのです。
トップ企業でなできないこと、
3番手以下だからできた一か八かの賭けです。
電気自動車の時代にガソリンエンジンの機能強化をしているのか、
などと言ったそうです。
いつだって、評論家の言うことは信用できません。
この開発を始めたときの
先行開発部(商品開発の前の基礎技術を開発する部隊)は
僅か30人でした。
大手には1000人もいるのです。
そこで、立てた基本検討方針は、
「将来の方向を定めて焦点を絞った技術開発をする」
[CAEを駆使した開発を実行可能にする」
CAE=Computer Aided Engineering
という「省力化対策」でした。
「選択と集中をして絞り込むしかない」のですが、
具体的な開発方針はどうだったのでしょうか。
以下本書からご紹介します。
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では、たった三〇人程度で何ができるかー
そこで考えたのが「選択と集中」である。
もっとも、私たちの選択と集中は、世間で考えられているような
多くの課頴の中から何かを捨ててどれかを選んで集中するというもの
ではなく、仕事の対象となる多くの課題のうちに主要な共通課題と
言えるものを見つけ出し、それに集中するというものである。
一つひとつの課題に対応していたら、人手もお金もまったく足りない。
そこで、これを解決すれば他の課題も連鎖的に解決される、
というような主要課題を探したのである。
ボウリングでたとえるなら、これに当てれば連鎖的に残りのピンも
倒れるヘッドピン(一番ピン)を見つけ、
それに当てることに集中するということである。
「技術開発面でのヘッドピン=進むべき方向を定め、
焦点を絞った技術開発を行なう」というわけである。
そのために究極の理想像を描き、そこに向けてロードマップを描いた。
例えばエンジンでの燃費改善技術について、
各社で実施されている技術名を列挙すると山のようにあった。
しかしよく考えると、それぞれ名前が違うだけで目指すものは
同じではないかと思い至った。
エンジンの燃費改善とは、結局エネルギー損失をいかに減らすか
ということに他ならない。
そこで、エンジンの持つエネルギー損失には何があるかを考えた。
まずは、「排気損失」がある。
排気管から出ていく排気ガスは熱を持っているが、
この熱こそがエネルギー損失だ。
そして、高温高圧で燃やすから熱が壁を伝わって逃げていく。
これは「冷却損失」と呼ばれるものだ。
また、金属同士がこすれ合うことで「機械抵抗損失」が生まれる。
そして、空気を吸って押し出す作用で、「ポンプ損失」と
呼んでいる損失。
人間がストローを吸いながら深呼吸することを想像してみてほしい。
エンジンも一所懸命に空気を吸い込む時はしんどい。
空気を吸い込んで、燃えカスを吐き出す時に、
そのしんどさからポンプ損失は起こる。
この四つの損失を減らすことが、エンジンの効率改善、
燃費改善そのものである。
図表2は、この四つの損失に対応して、私たちがコントロール
できる制御因子を並べたものだ。
圧縮比、比熱比、燃焼期間など、七つの制御因子が考えられた
エンジンによる効率を改善する技術は、要するに
このどれかをコントロールしようとしているのに過ぎない。
この七つの印紙の詳細については後ほど述べるが、
私たちは、その七つの因子について、三段階のステップで
理想に持っていこうと考えた。
効用改善技術は100も1000もあると思えば迷うが、
制御できるものは七つしかないとわかれば、
寄り道をしないで済む。
またその壁がいくら高いからといって、逃げることもなくなる。
自分達がいま、どの辺りにいるのかもわかる。
だから、この時期にここまで行けば世界一だよと言えるように
ステップを分け、ロードマップを描くことができた。
このようにゴールを明確にし、そこに至る道筋を見通すことが
できれば他社が何をやっていようと気にすることなく進める。
当時の最大の課題は「世界一の高圧縮エンジン」
目前に迫った厳しい燃費規制に対し、
技術的にいかに対応するか、圧倒的に少ない人員でいかに
大きな技術的飛躍をするか、他社が行なっている数多くの
技術開発にいかに勝つか。
これらの課題に対するヘッドピンを見つける方法は、
究極の姿を描いてそこに至るロードマップを描くということに
尽きると思う。
ガソリンエンジンの場合は、ロードマップの最初のステップとして
七つの制御因子のうち、高圧縮比化、吸排気行程圧力差低減、
機械抵抗損失の低減を位置づけた。
これらは理想から遠い五つの因子(後述)のうちの三つである。
こうして完成したのが、SKYACTIV-Gと呼ばれるエンジンである。
このエンジンの一番の特徴は、「世界一の高圧縮エンジン」
を謳っているが、「圧縮比」だ。
圧縮比を高めればエンジンの効率が高まることは、
エンジン開発に携わる人間であれば誰でも知っている。
しかし、それを実現するためには大きな壁が存在する。
ノッキングという異常燃焼だ。
常識として圧縮比を追い求めてもほぼ限界に近づいているので
無理だと考えて、これを大きく高めようとチャレンジする
ところはどこにもなかった。
しかし制御因子は七つしかない。
しかも理想から遠いのはその中の五つなので、いつまでも後回しに
はできない。だから私たちはチャレンジした。
では、そのためにどんなに画期的な技術を適用したのか。
どんなに複雑なことをしたのか。
そう問われると、従来知られているものを組み合わせただけで
あると答えるしかない。
最も重要なのは、常識にとらわれない発想そのものなのだ。
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要約すると、こういうことでしょう。
何が目的を実現する鍵になる要因なのか、
ヘッドピンを探す。
ヘッドピンが分かったら、
自分たちが制御できる因子を見極める。
その改善に集中的に取り組む、という段取りです。
教科書に書いてあるような目的指向のアプローチです。
これ以外に
本書で人見さんが述べている名言を以下にご紹介します。
「答えは必ずある」と信じる人に、答えは見つかる
「できない」と言わない。
優秀さを前向きに使う人、後ろ向きに使う人
組織の課題対策のヘッドピンを探る
全体像がわかれば、進むべき方向性も
自分のポジションも見えてくる
やってみる前に諦めることほど愚かなことはない
いつだって課題をシンプルに見つめ続ける
常識が邪魔をすると山の上の景色が見られない
ロードマップを示して、メンバーに道を教えるのがリーダーの役目
人見さんは東大工学部出で、15年間技術研究所にいた方です。
そういう技術屋さんがこれだけの視野の広い取り組みをされたことは
たいへん失礼な表現ですが、大きな驚異です。
マツダという企業風土の中でなければ実現しなかったことでしょう。
このマツダの成功要因は、
取り組んだリーダ人見さんの素晴らしさ・優秀さですが、
アプローチ法としては以下のように整理できると思います。
1.目的思考
敵に勝つことのできる優れたエンジンを開発する(ねらい)、
そのためにハイブリッド車並みの低燃費を実現する(目的)。
目的思考は、
システム企画研修の研修の目玉である価値目標思考のコアです。
2.制約理論(TOC理論)
何がネックかを探ってその解決に注力した。
「トップピン」探しです。
それは圧縮比でした。
当書の出版に岸良祐司さんが関わったのは偶然ではないでしょう。
久々に満足のいく著書を読むことができました。
3 件のコメント:
EVは、急速充電なら30分です(それでも30分かかるのですが)。
公平を期するため、追記した方が良いかと思います。
ご意見ありがとうございます。
本書では以下のように書いてありました。
一般的な充電装置ではフル充電に7-8時間ほどかかる。
高価な急速充電装置を買うことで充電時間を短くすることはできるが、何度もやるとバッテリーの寿命は大きく縮んでしまう。
すばらしい感想文ですね。
感想文にも感動しました。
ありがとうございました。
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