2020年7月25日土曜日

「2030年日本の針路」

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 日本の針路を地方再生または活性化に求めている
   具体的な主張を知っていただきます。
ねらい:
 その方向を真剣に検討すべきですね。
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このテーマ名は、アクセンチュア㈱社長江川昌史氏他著
「デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路」です。

さすが、アクセンチュア!という感じで、
データを駆使し丁寧な解説をしています。
最近、これほど具体的な提言書を見たことがありません。
すごいものです。
地域・地方に関心のある方は、是非本書をお読みください。

2030年問題につきましては、2020年1月30日の当ブログ
「2030年ショック!!『純粋機械化経済』の到来」
http://uenorio.blogspot.com/2020/01/blog-post_30.html
でも取りあげました。
「純粋機械化経済の到来」の著者は、井上智洋氏です。
その時の結論はこうでした。
a.中国が世界一の経済大国になる危機
b.AIが職を奪う危機
 その結果、人間に残る仕事は以下の3つになる。
 クリエイティビティ系   創造性  
  曲を作る、小説を書く、映画を撮る、発明する、
  新しい商品の企画を考える、
  研究をして論文を書く、といった仕事だ。
 マネジメント系  経営・管理
      工場・店舗・プロジェクトの管理、会社の経営など
 ホスピタリティ系  もてなし
  介護士、看護師、保育士、教員、ホテルマン、
  インストラクターなどの仕事だ。

どちらかと言えば,
AIの進歩で世の中はこうなっていきます、
たいへんな事です!!という警告調です。

これに対して本書は、
どうすれば日本が、日本人が幸せになれるかを
地方を活かすことで実現しようという前向きの発想です。

その際、DX化は追い風になる、という考えです。
本書の副題に「デジタル×地方が牽引する」とついているのは、
その考えを示しているのです。

著者の意図は、以下の「はじめに」でたいへんよく分かります。
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(前略)
その頃からかもしれない。
町とは何か、地方都市の未来はどうあるべきかについて
真剣に考えるようになったのはーー
その後も様々な地方都市を訪問する中で、
自分なりに気づいたことがある。

「地方創生」を考えるとき、
「地方」を一括りにして対策を考えても意味がなく、
地域が独自に持つ特色や個性を生かす方向で対策を考え、
講じる必要があるということだ
(上野注:この考えは今や「常識」です)。

例えば、アクセンチュアは東日本大震災以降、
社会貢献活動の一環として福島県会津若松市の復興に深く関わってきた。

会津若松市は人口12万人の地方都市で、
自然、歴史、温泉、グルメなどの観光資源や会津大学など
良いものをたくさん持っており、ある意味有利な地方都市と言える。

もちろん、有利だから復興支援を始めたわけではない。
震災後に何らかの形で東北地方の復興に役立ちたいと、
人の伝手をだどった結果が会津若松市だったのである。

その後、復興に関わらせていただき、
会津の土地が有する良さがどんどんわかってきて、
とても有利な地方都市だと気づいたのだ。
地方都市の中には、人口数万人、あるいは数千人と非常に規模が小さく、
人材や観光資源、財源などに限りがあるところも少なくない。

こうした自治体は、少子高齢化で人口減が進む中
「自前主義路線」で戦っていては生き残りが難しい。
近隣都市や、場合によっては遠く離れた都市とタッグを組んで、
新たな生き残り策、価値の創出ができないかを模索する必要がある。

こうした生き残り策を実行していくうえで追い風となっているのは、
デジタルテクノロジーの進化・深化だ。

デジタルやシェアリング・エコノミーなどの
新しいテクノロジーや思想を活用することで、
地方都市に住む人々が
圧倒的な低コストで心豊かな生活を送れる仕組みが
つくれるのではないかーーー。
私の中でそんな構想が次第に頭をもたげてくるようになった。

地方都市は元来、土地や住居にかかるコストが低い。
これに加えて、生活に欠かせない電気のコストも、
太陽光発電や蓄電技術の進化で今後下がる可能性が高い。

また、今やパソコン1台あればリモートで仕事をこなし、
都会並みの教育やエンターティンメントにもアクセスできる。
2020年春、コロナ禍により在宅勤務を余儀なくされた方の多くは、
それを強く実感したのではないだろうか。

さらに、5G(第5世代移動通信システム)や
xR(エックスアール、空間拡張技術)が本格的に進展すれば、
リモートで実現可能なエクスペリエンスの質やカテゴリーが
一層増えてくるだろう。
ただ、地方都市に住む人は、
残念ながらこの事実には気づいていないことが多い。

また最近、いくつかのベンチャーが地方都市に移転し始めているが、
非常に合理的な考えだと思う。
成功するかどうかわからないうちは、地方にいたほうが、
リスクも少ないし、メリットも大きく感じられる。

ベンチャーだけではない。
都会で買い物難民になっている高齢者や、
高い生活コストを強いられる中、
最小限の出費で暮らしている方々のニュースを見るにつけ、
アンマッチが起きていると感じる。

もちろん、長年住んでいた場所を離れて新たな生活を始めるのは、
心理的にも現実的にも難あしいことが多い。

しかし、2030年に向けた日本社会の針路を再考する中で、
大都市や地方都市がそれぞれの特徴や強みを活かした町づくりを進め、
人々が住む場所や生活の仕方を柔軟に変えることができれば、
社会全体の生活の質・人生の質(QoL=クオリティ・オブ・ライフ)
を高めることができるのではないだろうか。
(中略)
折しも、本書の最終稿を確認している2020年春、
人類は歴史的な危機に直面している。
世界中で猛威を振るう、新型コロナウィルスだ。

私は人類が英知を結集することで、
この恐ろしい脅威にもいずれは打ち勝つことができると信じている。
一方で、落ち着きを取り戻した後、
コロナ以前の世界に生活が戻るのかと言えば、そうは思わない。

私たちが今、思考すべきは「ポスト・コロナ(コロナ後)」
の世界における新たな価値観や常識だ。
これを機に、社会のデジタル化が一層加速し、
テレワークや在宅医療、遠隔教育などが定常化すれば、
地方社会にとってはプラスだろう。

さらに、誰もがどこからでも仕事をこなせる社会を経験した後、
都市、および職場という「場」の持つ本質的な意味合いとは何なのか、
大都市であれ、地方であれ、再考を迫られている。

同様に、平常時では一定の時間がかかる
「ニュー・ノーマル」へのシフトが一気に進む可能性もある。
(中略)
急激な変化は、時に人を不安にさせる。
そして、残念ながら未来を正確に予測することは誰にもできない。
しかし、身近な子どもたちの笑顔を見るにつけ、
世界、そして日本社会をより良い形で後世に残したいという気持ちは、
万人に共通する。

その想いこそが、
「ポスト・コロナ」の世界で正しい一歩を踏み出すための礎となるだろう。
本書に記した内容を、皆さんとともに進化させ、実践することで、
日本全体の活性化に貢献していきたいと切に願っている。
日本社会の未来づくりに、本書を少しでも役立てていただければ幸いです。
(後略)
そのビジョンを以下の点から説き起こしています。
例示した以下の2.以外もすべて図表などで数字が示されています。
1.地方への関心の高まり
 国土交通白書では、「地方移住に関心のある人の割合」が、
 20代でかなり多くなっている。
 
都市生活の限界を感じている人が多いことを示しています。
 在宅勤務の経験が、
 地方在住への関心を高めていることにも触れています。

2.雇用に関する意識の変化
 大企業で定年までという意識が減ってきている。
 「大企業よりも、将来性のあるスタートアップを就職先に選ぶ」
 「フリーランス」や「副業実施者」が増えている。
 
3.サーキュラーエコノミーへの意識の高まり
 「循環型経済」
  ーSDGsが要求する地球環境を大事にする経済である。
 地方の資源の有効活用はこの動きに合致する。

4.スポーツを通じた地域コミュニティの形成
 プロ野球から始まって、
 サッカーのJリーグ、バスケットのBリーグなど
 地域密着型のスポーツは地域振興につながる。

そして、本書は地域活性化の7つの提言をしています。
以下は項目しか示しませんが、すべて具体的な解説があります。

1.内在価値を発掘し、独自の個性を追求する
 その地域の価値が何かを見いだせ、ということです。
 事例1:ICTによる産業集積ー会津若松市
 事例2:食文化やサイエンスを軸とした地域デザインー鶴岡市
 事例3:アートから続く地域振興-徳島県神山町
 事例4:複合拠点による賑わいづくりを通じた移住・定住促進ー岩手県遠野市
 事例5:データ活用による観光振興ー気仙沼市
 事例6:CCRCを活用した地域活性化ー金沢市「シェア金沢」
     注:CCRC:高齢者が健康な状態で入居し、
       終身暮らすことのできる生活共同体

2、他都市との連携で、共創価値を生み出す
 近隣生活圏連携型
 近隣観光資源連携型
 遠隔観光テーマ連携型
 広域経済圏連携型

3.社会インフラ維持のため、インフラコストを構造的に効率化する
 大都市郊外における大都市との連携とコンセッション
 中規模都市におけるコンパクトシティ化とインフラ一括運営
 過疎地における分散型インフラ

4.デジタル活用と地域協調で、サービスコストを効率化する
 RPAやAIを活用した自治体におけるオペレーション最適化
 アウトソーシングの活用による効率化
 中小企業を束ねたコネクテッド・インダストリー
 サービスコストを下げる都市OS

.住民の誘致
 地域価値(内在価値・共創価値)の明確化とターゲット特定
 価値の実現・継続と拡大への投資
 正しい情報発信

6.観光客の誘致
 ターゲットやテーマの集中と選択
 認知がなければ来訪もない
 観光客の立場で考えて情報提供
 データに基づくPDCA

7.企業の誘致
 地域の特色に基づく誘致戦略を打ち出す
 地域で一体感のあるブランディングと粘り強いマーケティング
 移転場所(箱モノ)は需要が発生してから用意する

というような内容です。
久々に日本の将来に希望の持てる気になる1冊です。

日経新聞7月25日の夕刊にも、
身近な地元見直しの例が多数紹介されていました。

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