目的:
人類の感染症との戦いを再確認していただきます。
ねらい:
今後の新たなパンデミックに備えましょう。
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このテーマは、浦島充佳東京慈恵会医科大学教授の著書名です。
著者は、「この人、お医者さん?小説家じゅやないの?」
という感じさえする書きぶりで、感染症に関する物語りを展開します。
2019年12月に中国の武漢で新型コロナが発生、
それからちょうど1年でワクチンが開発され接種がはじまった。
これは快挙であり、大勢の命を救った。
この成功はオペレーション・ワープ・スピード(注)にあった
しかし私にはもっとも上流に何があったのか、
ブラジルの一匹の蝶の羽ばたき(注)に該当するものは
それはマイケル・ルイスの「最悪の予感」に書かれていた。
2005年夏、1918年に世界を襲った悪名高きスペイン風邪が
アメリカでどうだったか書き記した一般向けの本
これを就任したばかりの保健福祉省長官に読むように勧めた。
長官は重要な箇所にしるしを付けジョージ・W・ブッシュ大統領に渡した。
大統領は夏休みにこれを読み、
周囲に「アメリカのパンデミック対策はどうなっているか?」と訊ねた。
それに対して、国民に対する生物学的な脅威を扱う、
国土安全保障省のバイオデフェンス局に勤務する唯一の医師であった
ラジーブ・ヴェンカヤ先生が招集され、
「バイオシールド:緊急時のワクチン・治療薬等の開発加速を行う」
のコンセプトを大統領に提示した。
ブッシュ大統領はこのパンデミック対策に70億ドルの予算を計上した。
そのため、下院歳出委員会のメンバーの間では
「グレート・インフルエンザ」は70億ドルの本と呼ばれた。
バイオシールドが翌年、
生物医学先端研究開発局(BARDA:バーダ)の設置につながった。
さらに2009年の新型インフルエンザ、2012年のMERS、
2013年から2016年にかけてのエボラ出血熱、
2015年のジカ熱などのパンデミックが次々と発生したが、
この間バーダは製薬企業と官民連携を熟成させていった。
そしてこのバーダの成果が新型コロナで実を結び、
作戦を公開してからわずか8か月でワクチンの接種開始にこぎつけたのだ。
ブッシュ大統領が夏休みに読んだ「グレート・インフルエンザ」には
「アメリカ国内で2005年に発生すれば150万人が死ぬ計算になる」
と書かれていたのである。
それで大統領が対策を準備しよう!と思ったことが、
「蝶の羽ばたき」であったのだ。
(注)「蝶の羽ばたき」とは、当書の前段で紹介されていますがこういうことです。
ブラジルの一匹の蝶の羽ばたきは(まわりまわって)テキサスで竜巻を引き起こす、
という例えで、非常に些細で小さなことが理由で、
さまざまな出来事を引き起こし、徐々に大きな出来事に変化していく
ことを指している。
上野意見:
ブッシュ大統領の先見性はすごいですね。
そこまでに至った保健福祉省高官・長官も偉いです。
日本だと、「問題意識は人それぞれだ」とか言って、
このような「お節介」はしなそうです。
やはりアメリカに負けますね。
感染症 |
物語 |
新型コロナ
奮闘中 |
【ワクチン早期開発成功】 2019年12月に中国で発生したこの感染症は、 2022年10月10日現在、世界で 少なくとも6億1760万人が感染、653万人が 死亡 超過死亡算定方式だと2020年・21年で1500万人が死亡。 (1918年に発生したスペイン風邪では4000万人が死亡) 中国当局では2020年1月12日には、原因ウィルスのゲノム配列と、1月26日に発症前から感染することを発表している。 (発症前から感染することが、この感染症が大流行した原因である。「知らぬ間に移してしまう」のだから) そこから、ワクチンと治療薬の開発が始まった。 2020年12月11日、ファイザー・ビオンテックグループ、1週間遅れでモデルナ、12月30日にはアストラゼネカのワクチンが発表された。 ファイザーのもモデルナのも、mRNAを使ったワクチンである。 このワクチンは,RNAを少し変えてやることで合成できるので開発が比較的容易である。 mRNA方式のワクチンは、2005年にペンシルベニア大学の2氏が特許をとっていた。この特許をモデルナとビオンテックが買い取っている。それが、2社のワクチン早期完成に貢献している。 モデルナ社は、政府(バーダ(注))から9億5千万ドルの補助を受けているが、ファイザーは、すべて自前で開発した。着手が少し遅れたファイザーは最後はモデルナを追い抜いた。 |
SARS
撲滅成功? |
【WHOの下、各国が協力して撲滅】 SARSは21世紀に入って最初のパンデミックである。 2003年初頭に中国からベトナム、シンガポール、カナダなど5大陸26カ国に感染拡大し、7322人が感染し774人が死亡した(致死率1割以上)。 初期段階で原因が判明するまでに、多くの医療従事者が感染・死亡した。 WHOは2003年3月12日に「グローバル・アラート」を発信した。 その結果、各国で研究・解析が進んだ。 4月10日「原因は、通常の風邪を引き起こすコロナウィルスである」ことが判明。5月1日「全ゲノム配列解明」(米・蘭・独、加) 早期隔離が有効であることが判明し、7月5日には終息宣言が出された。その理由としては、感染力がそれほど強くなかったことがある。 |
ニパ感染症
終息 |
【オオコウモリと豚が媒介する強感染症】 1998年マレーシアで発生した人と豚を死に至らしめた感染症は、当初日本脳炎と思われた。 日本脳炎は豚がかかり、その豚を射した蚊が人間を射して感染する。 この感染症は致死率が高い(32%)。 日本脳炎は子どもと老人が死に至るが、この感染症は若い人も重症化する。その違いに疑いを持った若い医師の疑問が米国での新ウィルス同定につながった。 この新発見の感染症は豚から直接人間に飛沫感染する。ヒトからヒトへの感染はなかった。豚を隔離することでこの流行は収まった。 この感染地でオオコウモリを捕獲して検査した結果、二パウィルスが発見された。オオコウモリがついばんだ果実が下に落ちて、それを豚が食べて感染したのであろう、ということになった。 2018年5月、インドで二パ感染症が発生し23人が発症した。今度はヒトからヒトへの感染もあり、ウィルスが進化したと考えられる。 この時は、患者の隔離によりそれ以上の感染拡大を防いでいる。 その後も、小規模発生が確認されており、ウィルスの進化により大流行の危険性ははらんでいる。 |
エボラ出血熱
完全ワクチン開発 |
【WHOの活躍】 エボラ出血熱は1976年9月にザイールで発見された。 このウィルスを発見したのは、当時27歳の医師ピーター・ピオットであった。彼は、ザイールに行き、人から人への接触により感染することを突き止め、それを避けるように住民を指導することによって流行を収束させることに成功した。 2013年12月ギニアで発生したアウトブレークは、西アフリカ諸国に広がり、29,000人の感染者,11,000人の死亡者を出した。 そこで,2015年5月、WHOは急遽国際会議を招集し対策に乗り出した。 その成果が出て、2018年―2019年のコンゴ民主共和国(旧ザイール)のアウトブレークでは、濃厚接触者の大半にワクチン接種が行われ流行を抑えることに成功した。
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エイズ |
【発見競争】 エイズは、レトロウィルスが原因で発症する免疫不全症である。 1980年代初頭には、エイズはカリニ肺炎やカンジダ菌による免疫不全症と区別がついていなかった。 これについて、米仏で数人以上の医師が研究を行い 「この病気は免疫不全により発症している」 「その原因はウィルスらしい」 「そのウィルスを発見した」と解明が進展した。 最後にそのウィルスを発見したパスツール研究所の2博士が2008年にノーベル賞を受賞している。 |
ポリオ (小児麻痺)
撲滅成功 |
【史上最大の臨床試験】 ルーズベルト大統領もポリオに罹っていた。 そこで大統領になった際に、その撲滅に乗り出し寄付集めを行った,それが基で「全米小児麻痺基金」が誕生した。 原因ウィルスは1908年に発見された。 その培養に成功したのは1936年。 試験管での培養に成功したのは1949年で、その発見者3人はノーベル賞を受賞している。 ワクチンは、ホルマリンで不活化する「不活化ワクチン」と、増殖しているうちに変異して弱毒化する「生ワクチン」とが考えられた。 「不活化ワクチン」は、1954年に42万人の児童を対象にして行われた。 その結果、予防効果は7割しかなかったが、1995年からそのワクチン接種が開始された。 しかし製薬会社のミスで、生きたままのウィルスが混在していて、接種後ポリオ発症4万人、恒久的麻痺を残した患者200人、死者10人ということになった。「史上最悪の薬害」と言われた。 「生ワクチン」は、セービン博士が、自分の家族3人、子どもの友人3人とその両親に、自分が開発した弱毒性ワクチンをテストした。 結果は大成功であった。それを踏まえ、WHOが1957年に臨床試験を認め、1960年に認可された。
アメリカでの人口1億人当りのポリオの発生は、以下のようになっている。 1951年~1955年 13,500人/年 不活化ワクチン開始~ 2,600人/年 両ワクチン併用~ 240人/年 1973年以降(生ワクチンのみ) 4人のみ |
天然痘
撲滅成功 |
【ジェンナーのワクチン開発物語り】 紀元前1157年に死亡した古代エジプト、ラムセス5世は天然痘で死亡したようである。 20世紀前半までは毎年世界で数百万人が天然痘で死亡している。 感染力も強く、致死率はワクチン未接種者(昔はすべてこれ)で30%、接種者でも10%と極めて高い。潜伏期間は7日から17日と長い。 WHOは1966年に天然痘撲滅キャンペーンを開始し、1977年のソマリアでの例を最後に世界で1例も発症していない。 スペイン軍は天然痘を持ち込むことによってアステカ帝国とインカ帝国を滅亡に導いた。 アメリカ原住民はこの病気に対する免疫をまったくもっていなかったので一挙に感染し死亡した。 1796年にジェンナーがワクチンを開発した(超有名なハナシ)。 ジェンナーはこうやって天然痘ワクチンを開発した。 牛がかかる牛痘は人間に感染する、しかし人間での症状は軽い、そして牛痘に罹っている人は天然痘に罹らない、という言い伝えを聞いた。 それをヒントに生体実験をして(今なら認められないでしょう)牛痘感染者の病変部位からワクチンを生成したのである。 しかし、その論文は医学雑誌では認めてもらえなかった(査読者の想定外だった)。 |
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