2012年6月29日金曜日

生活保護問題について考える

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
生活保護問題のほぼ全貌の概要を知っていただく。
生活保護問題について考えていただく。
生活保護問題発生原因の因果関係を知っていただく。
悲惨な事故が無くなることを願っていただく。
河本準一の母親は、
必ずしも「不正受給」ではないことを知っていただく。

ねらい:
生活保護に関して公正な判断・行動をしていただく。
できれば、生活保護問題の改善に尽力していただく。

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生活保護問題は、私の分類では、
4つの側面を持っています。
1.財政面の負担の問題
2.不正受給問題
3.生活保護を必要とする人が生活保護費をもらえないこと
4.他の制度等とのアンバランス・矛盾があること
これについて、順番に明らかにしていきましょう。

ぜひ最後の因果関係の連関図をご覧ください。

1.まずは、財政面の負担の問題です。
生活保護費用は国自治体を合わせて
約5兆円(国負担分は4分の3の3.7兆円)です。

国の社会保障予算(平成24年度)は、
26兆4千億円(一般歳出予算の中で51%を占める)の中で、
14%を占めています。
東京23区では総予算の中でこちらも14%を占めています。

生活保護費用の中で医療費補助が半分を占めています。
生活保護者の医療費は健康保険とは関係なく、
全額無料だからです。

無料はまずいです。歯止めがかかりません。

「看護師の宮子あずさ氏はこう言っている。
医療に関して生活保護の利点は特に大きい。
各種健康保険や高額医療助成を使っても、自己負担は発生する。

この自己負担がない分、費用度外視で治療を選択できる。
そんな現実を見てきた。

例えば、抗がん剤の効果がなくなっても、
中止を拒絶した男性がいた。
元が路上生活者だったので、
病状よりも居場所を目的とした社会的入院の期間も長かった。
彼にかかった医療費は総額で1000万円を超える。」
(東京新聞2010年10月18日本音のコラム「生活保護と医療」)

生活保護を受けている世帯は、
ここ数年大幅増加傾向で
現在は150万世帯、人数では210万人です。

ご承知のように生活保護の対象は個人ではなく
単身世帯を含め世帯なのです。

対象人口の中でどのくらいの世帯数が
生活保護の対象になっているかを「保護率」と言うようですが、
この全国平均は約29世帯(1000世帯当たり)、
人口比では15.2人(1000人当たり、2011年)です。

この保護率は都道府県によってずいぶん開きがあります。
出典「社会実情データ図録」



大阪がダントツです。
次いで北海道、その次はなぜか高知です。

また、生活保護受給者の年齢構成比・男女比は以下のとおりです。
出典:Wikipedia「生活保護」


30代から60代までずっと単身男性がトップですが、
70代から単身女性がトップになっています。
70代以上の男性は生きていないか、
年金で生活できているのでしょう。

30代・40代でその他世帯女性が多いのは、
母子家庭でしょう。
50代になると減っているのは、
子が親の面倒を見るようになって
生活保護から脱却できているのでしょうか。

2.生活保護の問題の2番めは、不正受給問題です。
タレントの河本準一氏の母親が生活保護を受けていたと
問題になりました。
不正受給ではないかとマスコミが騒いだのです。

不正受給というのは、
受給資格がない(=収入や資産がある)のに
生活保護を受けることを言います。
河本さんの場合は厳密には不正受給ではありません。

不正受給は、2010年度の全国の実績で
25,355件、128億円強でした。
賃金収入がありながら無いと申告(44%)
年金受給の無申告(28%)   (厚生労働省)

生活保護法では、
生活保護が受けられる条件はこうなっています。

第4条
「生活保護は、資産(預貯金・生命保険・不動産等)、
能力(稼働能力等)や、他の法律による援助や扶助など
その他あらゆるものを生活に活用してもなお、
最低生活の維持が不可能なものに対して適用される」

扶養義務者(親族等)の扶養義務が
この「あらゆるものを生活に活用してもなお」に、
含まれそうですが、違います。

1946年制定の旧生活保護法では、
「扶養義務者が扶養をなしうる者は
実際に扶養援助がなされていなくても保護の要件を欠く
(保護の対象にならない)」とされていました。

しかし、1950年制定の現行生活保護法では、
この欠格条項が撤廃されました。
そのことからしても、生活保護法が
親族の扶養義務を前提にしていないことは明らかです。

また、生活保護の申請者(河本さんの母親)が
20歳を超えて成年になっていると、
(未成年の場合は親に子の扶養義務がある、ということです)
申請者の親族(河本さん)が援助する余裕があっても
援助したくないと主張した場合は
扶養義務を強制することはできない、
と解釈されています。

それはそうでしょう。
親に見捨てられた状態で親に恩義を感じていない子は、
親を扶養する気にならないでしょうから。

なお、第4条には、
「民法に定められた扶養義務者の扶養、
その他の扶養は生活保護に優先して実施される」とあり、

扶養義務者の扶養が前提となっているようですが、
その意味は、
「扶養義務者の扶養が得られる場合は、
その金額が控除される」ということであって、
「扶養義務者の扶養が得られる場合は、
生活保護の受給資格がない」
といことではないのだそうです。

生活保護の申請時点で、
扶養可能な親族はいないのか、
その親族に扶養の意思はないのか、
を窓口で確認するそうですが、
実際に本人にその意思がないことを確認するまでは、
あまりできていない、のだそうです。

河本さんの場合、
15年前に母親が病気になって働けなくなり、
その時点では自分に十分な収入もなかったので
生活保護を申請しました。

その後、扶養の意思について
本人への直接確認はなかったものと想定されます。
そうだとすると、このケースは
「不当」受給だったかもしれませんが、
不正受給ではなかったことになります。

しかし河本氏は、
それなりの収入が得られるようになった時点で
何らかの対応をすべきであったと、「道義的責任」を感じ、
受給額の一部数百万円を返還した、と公表しました
(2012年6月25日)。

参考までに、本来の不正受給は以下のようなものです。

所得隠しによる不正受給
友人の名義を借りた不正就労による賃金の受給、
オークションや中古リサイクル店などへの売却金、
仕送りの受け取り、
世帯主ではない未成年受給者(主に高等学校在学生)
のアルバイト収入、
生命保険解約返戻金や事故などによる賠償金、
犯罪被害者給付金、
ギャンブルによる配当金、
株取引や先物取引、外国為替証拠金取引など、

これらは本来、生活保護法の規定によって、
全て収入として福祉事務所に申告するべきものであり、
通常はその収入分を減額した金額で保護費が支給されます。
 

不当又は虚偽の申請による受給
例:2006年、首謀者である暴力団の組員が札幌市から滝川市へ転入。
その際に、病気を理由に生活保護の認定を受けた。
やがて病気の治療に滝川市から北海道大学附属病院まで
介護タクシーで通院を要するという名目で
1回当たり約30万円の移送費(交通費)を滝川市に請求し、
受給するようになった。

請求額は、2007年11月までの間に約2億円に達し、
ほぼ全額が回収不能となった。

組員は滝川市に居住していた実態はなく、
札幌市内の温泉付豪華マンションに居住しながら通院しており、
組員の妻とともに滝川市から支給された金を
不動産の購入や遊興費、覚醒剤の購入代金に充てていたという。

3.3番めの問題は、
生活保護を必要とする人が生活保護費をもらえないことです。

片やで不正受給がありながら、
こういうことが起きるのは非常に残念なことです。

生活保護を必要とするであろう生活困窮者は641万人、
うち受給者は211万人(3分の1)だそうです
(2012年6月15日日経新聞学習院大学教授鈴木亘氏)。

所得が生活保護支給基準以下となるケースの内、
実際に支給している割合を「捕捉率」というようですが、
イギリスで87%、ドイツは85-90%なのに対し
日本はわずか10-20%となっています。
この数字は基準が曖昧であるという批判があるようです
(Wikipedia)。

厚生労働省の推計では、2007年時点で
世帯所得が生活保護基準以下の世帯 597万世帯
実際に生活保護を受けている世帯   108万世帯
(2011年時点では150万世帯)
(2007年の捕捉率18%、全世帯の2.2%)

その内訳
高齢者世帯  141万世帯中49万世帯 35%
母子世帯     46万世帯中 9万世帯 20%
その他世帯  410万世帯中50万世帯 12%

この数字から何を読み取ればよいのでしょうか。

生活保護が必要な対象者全員に
生活保護を実施したら、
単純計算で5倍の経費がかかります。
国の社会保障費予算の70%を使わなければなりません。
国家予算の35%になります。
とてもそんなことはできません。

今のレベルでもたいへんですから、
申請を受け付ける福祉事務所では
「水際作戦」と言われる選別・絞り込みを行っています。

以下Wikipediaより転載です。
生活保護行政における「水際作戦」とは、
一部地方自治体で採られた、
保護申請の受付窓口である福祉事務所において
保護申請の受け取りを拒否することで、
生活保護の受給を窓口という「水際」で阻止する方策をいう。

保護請求権を行使する具体的な方法である保護の申請は
権利として保障されており、
このような方策の多くは不適法なものであるが、
生活保護扶助費用の1/4および現業員の給与は
自治体予算から支出されるため、
生活保護受給者の増加が財政の大きな負担となっていること]や、
生活保護費の不正受給問題(後述)が背景に存在するといわれている。

1987年に札幌市白石区で“保護受給申請をさせず相談に留める”対応が
行なわれていたことが確認されている。
これが原因で、母子家庭の母親が餓死した。

2007年7月10日、北九州市において生活保護受給者が
「就職した」と市職員に虚偽報告を強いられ
生活保護を打ち切られた結果、
「おにぎり食べたい」と書き残して孤独死した事案が発覚、
大きな問題となった。
以上,Wikipedia

さらに、
以下の例も報道されています。
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例1 出典不詳 2012年1月25日報道
札幌市白石区(前掲と同じ地区です)のマンションで
知的障害のある妹(40)と姉(42)とみられる遺体が
見つかった問題で、
この姉は約1年半前から3回にわたり区役所に生活相談に訪れ、
生活保護申請の意向をみせていたことが、
市役所への取材で分かった。

姉は自身の仕事や妹の世話をしてくれる施設も探していたようで、
その最中に急死し、連鎖的に悲劇が起きたとみられる。

札幌市保護指導課によると、
姉は10年6月、11年4月、同6月の計3回、
区役所を訪れ「生活が苦しい」と訴えた。

2人の収入は
中程度の知的障害がある妹の障害年金だけだったとみられる。

昨年6月、姉は
「今度、生活保護の関係書類を持ってくる」と言って
必要な書類を聞いて帰ったが、その後は相談がなかった。

北海道警の調べでは、
姉妹の部屋に求職に関するメモがあった。
姉とみられる遺体の死因は脳内血腫。
姉は3年前に脳外科を受診した記録があり、
体調不良を自覚しつつ職探しをしていた可能性がある。

区内の民間障害者施設によると、
姉は約1年前に妹の通所の相談に来たが、
決まらないまま連絡が途絶えたという。

一方、妹とみられる遺体の死因は凍死で、死後5日~2週間。
料金滞納のためガスは11月末に止められており、
室内は冷え込んでいたとみられる。
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悲惨すぎますね。

例2 2012年2月23日日経新聞
さいたま市のアパートで、
60代の夫婦と30代の息子一家3人が
ミイラ状態で餓死しているのが見つかった。

周囲の証言によると
「面識もないのにお金を貸してくださいと頼みに来た。
夫の体調が悪くなり仕事ができなくなった、
と言っていた。
民生委員のところへ連れて行こうとすると
『いいです』と断った」
ということのようで、
本来なら生活保護の対象でしょう。
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これらの例を知って
福祉事務所の対応は冷たい、不当だ、
と一方的に責めるわけにはいきません。

体制が追い付いていないのです。
公表データは知りませんが、
昨今の受給件数増大傾向からすると、
かなりの人手不足であると思われます。

審査体制が不足していますから、
「なるべく早く切り上げよう。諦めさせるのが1番早い」
という考え方になっていくのは容易に想定できます。

私どものような業務改善屋からみると、
申請対応業務は、
ずい分改善の余地があるのではないかと思われます。

先ずは、窓口対応のチェックリストの作成です。
例えば、生活保護の緊要性を判断するチェック項目
不正受給を見抜くチェック項目、などです。
前者の内容例では、
年齢が70歳以上か
病気状態ではないか
家族に重度の障害者がいないか
などです。
おそらくこれは作成されているところが多いかと思われますが、
各項目の具体例をどんどん蓄積して、
参照しやすくしておけばよいのです。

ところが、福祉事務所も民生委員も自治体に所属しています。
自治体の枠を超えた情報共有は
おそらくされていないのではないでしょうか。

4.最後の4番目の問題は、
  他の制度等とのアンバランス・矛盾があることです。

生活保護費は地域によっても異なりますが、
以下がその代表的支給例です。

                      東京都区部など  地方郡部など
(1級地-1)     (3級地-2)
標準3人世帯(33歳、29歳、4歳)  234,980円      199,380円
高齢者単身世帯(68歳)         80,820円        62,640円
高齢者夫婦世帯(68歳、65歳)   121,940円        94,500円
母子世帯(30歳、4歳、2歳)     177,900円      142,300円


年金受給額より高い。

出典:厚生労働省の「厚生年金・国民年金情報通」
自営業など国民年金だけしかないような人は、
たとえ満額でも月に老齢基礎年金が6万5千円ほど・・・。
生活保護との金額的な不均衡は確かに存在します。
次の数字は、公的年金の平均年金月額です。
  • 老齢基礎年金の平均年金月額=5.8万円(平成17年3月末時点)
  • 厚生年金の平均年金月額=16.9万円(平成17年3月末時点)
年金保険料を支払わない人が出ておかしくありません。

パート・アルバイトより高い
母子家庭の女性が、
1000円の時給だとしても1月180時間働かないと、
前掲の母子家庭の生活保護支給額の金額になりません。

生活保護対象者は、税金や保険料の控除がなく、
医療費が無料ですから、
実質価値はさらに大きいということになります。 

同じく、厚生労働省の「厚生年金・国民年金情報通」に
こういう情報が載っていました。

2010年8月21日、BS11「田中康夫のにっぽんサイコー!」で放送していた
生活保護と労働賃金の簡易比較の表をそのまま転載します。

生活保護と労働賃金
生活保護 月額 137,400円(東京都・単身者・家賃込み)
教育、医療、出産、介護、葬祭など無料!
労働賃金 800円×8時間×20日間=128,000円
税金、健康保険税(料)、国民健康保険を引くと、
月額 87,300円
地方の最低賃金の場合 約65,000円

モラル面はともかく、
先述の「年金よりも生活保護の方がいい」
状況が存在していることと同様に、
一定以下の条件で働かざるを得ない人にとっては
「働いて稼ぐよりも生活保護をもらっていたほうがいい」
という状況にあるのです。
(ここまで引用文)

「法定最低賃金で週40時間働く」が金額的にに負ける、
生活保護を受けた方がまし、と思う人がいておかしくない。
そういう人たちが生活保護窓口に押し寄せる、のです。

要約
以上の問題の因果関係を連関図に整理してみました。
クリックすると拡大できます。


問題の根源は、左端の問題で
1.経済環境が悪い
2.脱「生活保護】対策が不十分である。
3.生活保護支給額が高い
4.生活保護者の医療費が無料である
5.不正受給がある。
なのです。

そのために捕捉率が低いのに
生活保護費が財政的に大きな負担になっている、
福祉事務所の体制が追い付かずに、
不正受給や本当に必要としている人を保護できない
という問題が発生している、

ということになっているのです。

そこで根本原因である上掲の1.から5.を
改善しなければなりません。
しかし1.はすぐには何ともなりません。

3.から5.については、
改善すべきであるということで委員会等もできているようです。

それらはどちらかというと後ろ向きの対策になってしまいそうです。

2.の生活保護を受けている人が、
受けなくてもいいようになる支援対策が必要です。
これについては、前掲の鈴木亘教授が
かなり多方面に「亘って」意見を述べておられます。
(2012年6月15日日経新聞「自立促す「出口対策」必要)



自立する資金を貸す「総合支援資金貸付」制度の見直し。
受給者が働いて得た収入を「凍結預金口座」に預け
自立するまで使えなくする。
保護の受給者を雇用する場合、最低賃金に特例を設ける。
などです。

長くなりましたので、
ここではその内容紹介は割愛させていただきます。

ここまでお読みいただいた方は、
たいへんお疲れさまでした。

4 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

この問題は「嫌な」テーマですね。
コメントすら出来ません。
立ち向かう勇気も出ません(恥ずかしながら)。

青野 馨 さんのコメント...

定年後の第2の職場である専門学校の理事長がよく言っていました。東京では、若い新人でも月に額面20万円(税金、社会保険料などを除いて17,8万円)の給料が必要だ、と。こうした観点から、生活保護費も最低賃金も考え直す必要がありましょう。
生活保護費より低い最低賃金など論外です。

上野 則男 さんのコメント...

ご意見のとおりと思います。
私もこのレポートを書いていて暗くなりました。

でも日本社会が避けて通れない大問題ですね。

上野 則男 さんのコメント...

私の友人グループホーム経営者の有田良博さんからの寄稿です。

私が経営しているグループホームの入居者は、
金持ちと生活保護者に2分されております。
一般的な年金受給者は一人も入居しておりません。
グループホームの利用料は月額13万円程度ですが、
他の家族の生活があり、
一般的に老人一人に13万円も使うことは出来ないのです。

これに対し、生活保護者は堂々と入所できます。
入居費用が全額支給されるだけではありません。
医療費も保険料も皆無料です。
普及率が70%に達している物品は
申請すれば全て無料で支給されます。
その上、施設入居者には2万円もの小遣いまで支給されます。

最低年金受給者と生活保護者の間には
実質3倍にも及ぶ所得格差が生じているのです。
これは異常です。
年金と生活保護の整合性を図る必要があるでしょう。

旭市に生活保護を受けている老人夫婦がおります。
五体満足なのに働いておりません。
カラオケに行くのが日課です。
生活保護は本来自立を促すものでなければなりません。
しかし、今は特権になっております。
この特権を手放さないためには自立してはいけないのです。
自立を阻害する制度になっております。

問題なのは市会議員が斡旋して生活保護を受けさせているのです。
この市会議員は他にも生活保護を受けさせているようです。
ていのいい固定票確保の手段となっております。