先月号の「トヨタの反省すべき点」をご覧になった
名古屋在住の読者から、3月1日の当メルマガ発行当日に、
以下のご意見をいただきました。
①トヨタのJITは納入者に負担を押し付ける
とんでもない仕組みである。
高速道路のトヨタインターの駐車場は、
トヨタへの納入時間を待つトラックでいっぱいである。
トヨタのJITは、
あのソニーでさえ、真似しようとしたが
(そこまでの「力」がなく)できなかった仕組みである。
②トヨタ主催で、お客様(ディーラ)をお招きして
ゴルフコンペを実施したときのこと。
若い社員たちがゴルフ場の入り口で整列している。
お客様が来られても、この人たちは頭を下げない。
ところが、自社の「偉い」人たちが来ると一斉に頭を下げていた。
②は事実とすれば、
前号私の主張「トヨタが偉いという傲慢意識の表れ」
の一つの証拠です。
============================
ここでの改善方向は、
私の年来の主張「目的・ねらいを明らかにする」
の観点からするとこうなります。
「何のためにそこに並ぶのか(並ぶは何かの手段です)」
ですが、「参加者を出迎える」が直接目的です。
しかし、これで終わりにすると、
挙げられたようなまずいことが起きるのです。
「出迎えるのは何のためか(そのねらいは何か)」
ということをさらに追求しなければなりません。
そうすると、「参加者に気持ちよく、嬉しく思っていただき」
「ゴルフの会の目的(参加者との親睦を深める)を達成する」ことが
最終目的(ねらい)だということになるでしょう。
そうなれば、だれに対してどのような出迎え方をするか、
ということが方向づけされ、
お客様を放っておいて「偉い」さんにぺこぺこする、
などということにはならないはずです。
=============================
①は、自社の在庫をなくすために、
相手に自分の都合のよいときに納品を要求するものです。
確かに、「どれだけの物を買います」という予定が分かることは
納品者にとってのメリットです。
しかし、納品時間まで指定されると、
それに遅れないようにするには渋滞・事故等のリスクを考えて
余裕を見る必要があります。
これは納品側の負担となります。
悪く言えば、納品側への在庫負担しわ寄せの仕組みなのです。
しかし、この「しわ寄せ」は、
小売りと流通卸業の間では当たり前のことになっていて、
業界全体の商慣行として確立してしまっています。
流通業界での「しわ寄せ」といえば、
「小口配送」があります。
「小口配送」は、小売りへの配送をケース単位
(複数個の商品を運搬等のためにまとめて収納している箱)
ではなく、
ケースの中に入っている単品の「バラ」の単位で行うことです。
多品種少量生産・消費の今でこそ当然の仕組みですが、
この要求を始めたのは約30年前のイトーヨーカドーです。
当時の卸売業では、
「小口」の取り扱いに対応する倉庫の仕組みも
配送の仕組みもありません。
従来のケースを取り扱う仕組みの例外処理として、
たとえば倉庫の片隅のスペースで対応していました。
卸売業には大変な負担がかかり、
このコストは、
イトーヨーカドーから十分な上乗せはもらえませんでしたから、
間接的にイトーヨーカドー以外のお客様の負担となっていました。
現に、その負担はできないと言って
イトーヨーカドーとの取引を断った大手卸売業もいました。
そのときに、食品卸売業界に偉人が登場します。
㈱菱食の廣田正氏(当時専務、のち社長)です。
私が感服した、廣田氏の名言は多数あるのですが、
ここに関係するものは以下の二つです。
「私は、大事な案件に遭遇すると、
何週間も四六時中そのことを考えている。
寝ても覚めても考えている。
そうするとあるときフッと答が出てくる」
「投資をしなければ新技術はものにできない。
高いお金を払うから、
無駄にしてはいけないとみんな一所懸命やるのだ」
話を戻します。
廣田氏は、
「世の中は多品種少量生産・消費の時代になる。
その時代の要請に対応するには、
例外扱いではなく、基本の処理として対応できるシステムが必要である」
と考えられて、
厳しい経営環境の中で大変な投資をされ、
独自の小口配送のシステムを作り上げられました。
そのシステムは、流通業界全体として発展してきています。
その意味では、イトーヨーカドーは、
当時の流通業界では自己中心思考の「悪者」扱いされましたが、
結果的には社会の発展に貢献したことになります。
ちなみに、イトーヨーカドーとの取引を断った大手卸売業は、
その後、時代の要請に対応できずに没落してしまいました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そう見ると問題は、トヨタ側に「共存共栄でいきましょう」
という意識があって運営されているかどうかでしょう。
たとえば、一方的な仕様や納期の変更といったことはしないで、
相手のことも配慮した対応を行う、とかです。
その意識があれば、納入者は不満を言わないでしょうし、
そのシステムが業界の進歩につながるのです。
現状はどうなのでしょうか。
豊田章男社長のお考えは、僭越な言い方ですが正当です。
この精神が現場まで浸透するかどうかです。
「慢心」に毒された現場はなかなか変わりません。
社長のリーダシップ、組織のガバナンスがどこまで効くか、
経営学者やコンサルタントの大きな関心事でしょう。
0 件のコメント:
コメントを投稿