2012年6月30日土曜日

福島原発事故の本当の原因は?

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
福島原発事故発生の真の原因を知っていただく。
原子力発電は危険であるという「誤解」を緩めていただく。

ねらい:
感情的な原子力発電反対をやめていただく。
強大な堤防造りなど無駄な投資をやめていただく。
原子力発電維持に必要かつ有効な対策を強化していただく。

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関西電力管内の大飯原発が再稼働にこぎつけました。

東京電力管内の13%の供給力を持つ柏﨑刈羽発電所は
地元の新潟県知事が、
「福島原発の最終事故調査報告書が出て
事故原因が確定するまでは
再稼働検討の土俵に上がれない」
と言っていて再稼働のめどがついていません。

事故原因の究明は焦眉の急です。

このレポートは「誰が悪かったのか」の悪者探しを
目的とするのではありません。

福島原発事故以来、
「原発の事故は原発設備自体の危険性に由来するものであり、
原発をやめるしかない」
という誤解が一般化していることに対する反証をしよう
ということが目的です。

この「誤解」は、
私も応援している某「橋下市長」でさえも
そう信じておられるようですので、かなりの影響力です。

(以下の約20行は7月3日に追記です)
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以下のような私の分析に対して、
「素人が何を言っているか」と
原子力発電の専門家、あるいは
多少その技術を勉強している人が言われることがあります。

以下に私が述べるような「本当の原因」について、
原子炉の専門家は、何が分かるのでしょう?
未だに、各種調査等を見ても
私のような分析をしているものはありません。

せいぜい、7月1日のフジテレビの新報道2001で、
猪瀬東京都副知事が
「今回の事故は地震のせいではない。
津波のせいでもない。
それらは引き金になったが、基本的には人災である。
(例として、狭い場所に密集して原子炉を配置している)」
ということを言われたくらいです。

その指摘は私の分析と基本は同じですが、
「その人災が何か」については猪瀬さんも
指摘できていません。
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福島原発事故(放射能の流出)は、
地震で設備が損壊したからではない、のです。
これはほぼ全国民に了解が得られているようです。

大きな津波が来ただけで事故になったのでもない、
のです。

津波(海水)を想定して、
重要な設備を防水状態にしていなかった、からなのです。
津波が来ても、
防水になっていれば大丈夫ではないですか。
これは、小学生でも分かることでしょう。

私は、2011年6月のブログ161号で、
原発事故の1次原因(真の原因)は、
予備用の電源であるディーゼル発電機を
防水状態ではないタービン建屋に置いたことである
(そのために「予備」が冠水して使用不能になった)、
と述べました。

さらに、
その後、福島第2原発建設の際には、
予備用電源を
防水が完全な原子炉建屋内に設置したにもかかわらず
(ということは冠水のリスクを想定したということです)、
第1原発分はそのまま放置したことが
2次原因である、としました。

福島第2原発は、
津波の被害を受けて冠水したにもかかわらず、
予備電源が稼働できたために
冷温停止できて何も問題は起きなかったのです。

目的論でいえば、
原発が放射能漏れなどの事故を起こさないようにする
ことが目的です。

その目的達成のために、
津波(海水)が原発の設備に押し寄せないようにする
(たとえば、堤防を高く強固にする)ことよりも
津波が来ても機器が浸食されないようにする(完全防水にする)
ことの方がよいのです。
この方が安上がりでかつ全く事故の心配がないからです。

なぜこんな単純な理屈が皆様お分かりにならないのか、
不思議でなりません。
堤防工事をやりたい土木建設業界のお先棒を担いでいるのか、
と思いたくもなります。

繰り返しますが福島第2原発は事故を起こしていないのです。
福島第2は、第1よりも少し高い位置に立地していますが、
それでも冠水しているのです。

この1年間、各種の調査が実施され報告書も出ています。
そこで、その内の一つである
「福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書」
(2012年3月11日)を読んでみました。

この報告書(以下、当報告書)は、
民間版事故調査委員会の報告だと言われていますが、
その位置づけは定かでありません。
野中郁次郎先生が委員で参加しておられることを
評価しておきましょう。

当報告書でも、私のような分析はしておりません。
ですが、私として新たに分かったことがありました。

それは、ディーゼル発電機だけでなく
冷却用の海水をくみ上げる海水ポンプと
(このことは、私もだいぶ前に知りました)
非常用電源を原子炉につなぐための非常用電源盤
も冠水して使用不能になったことです。

当報告書には、
その非常用電源盤が、ディーゼル発電機と同じく
タービン建屋に置いてあったことが記載されていました。

なお、6号機の非常用電源盤は、なぜか不明ですが
防水が完全な原子炉建屋に設置されていたために
使用不能とならなかった、と記載されていました。
そりゃそうでしょう!

ですから、1年前の私のレポートは、
以下のように訂正する必要があります。

予備用電源で原子炉を冷却するために必要な
予備用電源であるディーゼル発電機
非常用電源盤
海水ポンプ
のすべてが海水をかぶって使用不能となったことが
原子炉の冷却不能を通じて
大惨事につながったのです。

このことが、明確に認識できたら、
原子力発電の安全性を高める対策も
無駄なく的確に実施できるのではないでしょうか。

この関係を以下の連関図に示しました。

クリックすると拡大できます。




この図の3次原因については、
2011年5月の「福島原発事故およびその被害拡大要因」を
ご参照ください。

この報告書で分かったことが他にもあります。


1.ディーゼル発電機は、
当初は水冷式(冷却用の水が必要)でしたが、
1995年に追加補強した分は空冷式になっていました

リスクを想定したのです。
ですが全部を切り替えるまではしませんでした。
この際に、全般的なリスク分析を実施していれば、
予備電源系のリスクは認識されたはずです。
2.2008年にIAEA(世界原子力機関)が出した
「経年劣化指針」では、
「構造物、系統、機器の旧式化の影響を検討せよ」
となっているようです。

当報告書では、こう述べています。
「(福島原発ではこの観点からの検討を
十分していないようだが)
経年劣化対策の観点から、
プラント全体の旧式化への対策を強めていれば、
全電源喪失の危険性に意識が向けられていた可能性は
否定できない」

全体を見渡せば、第1原発の中でも新旧方式があり、
まして第2原発と比較すれば、
予備用電源系を防水状態に置くことに
気が回ったのではないでしょうか。

このように、
2回のチャンスを活かすことができなかったのです。

それができなかったのは、当報告書にもある
「絶対安全神話の罠」
(原子炉は絶対安全なのだから、
「より安全にする」などという発言があってはならない)
だったのでしょうか。

いずれにしても、
原子炉または原子力発電自体が危険なのではなく、
その建設・運用に抜けが起きることが危険なのです。

それはとてつもなく、たいへんなことではなく、
落ち着いて考えれば誰でも気がつくようなことを
確実に実行することでよいのです。

実は私は、
原子力発電の究極のリスクは、
テロ攻撃だと思っています。
これは防ぐことができるのでしょうか。

これを防ぐことができないなら、
原子力発電はやはり危険ですね。

でも、原子力発電反対派は
このことについて触れていません。

(2012年7月3日追記)
原子力発電先進国のフランスの最新の原子力発電施設は、
核シェルターのような造りになっているそうです。
さすがですね。こうすれば、
核攻撃だけでなく飛行機の墜落等にも耐えられるのですから。

そうまでしても、シェルター内で今回私が指摘しているような
抜けがあればダメですが。
そこまでいけば、
国民全員が安全だと認めるのでしょうかね。

11 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

テロだけでなく、日航御巣鷹山の様な、沖縄のヘリコプター墜落の類も対策が出来てませんよね。
私は原子力発電は危険を承知で使うものだと思ってます。
「触らぬ神に祟り無し」です。

青野 馨 さんのコメント...

あえて意地悪な反論をしましょう。物事に絶対はない、という立場から言えば、本来人間は原子力に手を染めるべきではなかった、と思うのです。放射能を発見したレントゲンやキュリー夫人の「罪深し」です。よってこの際、一切の原発を廃炉にすべし、と主張します。
そのようにはっきり割り切ってしまえば、政治ももっとわかりやすくなるでしょう。

米谷共比古 さんのコメント...

小生も青野氏の意見に賛成です.上野さんの意見には,人間は「完璧ではありえない」という謙虚さが欠けていると思います.「想定外」は言い訳にはなりません-想定の範囲を恣意的に狭めてしまえば,「何でもあり」が許されるでしょう.
一方,「想定外」のことが起きた時に発生する被害の大きさと,予防ならびに回復(当然手抜きなし)のコストは,想定できるはずです.
経済学部出身の上野さんには「釈迦に説法」でしょうが,まともに考えて,原発はコスパが見合うとは思えません.にもかかわらず推進するのは,暗黙裡にだれかの犠牲を前提にしているということでしょう.「いつ起きるかわからない災害のために,そんなに金が使えるか」というのが,推進者側の本音でしょう.
小生は,いわき市の出身で,家内ともども実家も墓もいわき市にあります.原発の誘致が決まったときは,隣町の話とはいえ,まだ子供でしたが,子供心にも「悪魔に魂を売ってしまったな」と思った記憶があります.

米谷共比古 さんのコメント...

少々感情的になってしまったようなので,別の観点から論じてみます.原発事故の原因は,上野さんのご指摘の通りだと仮定します.しかし,上野さんは原発の専門家ではありませんよね.門外漢に原因を指摘されるような”専門家”に原発の運用を任せられるでしょうか?
それとも,原発の関係者全員に,上野さんの「問題解決セミナー」を受講させれば何とかなるのでしょうか?

上野 則男 さんのコメント...

米谷さん
ご意見ありがとうございます。

何事もプラス面とマイナス面があります。
原発については比較的低コストで安定的な電力供給ができる、
という面と、今回のようなリスク面です。
その双方を秤にかけて、意思決定されるのです。

重要な事項について好き嫌いで判断してはいけないことは
よくご存じでしょう?

これから原子力発電をどうすべきかについても、
「廃炉」論を含めて、同じ「秤」で検討すべきものです。

その場合、
客観的な事実を正確にとらえた上で判断すべきだということです。
私は、客観的な事実を報道等の情報をつなげて分析し、
皆様にご提示しているのです。
原子炉の「専門家」ではない私は、
原子炉内の純技術的なことは一切論じていません。
(私の提示している「事実」は
すべて論拠をご説明することができます)

私は、
原子力発電の可否そのものを論じているわけではありません。
誤解のないようにお願いします。

なお、「想定外」を安易に許してはいけない、という点では
私もまったく同意見です。念のため。

工藤 秀憲 さんのコメント...

上野さん、しっかりした見解に対し敬意を表します。
原発稼働の究極の問題は、経済性を取るか、安全性を取るかという事だと思いますが、私は安全性絶対重視の立場です。原発を廃止して日本経済が落ち込んでも、将来原発による日本全体、或いは世界を巻き込むリスクを取ることには、反対です。最大のリスクはテロ対策ですが、先般のTVの討論会で、テロが最も怖いと発言をする人がいました。他の人はこれに乗ってきませんでした。分かっていても表面化したくない人が多いのでしょう。地震・津波対策も重要です。今、現在作られている全ての原発の設計値(対地震、対津波等)を開示して欲しいと思います。原発推進派は、経済問題、将来の原子爆弾保有に対する技術維持・発展、原発輸出企業の後押し等があって捨てきれないのでしょう。しかし、安全性が確認できない限り、再稼働すべきでは無いと考えています。

上野 則男 さんのコメント...

工藤さん お久しぶりです。

私は原発賛成に単純に加担しようという気で
意見開陳しているのではありません。

ですが、「安全か経済性か」という単純な図式で
ことを問えば、誰でも今回のことが頭に浮かび、
安全が損なわれるのは嫌だ、と思うでしょう。

確かに今回の事故は起きていますが、
それは人災で、
気の緩みなくきちんと物事を的確に判断・処理していれば
起きなかったことです、と私は主張しているのです。

周辺の住民から見れば、
原子炉が悪かったのか、周辺の技術者がぬかっていたのかは
どうでもよいことかもしれません。

ですが、国の全体を考える人には、
ことの本質を見抜いた的確な判断を期待したいと思うものです。

上野 則男 さんのコメント...

工藤さんのご意見に対する追伸

私の分析の結論はこうです。
 今回、地震自体によっては主要な設備は一切損傷していない
 (安全だった)。
 津波によって東日本太平洋岸の原発はすべて水を被った。
 多くの原発では、外部電源が途絶えた。
 しかし、福島第1原発以外では、予備電源か稼働して
 無事冷温停止が実現し事故には至らなかった。

 ということは、放射能事故が起きないようにするには、
 防波堤等を作って津波が来ないようにする対策が有効なのではなく
 予備電源系が確実に作動して冷温停止ができるようにすればよい、
 ということなのです。

工藤 秀憲 さんのコメント...

上野さん意見に返信:
①事故は一瞬であり、防御は永遠です。
地震列島の日本が、防御可能でしょうか?という疑問を払拭しなければ再開はできません。今回の再開の安全性検証は、いい加減です。
②経済性で考えた時も、原発はプロトコルのコルが確立されていません。この最後の廃棄処理までのコストを考えた時に安いと言うことが、明確では有りません。コスト面ももう一度比較する必要が有ります。
③また、福島の原発4号機の危機も相当なものです。これまでの原発事故では米国の指摘は当たっていますから、米国指摘の4号機問題も深刻のようです。
④幼児、若者が生きながらえる社会で有れば、日本人は経済で一度落ち込んでも充分立ち直れますが、生命を失う・脅かされたら立ち直れません。 だから、原発には反対です。

上野 則男 さんのコメント...

私の友人グループホーム経営者有田良博さんからの寄稿です。

原発廃止を叫ぶのは
原発事故でひどい目にあっている福島の人々のことを考えると
当然かもしれません。
また、政治家も
今は原発反対を叫ばなければ選挙で落選する懸念があります。
原発反対を叫ばざるを得ない状況にあります。

しかし、我が国経済の現状、エネルギー供給の現状から判断して
軽々に原発反対を叫んでよいのでしょうか。

以下の問題に対する対策を考慮しないで原発反対を叫ぶのは無責任と言えるのでしょう。

① エネルギーは産業のコメです。
経済の安定、成長、発展を図るためには
エネルギーの安全保障は絶対条件です。
我が国電力の自給率は18%です。
韓国の19%と並ぶ世界最低水準にあります。
今原発を止めると自給率はたった4%になるのです。
エネルギーの安全保障は殆ど皆無になるのです。

② 我が国のエネルギー資源の大半を占めるのは原油です。
原油はその88%を中東に依存しております。
イランとイスラエルは何時戦争を始めるか分かりません。
幸い原油の備蓄は4カ月分ほどあるとのことですが、
戦争が始まれば4カ月で片が付く筈がありません。
火力依存を高めるのは極めて危険なのです。

③ 自然エネルギーが確保できれば一番良いのですが、
立地の問題もあり、
原発を代替するには数10年の歳月が必要でしょう。
即効性は全くないのです。

④ 原発設備には膨大な資金が投入されました。
原発の解体には膨大な解体費用がかかるだけではありません。
膨大な設備の除却損が発生するのです。
また、設備を使用しないで休止しておいても、膨
大な減価償却費と保守費用が発生します。
これらの損失はいずれ電気料金の値上げとなって
国民が負担することになるのです。
設備は作った以上耐用年数いっぱいフル稼働させなければ
膨大な損失が発生し、経営は成り立ちません。

⑤ 福島第一原発の事故は
政府と東電の危機管理能力の欠如による人災です。
危機管理を高め、これを徹底すれば
このような事故を2度と起こさない対策の実施は可能でしょう。
チェルノブイリ、スリーマイル島事故の後、
ロシアやアメリカで大きな原発事故は発生しておりません。

⑥ 我が国はCO2の25%排出削減を世界に公約しております。
原発を廃止してこれを達成することは不可能です。

上野 則男 さんのコメント...

私の友人MI氏からメールをいただきました。
私の友人は、皆様遠慮深くて直接投稿されませんので、
私からご紹介させていただきます。
以下、原文のままです。

メルマガ7月号(送信された日のうちに)拝読しました。
4番目の福島原発の事故原因について一言感想が
ありますが、生来のずぼらさのために返信が遅れました。

一言と言いましても「大筋、私も上野さんの御意見に同感」
ということに過ぎません。

今も申しましたようにずぼらの所為で、上野さんのように
正確なデータを積み上げての話ではないのですが、
私も一時
石油化学プラントの建設工事に携ったことがありますので、
その経験からうろ覚えの新聞・テレビの情報を判断すると、
原子炉本体の安全度は十分高いのですが、
周囲の設備を含めたプロセス全体の設計が
お粗末といった感じがします。

原子炉本体は力学的被害は全く受けておりません。
周辺設備(電源設備)の損傷により制御が利かなくなり、
大事故が起こったわけです。

確か、以前の新潟地震の時も、
緊急停止したのは原子炉のせいではなく、
建屋外の蒸気配管か何かが壊れたためだった筈です。

しかも、今回の事故の震災後に起こったトラブルとして、
配管に取り付けられているバルブが逆さだったらしいとか、
温度計が壊れたけれど取り替えられないので盲運転しているとか、
そういう考えられない(正に想定外のレベルの)
お粗末なことが報じられていたように思います。

全電源喪失したら重大事故が発生するということが
分かっていながら、
電源供給装置を一段低い所に設置していたり、
電源車を常備していなかったりといったことも含めて、
原子炉のような非安定度かつ危険度の高い反応系にしては
想像を絶する粗悪プロセスなのではないかなあという気がします。

要するに、原子力村の住民というのはみんなお利口
ではないように思えます。

ですから、原子炉本体は安全だが、
今の原子力村の人間が取り巻いている限り安心できない
というのが私の見解です。

それこそ、お粗末な意見ですいません。

上野コメント:いえいえ立派な説得力あるご意見です。
ありがとうございました。