2023年2月9日木曜日

「死は存在しない」田坂広志著 再論

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 田坂広志氏の「死は存在しない」について再度ご検討いただきます。
ねらい:
 田坂広志氏の「死は存在しない」の内容の理解を深めていただいて
 ご自分がどう考えるか、考えていただきます。
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この項は、
を見られた米野忠男氏(このブログでは「英語の言葉遊び」シリーズでお馴染み)
が寄稿されたものです。

前掲の私のレポートは「分解整理型」で、何が書いてあるかの把握には役立つと思われますが、著者の思いを理解することは困難でしょう。
その点をこの米野氏のレポートは補ってくれています。
極端な言い方をすれば、米野レポートは「情」主体であり、
上野レポートは「知」主体とでも言えましょうか。
こちらを先に読んでから、私のレポートを読んでいただければ、
内容の整理になると思われます。

私も、今回以下の追加意見を記述させていただきます。

この著書の仮説の内容は、ノーベル賞級の大発見だと思います。

この内容は単に田坂広志個人の知見に基づいて書かれたものではなく、氏の言われるゼロ・ポイント・フィールドを通じて「天」の啓示を得られたものだと思われます。

したがって、真実なのだと思われます。

ところが,氏がノーベル賞を受賞されるには、この仮説が証明されなければなりません。

しかし、この仮説は、物理世界のことではなく意識の世界のことです。多分、これの「科学的」証明はできないでしょう。

残念ながら、永遠に「ノーベル賞級大仮説」で終るのではないでしょうか。


私のレポートをギブアップされた方は、これを読んでいただいた後に
確認のためにもう一度見ていただければと思います。

以下、米野氏の寄稿です。
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上野氏が2月号で紹介された,
田坂広志著「死は存在しない」(光文社新書)を早速読んだ。
本書が昨年9月に刊行されてからベストセラーになっていると
出版元が宣伝しているが,宗教家でも哲学者でもなく
東大工学部卒の工学博士で科学者であり研究者である著者が,
最先端量子科学に基づいて「死は存在しない」,
と論じるセンセーショナルな主張が関心を持たれているのでしょう。
誰でも死については考えたくない気持ちはあっても,
死を見つめざるを得ない高齢者が増えていることもあろう,
死後の安らかな世界があれば,死の恐怖を乗り越えて,
安心したいと願う気持ちを誰でも持ちたいだろう。

本書は平易に書かれているが,内容の理解はかなり難しい。
上野氏は本書の内容を丁寧に見事に整理して表に纏めているが,
これだけ読んでも,ベースになる仮説を認めるにしても,
著者が主張する「死は存在せず,死後の世界はある」との結論に至る論理は,
小生はすんなり理解できず戸惑った。
上野氏も本書読了後「疑問が残る気持ち」と言っている。
しかし読むにつれて別世界に引き込まれるような感じになる,
興味深い内容の本である。

まず著者が「死は存在しない」との論理を展開するベースになる
仮説を提唱するに至る経緯を辿ろう。
著者は科学者として「肉体が死ねば脳も死滅するから意識もなくなり,
人は死ねば無に帰する」という科学的な唯物論を信じていた。
しかし死後の世界は存在しないと断定する科学そのものが,
無数の事象を解明できない,いわば「いいかげん」なものだとすれば,
死についての科学が下した結論も疑うべきと著者が考えたのが始まりだ。
また著者は本書で具体的な例を挙げているが,
予知や予感が当たった不思議な現象を何度も体験し,
偶然・錯覚・思いつき・幻想と切り捨てられないと考え,
このような不思議現象や死についても科学的に説明できる理論を模索し
探求したいと思うに至ったと言う。


まず科学が解明できない事象の例を,
上野氏が表に纏めているように,いくつか本書に挙げている。
小生も昔から科学は基本的なことすら解明できないという説を
本で読んで納得していた。
例えば無重力の宇宙では物体は宙に浮いていて落下しない。
地球では誰でも万有引力で物は落下すると信じて疑わない。
しかしこの物体が空間をどういうメカニズムで移動するのか
科学は解明できていないという。
万有引力を磁力に置き換えて考えればわかりやすい。
机の上に強力な磁石を置き,近くに小さな鉄片を置いて手を離せば,
この鉄片は空間を水平に移動して磁石に吸い付く。
磁力だから当たり前と多くの人は考えるだろうが,
紐で引っ張ったり後ろから押したりしないで,
どうして空間を水平に移動するのか,
科学は解明できないといえば納得するはずだ。

またあらゆる生物について言えることだが,
例えば花の種を播けば必ず決まった花が咲く。
あの小さな種に未来の情報がどのように詰まっているのか,
科学はそのメカニズムを解明できない。
植物のことを知らない別世界の人に,
この種を地面に埋めて時間が経てば,
こういう花が咲くと予言しその通りになったら,びっくり仰天するだろう。
生命の神秘は科学がまだ全く手の届かない分野だ。


科学は自然の真理を解明することだが,自然の真理の量を1枚の紙で表し,
すでに解明された真理を点で表すと紙一杯に点はつくが,
点の大きさは無限小で,
その総面積は紙の面積のほんの一部に過ぎないという,
昔読んだ本の説明もわかりやすい。
つまり科学が解明した真理など,
大自然の真理のほんの一部に過ぎないということだ。
この点では同じ工学部出身の小生は,著者の考えに全く同感だ。

多くの人が体験する不思議現象や死についての科学的解明の
探求のための第一歩として,
著者は無限のエネルギーを持つ「量子真空」から138億年前に宇宙が生まれ,
その後に太陽や地球ができ,
さらに人類が出現するという壮大な宇宙の歴史から語り始める。
また量子科学の観点から,原子より小さい素粒子のレベルから観察すれば,
この世に「物質」は存在せず,すべては波動エネルギーと説く。
ウランやプルトニュームという「物質」が核分裂すれば,
瞬時に巨大なエネルギーに変換されることは,
原子爆弾や原子力発電で知られている。


上記の量子真空の中に「ゼロ・ポイント・フィールド」と呼ばれる場があり,
この中に宇宙のすべての出来事のすべての情報が,
ホログラム原理で記録されている,という仮説を提唱する。
ホログラム原理とは波動同士が互いに干渉することによって生じる干渉縞により,
高密度情報の記録を可能にするものだ。
身近なものとして1万円札にあるキラキラマークがあるが,
これはレーザー光を当てて生じる光の干渉縞を記録した画像で,
この3次元画像はコピーが困難なので偽造防止に役立っている。
世界中で紙幣やクレジットカードなどに広く利用されている。
しかしホログラム原理だろうが何であろうが,
宇宙すべての事象の無限量の情報を記録することは,
ホログラムであれ何であれ,科学的には不可能なのは明らかだ。
小生はここで引っかかったが,著者は承知の上だろうから,
無限量の記録方法も仮説に入ると考えれば素直に受け入れられる。

著者が提唱する「ゼロ・ポイント・フィールド」が,
本書のテーマである「死は存在しない」説の拠り所だから,
本書ではくどいくらい何度も繰り返し説明している。
このフィールドに宇宙で起こったすべての情報が記録されている
という仮説だから,
我々や先祖の全ての個人情報も当然含まれているので,
他界した肉親に会えた事象や臨死体験なども,
この仮説から説明できるという。
これは過去のことだからわかりやすいが,
このフィールドに記録されている情報は,
変化しつつ未来へ生き続けると言われると,その論理の飛躍に戸惑う。
死後の世界の存在論を導くために,
自我意識・個的意識から人類意識・地球意識さらに宇宙意識なる概念を導入し,
我々の肉体が死を迎え「現実自己」が消え去った後も,
意識はゼロ・ポイント・フィールド内で存在し続けると説明する。
意識が生き続けるから死後の世界も存在するというのだ。
ただここの論理には小生はついていけず,著者説に戸惑う理由だ。

著者は「ゼロ・ポイント・フィールド」仮説を論理補強するために,
科学者だけでなく宗教家や哲学者の多数の学説(主に外国人)を紹介している。
上野氏もこれらの学説の一部を表記している。
科学者でいえば古くは「相対性原理」のアインシュタイン,
新しくは2020年のノーベル物理学賞を受賞した
英国人ベンローズの「量子脳理論」を挙げている。
これは著者の主張に沿う興味深い理論のように思える。
広範囲の学説を説明しているが,著者の博識に驚かされる。

著者はこのゼロ・ポイント・フィールド仮説を読者に押し付けるつもりはなく,
また望むものでもないと語り,
信じるかどうかは各人の判断に委ねるべきものと述べ,
一貫して謙虚な姿勢を貫いているのは共感できる。
ただこれからの科学者に,
この「ゼロ・ポイント・フィールド仮説」の検討と検証をしてもらいたい
と要望している。
また人類数千年の歴史の中で無数の人が体験してきた,
本書にも例を挙げている「意識の不思議な現象」の謎を解き明かすことが,
科学に対する挑戦だとして,将来の科学者にその究明を期待している。

本書は科学書なのだろうが,
「人間の死」に関連して「意識」や「心」を語る際に,
哲学者のヘーゲルやハイデッカーの言葉を引用し,
旧約聖書や般若心経の内容にも触れていて,哲学書・宗教書とも思える。
我々の一生は「宇宙意識」が見る「一瞬の夢」に過ぎず,
されば,いかなる苦労や困難があろうとも,
この「一瞬の夢」を素晴らしい夢にするべく,
あなただけに与えられたかけがいの無い人生を,
最後の一瞬まで慈しむように,悔いなく生きて頂きたいと,
著者は読者に呼びかけている。
読者は小生だけでなく,本書を読み終えると,
著者が提唱する「仮説」を信じようと信じまいと,
死後の世界があるとの確信が得られないまでも,
何か安らぎを覚えるのではないか。

    202326日 米野 忠男 記

  

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