2020年7月20日月曜日

「『AIで仕事がなくなる』論のウソ」

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 AIで仕事がなくなるのかどうかを確認しましょう。
ねらい:
 対人関係能力が重要であることを再認識しましょう。
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本書の主張は「はじめに」に集約されていますので、
それを掲載させていただきます。
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ーこれから15年で今ある仕事の49%が消滅する(野村総研)
ー近い将来、9割の仕事は機械に置き換えられる(フレイ&オズボーン)

オックスフォード大学のフレイとオズボーンが
「AIの進展で起きる雇用崩壊」について研究報告してから
すでに5年経った。
ほぼ同じ手法でコピーのように野村総研が後追い発表したレポートには、
たった15年で半分近くの仕事がなくなると、時期まで明言されている。

そして、両研究に追随する形で、有名なビジネス誌が
「これからなくなる仕事」「生き残るための処方箋」
などの特集を再三企画した。

ここ5年間、世の多くのビジネスパーソンは、
「俺の仕事は大丈夫か?」と冷や冷やしていたのではないだろうか?
ただ、「15年」の3分の1を過ぎた現在、
雇用は減るどころか、世界中がかつてない人手不足に悩まされている。

結果、今度は逆に「雇用崩壊なんてありえない」と
AIの進化を甘く見る人たちも増えてきたように感じる。
正直言えば「今すぐなくなる」論も
「なあに、心配ない」論もどちらにも問題があると考えている。

AIによる雇用崩壊は、実際どこからどんなペースで広がっていくか。
それを実務現場などを取材しながら、明らかにしたのがこの本だ。

なぜ、レポートから5年経った現在も、世界は人余りではなく、
人手不足に悩んでいるのだろうか。
それは先進国各国での少子化や、大規模金融緩和による空前の好景気など、レポートが想定していなかった事象が重なったせいもある。

ただ、それ以外にも決定的な「欠陥」がどちらのレポートにもあった。
それは、雇用現場を全く調べずに書かれているということ、
技術的な機械代替可能性のみを対象にした研究なのだ。

彼らのレポートの骨子を、サービス業、製造業、建設業など
「なくなる」を言われる仕事の現場で、当事者たちにぶつけると、
異口同音に「白けた」反応が返ってきた。

「現場では1人の人が、こまごまとした多種多様なタスクを行っている。それを全部機械化するのは、メカトロニクスにものすごくお金がかかる」
「ある程度大量に発生する業務はすでに、オートメーション化している。残りの部分で自動化できるところは少ない」

こんな言葉を何度も何度も聞かされたのだ。

例えば、ケーキ屋さんのレジ係の場合、
レジ打ち清算行為はAI+メカトロで代用できるだろう。
ただ彼女は、その他にも、ケーキの補充、陳列、サービング、箱詰め、
包装、ショーケース磨き、値札替えなども行っている。
これら全部を1台のAIとメカで対応できるようになど、
10年程度ではとても難しい。

流通、建設、製造の大手企業であれば、
業務効率化への研究投資を大学やメーカーと協働ですでに行っている。
でも、こまごまとした多様な作業の機械化は、どうにもうまくいかない。だから人手が残っているのだ。

ただ、この話を聞いて
「AIによる雇用代替はない」と全否定しないでほしい。
それはこの先15年では難しいだけで、
もう少し長いタイムスパンでは話が異なる。

AIの進化ステージをしっかり理解し、
「いつごろ、どのような技術が生まれると、実際に機械に代替されるのか」も考えていきたい。
フレイ&オズボーンや野村総研が行った研究の不足点を補い、
現実的な雇用代替の道筋を考えていく。

新たなポイントとして
雇用代替の前に起きる「すき間労働社会」という過渡期
の重要性について、かなりページを割いた。

遠い将来、機械が社会全体を牛耳る可能性はある。
(中略)
その時に膨大な時間を持て余すようになった人々は何をすべきか。
いきなりそんなことになったら、人間は途方にくれてしまうだろう。

ただ都合の良いことに
ほとんどの仕事が、
雇用崩壊に至る前に「すき間労働化」というプロセスを経る。
この「すき間労働化」期が
私たちにいろんなことを考えさせてくれることになるだろう。

例えば、回転寿司のような業態を考えてみよう。
比較的、ボリュームの大きい工程は、
すでに書いたとおり、機械化されている。
それは、シャリ(酢飯)を握る機械などだ。

ただ、今の機械の握りはどれも均一のため、
ネタに合わせて最適な柔らかさ・大きさ・形にはなっていない。
だから、名店よりも「おいしくない」のだ。

一方、ネタを最適に切るという機械はまだ実用化できていない。
素材や鮮度に合わせながら、一番おいしい形・厚みに切る。くくる,
それには熟練の技がいる。

近い将来,AIが発展すれば、
これらの工程が自動化・最適化されるだろう。
結果、銀座の名店並みの「切り方」「握り方」が
回転寿司で実現できるようになる。
さぞかし回転寿司屋は大繁盛するだろう。

そうなったとしても、それ以外の仕事は従来通り残る。
たとえば、魚の皮をはぐ、湯につける、氷にくぐらす、
シャリにネタをのせる、シャリとネタを海苔でくくる、
といった作業だ。

機械は、コツや熟練が必要な高度で習得しがいのある技術
(握る、捌くという行為)については、すべて人から奪っていき、
人間は機械のやらないこまごまとした「すき間」を埋める作業を
やるようになっていく。

仕事の中の難しい工程を機械に任せられると、
脱サラしたばかりの素人や、寿司など食べたことのない外国の人でも、
寿司屋で働け、しかもそんな素人だらけの店が、
銀座の名店並みの「うまさ」を誇るようになる。

どうだろう。人々は、つらい修行からは解放されるが、
一方で努力して勝ち取る成長の喜びを体験できなくなっていく。
それでいて、店は今以上に儲かるので給料は上がる。
こんな時期をすき間労働期と呼ぶ。
仕事は簡単なものばかり残り、でも給料は高い。
そして働く人は成長の喜びを失う。
(上野注:この説には異論があります。後掲します)

そう、これは遠い将来の「働かなくても大金を得られ、
膨大な時間を持て余す」時代の先取りともいえるだろう。
こんな、現状→すき間労働化→雇用崩壊という、
ホップ・ステップ・ジャンプがこの本では明らかにされている。
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この本では、議論の前提としてAIの技術進化を解説していますが、
非常にわかりやすくできています(私がこれまで見た中で最高です)。

「すき間労働」という概念を考案したのは素晴らしいことです。
そして「AIで仕事がなくなることはない」仮説を具体化するために、
全職種を以下の3分類をして
それぞれどうなるかを示しています。
その結論はこういうことです。

職務
現陣容
(万人)
変化
2035年までの
減少人数(万人)
事務的職務
1,850
単純事務はなくなる
310
流通サービス的職務
3,102
基本定型処理はなくなり「すきま労働」が残る。
260
営業的職務
786
対人関係が重要で残る。
合計
5,738

570

この雇用減は、人口減による労働力減とほぼ見合い、
失業状態は発生しないとしています。
著者たちは、3職務群の現場調査もし、統計的な分析もしています。
それは「はじめに」冒頭の調査レポート類と違うところで
高く評価できます。

しかし、この推論全体はマクロ的です。
個人レベルで見ると、
「AIで仕事がなくなる論のウソ」とは言えないのです。
単純事務従事者は、実際に仕事がなくなりますし、
他の職務に転換できなければ、失業者となります。
大手銀行から追い出される銀行員の多くは、
流通サービス業に行くのでしょうが、
それができない人は失業者です。

営業的職務も、
ITを駆使した上で的確な対人関係ができない人は
脱落してしまうでしょう。
上表で、営業的職務は増減なしとなっていますが、
顔ぶれとしては入れ替わりが発生する(=仕事がなくなる)のです。

もう一つ異論があるのはこういう点です。
ITやAIが労働の基本定型部分を担うようになると、
人間に残るのは「すき間」作業で、人間として工夫の余地が少なく
生きがいのない仕事になる、と主張しています。

私は、そういうことはないと思います。
ITやAIの処理と「すき間」作業を組み合わせて、
人間に提供するサービスになるのです。

どうすれば相手に喜んでいただけるか、満足いただけるか、
を工夫することが重要です。
決して無味乾燥ということはありません。

もっともそういう目標意識を持たない人にとっては、
無味乾燥かもしれませんが、
それは現在のサービス業の仕事でも同じことです。

この点も含め、AIの進展によって、
相手に喜んでいただく「ホスピタリティ系」がより重要になる、
という視点が弱いように思われます。

AIでも生き残るのは次の仕事です。
 クリエイティビティ系
 ホスピタリティ系
 マネジメント系

多くの人にとって対応可能なホスピタリティ系の充実
今後の社会のあり方だと、識者は指摘しています。
 トム・ピーターズ「「新エクセレントカンパニー」(ひとが一番)
 野中郁次郎「共感経営」(共感は第6の経営資源)

AIで仕事がなくなるかどうかの結論(上野)は、こうなります。
単純事務または単純作業は,AIまたはロボットに代替されるので、
人間でなければできないホスピタリティ系の仕事に
転換できない人は職を失う。
(失礼ながら、もともと単純事務または単純作業に従事している人で
クリエイティビティ系やマネジメント系へ転換できる人は
少ないでしょう)

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