2023年11月23日木曜日

「家政婦の歴史」ご関心ありますか?

[このテーマの目的・ねらい】
目的:
 家政婦について知っていただきます。
 労働者派遣事業の推移について再確認していただきます。
 「そう言えば昔は女中さんっていたなあ」と思っていただきます。
 そういう推移の中で犠牲になる人もいたことを知っていただきます。
ねらい:
 社会の制度にはいろいろ歪みがあることを認識してまいりましょう。
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本項は、労働問題の専門家である浜口桂一郎氏の
「家政婦の歴史」のご紹介です。















この書の「はじめに」に以下の書き出しがあります。
本書は、そのなぞ解きを,なぜそれが謎解きなのかを含めて
興味津々で解説を展開しています。

以下は、上野がこの謎ときに限定してとりまとめていますが、
本書では、以下の章立てで関連する事実を解説されています。
人文科学的ですね。

序章 ある過労死裁判から
第1章 派出婦会の誕生と法規制の試み
第2章 女中とその職業紹介
第3章 労務供給請負業
第4章 労務供給事業規則による規制の時代
第5章 労働者供給事業の全面禁止と有料職業紹介事業としての
    サバイバル
第6章 労働基準法再考
第7章 家政婦紹介所という仮面を科ぶって70年
第8章 家政婦の労災特別加入という絆創膏
第9章 家政婦の法的地位再考
終章 「正義の刃」の犠牲者

1.過労死した家政婦が労働基準法の適用を受けないという判例
2022年9月29日、家政婦を巡ってある裁判の判決が下され、
新聞等マスメディアで注目されることになりました。
それは、家政婦がある家庭に泊まり込みで7日間ぶっ通しで働いた後に
急逝心筋梗塞又は心停止で亡くなったことを
過労死だと訴えた事件だったのですが、東京地方裁判所は
原告(亡くなった家政婦の夫)の訴えを退けたのです。
その理由が、
(細かいことを省略すると)確かに長時間労働はしていたけれども、
家政婦は家事使用人であって
労働基準法や労災保険法の適用を受けないから、というものでした。

家事使用人とは、個人家庭に雇用されて家事に従事する労働者のことで、
労働基準法醍116条第2項に「この法律は、
同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については適用しない」
と規定されている。

2.家政婦の法律上の扱いの変遷


1)1947年9月の労働基準法制定時には、
 家事使用人は労働基準法の適用外だが家政婦は適用対象の労働者であった。
2)1947年12月に職業安定法が施行され、労働者供給事業がすべて禁止された。
 (その理由は人夫などのやくざまがいのピンハネ業を規制するため)
3)そのため、戦前から存在していた「家政婦派出婦会」は、
 派遣業ではなく紹介業である、という建前に変更されて存続することになった。
 1951年10月、家政婦が有料職業紹介事業の対象職種として追加された。
 紹介業であるから、雇い主は派遣先の家庭ということになる。
 家庭で雇用する家事使用人ということである。
4)1985年、労働者派遣法の制定によって、
 それまで全面禁止されていた労働者供給事業のうち、
 「弊害の少なく一定の要件に合致するもの」として13業務が
 労働者派遣事業として合法化された。
 しかし、家政婦は含まれていない。
5)1999年の労働者派遣法改正により、禁止業務以外を認める
 ネガティブリスト方式となった。
 このリストには、介護も家事も含まれていないので、
 家政婦の派遣事業は可能となっている。

3.判例で過労死の家政婦が労働基準法対象外となった理由
その家政婦Aさんは、有料職業紹介事業を営むB社から
C個人宅に紹介されていました。
紹介ですから雇用主は個人Cです。
したがって、AはCの家事使用人である、
ということになるのです。

判例の裁判官は、非情な判決を下したのではなく、
正当な法解釈をしただけのことです。

B社は家政婦派遣事業を
認められるようになっている派遣事業として行わずに
従来からの紹介事業として継続していたために
こういうことになったのです。

ビジネスとしては、
紹介の方が手数料収入は大きくありませんが楽です。
派遣となれば、自らが雇用して、
雇用者としての各種責任を負わなければなりません。
それでB社は、従来からの安易な道を継続していたのでしょう。

Aさんは、そこまで深く考えずに
家政婦業務に従事していたのでしょう。

別項の宝塚歌劇団員の過労死は、
劇団との間は個人事業主としての業務請負契約であったために
労働過負荷は自己責任であると判定されるのです。

こちらの事件は、
Aさんは、B社からは紹介されているだけで雇用主はCである、
ということなのですが,Cには雇用主であるという自覚はなく
Aさんは保護されないということなのです。

どちらも、制度の歪みで労働者が被害を受けている
という事例なのです。

4.著者への問題提起
Aさんの事件をよく考えてみるとこうなります。

このAさんの事件は、Cが雇用主であるという解釈です。
前掲2.の図1で求職者と求人者の間の雇用契約が点線となっています。
雇用契約が締結されるとは限らない、ということです。

雇用契約を結ばない求職者と求人者の関係は、
求職者(労働提供者)が個人事業主である業務請負関係なのです。
そうすると、このAさんの事件も、宝塚歌劇団と同じことになります。

家政婦を利用する家庭は、
家政婦と雇用契約をしようという気はないのですから、
こういう解釈の方が自然ではありませんか。

5.家政婦等を巡る労働者の推移
戦前からの日本家庭のあり方を確認できるデータとして
参考になるので転載いたします。
(1)その1










戦前は、こんなに家事使用人(女中)がいたのです。
ちょっとした裕福な家庭には女中がいました。

(2)その2














戦後は、女中が減少の一途を辿りました。
1995年にはほぼ消滅です。
派出婦・家政婦は1980年代になって
現象一途の女中を逆転しています。


(3)その3










2000年には、家政婦と家事手伝い(女中)は
国勢調査上統合されましたが、2020年には極めて少数となっています。
代わりに、家庭へのサービスはホームヘルパーや訪問介護従事者
になったのです。
1997年に、介護保険法が成立し、
介護保険事業が大きく行政の支援を受けるようになったことが
背景にあります。

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