2022年11月25日金曜日

「農家はもっと減っていい」ですって!!

[このテーマの目的・ねらい]
目的:
 日本の農業の実態を確認していただきます。
 農業の中で小さくても強く生き抜く方法を研究いただきます。
ねらい:
 これからの日本の農業のあり方を知っていただくために、
 ぜひ本書をお読みになったらいかがでしょうか。
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「農家はもっと減っていい」は、実際に農業ビジネスをしている
久松達央氏の2022年8月刊行の書名です。
本書は、極めて実践的であると同時に立派な学問的研究書でもあるのです。
氏は、1994年に慶応大学経済学部を卒業後、
帝人に数年勤めた後、独立して農業を営んでいます。



本書を紹介した日経新聞の書評では以下のような記述があります。
本書を読むと「この人、農家なの?」と驚くのではないだろうか。
農業本は、お約束のフレーズや鉄板の美しい物語がちりばめられがち。
しかし著者の筆は、お決まりのストーリーに囚われない。
経済学・経営学・社会学・文化人類学・教育学・マネジメント論・医学などなど、
農業以外の知見を存分に駆使することで、農業の現実を浮き彫りにする。

私は、日本の経済の今後の方向性を研究する一環で本書を読みました。
著者久松氏は、同じ帝人OBの私が感服するスゴイ人でした。

本書の構成はこうなっています。
第1章 農家はもっと減っていい
第2章 淘汰の時代の小さくて強い農業
第3章 小さくても売れる 淘汰の時代の弱者の戦略
第4章 難しいから面白い ものづくりとしての有機農業
第5章 自立と自走 豊かな人を育てる職業としての農業
第6章 新規就農者はなぜ失敗するのか
第7章 「オーガニック」というボタンの掛け違い
第8章 自立した個人の緩やかなネットワーク 
    座組み力で生き抜く縮小時代の仕事論
第9章 自分を「栽培」できない農業者たち
    仕事を長く続けるための体づくり心づくり
参考文献 40種が挙げられています。
     完全な専門書スタイルです。

この内容を以下のように整理してみました。
生々しく、具体的な内容はお伝えすることができませんので、
ご関心のある方はぜひ本書をお読みください。

1.農業の現状
農業は大淘汰・大規模化の時代になっている。
(1)基幹的農業従事者の状況 大幅減少と高齢化進展
       人数    平均年齢   65歳以上の比率
 2005年 224万人 64.2歳   57%
 2020年 136万人 67.8歳   7割


 











就農者数の外国人比率
30代以下では1-2割(茨城県では3人に1人)


(2)農業売上の状況 大規模農業者への集中



 

・農家の8割は売上500万円以下
・0.1%の事業者が3割近くの売上を上げている。



売上高5千万円以上の経営体は、
 2000年に   1,722だったが、
 2020年は  20,982になっている。

農業法人は、売上高5千万円を境に、
経営が雇用型(創業者一家よりも雇用者の方が多くなる)になっている。

(3)耕地面積 全国
1961年 609万ヘクタール(これがピーク)
現在    440万ヘクタール
    耕作放棄はせいぜい40万ヘクタール
    残りは宅地等に転用されている。

(4)耕地面積 1農家当り
10ヘクタール以上の農家比率
 2000年 26.1%
 2020年 55.3%

以上を要約すると、
耕地面積は大幅減少、農業従事者は大幅減少と高齢化の進展が
着々と進行していて、
経営体の大規模化もかなり進展している、ということです。

2.水田稲作の生産方法の変化
各種機械の開発により、規模の効用が実現する事業となっている。
以下の図で見ても、規模によるコスト差は2倍以上ある。
生産性では、
手作業中心方法は大規模生産にまったく太刀打ちできない。
しかし、土地の集約が進まなければ、生産性の大幅増大は実現しない。














3.零細農家が生き残っている理由  
一般的な市場原理からすれば、存在しえない零細農家が存続する理由は
以下の点にある。
1)兼業者が多い
 前掲図で売上高500万円以下の層は大半が兼業農家である
 (それでなければ生活が維持できない)
2)国の生産補助がある
 2009年から2012年までは10アール当たり15000円の米農家への補助金があった。
 それ以外にも、各種の補助金が出されている。
  
3)農地であることの税制有利がある
 農地の固定資産税は安い。
4)市街化すれば土地の売却益が得られる
 その可能性があれば、農地を保有し続ける。
5)廃業せずに惰性で続けている
 自家消費中心で細々と続けている。

本書にはこういう記述があります。
素晴らしい見識です。
農地法は、農地の売買賃貸を制限しているのは、
耕作者が安定して農業を続ける権利を保護するためです。
しかし、結果としてこの制度が、
農家が既得権益として安いコストで農地をを長期間保有し、
都市的利用のために転用する際にはその利益を丸々享受することを
可能にしてしまっています。
これは明らかに農地法の立法趣旨の逸脱です。

が、このことを正面から問題にしている学者はごく一部です。
農家もまた、脛に傷があるせいか、
積極的に議論する人は多くありません。

農水省は、2015年に
「農地流動化の促進の観点からの転用規制のあり方に関する検討会」
を開きましたが、明確な結論は出せませんでした。
米騒動を発端として、社会政策として自作農主義が始まってから100年。
時代状況が大きく変わっても日本の農業に影を落とし続けている
この「耕作者主義の呪い」は、長期的な土地利用制度設計の失敗例として
歴史的に検証されるべきだと考えます。

まったくそのとおりです。
タダで国から配分された土地が、市街化することによって
莫大な不労所得を生み出していることは、
単なる勤労者から見て割り切れなさを感じます。

4.新規就農者の現状
(1)その規模 (農水省の発表した2020年の数字)
「新規就農者数」5.4万人
その内訳
「新規自営農業就農者」(主として農家の後継ぎ)約4万人
 なんとその半数は65歳以上。49歳以下は僅か8.4千人しかいない。
 この中には農業経営を引き継ぐ人もいますが、農業には関わっておらず、
 定年や親の引退に伴って「名義変更」しただけのケースも多くあります。
「新規雇用就農者」(農家や農業法人に勤める人)約1万人
 かつては農業法人に就職することを独立へのステップとして考える人も
 多かったのですが、現在は普通の就職に近づいてきています。
 半数以上が、農業販売額年間1億円以上の経営体に雇用されている。
「新規参入者」(農外から自営で農業を始める人)3.6千人

本当の意味で、
農業ビジネスに新規参入しているのは最後の3.6千人だけである。

(2)新規就農者への支援
年間20億円の予算が投入されている。
新規就農者に対して年間150万円の助成金を支給している。
その審査は杜撰(著者曰く)である。
助成金は、農業事業確立のための「投資」支援のはずが、
単なる収入補填となり、就農者を甘やかし、
その収入に依存する体質を産んでいる。
そのために、支給を受けた者はほとんどが農業で成功していない。
(そこで2022年からは、金融機関の審査をパスした計画にだけ
融資する仕組みが「増設」された)

5.新規農業参入成功のヒント
農業で安易にビジネスが成功できると思うな、
今はそういう時代ではない。
今や、農業ビジネスは大企業が牛耳っている。
そこに対抗するのは、生半可なことではおぼつかない。

(1)小さい農業の生き残り術
①価格競争の土俵に乗らない。 
 大規模農業体が作るものは作らない。
②皆がいいと思うものに思うものに手を出さない
 大規模農業が参入してくる。
③セールスポイントを曖昧にする
 はっきりさせると真似される。
 感性でこれはいいと思われることを狙う。

これは、農業以外にも通じる弱者の生きる道でしょうね。

(2)「ファンベース」の農業を続ける条件
(「ファンベース」とは、
品質や価格などひと目でわかる機能価値ではなく、
共感や愛着を基に商品やサービスをアピールしていく
マーケティング手法)

①「みじめな範囲」を逸脱しない
手はかかるが、コツコツ自分で広げていける商売のフィールドを、
私は「みじめな範囲」と呼んでいます。
1人でこなせる面積のビニールハウスで美味しいトマトを
地元の常連の固定客にだけ売る。
限定生産のこだわりのりんごを口コミで広がったお客さんにだけ買ってもらう。
大規模にやっている人が面倒で手を出さないところを丁寧に固めていくことが、
みじめだが堅実な商圏をつくります。

②偏る勇気を持つ
弱者には、バランスよく全方位に戦うだけの戦力はありません。
無理に360度を意識すれば、どの方位も中途半端になります。
勝てるところを徹底的に磨く代わりに、
捨てるところは大胆に捨てる。
小さくて強い農業に最も必要なのは、「偏る勇気」なのです。

なるほど、そうなのでしょうね。
(3)新規就農者へのアドバイス
その1「何をやるかより誰とやるか」
今や一人で何かを成功させるのは困難である。
よき仲間や組織を見つけてそこで腕を磨き発揮する。
久松農園の例が示されています。

その2「身の丈」に合わせる
小さな経営の新規参入者が先行者と正面から戦うのは無理筋です。
身の丈に合った「みじめな範囲」で足場を固めることに注力することが肝要。
新規参入者は、体を使って頭を使えば、
勝つ戦いはできなくても、負けない戦いは十分に可能です。

ニッチにはニッチなりの行き方がある、
安易な脱サラ感覚では成功しませんよ、という忠告です。
脱サラで農業を、と考えている方は、ぜひ本書を参考になさってください。

2 件のコメント:

kazedayori さんのコメント...

著者の久松です。ご紹介ありがとうございます

上野 則男 さんのコメント...

久松さん
コメントいただきビックリです。
やはりずい分情報収集されておられるのですね!!
たしかに「農家さんではなく」研究者です。
今後ますますのご活躍をお祈りしています。