【このテーマの目的・ねらい】
目的:
本邦最大級のゴミ屋敷整理の事例をご紹介します。
ゴミ屋敷整理をシステム再構築と比較してみました。
ねらい:
不用品回収やゴミ整理の機会がありましたら、
参考になさってください。
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1.ゴミ屋敷片付けの概況
私はこの10月、
かなりの時間を割いて近所の知人の引っ越し手伝いをしました。
ところが、この引っ越し作業は、移住先に荷物を運ぶのではなく、
その数倍の量の不用品・ゴミの始末をすることでした。
この知人は、当初は近所の顔見知り程度だったのですが、
私が我が家の松(椹)の枝切りをしていたときに、
通りかかった彼が
はしごや電動鋸を持ってきて手伝ってくれたのです。
それから時々私が彼の食品類の整理などをしていました。
従来住んでいた家の土地は、品川区が買い上げています。
したがって、更地にして引き渡す責任があります。
当然,家の取り壊しをするのですが、
取り壊しには家の中を一掃しなければならないのです。
ところがです。
この家は木造2階建て、築70年で6間あるのですが、
いわゆるゴミ屋敷です。
最近は70歳台の知人男性一人が住んでいたのですが、
20年位前までは、
そのご両親や姉上など3家族が住んでいました。
ご両親が亡くなった時にも
遺品の片付けなどしないで放置していました。
はじめに私が少し手伝おうと考えた時には、
2階は人が住んでいないのだから空き部屋のようなものだ
と思いましたが、どっこい違っていました。
結果的には、
家全体が約1メートル(これは業界の常識のようです)の
「ゴミ」類で埋まっていたのです。
その量を概算すると、
建坪20坪66㎡×1メートル=66㎥となります。
概算で30トンです。
部屋を片付けても片づけても次があるという苦闘の連続でした。
床の方が片付いたと思ったら棚や吊り戸棚にぎっしり何かがあり、
ガックリという感じでした。
2.前代未聞の大規模ゴミ屋敷整理の記録
このような状況です。
某ゴミ屋敷整理の記録
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日付
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不用品回収業者搬出1回目(大物は部屋から搬出)
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同搬出2回目
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主なゴミ出し・整理作業 (当事者作業、本人、某女、上野) 依頼とある分は業者殿担当
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1
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14
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衣類洗濯4袋、ゴミ14袋、資源ごみ2袋
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2
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15
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3
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16
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階段・2階奥の間整理、 全室衣類分別集め
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4
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17
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(区のゴミ回収30袋) 2階奥の間整理(8割)
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5
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18
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電化製品
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1階居間整理
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6
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19
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木材(タンス、仏壇)
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同上続き、
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7
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20
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木材続き
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金属
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本結束(20包)
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8
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21
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廃プラ(衣類、靴、カバン)、ガラス
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電機
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(区のゴミ回収20袋) 2階奥の間片付け(食器10袋)
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9
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22
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板(下駄箱、ベッド、居間小タンス)、廃プラ(布団、マット)(写真1)
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段ボール、本
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(本の一部など区の資源ごみ回収) 1階奥の間ゴミ屋外(通路)へ依頼 1階居間片付け
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10
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23
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金属、廃プラ、ガラス
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2階居間・中部屋のゴミ屋外(隣接地)へ依頼、2階屋外へゴミ出し完了(写真2)、1階居間片付け
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11
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24
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金属
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廃プラ
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1階台所片づけ、1階片付けほぼ完了
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12
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25
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通路ゴミ・1階台所ゴミ整理
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13
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26
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板。紙類
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14
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27
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金属、機器、ガラス (写真4)
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ゴミ分別袋詰め依頼、ゴミ約300袋に。(写真3)
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15
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28
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区の有料ゴミ回収第1次 軽トラ2回50袋
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16
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29
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17
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30
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区の有料ゴミ回収第2次 ゴミ収集車2回240袋
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合計
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2tトラックによる搬出13回(約20トン)
電機製品・金属 6回
木製品 4回
廃プラ・ガラス 5回
段ボール・紙 1回
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普通ゴミ合計340袋、約4.8トン 10/17・21 区の無料回収50袋
10/28 区の有料回収50袋28000円@560円
10/30 区の有料回収240袋80000円@333
合計区の有料回収290袋108000円@372
平均1袋14キロなので 1キロ約27円
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写真1 隣家が立ち退きで空き地になっていたので、
まずそこに家の中のゴミを出しました。
この真ん中にあるのが搬出2回目の廃プラのゴミ。1回目分はこの2倍でした。
写真2 この時点では、屋外に出したゴミの半分は袋詰めになっています。 写真4 ガラス・陶器類の分別 ガラス類だけで6箱分ありました。
道具マニアの知人が買って持っていました。
ガラス類は粉砕すると容積が数分の1になります。
要約するとこれだけのことでした。
(1)計数
・2トントラックチャーター延べ13台
・同上での回収ごみ量約20トン
・回収料金約250万円(1トン12.5万円)
・区による燃えるゴミ有料回収290袋・約4トン
・回収料金約11万円(1トン2.7万円)
(2)作業方式
・業者に不用品回収を依頼しました。
・当初はせいぜいトラック2・3台と思っていましたが、
結果的には13台になりました。
・家電や戸棚等の搬出は業者が行いましたが、
それ以外の不用品は、
当事者側で家から屋外の所定の場所に集めて置き、
それを業者が搬出する方式としました。
こうしないと、業者がゴミ片付けをしなければならなくなります。
・不用品を含む家の中のゴミ類はまず屋外に放り出し、
屋外で選別・袋詰めをする方式としました。
・たまたま、
家の前の幅2メートル程度の通路や隣家立ち退きの空きスペースが
あったのでそれができました。
・特に、
隣地の空きスペースがなければ、今回のゴミ整理は不可能でした。
・終盤になって立ち退き期限が迫ってきましたので、
業者作業員(40歳くらいのリーダ一人と19歳の若者二人)に、
家の中から屋外へのゴミ出しを依頼しました
(もともとそれそれ1日日当は支払っています)。
・最終日には以下のような非常態勢を組みました。
業者3人がゴミの山の上から順に図書を含む可燃物を袋に入れる。
(この袋ゴミは業者の回収対象ではないので、
正規の作業対象外ですがあえてお願いしました)
金属・ガラス・ペットボトルは山の裾に投げる。
それを、当事者本人がモノを識別しながら収集し上野に渡す。
上野は選別しガラスは粉砕する。
・この流れ作業は非常に効率よく進み、
4時間程度で150袋くらいを「生産」できました。
・またこの作業で、
当事者本人は、探していた10数万円のオメガ時計を
見つけることができました。
10月30日に、街でよく見る強力なゴミ収集車に登場いただいたのですが
(一挙に7人もで来ていただきました。あっという間に片付きました)、
区の関係者は「これだけのゴミを1軒から出したケースはない」
と言っていたようです。
本邦最大級のゴミ屋敷整理だったのです。
それにしても、このゴミ収集車の威力は絶大です。
1車で160袋のゴミを飲み込んでしまうのです。
なお、ゴミの総重量約25トンは、
1.の概況で述べたごみ量想定約30トンに整合します。
3.ゴミ整理とは何か。
ゴミ整理は大きく分けると不用品回収とゴミ屋敷整理になります。
(1)不用品回収
これは、電機製品や家具など単品が識別でできるものの回収です。
再生する物も廃棄処分する物もあります。
料金の基本型は回収単価が設定されています。
炊飯器500円、洗濯機2千円など、です。
量が多いときにはパック料金という方式があります。
車両代、作業人件費、処分費込みで、
軽トラック1台とか2トントラック1台「積み放題」などの料金です。
この単価は、49,800円からとかなっていますが、実際は個別見積りです。
(いくらくらいになるかは見積りしないと不明です)
不用品回収の場合は、家から不用品の搬出はしますが、
ゴミの片づけはしません(不用品回収の料金対象外です)。
(2)ゴミ屋敷整理
昔はゴミは分別しないで全部「夢の島」等に捨てていました。
現在は分別して一部は再生しています(資源ごみ)。
地域による処理方式次第で分別基準が異なります。
この分別作業がたいへんなので人件費が多くかかります。
未分別ゴミの処分は、ゴミ袋1袋当り3000円だそうです。
開けて分別作業をしなければならないからです。
分別済みゴミの区の回収だと1袋600円程度です。
ゴミ屋敷整理はそれこそ個別見積りです。
良心的な業者は、
部屋サイズやごみの量による標準料金を設定しています。
今回、中間時点である業者に見積り依頼をしたら140万円でした。
必要品は除去してあるという前提です。
今回のようなゴミ屋敷の場合、
下までひっくり返さないと必要品が確定できませんでしたので、
この前提は成り立ちえません。
因みに、今回の場合、最後の最後のゴミ整理段階で
行方不明だった14万円のオメガ時計が見つかりました。
10万円の硯も見つかりました。
もしその業者に作業依頼をしていたら、
必要品を分別していないのは条件が違うということで
追加費用見積りとなったでしょう。
4.ゴミ整理のノウハウ
(1)業者選定
ゴミ整理を成功させる(安く満足のいく結果が得られる)最大の要点は
業者選定です。
ゴミ屋敷整理は悪徳業者が多いのだそうです。
なぜなら、
1)客観的な費用目安が存在しない。いくらが妥当か判断できない。
2)依頼者がゴミ屋敷ということで弱みがある。
からで、弱みに付け込むのです。
ですから、悪徳業者に気をつける必要があります。
業界ランキングベスト10などは信用できません。
そのサイト運営者は、業者の業務品質の調査などをせずに、
そのサイト掲載の広告費をビジネスにしているのだそうです。
ある信用できそうなサイトに
悪徳業者を見分ける方法として以下が記載されていました。
1)金額の安さだけを強調している。
「他より1円でも高かったらお申し付けください」
「業界最安値」とかのアピールがよく見受けられますが、
規格品と違って共通の尺度はないのですから、
安いかどうかは判断できません。
それを逆手にとっていかにも安いということを訴えているのです。
2)電話・メールで作業内容などの案内をせずにすぐに見積りに行きたがる
見積りに行き面談すると、
もっともなことをうまいこと言って依頼に持ち込む算段です。
見積り無料といっても、
なかなかそこでやめるということはできにくいでしょう。
3)ゴミの処分費用が著しく安いまたは無料
本当にタダではできませんから、どこかにしわ寄せが行くはずです。
4)作業方法が不明確
実績があり信頼できる業者であれば、
作業段取り・作業方法の説明は的確にできるはずです。
5)事務所の所在がハッキリしない
6)法人ではないのに株式会社を名乗っている
7)年間の受注件数が少ないまたは書かれていない
(2)ゴミ整理の方針設定
ゴミ屋敷整理を業者または第3者に依頼する場合には、
何について要不要の判断をするかの基準を示す必要があります。
これをきちんと設定していないと
廃棄に回すもの以外が増えて2度手間が多くなります。
たとえば、以下についてどうするかを決めておきます。
本、雑誌
(今回はじめは選別していましたが途中から無条件廃棄にしました)
レコード、ビデオテープ、カセットテープ,CD
(CDのみ残し、他は廃棄としました)
置物、装身具、腕時計
アルバム,賞状類、
カメラなどの機器
工具類
鍋窯類
食器類(今回、キリコ類を除き廃棄)
缶詰類(途中から無条件廃棄としました)
衣類・靴・鞄
5.なぜゴミ屋敷になるか、その対策は?
この点につきましては、
当ブログ2018,10.8「ゴミ屋敷になる人はどんな人?」で整理しました。
http://uenorio.blogspot.com/2018/10/blog-post_0.html
こういうことでした。3番だけは今回の追加です。
1.分類が苦手 どこにあるか分からなくなる。また入手する。
2.先送りする そのうちに整理しようと思ってそのままになる。
それが積み重なる。
3.買い物が好き
今回の場合、ビデオデッキだけでも10台、カメラも10台以上。
4.ものを大事にする(捨てない)
5.雑然状態がイヤでない
この中ではやはり、1と2の要因が大です。
これは根本的な性格で基本対策はありませんが、
2次対策として「見える化」があります。
見えていれば、次を買わないでしょう。
見える化は、業務改善の基本原則です。
そこで、新居では、
箱に入れない、タンスを使わない、
棚に置いて見えるようにしておくこと、を勧めています。。
6.ゴミ屋敷整理から何を学ぶか
考えてみました。
ゴミ屋敷整理は、
レガシーシステムの再構築に例えてみるのがよいと思いました。
(1)見積り
ゴミ屋敷整理の場合は、ゴミの状況をチラッと見た程度ではダメで
堆積している1メートルの下の方がどうなっているかを
確実に確認をしないでは、まともな見積りになりません。
過小見積りは悪意はなくても、紛糾のネタとなります。
今回の場合、
2階建て6間の古い家のゴミ整理ということで、
当初一声100万円という話がありました。
そのときは「えーーっ、100万円もするのか!」と思いましたが、
結果はその3倍でした。
レガシーシステムの再構築(マイグレーション)も、
リホスト、リライト、リビルド、何であれ、
現状の的確な把握をしないで見積りをしますと、
実績は大幅に狂います。
見積りの数倍になってようやく完成したとか、
途中でギブアップして仕切り直しをした、などの例が後を絶ちません。
見積りの何割増しかで完成したのは事前の精査が行き届いている場合です。
マイグレーションをする場合には、
手抜きをせずに、
リバースツール等を利用して現行資産の棚卸しを確実に行ってから
マイグレーションの計画を立てるべきです。
そうしないと、痛い目に遭うのは社会的知見なのです。
最近ある関係先でこういうことがありました。
2000画面のシステムなのでリライトを見積もってくれというのです。
それだけの情報で見積もるなどとんでもないことです。
(2)プロジェクト管理
大規模ゴミ屋敷整理の場合、整理を進めていくに従って、
下の方からいろいろなものが出てきます。
オーナにそのものをどうするか確認し、
当日の整理段取りやトラック積み込み計画を
臨機応変に考える必要があります。
今回の場合でも、ゴミの出方によって
トラックの搬出計画を変更したことがあります。
元のままの計画だとトラックの運行にロスが出るのです。
弾力的な作業変更は、
現場責任者が常に状況を把握して即断しないとできません。
作業員に不用品の搬出という役割分担を超える作業を依頼したり、
最終日に近くなって時間が無くなり、
前掲のような原則外の作業体制を組みました。
その際、ゴミの山整理に際して当初は資源として別にしていた
本・雑誌類を燃えるゴミとして
同じ袋に入れることにしたりしました。
こういう臨機応変の対応に、当事者本人が感心し、
「上野さん、ゴミ収集会社の社長をやったらいい」と言いました。
それに対して
「現場にいるからこのような対応ができるので、社長ではダメだ」
と答えますと、
「だったら、方針を示して部下にさせればよい」と言います。
そこで
「こういう不定形の作業は方針でできるものではない」
と答えました。
こういう混とんとした作業の場合、現場にどっぷり漬かって
しかも全体の状況を見失わない、ということが大事です。
マイグレーションの場合も、刻々いろいろなことが起きてきますので
プロマネは、状況を的確に把握し、依頼者とも密に連携を取りながら
捌いていかなければなりません。
プロマネは、新規開発案件よりも現場に密着する必要があります。
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