2020年7月30日木曜日

野中郁次郎先生著「共感経営」

[このテーマの目的・ねらい]
目的:
 野中郁次郎先生の最新作「共感経営」を知っていただきます。
 「成功の基は、関係者の共感を引き出すことだ」
 ということを知っていただきます。
ねらい:
 ぜひ、本書をご覧になって楽しんでください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「共感経営」は、野中郁次郎先生と勝見明氏の
この5月に出たばかりの著書名です。
本書では、「共感」を
「人、モノ、金、情報、知識」に次ぐ第6の経営資源だと言っています。
知識を経営資源として主張したのは、ピーター・ドラッカーですが、
野中先生の「暗黙知、形式知」論も、「知識」の理論です。

この書も「まえがき」に本書全体の意図・概要が記述されていますので、
以下にご紹介いたします。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
共感経営とは、どのようなものでしょうか。
企業経営や事業の遂行において、共感を起点とし、
ものごとの本質を直観する中で「跳ぶ仮説」を導き出し、
イノベーションを起こす、もしくは、大きな成功に至る。
そのプロセスにおいても、さまざまな局面で共感が介在し、
共感の力がドライブや推進力となって、
論理だけでは動させないものを動かし、
分析だけでは描くことのできないゴールに到達する。

それが共感経営です。

その共感は、
顧客への共感、トップやリーダーの社員やメンバーに対する共感、
メンバー同士の共感、顧客から企業に対する共感など、
さまざまな関係性において立ち現れます。

共感経営は、
人と人との間の共感がベースですが、対象がモノであって、
モノと全身全霊で向き合って、物我一体の境地でそのモノになりきり、
モノがコトになると、そこに共感的な世界が生まれます。

「経営学の父」と呼ばれ、
著者らが尊敬するピーター・F・ドラッカーは著書の中で、
21世紀は「知識こそが唯一の意義ある経営資源となる」として
「知識社会」の到来を未来予測し、
組織はモノや情報を前提にするのではなく、
知識を前提とする観点からとらえ直さなければならない転換期にある
と指摘しました。
(中略)
本書は、その知識の中でも、
言葉や数字では表せない思いや理念などの暗黙知を共有する共感を、
いわば「6番目の経営資源」として提示するものと言えます。

なぜ、企業経営や事業の遂行において、共感が重要な意味を持つのか。
人間の活動や行動にとって、共感が不可欠なものであることを、
興味深い二つの事例で示しましょう。

一つ目は、著者らが実際に取材した
日立製作所の人工知能(AI)「H」を使った
コールセンターでの実験です。

以下事例紹介部分は上野の要約です。
それまでに実験で、人の身体の動きとその人の幸福度には相関があり、
幸福度の高い人は動きのある状態が強い、ことが分かっていた。
コールセンター要員の受注率は、その人のスキルとはあまり関係がなく、
幸福度によって34%の開きがあった。
幸福度を決めているのは、
休憩中の要員同士の雑談が盛り上がったときであり、
雑談が弾むのは、
業務中にスーパーバイザーの適切なアドバイスや励ましが
あったときだった。
スーパーバイザーの声かけを支援するアプリケーションを提供したところ、
集団の幸福度が高まり、
受注率を継続的に20%以上向上させることができた。

もう一つの事例はあるホームセンターで
人間と人工知能Hのどちらが売り上げを伸ばせるかを競った。
人間はその世界で実績のある専門家二人で、
陳列の工夫やPOP広告の強化をした。

人工知能の方は、10日間にわたり
顧客やスタッフの身体運動や店内行動を計測したデータと
販売実績データを読み込んだ。
その結果、スタッフが入り口正面の通路の突き当りの売り場
(高感度スポット)で10秒間滞在時間を伸ばすごとに、
その時店内にいる顧客の購買金額が平均145円増加する
関係が判明した。

そこで店では、
スタッフになるべく高感度スポットに長くいるように指示をした。
1か月後、専門家の対策はほとんど効果がなく、
スタッフの高感度スポットの滞在時間が1.7倍になり、
店全体の顧客単価が15%向上した。

スタッフに接客されている場面を見ると、
周りの顧客の共感を呼び起こしたのです。

これらの事例では、
人工知能があるべき方向を見つけ出してくれたのですが、
人間が対応するとすれば、どうしたらよいのでしょうか。

そこで必要なのが共感経営です。
外から相手を分析するのではなく、
相手と向き合い、相手の立場に立って、
相手の文脈のなかに入り込んで共感すると、
視点が「外から見る」から「内から見る」に切り替わり、
それまで気づかなかったものごとの本質を直観できるようになります。

そしてものごとの本質を直観するなかで
発想をジャンプさせて跳ぶ仮説を導き出す。
(中略)
人間関係の本質は共感にある。
本書は、企業経営や事業におけるイノベーションや大きな成功は、
論理や分析ではなく「共感→本質直観→跳ぶ仮説」というプロセスにより
実現されることを9つのケースおよび3つの参考事例で示します。
(中略)
さらに、共感を起点にしてイノベーションを起こすには、
市場データなどをもとにした分析的戦略では難しく、
「いま、ここ」の状況に対して、その都度、最適最善の判断を行い、
実行していく「物語り戦略」が必要であることを事例で示します。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
このように共感が人々を駆り立て、
経営としての成功につながると主張され、
紹介されている事例は以下の9つです。

紹介の方法は、事実を述べる「物語り編」と
どういう点が特徴かを述べる「解説編」からなっています。

1、佛子園 Share金沢
2.HILLTOP 遊ぶ鉄工所
3.日産 ノートe-POWER
4.よみうりランド グッジョバ
5.マツダ スカイアクティブ・エンジン
6.NTTドコモ アグリガール
7.日本環境設計 服から服をつくる
8.花王 バイオIOS
9.ポーラ リンクルショット メディカルセラム

事例に共通しているのは、こういうことです。
 そのプロジェクトは会社のメイン事業・メイン製品ではない。
 したがって、担当する体制も資源も恵まれていない。
 多くの場合、周りからは冷たくみられている。
 その中でリーダが、
 将来方向を発想し不撓不屈の精神で仲間・部下を鼓舞して
 部下の共感を引き出し、チーム力でその事業を成功させた。

とにかく、生の事例は読んで「面白い」です。
ワクワクします。
理屈が好きでない方も、ぜひご一読をお勧めします。

0 件のコメント: