2019年7月16日火曜日

高度プロフェッショナル制度―労働基準法の改正ーこれならない方がマシ!!

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 「高度プロフェッショナル制度」がどのようなものか知っていただきます。
 この制度が、日本の働き方改革に貢献して、
  日本経済の活性化につながるのかどうかを考えていただきます。
ねらい:
 この制度の行く末を見守りましょう。
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当ブログの私の意見の要約は以下のとおりです。
1)高度プロフェッショナル制度は、制度導入の手続きが極めて複雑である。
2)対象業務の列挙が偏っている。
3)働き方改革(自由な働き方の選択)になるという触れ込みは
  不当宣伝である。
4)むしろこの制度が現状の働き方にたがをはめる可能性がある。
5)この制度が経済界に受け入れられるとは思えない。


以下、順不同ですが解説いたします。


ご承知のように、現状の労働基準法では、
「管理監督者」については、
一般の労働者に適用される労働時間・休憩時間・休日に対する決まりが
適用されないようになっています。


管理監督者の定義はこうなっていて、
課長などの管理職即管理監督者ではありません。
1. 職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め、
   企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか
2. その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか
       否か
3. 給与(基本給、役職手当等)及び一時金において、
   管理監督者にふさわしい待遇がされているか否か
管理職者が、自分たちは管理監督者に該当しないので、
残業代を支払わないのは不当である、
という訴訟が起こされたことがありました。


管理監督者はマネージャー職ですが、
スペシャリスト職・専門職の上位者にも
勤務時間に対する縛りをかけないようにしようというのが、
この「高度プロフェっショナル制度」です。


2019年4月1日から労働基準法が改正されて
制度が正式スタートしています。


勤務時間に対する自由裁量権を与え、
より専門職としての能力を発揮してもらおうということです。


しかしこの制度は、どちらかと言えば、現状の追認です。
既に、多くの企業では、
そのような高度なスペシャリスト人材については
管理監督者扱いをして残業代支払いの対象外にしているのです。


したがって、以下のように面倒な制度を作って、
「高度プロフェッショナル」人材を遇しようという企業は出てくるのでしょうか?


企業からすると、この制度に則っておけば、
「高度」人材から残業代を払えと訴えられなくてすむ、ということでしょうが、
そもそも、
1000万円以上の給与をもらっている人がそんな訴えを起こしますかね?


あるいは、
「当社は高度プロフェッショナル制度がありますから入社してください」
と勧誘するのでしょうか。
応募者にとって、それはまったく魅力ではないでしょう。
魅力は給与の高さです。


以下、参考までに、
この制度についての厚生労働省の解説ページの掲載内容をご紹介します。


政府・厚生労働省は、この制度が、
以下のねらいに貢献すると本当に思っているのでしょうか?
まったく疑問に思います。


むしろ、この制度ができたことによって、
従来のスペシャリスト人材の上級者を管理監督者扱いをしている
という運用に対して、労働基準監督署等がうるさく言うようになれば、
それこそ逆効果です。
お役人が自分たちの仕事を作るためにこの制度を作ったことになります。
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[働き方改革の目指すもの]
日本が直面する「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」
「働く方々のニーズの多様化」などの課題に対応するためには、
投資やイノベーションによる生産性向上とともに、
就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作る
ことが必要です。


働く方の置かれた個々の事情に応じ、
多様な働き方を選択できる社会を実現することで、
成長と分配の好循環を構築し、
働く人1人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにする
ことを目指します。
(上野注:これはこの制度のねらいになります)


高度プロフェッショナル制度は、
高度の専門的知識を有し、職務の範囲が明確で
一定の年収条件を満たす労働者を対象として
労使委員会の決議及び労働者本人の同意を前提として、
年間104日以上の休日確保措置や
健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置を講ずることにより、
労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金
に関する規定を適用しない制度です。
(これがこの制度の目的です)


ところが、この制度の労働基準法の規定はとてつもなく厄介です。
この制度を導入するための手続きはこうしなさいとなっています



労使委員会の設置の定めはこうなっています。
(STEP3は省略)
第2労働組合を作るようなものです。
そのため、この制度の国会での審議で一部野党が反対したのでしょう。


対象労働者の規定の「職務が明確に定められていること」
のガイドはこうなっています。
現実にどうやって決めるのでしょうか?

疑問点は他にもあります。
高度プロフェッショナルの対象業務の規定です。
「下記の『具体的な対象業務』に該当する業務でなければならない」
としていますが、この①から④までは、
資産運用会社、証券会社、コンサルティング会社の場合です。
非常に偏っています。


⑤でようやく一般の研究開発業務が出てきます。
これが1番目でしょうに。


企業にはこれ以外にも、
企業内の弁護士、司法書士、特許の専門家、などがいます。
この人たちは「高度プロフェッショナル」ではないのでしょうか?


これらの業務の受け皿として、
「業務の遂行に専門的知識・経験を必要とする業務」
という規定があってよさそうなものですがそれがありません。


この制度の乱用を恐れた反対勢力に配慮した結果なのでしょうか。
これでは、
この制度は実社会での有効性を確保できそうにありません。

2 件のコメント:

岩盛 熊悟朗 さんのコメント...

もっと立法の前に、民間のニーズや意見を吸い上げて欲しいですね。
働き方改革、このままだと働かせない改革です。
残業規制も異常です。
一部のブラック企業のために、一律規制は、おかしいです。
このままだと、日本的一流は育ちません❗

上野 則男 さんのコメント...

クマゴロウさん

コメントありがとうございます。
全くそのとおりです。
官吏になる人はもともとは「バカ」ではないはずなのに、
「勉強」が足りないのでしょうね。

本当に、日本を何とかしたいですね!!