2019年3月18日月曜日

「なぜ年をとると時間の経つのが速くなるのか」

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 なぜ年をとると時間の経つのが速くなるのかを確認いただきます。
 私が、人文科学者の本は読むのがたいへんと思ったことを
  知っていただきます。
ねらい:
 本文中でご紹介している当書の内容に関心のある方は
  是非当書をお読みください。
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このテーマは、
オランダの心理学史教授ダウエ・ドラーイスマの著書名です。
日本版の出版は2009年で少し前のことです。


医学・心理学の本かと思って買ったのですが、
私の苦手な人文科学系だったので、
よく読まないで積んでおきました。


でもテーマ的には関心がありますので、
今回読んでみました。


「なぜ年をとると時間の経つのが速くなるのか」は
本書の一部で他にこういうテーマが取りあげられていました。
 いちばん古い記憶(なぜ幼児期の記憶は少ないのか)
 匂いと記憶(匂いはかなり強い記憶機能がある)
 なぜ私たちは、逆方向にではなく順方向に思いだすのか
 チェッカー名人の記憶力
 トラウマと記憶(強烈なトラウマとなるような経験は記憶を破壊する)
 既視感(どういう時に起きやすいかは分かって来ていますが、
      これがなにものなのかは解明されていません)
 忘却(病的な健忘の解説が中心)


これらのテーマについて、誰がどのような研究成果を挙げたかを
360ページに亘ってえんえんと紹介しています。


本項のテーマは、
「なぜ年をとると時間の経つのが速くなるのか」です。
このテーマ研究の先達として、
フランスの哲学者・心理学者ジャン・マリ・ギュイヨー(1854-88)
が紹介されています。
34歳で風邪で夭折した天才です。
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青春時代は欲望を抑えることができない。
たとえば青春時代は、
先にある時間を使い尽くしたいと思うのだが、
時はだらだらと過ぎていく。


そのうえ、
若いころの感銘は強烈で新鮮で、数も非常に多いので、
そのころの何年かは何千通りにも特徴づけられる。
だから若者が去年を振り返ると、
その一年が空間に長く連なるシーンのように見える。


場面が変わるたびに舞台装置は代わり、
その後ろにある背景幕は
まるで遠くにあるように消えていく。
舞台袖には、
場面の転換に合わせてすぐに出せるように、
準備の整った装置がずらりと並んでいる。


これらの装置は、
繰り返し現れる過去の映像を表している。
あるものはだんだん薄れ、ぼんやりと霞んでいき、
そのために遠くにあるように見える。


舞台の両脇を埋める装置もある。
私たちはそれらの装置を、
印象の強さと登場順序によって分類する。


私たちの記憶は舞台監督である。
だから子どもにとって今年の元日は、
その後に続くすべての出来事の後ろで、
少しずつ印象が薄れていくし、
来年の元日は、
早く大きくなりたいと願うその子にとって、
まだとても先のことのように思われる。


それに対し、
老年期は古典演劇の変化のない舞台装置に似ている。
場所は変わらず、
ときには時と場所と出来事が一致しており
(古典演劇の三一致法則を指す)、
すべてを主役の周辺に集中させ、
それ以外の要素を消してしまう。


時も場所も出来事もないという場合もある。
どの週も似たりよったりで、どの月も同じようで、
生活の単調さだけがだらだら続く。


それらのイメージがすべて融合して、
一つのイメージになる。
想像のなかで、時間は短縮される。欲望も同じこと。
人生の終わりに近づくにつれ、私たちは毎年こういう。


「また一年経ってしまった!
この一年、何をしたんだろう? 
何を思い、何を見て、何をやり遂げたんだろう? 
過ぎ去った365日が2カ月ぐらいにしか感じられない
などということが、どうしてありうるんだろう?」


時の眺めを廷ばしたいのなら、
チャンスがあればの話だが、 
一千もの新しい事柄で時を満たせばよい。
わくわくするような旅行に出かけ、
自分を取り巻く世界に新しい世界の風を吹き込んで、
自分を若返らせるのだ。


振り返ってみたとき、
旅の途中で道遇した数々の出来事や、
自分が旅した距離が、
あなたの想像のなかに山積みになっていることに
気づくだろう。


そして、
これら目に見える世界の断片的な出来事すべてが
一列に長くつながり、
それが、世間の人がうまい表現をしているように、
時の広がりを与えてくれる。
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このテーマで自覚される現象は。
これで言いつくされていると思われます。


「どうしてこういうことになるのだろう?」
という点について、
著者は以下のように諸説を紹介しています。


1.望遠鏡効果
 望遠鏡で見るように、

 遠くのことが近くに思えることを言います。 
 中年までの被験者は、
 出来事・事件が実際に起きた時よりも

 近くで起きたように感じる。
 しかし、高齢者は実際よりも古くに起きたと感じる。
 ということは、
 高齢者が時間の経過を速く(短く)感じる

 ということである(これは望遠鏡の逆です)。

2.レミニセンス(回想)効果
 回想は記憶の時間標識となる。
 たくさんの思い出の詰まった期間は、
 振り返ってみた時に伸びる(長く感じる)だろうし、
 思い出のほとんどない期間は短くなる。
 中年以降は刺激的な回想が少ないので、

 時間が早く過ぎたと思う。

3.生理時計 
 いわゆる体内時計のことです。
 上記1も2も時間感覚の問題なので、
 客観的な実験・実証は不可能です。
 学説はこうではないかと推定するだけです。



 それに対して、
 生理時計は以下の点が立証されているのです。
1)浅い傷が治る速さは、若いほど早く、
  20歳の人は40歳の人の2倍速い。

  40歳は時間の経つのが遅い。
   これは本題の支援になりません。

2)SCN(視神経交叉上核)が

  体内時計の親時計なのだが、
  この細胞が喪失していきドーパミン不足とあいまち
  時計の機能が落ちていく。
  その結果、

  高齢になるにつれて時間の感覚が遅くなる
  (時間をゆっくりカウントする)


  実験では、

  若年グループはほぼ正確に時間を捉えたが
  中年組は3分に対して16秒長く捉え  
  高齢者グループは5分近くたって3分と認識した。

  高齢者は時間の長さを感じるのがゆっくりである。

  「メトロノームが減速しているので

  外界が加速して見える」と解説されています。


著者は結論を明確に示していませんが
こういうことなのです。


ギュイヨーが示しているように、
そしてそれは誰もが感じているように、
年をとると刺激的で記憶に残る体験が少ないために、
空っぽの時間は短くつまり経過は速く感じる、
ということなのです。


残念ながら当テーマでは新しい知見が得られませんでした。

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