いろいろご研究ください。
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本テーマは、谷良一氏著「M・1はじめました。」のご紹介です。
なぜこの本を選んだかというと
以下の日経新聞に掲載された入山章栄氏の書評でした。
今年は12月24日に開催・放送される漫才の祭典M-1グランプリ。
島田紳助氏と共に企画をゼロから作った生みの親の、
M-1立ち上げ物語。
人気番組の裏話を超えて
一つのビジネスプロジェクト物語として面白い。
今となっては国民的イベントだが、
きっかけは吉本興業1社員が受けた常務の命、
「低迷している漫才を盛り上げる」というミッションだ。
そこからは苦難の連続で、
難航する企業の新規事業プロジェクトそのものだ。
仲間探しに始まり、現場に通って漫才界の課題の洗い出し、
知名度の向上、スポンサー探し、テレビ局探し・・・
周囲の風当たりも強い。
協力者や、意見対立者、当初は反対していたのに
今では「M-1は俺が作った」と吹聴する元テレビ局制作部長などを、
個人が特定できる形で書いているのも生々しい。
本書を読むと、いつの時代も新事業を生み出すのは
「漫才をまた盛り上げたい」というような人の情熱である
ことを痛感する。
最後の数ページには思いがけないサプライズが待っている。
映画のようなこのM-1事業の物語、
放送前後に一読されてはどうだろうか。
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私は、漫才やM-1グランプリに
それほどの興味・関心を持っていないのですが、
「一つのビジネスプロジェクト物語として面白い」
の言葉に引かれて、この本を読んだのです。
そして、どういうプロジェクトであったのかを
以下のようにまとめてみました。
実現までの課題
決定すべき事項
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その状況
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イベント内容
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ü イベント名:M-1グランプリ(いくつか変遷はあった) *出場者条件:年齢・性別・国籍・事務所・プロアマ不問。コンビ結成10年以内。 *漫才の条件:ふたり同時に出てきて、同時に帰る。持ち道具以外は認めない。
ü 選抜方法:1回戦、2回戦、3回戦,準決勝(35組)、決勝(10組)、最終決戦(2組)を行う。
ü 審査方法:1・2回は持ち時間3分、審査員3人が点数を付けて集計する、3分の1くらいを残す。3回戦・準決勝は持ち時間5分。
ü 決勝の審査方法は、大阪・札幌・福岡に100人ずつの一般審査員の得点と特別審査員7人の得点合計で競う(一般審査員一人は1点(〇か✖か)で満点は300点、特別審査委員一人は100点満点。満点は700点、合計1000点)。
ü 最終決戦方法:審査員7人がどちらかを選ぶ。
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スポンサー獲得
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ü 1,000万円の賞金+放映料で数千万円必要。
ü オートバックスに決まるまで3社と折衝。3社のうちの1社は協賛となった。
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放送局獲得
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ü 全国放映可能な放送局の好時間帯獲得。
ü フジ、日テレ、テレビ東京,TBS、テレビ朝日に断られた。その後、大阪の朝日放送が持っている全国放送の特番枠を獲得。
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審査員確保
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ü 決勝では、漫才通で知名度もある人を数人以上集める。
ü 予選は、放送作家、演芸作家、朝日放送系の社員の3人。
ü 決勝の審査員は、必死で勧誘して、島田紳助、松本仁志、西川きよし、ラサール石井、春風亭小朝、青島幸男、鴻上尚史の7人が決定。
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出場者確保
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ü 1,000万円に惹かれる参加者があるだろうが放っておくわけにはいかない。
ü まともなチラシが間に合わない中で8月10日に記者発表。目ぼしい事務所・タレントに勧誘して回った。
ü 1回戦は、大阪、東京、札幌、仙台、浜松、名古屋、福岡で開催。
ü 最終的には1,350組が参加。2回戦進出は317組。
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実現方策
項目
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その状況
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検討体制
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ü はじめは1人でスタート。
ü その後、2年下の橋本氏が参画。大木嬢も非専任で検討に参加。元国会議員秘書の友軍松本氏も支援に参加。
ü M-1実施が決まってからバイトの女性1人確保。事務サービス会社の社長も自ら参画。
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検討資金
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ü まともな予算なく、他の予算から流用した。
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検討日程
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ü 2001年4月検討開始からイベント開催予定の年末まで8か月しかない。
ü 4月に島田紳助さんと会い,1,000万円のコンテスト案決定。
ü 7月に記者発表して8月には予選スタートしている。
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以上を整理して驚異的なのは、これほどの新規イベントを
9か月で実現したことです。
今や「早いこと」が一番のビジネス価値ですが、
それにしてもこれだけのプロジェクトをこの短期間で実現することは、
通常の「ビジネスプロジェクト」では考えられません。
短期間でできた理由の一つは、
大目的(漫才界の復興)だけがハッキリしていて動き出し、
内容は次第に固めていったことです。
スタート時点ではイベントの内容はまったくゼロだったのです。
ここから学べることは、いかに目的が重要かということです。
その成功要因は、間違いなく、
谷氏のこの世界についての豊富な経験知見と卓越した行動力です。
しかしながら、この案件の成功要因を挙げるなら、
第1に、谷氏に漫才の復興プロジェクトを指示した経営トップ
木村政雄常務です。
氏の指示がなければ,M-1はまったく実現していません。
成功した後で氏の功績が評価されなかったのは
いかがなものかと思います。
本件は、
トップの方向性指示は極めて重要であるという事例なのです。
2番目の成功要因は、島田紳助さんの1千万円賞金案です。
このアイデアもなければM-1は成功しなかったでしょう。
島田紳助さんは功労者として認められていますからいいでしょう。
「M-1は私と谷と二人で作った宝物です」という紳助さんの
コメントが、この本の帯に書かれています。
そのとおりなのですが、「二人で作った」と言われると
紳助さんも汗水たらしたと思われますがそうではありません。
1千万円アイデアが価値があるのです。
それから3番目に谷氏の素晴らしい行動がくるのです。
実際に実現に苦労した人が脚光を浴びるのですが、
成功の全体像を見るべきだと思います。
それで思い出すことがあります。
ある企業で全社のシステム再構築を行いました。
当社が半年かけてその企画プロジェクトを指導させていただきました。
開発は、富士通殿主体になり私どもは手を引きました。
その開発プロジェクトは成功して利用者の評価も満足すべきものでした。
そうしましたら、社長名の感謝状が富士通社に贈られました。
そこで、なぜ当社にも感謝状がいただけないのかと申しあげましたら、
「申し訳ありませんでした」と言って感謝状をいただきました。
はじめのことは記憶が薄れてしまっているのです。
脱線しましたが、冒頭に挙げました入山氏のコメント
「難航する企業の新規事業プロジェクトそのものだ」
に関連しての気づきを整理します。
1)何か新しいことをする場合には、
その対象に対する思い入れ・情熱がないとダメである。
新しいことには多くの障害が発生します。
それを乗り越えるのは魂です。
思いがない者は適当にお茶を濁してごまかすことになります。
これではいい仕事ができるわけがありません。
本件の谷氏は漫才に対する非常に強い思い入れがありました。
その思いが奇跡を生んだのです。
1年弱で0からこの大イベントを成功させたのは奇跡です。
2)トップが「やる」と約束しても下の反抗で撤回する場合がある。
本書では、テレビ朝日の常務のM-1の放送を行う件での
前向き発言がダメだった事例が紹介されています。
社長は信念と熱意をもって下に指示をしなければならないのに
「検討をしてくれ」というのでは、下は面倒なことには反対します。
これはトップのリーダシップの問題で、私も何回か経験しています。
3)下の人間は、自らリスクを負う判断はしない(拒否する)が、
上がやるとなると手のひらを反すように態度を変える。
本書では、スポンサーになったオートバックスの宣伝担当の
そのような例が紹介されています。
締めくくりますと、この成功プロジェクトの教訓は以下のとおりです。
1.新規案件の実現には経営トップの意向が肝要である。
2.新規案件の実現では、実現の目的が重要である。
(目的だけで動き出すことができる)
3.実現のアイデアが重要である。
(アイデアがなければ陳腐なモノしかできない)
4.実現の意欲を持った知見と強い行動力が必要である。
これは、54社の成功事例を分析した拙著「DX成功ガイド」で
明らかにしたDXの成功要因そのものです。
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