2023年4月10日月曜日

とうとう大卒初任給の大幅アップが始まった!!

[このテーマの目的・ねらい]
目的:
 大卒初任給の大幅アップの状況を確認します。
 その影響・意義を検討してみます。
ねらい:
 あらたな革命が始まっていることを再確認します。
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1.大卒初任給の大幅アップの開始

三井住友銀行が大卒初任給を5万円上げました。
他のメガバンクも追随の動きです。
それより少し前に、
三菱商事がやはり5万円、学卒初任給を上げました。
銀行の初任給は横並びでこの10年間は約20万円でした。
それからすると5万円は25%の大幅アップです。

2.大卒初任給の推移
過去の学卒初任給の推移を確認します。



1968年から2019年までは、
厚生労働省の賃金構造基本統計調査(初任給)のデータです。
それ以前の1950年から1967年までのデータは
国家公務員の初任給の変遷(行政職俸給表、人事院)のデータです。
両者の間には若干のギャップがあります(公務員給与の方が低い)が、
推移を見るにはあまり関係ありません。

私が社会人になる頃、何かの歌詞かコマーシャルの文言に
「1万3千800円」というのがありました。
銀行や大手電機の初任給がその金額だったのです。
私が就職をしたころはその金額が1万5千円くらいになっていました。

東レの初任給が1万8千円台で、帝人が2万円チョイ、
広島の東洋工業が2万3千円くらいでした。
広島に良い人材を呼び込みたかったのでしょう。
それから、数年間大幅アップが続き、
大学卒初任給の標準が2万円を超えました。

上掲のグラフでは
「失われた30年」と言われる最近30年間は大学卒初任給も
ほぼ横ばいであったことが確認できます。

グラフではよく分かりませんが、
この間で20%以上のアップがあったのは、
1962年の22%と1974年の26%だけです。
1962年は、
初回の東京オリンピックの前景気で日本が湧いていたときです。
1974年は、
第1次オイルショックの時で、諸物価高騰のときです。

他の年度はせいぜいが10%台のアップでした。

したがって、今回の25%アップは、以下の2点で破天荒なのです。
1)30年も低迷していた中での大幅アップである。
2)過去に2度しか経験していない大幅アップである。

3.大卒初任給大幅アップの背景
なぜそういうことになったのでしょうか?
以下の状況であると想定されます。
基本的には給与を上げないと
経営を維持するために必要な人材が確保できない
と経営者が明確に認識したのです。

ここ2,3年、DX人材の高給での獲得合戦が始まっていました。
30万円以上の初任給などが提示されています。
ところが、DXを進めるには特別なIT人材だけではダメで、
経営全体にDXマインドを持った人材が必要である、
ということが分かってきたのでしょう。

そういう意味での「デキル」人材はどこの企業でも必要ですから、
企業間で取り合いです。
銀行ビジネスも変わっていきます。
新たなサービスを考案し提供していかないと、
銀行業の存在価値が失われてしまいます。

以下は、日本経済新聞オンライン版2023年2月7日の記事です。

初任給を上げたのは、デジタル分野など専門人材の獲得競争が業界の垣根を越えて生じているためです。人口減少に伴って店舗の事務作業が減る一方で、デジタル関係の仕事は重要性を増しています。三井住友FGはスマホで様々な金融取引や手続きができるサービスを3月に始め、個人向け取引を支店中心からスマホ中心にします。優秀な人材獲得が欠かせません。

菱UFJ銀行もデジタル分野などの人材獲得に動きます22年から一部の専門人材の新卒採用で、能力に応じた給与体系を導入しました。1年目から年収1000万円以上となる可能性もあります。物価高で実質的な賃金が減っていることも給与引き上げを急ぐ理由です。若手の転職など人材の流動性は高まっており、会社側がいかに人に投資できるかが金融機関の競争力を左右しそうです

 4.ICT革命の時代へ

前掲の過去2回の大卒初任給大幅アップは、
経営としては、環境条件の変化に従った受け身のものでした。

ところが、今回の大幅アップは能動的なものです。
ぬるま湯に入っていたカエルが先を見越して跳び出したのです。

デジタル革命の時代について、大前研一氏は、
ビルゲイツがWindowsPCを世に出した1985年を
その起源としています。

私は、PCもさることながら、それをベースにした
インターネットによる自由な個人の情報交流が可能になった
1995年が起源ではないかと主張する派です。
少なくとも、日本ではそうでしょう。
米国はもう少し先行していたかもしれません。

総務省2019年版情報通信白書

1995年にMicrosoftが発売したWindows95は、インターネットが一般に普及する大きな契機となったといわれている。Windows95は初期状態でTCP/IPプロトコルを搭載しており、プリインストールしたパソコンであれば、ダイヤルアップ接続機能やWebブラウザも付属していた。インターネットが体験できる機能は当時まだ珍しく、多くのユーザーを獲得した

 以下のGAFA企業の事業基盤はインターネットです。

企業名

主な事業

創業年

Amazon

EC

19947

Google

検索サービス

19989

Facebook

SNS

20042


インターネットによって、世界中が一つになり、
Amazonが出現し、個人が商品を世界中の人に販売することが
可能になりました。
日本の中古品売買市場をリードする「メルカリ」は
そのビジネスモデルの典型です。

逆に言えば、すべての個人・法人が
裸で勝負をしなければならなくなったと言えるのです。
総合商社はまさにその典型です。
ユニークな存在価値を生み出さなければ
商取引から外されてしまいます。

こういう動きを見ていますと、まさに産業革命ですね。
産業革命につきましては、以下の例のように、現在は第4次産業革命だ
という説がありますが、どうでしょうか。
第4次産業革命とは、
18世紀末以降の水力や蒸気機関による工場の機械化である第1次産業革命、
20世紀初頭の分業に基づく電力を用いた大量生産である第2次産業革命、
1970年代初頭からの電子工学や情報技術を用いた一層のオートメーション化である第3次産業革命に続く、次のようないくつかのコアとなる技術革新を指す。     
 IoT及びビッグデータ,AI
出典:内閣府レポート

これまでの第1次~第3次産業革命はものづくりに関する革命です。
これは一括りにして、まさに産業革命でよいのではないでしょうか。
言葉を換えれば
「もの」すなわちハードウェアの製造方法に関する革命です。

それに対して現在起きている革命は、情報処理に関する革命です。
ソフトウェアの処理方法に関する革命なのです。
「ICT革命」という言い方が適切だと思います。
ICTは、Information and Communication Technology」の略称で、
日本語では「情報通信技術」と訳されます。、
「情報通信技術革命」なのです。

ハードウェアの製造には時間がかかります。
したがって、その革命は浸透するのに時間がかかりました。
しかし、ソフトウェアは開発には時間がかかりますが、
できてしまえば、その製造はほぼゼロ時間で可能です。
この革命の浸透が早いのはそのせいです。
前掲のGAF企業は30年前には存在しなかったのですよ!!

ICT革命によって誕生している世界は、
脱「ものづくり」です。
ソフトウェアがその製造にはパワーを必要としないだけでなく、
ハードウェアの製造も
ロボットや各種ICTによって自動化されていきます。
人間ならではと思われていたサービス提供の世界でも
通常のサービス提供は、
ロボットやAIが対応するようになってきています。
最近発表された、
AIが対話でいろいろ教えてくれる「チャットGPT」が
世間を驚かせています。

ICT時代の特徴を簡単に言えば、こうなります。
1.ものづくりや通常のサービス提供は、
  それなりの人材で対応可能です。
  こういう人材の必要性が急速に低下していきます。
2.代わって、ソフトウェアでもハードウェアでも開発する人材は
  高度なスキルが必要です。
  こういう人材の必要性が急速に高まります。

ということですから、ICT時代に適合できる人材の確保に
先進各社が目を向けだしているのは当然です。
銀行業などは、もともとがものづくりをしていないビジネスですから、
ICT革命の影響をまともに受けるのです。
給料の25%アップくらいはしますよね。
日本の経営者にもその自覚のある方がおられるということは
大変心強いことでないでしょうか。

4/11付記
デービッド・アトキンソン氏の「給料の上げ方」という著書が、
2023年4月20日に発行されました。


氏もこの著書の中で、
学卒初任給が日本全体の給与水準の指標になる
という主張をされています。
前掲のグラフと同じようなグラフが掲載されています。
今回の大幅初任給アップは氏の想定外です。
氏は、初任給が2030年に年に25万円にならないと
経済の現状維持ができないと言っておられますが、
その水準がすでに実現されようとしているのです。

氏の主張の本題は、こういうことです。
「経営者は黙っていると給料を上げることはしないので、
遠慮しないで要求しなさい(団交ではなく個別に)
(ダメなら転職の道を考えなさい)」と言っています。
ご関心ある方は、ぜひ本書をお読みください。



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