2015年8月3日月曜日

「ドイツ帝国が世界を破滅させる」ですって!!

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 ドイツがここ5年ほどでたいへんな力を付けてきたことを
  知っていただきます。
 ドイツは、ロシアと対抗しアメリカとも覇を争う形勢にあることを 
  知っていただきます。
 ドイツに対抗するにはアメリカとロシアが組むしかないという
  意見を知っていただきます。
 なぜそんなにドイツが強いのかを考えていただきます。
 そんな情勢の中で日本や中国はどうなるのかを
  考えていただきます。

ねらい:
 ドイツの動きに注目していきましょう。
 日本がどうすべきかを考えていただきます。
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凄い内容です。
目を見開かされました。
われわれはヨーロッパに関心が薄いのですね。
著者が中国に関心が薄いのと同様です。

この著者のエマニュエル・トッド氏は
フランスの歴史人口学者・家族人類学者だそうですが、
その観点の研究から以下の「大事件」を予測した方です。



事件

予告

実際

ソ連の崩壊

1976年

1991年

世界金融危機

リーマンショック

2002年

2008年

アラブの春

2007年

2010年~



件名に挙げた書名は、誰が付けたのか知りませんが、
本の中ではそういうことは言っていません。
言うなら「ドイツ帝国が世界を制覇する」でしょうね。

本書の解説は多岐に亘っていますが、
私なりに整理をしますと以下のようになります。

1.ドイツがどれだけ強いか

2.ドイツの軍備

3.ドイツの危険性

4.ドイツが強い理由

5.フランスはどうか

6.ロシアはどうか

7.アメリカはどうか

8.中国はどうか

9.日本との対比

10.これからの予測


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以下、氏の主張をご紹介します。
以下で、
氏の文章は私の意見と区別するために「デアル調」にしています。
原文ではインタビュ記事を文章化したということもあり、
「デスマス調」が基本です。

1.ドイツがどれだけ強いか

1)ここ5年の間に、ドイツが経済的な、また政治的な面で、
ヨーロッパ大陸のコントロール権を握った。

2)その5年を経た今、ヨーロッパは既にロシアと
潜在的戦争状態に入っている。

そしてドイツ政府はかなり前から
経済運営に関するアメリカの諌言を意に介さぬ態度をとっている。

アメリカの力を排除しようとしている。

因みに経済の世界でのドイツ企業の強さはこうなっています。

世界ランクのドイツ企業
業界
ドイツの代表企業
世界シェア
自動車
フォルクスワーゲン
1位を争っている
重電
シーメンス
2位
化学
BASF
1位
医薬
バイエル
2位
ソフトウェア
SAP
4位(注)

(注)マイクロソフト、オラクル,IBMに次ぐ。

最近合意したイラン核協議では、
安保理常任理事国以外で唯一ドイツが参加しています。
常任理事国にならなくても、
「実力」でその地位を確保しているのです。

ドイツの産業界が取り組んでいる競争力強化の動きについては、
別項「インダストリー4.0 第4次産業革命とは」
をご覧ください。


2.ドイツの軍備

エマニュエル氏の著書では、
なぜかドイツの軍事力については触れていません。

そこで、歴史音痴の私が別途確認したところによれば
こうなっていました。

1)ドイツも日本と同じように第2次大戦後、
 武装解除されました。

2)しかし、東西冷戦の進展と共に、
 西側諸国は、西側の武力強化のために
 (ご都合主義ですね!!)
 1955年のパリ協定で、
 西ドイツの再軍備と主権回復を認めました。

 ついでにもう一つの敗戦国イタリアも
 仲間入りしました。

 パリ協定の当事者は、米、英、仏、独です。
 米英仏で決めればよい問題だったのでしょうかね?
 
3)当初は歴史的敵対国フランスは
 ドイツの再軍備には反対していました。
 
 1948年の西ヨーロッパ連合条約の目的でも
 「ドイツ軍国主義の再現の阻止」が、
 「共産圏(ソ連・東欧)からの武力侵攻に対する防衛」
  と並んで入っていたのです。
 
 しかし朝鮮戦争等でソ連の脅威が現実になってきたので、
 賛成に回りました。

4)ドイツはNATO加盟を前提に再軍備を認められましたが、
 ABC規制が課せfられました。
 それは、A原子力、B細菌兵器,C化学兵器の使用禁止です。

5)一般兵役義務法も1956年には成立しています。
 ずい分日本とは違いますね。
 
 因みにドイツは
 これまでに59回憲法(基本法)の改正を行っています。


3.ドイツの危険性

「力を持つと非合理的に行動する」
ドイツの権威主義的文化は、
ドイツの指導者たちが支配的立場に立つとき
彼らに固有の精神的不安定性を生み出す。

歴史的に確認できるとおり、支配的状況にあるとき
彼らはしばしば、
みんなにとって平和でリーズナブルな未来を構想することが
できなくなる。
この傾向が今日、輸出への偏執として再浮上してきている。

毎週のように、
ドイツの態度のラディカル化が確認されるのが現状だ。

イギリス人に対する、またアメリカ人に対する軽蔑、
メルケルが臆面もなくキエフを訪れたこと(14年8月)

自分たちが一番強いと感じるときには、
ドイツ人たちは、
より弱い者による服従を受け入れることが非常に不得意だ。

しかし、ドイツ的なタイプの規律ある上下関係は、
なかなか通用しないだろう。

アングロサクソンの社会文化は、
平等的ではないが本当に自由主義的だ。
平等かどうかは場合による。


最近の危機は、
全面的にウクライナへのヨーロッパの介入と関係している。

近年「西側」のメディアはあたかも1956年頃、
つまり熱くなりかねない冷戦の最中に戻ったかのような
様相を呈しているが、
そのうわ言に引きずられず、
発生している現象の地理的現実を観察するならば、
ごく単純に、紛争が起こっているのは昔から
ドイツとロシアが衝突してきたゾーンだということに気づく。

ウクライナ危機がどのように決着するかは分かっていない。
しかし、
ウクライナ危機以後に身を置いて見る努力が必要だ。

最も興味深いのは「西側」の勝利が生み出すものを
想像してみることである。

そうすると、われわれは驚くべき事態に立ち至る。
もしロシアが崩れたら、あるいは譲歩しただけでも、
ウクライナまで拡がるドイツシステムと
アメリカとの間の人口と産業の上での力の不均衡が拡大して、
おそらく西洋世界の重心の大きな変更に、
そしてアメリカシステムの崩壊に行き着くだろう。

アメリカが最も恐れなければいけないのは今日、
ロシアの崩壊なのである。
(なるほど、そうなのか!上野)

ドイツ帝国が
「支配者たちのデモクラシー」
の一般的な形を取り始めていて、
その中心には支配者たち専用のドイツデモクラシーがあり、
その周りに、多かれ少なかれ支配されていて、
その国での投票行動には何らの重要性もないような、
諸国民のヒエラルキーが形成されている。

自分たちの生活に影響する政治上の決定に対して
ドイツ国民でない周辺国の国民たちは
まったく投票権を持っていない。

そういう意味で
(周辺国民は)アメリカにおける黒人たちよりも
みじめな位置づけなのである。

4.ドイツが強い理由

この項は主として上野としての意見と紹介文です。

ドイツはEUという自由貿易圏という枠組みを活用して、
ヨーロッパの中で圧倒的強みを発揮しだしています。

自由貿易では、強いものが勝ちます。
ギリシャのような怠け者の国は敗者となるのです。
そういう面ではフランスや南欧諸国も同様です。

その意味では、TPPも同様です。
関税などの輸入障壁がなくなれば、
強いものが必ず勝つのです。

EUはドイツの発案ではなく、
また当初はフランスはじめどの国も、
ドイツの1人勝ちになるとは誰も予想しなかったようです。

なぜドイツは強いのでしょうか。
著者は以下の点しか挙げていません。

 家父長制で,、統制を聞く国民性がある。
 → 行きすぎた「個人自由・主義」ではない。
 質倹を厭わない国民性がある。
 → デフレ・賃金抑制を受け入れる。

ドイツではここ数年、賃金が据え置かれたり、
引き下げられたりしています。

ドイツの社会文化には、権威主義的なメカニズムがあって、
国民が相対的な低賃金を甘受するので、
ドイツの政府と経済界はその面を活用し、
ユーロ圏の各国への輸出を政治的に優先したのです。

「アテネからマドリードまで、
群衆は第4帝国(ヒトラーは第3帝国)だと叫び始めている」

私が見るに、
ドイツの強みには以下が追加されると思います。

 ユダヤ人(や日本人)と同じように
  民族の潜在能力の平均的レベルが高い。
    これはドイツ国民自身もそう思っているらしい。
  2014年のフリードリッヒ財団の調査では
  「ドイツ人は他の民族より優れている」
  と思っている国民が4割となっていた。

 攻撃的・ポジティブな性格である。
  (日本人はそんなに攻撃的・ポジティブではないですね)

以下がエマニュエル氏の主張です。

「ドイツというシステム」は、
驚異的なエネルギーを生み出し得る。
日本についても、スウェーデン、ユダヤについても、
同じことが言える。

真の権力中枢はメルケルでなくドイツ経済界である。
彼らは隣国フランスの産業をボコボコにしてしまおうとしている。
それにはまだあと4年はかかる。

5.フランスはどうか

歴史的にドイツの対抗馬であったフランスは、
現在は完全にドイツの軍門に下っている。

フランスのオランド大統領はドイツの副首相だ。
今後はさらに
単なる「ドイツ首相府広報局長」とみなしてもいいくらいだ。

第2次世界大戦の地政学的教訓があるとすれば、
それはまさに、
フランスがドイツを制御しえないということである。

ドイツが持つ組織力と経済的規律の途轍もない質の高さを、
そしてそれにも劣らないくらいに途轍もない
政治的非合理性のポテンシャルがドイツには潜んでいることを、
われわれは認めなければならない。

ところがそれをこの国(フランス)は認めない。


6.ロシアはどうか

 ロシアは現在力の蓄積中で
 クリミア半島でも強くは出れない。
 
 しかし、ロシアは立ち直り始めていて、
 出生率の上昇や乳児死亡率の低下、失業率の低下に
 それは表れている。

 ロシアの成長率は1.4%、失業率は5.5%である。

 ロシアの経済は豊富な地下資源に支えられていて、
 労働力を必要とする工業を迎えたり、
 消費財の輸出産業を発展させたりということは考えにくい。

 その社会では、
 ソ連時代から継承された高い教育水準が保たれていて、
 男子よりも女子のほうが多く進学している。

 また人口の流出よりも流入の方が多いことからも、
 ロシア社会とその文化が、周辺の国々の人々にとって
 魅力的なのだということが分かる。

 私はそれを「権威主義的デモクラシー」と称する。

 早晩軍事力等でも成果が顕著になるはずである。

 アメリカとロシアの新たなパートナーシップこそ、
 われわれ人類が「世界的無秩序」の中に沈没することが、
 現実となる可能性が日々増大している事態を回避するための
 鍵だろうと思う。


7.アメリカはどうか

アメリカとドイツは同じ価値観を共有していない。

 アメリカ:リベラルな民主主義の国
     本当に自由主義だが結果として平等ではない。
 ドイツ:権威主義的で不平等な文化の国
     規律ある上下関係(平等ではない)

 アメリカは白人デモクラシー(だった)
 ドイツはドイツ民族至上主義(ナチスがその典型)

アメリカはドイツに追随してクリミア半島に介入した。

注:日本人も「西側」メディアの尻馬に乗る日本メディアの影響で
悪者はロシアと思いこまされています。

ブレジンスキーが見落としたのは、
アメリカの軍事力がNATOをバルト海諸国やポーランドや、
かつての共産圏諸国にまで拡大することにより、
ドイツにまるまる一つの帝国を用意したということだ。

つまり、
アメリカが自分のためと思って強化した仕掛けに便乗して
ドイツはタダで強くなることができたのだ、
と言っているのです。

アメリカとドイツという二つのブロックは、
それぞれの性質上対立的だということを確認しなくてはならない。

この二つのブロックの間には、
経済規模の均衡の破綻、
価値観の違いなど、
紛争を生みやすいすべての要素が積み重なっている。

ロシアが潰されるか、あるいは周縁化されて、
ゲームの外に排除されるのが早ければ早いほど、
この二つのブロックの間の差異が表面化してくるだろう。

今後の世界情勢に関するもう一つのシナリオは、
ロシア・中国・インドが大陸でブロックを成し、
欧米・西洋ブロックに対抗するというものである。

しかし、このユーラシア大陸ブロックは、
日本を考えなければ機能しないだろう。
このブロックを
西洋のテクノロジーのレベルに引き上げることができるのは
日本だけだから。

(上野コメント:この案は成立しそうもないですね。
インドが中国と組むことが考え難いし、
日本だってそんなブロックに加担しないでしょう。
しかし、ひょっとしたら日本が中国の属国になっていれば、
成り立つのかもしれませんね。ゾーッ!!)


8.中国はどうか

中国についてはほとんど何も触れていません。
ヨーロッパから見ると、アジアは他人事なのでしょう。

「中国はおそらく経済成長の瓦解と大きな危機の寸前にいます」
という記述がありました。



9.日本との対比

【ドイツと日本の類似性】

家族社会学で直系家族と呼ばれる家族形態がある。
長男を後継ぎにし、長男の家族を両親と同居させ、
他の兄弟姉妹を長男の下位に位置づける農村の家族システム
である。

この種の家族はたしかに今ではもはや先進国に存在しないが、
それでも、
長年の間に培った権威、不平等、規律といった諸価値を、
つまり、あらゆる形におけるヒエラルキーを、
現代の産業社会・ポスト産業社会に伝えた。

日本社会とドイツ社会は、元来の家族構造も類似している。
経済面でも非常に類似している。
産業力が逞しく、貿易収支が黒字だということ。

【日独の差異】
日本の文化が他人を傷つけないようにする、
遠慮するという願望に取りつかれているいるのに対し、
ドイツ文化はむき出しの率直さを価値付けている。

この2国は世界で最も高齢化した人口の国である。
人口構成の中央値が44歳である。
フランスではそれが40歳である。

出生率は、フランスでは女性1名当り2人だが、
両国は、1.3人から1.4人の間で揺れ動いている。

出生率のこのような差の背景にはもちろん、
女性の地位の差がある。
フランスでは
女性は仕事と子供の育児を両立させることができるが、
ドイツや日本ではどちらかを選ばなければならないことが多い。

(人口社会学者の意見を尊重すべきです。
女性の社会的地位の向上を図らないと
出生率は上がらないということです)

ドイツに比べ、日本では権威がより分散的で、
常に垂直的であるとは限らず、より慇懃でもある。

こういう記述もあります。

現在起こっている衝突が
日本のロシアとの接近を停止させている。

ところが、エネルギー的、軍事的観点から見て、
日本にとってロシアとの接近はまったく論理的なのであって、
安倍首相が選択した新たな政治方針の重要な要素でもある。

10.これからの予測

このように書かれています。

ユーロは陥落する。
単一通貨には無理がある。
自由貿易は諸国民間の穏やかな商取引であるかのように
語られるが、実際には
すべての国のすべての国に対する経済戦争の布告なのだ。

強者は勝ち弱者は負けて
低いレベルの生活に甘んじなければならない。
それはイヤだろうから(現在のスペインがその状態)、
ユーロからの離脱をし、保護貿易に戻るのである。
それが現実的な解である。

まさにそう理解すべきでしょう。
ユーロ崩壊こそが自然な道なのです。

さあ、もう少し世界のことを考えましょう!!


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