目的:
恐怖とは何かについて考えていただきます。
恐怖症についても知っていただきます。
ねらい:
当紹介は偏っていますので、
「恐怖」に関心のある方は本書をご覧ください。
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本項は、都立松沢病院精神科部長などを務められました
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本項は、都立松沢病院精神科部長などを務められました
春日武彦医学博士の「恐怖の正体」のご紹介です。
「はじめに」にはこう書かれています。
本書は、恐怖について、
さまざまな切り口で考察を試みようと悪戦苦闘した産物である。
留意したことがいくつかある。
まず、精神科医としての経験や知識を駆使して恐怖に迫ってみること。
そして、ゴキブリ恐怖や集合体恐怖Trypophobiaといった
恐怖症の原因について、自分なりの見解を示すこと。
心理学の実験だとか脳の特定部位がどうしたといった
「あたかも」科学的な、しかし無味乾燥な話は極力避け、
恐怖と娯楽との関係についても、
読者と一緒に楽しみながら柔軟に思考を進めていきたい。
こうも書かれています。
精神科医として臨床に携わっていると、
恐怖そのものをダイレクトに訴えてくる人には
滅多に出会わないことを知る。
だが彼らの症状の根底には、遠い過去に、さまざまな形で遭遇した
「恐怖」が横たわって影響を及ぼしていることが少なくない。
いわゆるトラウマも、広義の恐怖体験と見なせるのではないか。
自分ではうつ病だとさかんに主張しているが、
実際には職場恐怖症であると判断されるケースもある。
妄想と恐怖とが合体して、頭の中が大変なことになっている人もいた。
自分では意識していない恐怖は案外多い。
本書の構成はこうなっています。
第1章 恐怖の生々しさと定義について
第2章 恐怖症の人たち
第3章 恐怖の真っ最中 その精神状態が記述されています。
第4章 娯楽としての恐怖 「怖いもの見たさ」がある。
第5章 グロテスクの宴 グロテスクは恐怖の隣人
第6章 死と恐怖
著者は、甲殻類恐怖症なのだそうです。
幼い頃から甲殻類恐怖症なのであるが、
缶詰のレッテルに描かれている蟹の絵を見ただけで鳥肌が立つ。
其時に生じている生々しい恐怖感は安全・安心の文脈とは違うだろう。
危険を避けたくなる気持ちとも異なる。
むしろグロテスクな姿や習性、動きに対する不快感に近い。
それは根元的な不快感だ。
因みに蟹の鋏に挟まれていたい思いをしたとか、
蟹を食べて食中毒になった、
などという忌まわしい体験は当方には一切ない。
そもそも人間が恐怖感あるいは恐怖感もどきを感じる対象には
何があるでしょうか。
猛獣、ゴキブリ、ムカデ、蛇、、
新型コロナ症、疫病、死、
暗闇、夜の墓場、夜の離れの便所(幼少時)、
妖怪、化け物、ホラー、アウシュヴィッツの囚人、
精神科では恐怖症をこのように定義しています。
「恐怖症は、恐れる理由がないと分かっていながら、
特定の対象や予測できる状況を不釣り合いに強く恐れ、
これを避けようとすること」(濱田秀伯著「精神症候学」)
としその対象は、以下の代表例以外に200を超えるという。
雨恐怖、笛恐怖、空気恐怖、毛恐怖、色恐怖、甲殻類恐怖
先端恐怖、人形恐怖、高所恐怖、閉所恐怖、
対人恐怖、視線恐怖、広場恐怖、学校(職場)恐怖
自己臭恐怖、不潔恐怖、醜形恐怖、巨象恐怖
筆者は恐怖を以下のように定義しています。
①危機感
②不条理感
③精神的視野狭窄
これら三つが組み合わされることによって立ち上がる圧倒的な感情が、
恐怖という体験を形づくる。
不条理感については説明がありませんが
「そんなことあるわけない」という気持ちを指すのでしょう。
それなのにそれが起きるから恐怖を感じることになるのでしょう。
精神的視野狭窄については、以下のような解説があります。
「人は追い詰められると、(無意識のうちに)
自分が対処しなければならない対象を絞り込もうとする。
せめて対象が限定され少なくなれば、
どうにか向き合えるかもしれないという
「いじらしい」心理が働くわけだ。
そこで目の前のことしか認識しなくなる(つまり視野狭窄となる)。
だがそれは目の前の事象に圧倒されるといった結果しかもたらさない。
精神の余裕や柔軟性が奪われるだけで、逆効果しか生じない。
おろおろ浮足だった状態と精神的な視野狭窄状態は、
互いに悪循環のループを形づくって
いよいよ恐怖の感情を膨らませていくのである。
私はこの定義についてこう思います。
「不条理感」や「精神的視野狭窄」は
恐怖感を増幅させる要因であって
恐怖の定義としては初めの危機感だけでよいのではないか。
「危機感」をもっと分かりやすくして
「恐怖とは身の危険を感じること」と言えば
それだけでいいように思えます。
新型コロナ症、疫病、死、暗闇、夜の墓場、
夜の離れの便所(幼少時)、は完全に説明可能ですし、
妖怪、化け物、ホラーもそうでしょう。
ゴキブリについて言えば、
かわいいとか好きだという人はいないでしょう。
本当に恐怖を感じる人は逃げ回ります。
こちらに向かって飛んできたりしようものなら
気絶するのではないでしょうか。
しかし単に「気持ちが悪い」という程度の人もいます。
ゴキブリに対する気持ちは、
好きではない、少し気持ち悪い、非常に気持ち悪い、
少し恐怖を感じる。非情に恐怖を感じる、
まで連続的な変化なのです。
ゴキブリに恐怖感までをいだく人は、身の危険を感じているのです。
恐怖は事実を指すのではなく、意識の問題なのです。
したがって個人差があるのは当然でしょう。
ジェットコースターでも、
恐怖を感じる人と爽快だと感じる人がいるのです。
前掲の恐怖の対象の中で、猛獣は明らかに身の危険ですが、
蛇、ムカデや甲殻類は、ゴキブリもですが、
おそらく人類以前の段階で、襲われることがあり
それがDNAとして残っているのではないでしょうか。
DNAとして残っていない人もいるのです。
ゴキブリへの恐怖感について補足します。
やはり、ゴキブリが特殊なのです。
ゴキブリに恐怖を感じる人でも、
似た形の昆虫ですがカブトムシには恐怖を感じない
(人もいる)のです。
ゴキブリは3億年の歴史を持っているそうですから、
人類の祖先はその昔、
ゴキブリに追われていたことがあるのでしょう。
前掲恐怖症もその対象に対して「身の危険を感じる」のですが、
その多くは疾患で、
何らかの原因でその症状が発生してしまったのです。
トラウマもそうです。対人恐怖などはその例です。
疾患ですから原因を除去すれば治癒することができます。
そもそも、恐怖と何か、どういう場合に恐怖を感じるか
の研究は興味深いのですが、
恐怖の定義をしても何の役に立つのでしょうね。
恐怖のいろいろを知りたい方は、ぜひ本書をお読みください。
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