【このテーマの目的・ねらい】
目的:
中野信子教授の著書から
主として日本人の脳の働きの特徴・根源を探求いたします。
ねらい:
そういう目で日本社会を見てみましょう。
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「空気を読む脳」は、脳科学者と称される中野信子教授の著書名です。
日本人は空気を読むことを重視するが、
それは日本人の脳の機能から説明できるという
触れ込みの新聞広告を見て買ってみました。
中野教授は美人なので、テレビにも登場しています。
その答えはこうでした。
1)日本人は協調性が強い。
これは、各種性格診断の結果でそうなっている。
2)協調性が強い人は、不公平な仕打ちを受けるとキレル。
「最後通牒ゲーム」の実施結果がそれを証明している。
最後通牒ゲームは二人で行われ、
一方が資金の配分権を持ち、もう一方が拒否権を持つ。
拒否権が発動されると二人とも資金没収となる。
資金の配分を受ける方は、
少ない配分でも我慢した方が受け取り額は多くなる。
しかし、不満に思い拒否権を発動する者がいる。
この拒否権を発動する人と協調性の高い人は
相関があることが立証された。
3)セロトニントランスポーター(後掲参照)の密度が低い人は、
拒否権の発動率が高い(キレル)、ことが証明されている。
4)日本人は、
セロトニントランスポーターの密度が世界で一番低い部類に入る。
要約するとこうなります。
日本人はセロトニントランスポーターの密度が低く、
かつ協調性が強いので、不公平な仕打ちを受けるとキレやすい。
念のための付言ですが、上の4項目でお分かりのように、
セロトニントランスポーターの密度と協調性の直接的関係自体は不明です。
たとえば、セロトニントランスポーターの密度が低いから協調性が高いとか
その逆がある、とかではないのです。
以下に、中野さん自身の解説をご紹介します。
セロトニントランスポーターは中脳にありますが、
脳内で働くと安心感をもたらすセロトニンの量の調節を担うたんぱく質です。
この密度が低い人ほど、
不公平な仕打ちに対する拒否権の発動率が高かったのです。
普段は誰かのために自己犠牲をいとわず真面目に働く、という人が、
いったん不公平な仕打ちを受けると、
一気に義憤に駆られて行動してしまうのです。
自らの損失を省みず、どんな手を使ってでも相手に目にもの見せてくれよう
と燃えたってしまうというわけです。
そして実は、日本人の脳にあるセロトニントランスポーターの量は、
世界でもいちばん少ない部類に入ります。
要するに、
世界でも最も実直で真面目で自己犠牲をいとわない人々ではありますが、
いったん怒らせると何をするかわからなくなるということです。
この性質が、
第2次世界大戦で恐れられた「カミカゼ」を支えた心理の裏にあったと考えられ
その遺伝子はまだ脈々と私たちの中にI受け継がれていると言えます。
たかだか3世代や4世代では
遺伝子を保持する人の割合は相劇的な変化は現れません。
なお、書名の「空気を読む脳」については、
本書のどこにもその記述はありません。
出版社が勝手に付けたものでしょう。
因みに、中野さんの文体は淡々としていて
あまり「情」が感じられません。
学者のレポートとしてはそれでいいのでしょうが、
若干物足りない感じがいたしました。
本書の構成はこうなっています。
第1章 犯人は脳の中にいるーー空気が人生に与える影響とは?
“カミカゼ遺伝子”は脳内に現代も息づいているか
日本人はなぜ「醜くても勝つ」より「美しく負ける」を好むのか
ブランドを身に着けると、なぜ「人生で得をしがち」なのか
日本人は富裕層になれても大富豪にはなれない
不倫もバッシングも脳や遺伝子に操られているのか
第2章 容姿や性へのペナルティ
女性の容姿への「残酷な心理実験」が映し出す現実社会
女という「呪われた」性で「婚活」に苦しむ日本人女性
レールを敷く親――子どもを蝕む「毒親」とは?
同性愛の科学――”生産性”をめぐる議論
第3章 「褒める」は危険――日本人の才能を伸ばす方法とは?
失敗を恐れる脳――日本人はなぜ「挑戦」しなくなったのか
なぜ報酬がいいとやる気や創造力が減退してしまうのかb
「すぐに返信しない男」と「既読スル―を我慢できない女」
「超一流」が育ちにくい時代に才能を伸ばす脳の育て方とは?
20代までも成長し続ける脳が味わう試練と、その助け方
第4章 「幸福度が低い」わけがある――脳の多様すぎる生存戦略
日本人の脳をつくったのは、環境か遺伝子か?
「弱み」は人間の生存戦略上なくてはならない
この中から日本人の思考行動特性を決めていると考えられる
脳科学的根拠あるいは心理実験結果が示されていることについて
以下にご紹介いたします。
日本人はなぜ「醜くても勝つ」より「美しく負ける」を好むのか
日本人はセロトニントランスポーターの少ないタイプが
世界でも最も多Iというデータがあります。
つまり、日本人は、自分が利益を失ってでも、
不正をした相手に制裁を加えたいという気持ちが世界一強い民族である
可能性があります。
冷静で合理的な選択よりも、熱い気持ちで美しさを賛美したいのです。
社会性というルールを破る不倫という行為が
ここまでバッシングを浴びるのも、
政治家の失言や、有名人の不適切な振る舞いが
いつまでも攻撃され続けてしまうのもそうであるかもしれません。
日本人は富裕層になれても大富豪にはなれない
ギャンブルに熱くなりやすい、なりにくいで言うと
日本人は比較的熱くなりにくい性質を持った人が多くいる集団です。
日本人にはドーパミンの要求量の低い人がほとんどで、
高い人の割合は全体の1-5%であることがわかっています。
この人たちは「新規探索性」といって、
リスクを冒してでも新しいものごとや未知の世界に触れたいという
性質のきわめて強い人たちです。
多い地域は南米や南ヨーロッパです。
「新奇探索性」が高いと考えられる遺伝的資質を持っている人は
20-25%いるというデータがあります。
不倫もバッシングも脳や遺伝子に操られているのか
ーダメな男がモテる理由ー
注:この項は日本人固有ではありません。
女性は、サイコパス、マキャベリスト、ナルシストの3要素を持っている
男性に惹かれやすいことがわかっています。
この3要素はダークトライアドと呼ばれます。
まさに典型的なダメ男といったところでしょうか。
ただ、ダークトライアドの男性は、「新奇探索性」が高く
性的にもアクティブなので、遺伝子を広く拡散する性質があります。
つまり女性にとって、ダークトライアドの男性と子孫を残し、
そこに半分自分の遺伝子を乗っけてしまえば、
その子孫も同じようにあちこちで遺伝子をばらまいてくれる可能性があり、
効率よく自分(女性)の遺伝子も次世代に繋いでくれる確率が上がる、
というわけです。
(中略)ダークトライアドの魅力に抗えないのは、
脳の中の古い皮質が私たちに指令を出しているからです。
つまり個体として安定した日常生活をおくるよりも
「遺伝子を効率よく残したい」という、
より根源的な欲求が優先されるというわけです。
一方、「不倫がバレると社会から罰せられるから、やめておこう」
という考えは、理性を掌る新しい皮質による判断です。
新しい皮質はアルコールやストレスなどで麻痺しやすく、
いわば、タガが外れやすい。
「酔った勢いで、つい」といった一夜のあやまちが起きやすいのは
そのためです。
失敗を恐れる脳――日本人はなぜ「挑戦」しなくなったのか
(上野要約)
今の教育指導原理は「褒めて伸ばそう」となっている。
しかし「できる」ことを褒めると、
「できなければならない」というプレッシャーのために、
難しいことにチャレンジしないで逃げるようになる。
褒めるなら努力(結果でなくプロセス)を褒めるべきである。
「すぐに返信しない男」と「既読スル―を我慢できない女」
(上野要約)
女性は安心感の源になるセロトニンの合成能力が低いので
不安になりやすい。
「なぜ返信が来ないのか」と考えてしまう。
そのため、女性の方がうつ病になりやすい
(男性が5-12%に対し、女性は10-25%)。
日本人の「幸福度が低い」わけ
(上野要約)
日本人は男女を問わず世界的にセロトニンの合成能力が低い。
そのため将来についても不安感が強く、したがって幸福感が低い。
しかし、ある程度の不安感が新しい世界へのチャレンジを生み
人類を発展させてきた。
その点からすると、
日本の長寿はセロトニン合成能力の低さのおかげである。
著者は「おわりに」で
ご自分の存在価値は何だろう?というような
かなり本質的な疑問を「情」に流れることなく提示しておられます。
おそらく、自分で独創的な研究をされているのではなく、
他人の研究の成果を世の人たちに伝える役割を果たしているにすぎない、
ことを問題にしておられるのかな、と思いました。
それはそれで社会的には大きな価値のあることなのです。
それによって多くの人たちに知恵がつくのですから、と思いました。
ぜひ皆様も本書をお読みになってください。
3 件のコメント:
「日本人は とか 日本的経営は」というコメントをするため
には手に入る(身の回りの)情報だけでなく国際比較が不可欠
だと思います。そういう記述が欲しいですね。これは比較論の
理屈ですが、
海外で暮らしたこと(勤務したこと)のある人の持っている
実感は中野さん(上野さん)のご説明 とは異なるのでは
ないかと思います。
脳の働きや物質だけで心を測る愚書というべきでしょう。
中庸には、心に性があり、性が現象に触れて情が生まれるとあります。
各自の心にある性(質)があって、(感)情があり、そして物質ができるのです。
本末転倒になってはいけません。
私も科学者のはしくれと思っています。
ですから、今回の中野さんの著書からのご紹介は
日本人の性格特性のうち、医学的・生理学的な根拠があるものに限定しているつもりです。
医学的・生理学的根拠があっても、日本人全部がそうなるということではありません。
「統計的に有為である」というレベルです。
この議論は一時流行った血液型性格論とそれにに対する反論と同じことです。
一方で「何型はそういう傾向がある」という主張に対して、
「すべてそうだと決めつけるのはナンセンス、学問的根拠がない」という反論があり、
全くかみ合っていませんでした。
ご承知のように、心(性格含む)は遺伝的要素、環境的要素、修練等によって構成されるものです。
その内の遺伝的(DNA的)要素をしてこういう点がある、というのは科学であり、
今回の中野署もその一部です。
何が重要かとは別の議論です。
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