2019年8月25日日曜日

「魔除けの民俗学」

【このテーマの目的・ねらい】
目的
 どんな俗諺があるのかを知っていただきます。
 なぜそんな俗諺が生まれたのかを考えていただきます。
 (すべて有効な「生活の知恵」だったのでしょうが、
 現代に通用するものは少ないようです)
ねらい:
 伝えたいことを「言い伝え」風にする方法として研究しましょう。
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これは完全な人文科学書です。
古くからの言い伝えを調べまくって収録されています。
その努力には頭が下がります。


このようなテーマが並んでいます。
Ⅰ 家屋敷と俗信
第1章 生死と境界の空間――屋根と床下
     「火事と腰巻」など
第2章 植物と家の盛衰――庭木の吉凶
     「南天と榎は吉木」など
第3章 他界への出入り口――井戸
     「水汲みに行った者を呼ぶな」など


Ⅱ 生活道具と俗信
第1章 人生の節目を表彰――箒
     「人の出たあとを掃くな」など
第2章 祓う・拒む・鎮める――箕
     「あおる――祓う力」など
第3章 禁忌と魔よけの呪具――鍋
     「鍋蓋」など
第4章 欺く・招く・乞う――柄杓
     「船幽霊と底抜け柄杓」など


Ⅲ 災害と俗信
第1章 地震と唱え言
     「揺れを感じたら「カアカア」と叫ぶ」など
第2章 幕末土佐の人と動物――「真覚寺日記」から
     「猫は腰抜け、鼠は仏敵」など


しかし私はどうしても、
「なぜそのような言い伝えが生まれたのか」に関心を持ってしまいます。
その記述が少ないのが残念です。


人文科学者としては
根拠不明の想定を持ち込むわけにいかないのでしょう。


中には言い伝えの根拠の解釈をしておられるのもあります。
その例をご紹介します。
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節分のような歳の変わり目には、悪霊が去来すると信じられ、
鍋墨(注:鍋の底についた煤をこそきとったもの)を付ける風があった。
徳島県祖谷地方でも
「節分の晩には大人も子供も鍋墨を手ですくうて額の所へつけておく」
といい、また
「生まれた子が次々と死ぬと、クルマゴとよんで、
死んだ子の額に墨をつけて葬ると、
後に出来る子は丈夫に育つと言われている」という。


死んだ子に鍋墨をつける習俗は
高知県大方郡田野浦(現黒潮町)にもあり
ここでは「死んだ子どもの額に鍋墨を塗り
「もう生まれ変わってくるなよ」とまじなうふうがある。
そうすると次の子が丈夫に育つ」という。


子供の額に鍋墨をつけるのは、
通常は悪霊を寄せつけないためだが、
クルマゴや病弱で死んだ子につけるのは、
再び生まれてくるのを阻止する狙い、
つまり連続する不運や病弱を封じ込めて
再発を止めるためといってよい。


中略


以前は、薪の使用とともに鍋・釜は身近な生活の道具で、
鍋墨をとるのも容易だった。
また塗りつけやすく一度つけるとすぐには落ちない。


そして何より、鍋尻を焼く火炎の勢いが結晶したものが鍋墨であり、
鍋墨の呪的な力の源には火の威力が控えている。
それが魔除けとして鍋墨が広く用いられる所以であろう。
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そこで私が勝手に言い伝えの根拠の想定をしてみました。
言い伝えは、その初めには何らかの理由・根拠があったはずだ、
という前提に立っています。


以下ご参考までに。
根拠が想定できないものも非常に多いです。



言い伝えの内容

その理由の上野想定

屋根の高さを超える樹を植えるな

台風とかで倒れて家が損壊する。

庭に枇杷を植えてはいけない(植えた人が死ぬ)

成長は遅いが大きく根を張るので家が傾く、枇杷の種にはシアンが含まれていて大量に食べると死に至る、という実害があった。


井戸に物(特に金属類)を落とすと祟りがある


井戸の水が汚れるのを避ける。

抜けた上の乳歯は縁の下に、下の乳歯は屋根の上に投げる


次の歯がその方向に強く育ってほしいという願望である(これは衆知)

正月は箒を使うと福の神が出ていく


正月くらいはのんびりしよう。

長居の客に箒を立てる

「そろそろ掃除の時間です」とやんわり伝える(今でも「箒を立てる」という言葉は生きている)。


囲炉裏の自在鉤にかける鍋を下ろした時に弦の畳んだ方から中身をとると(ヤマゴシと言う)祟りがある


弦のない側から取る方が障害もなく行儀が良いので、そうでない方を避けるために、祟りとかを持ち出している。

井戸水の水位が急激に下がると津波がくる


そういうことが何回もあっての経験則である。

 
類型化すると、以下の三つでしょうか。


1)実際に実害がある事実があってそれを伝える。
2)しつけをするために言い伝え化した。
3)行為を正当化するために言い伝え化した。



1 件のコメント:

上野 則男 さんのコメント...

OYさんから頂いたメールです。

ブログいつも楽しく拝読しております。
「魔除けの民俗学」は面白そうですね。

ことわざ「鰯の頭も信心から」のもととなった、柊鰯について
以下の本に「なぜそのような言い伝えが生まれたのか」の推察がありました。

「陰陽五行と日本の民俗」吉野裕子著
https://bookmeter.com/books/33387

2年くらい前に読んだのでうろ覚えですが、陰陽五行が関係あるとの推察でした。
柊鰯については、絵巻に描かれたものが2017年に天草ではじめて見つかったとかで
テレビで紹介されているのを見ました。
http://www.amakusa.tv/ytp_news/ytp_hyatki20170907.html

ご参考まで