2016年6月30日木曜日

「進化生物学からみた少子化」

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 少子化に関する生物学の知見を知っていただく。
 人類の特性を再認識していただく。

ねらい:
 今後、少子化問題に対する見識を強化していただく。
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興味深いテーマです。
生物学的に見ると少子化現象はどうなっているのか、です。
學士会会報(2015年Ⅵ号)に掲載された
長谷川眞理子総合研究大学院副学長の論稿のご紹介です。

以下太字は引用です。

生物は本来、
資源がある限り最大限に繁殖するように作られているので、
先進国のように資源が豊富であるにもかかわらず、
個人が少ない数の子供しか望まないというのは、
進化生物学的に見てたいへん奇妙です。

なるほどそうですね。

全人口は数百年前までは125万人以下でしたが、
1万年前に農耕と牧畜が発明されると500万人に増え、
1650年に5億人
1850年に10億人  200年かかった
1930年に20億人  80年かかった
1975年に40億人  45年かかった
2000年に63億人
生物が生きられる適正密度というものがある。
体重65キロの草食動物  1平方キロ当り2匹未満
         肉食動物            0匹に近い
         雑食動物(人間)       1.5匹

アフリカや南米で現在も狩猟採集生活を続ける人々は、
最大で1平方キロ当たり3人の密度です。

地球上の全人口を全陸地面積で割り算すると、
1平方キロ当り44人になる。
適正密度の30倍にもなっている!

先進国の少子化という問題とは別に、
生物学から見ると、ヒトは多すぎるのです。
それを可能にしているのは
石油などのエネルギーを使っているからです。

適正密度というのは、
食糧を確保できるかどうかでしょうから、
生産性が高まれば食糧をより多く確保でき
生存可能密度が高まるのです。
石油などのおかげだけではありませんね。

少子化を生物学的に論じる際、
重要なのは「一生の間に何人の子供を産むか」です。
進化生物学では「生活史戦略」と呼ぶもので、
「一生の間に時間とエネルギーをどう配分するか」
に関する戦略とも言えます。


【子のサイズと数のトレードオフ】
このサイズが小さいと一度にたくさん産めますが、
簡単に死にます。→多産多死型
一方、子のサイズが大きいと一度に1匹しか産めませんが、
親が十分面倒を見るので簡単には死にません。
           →少産少死型


【今年の繁殖と来年の生存率】
今年の繁殖に多大なエネルギーを使うと、
来年の繁殖は難しくなる。セミ、サケ


【体重と脳の重さ】
象のように体重の重い動物はゆっくり成長し長生きし、
1回の出産で1匹しか産みません。
ネズミのように体重の軽い動物はさっさと成長し短命で
1回に沢山の子どもを産みます。


脳の重さが大きい動物ほど長生きし成長もゆっくりです。
脳が大きいことは、
脳を活用できる場所と時間があるということなのです。


【K型とγ型】
環境が飽和してこれ以上増やすことができない場所では、
子ども1匹に資源をたくさん持たせ競争力を強くした方が有利です。
この場合、子供の数は少なくなります。


環境が飽和していない場所では、
できるだけ沢山の子供を生産し、
その中で生き残る子供に賭ける方が有利です。
この場合、子供の数は多くなりますが、
子供1匹に持たせる資源は少なくなります。


哺乳類は全体として前者のK型です。
中でも霊長類は極端なK型です。


【霊長類】
1)妊娠期間が長い
2)1産1子
3)体重の割に脳が大きい
4)体重の割に成熟年齢が遅い
5)体重の割に寿命が長い


体重5キロのニホンザル 5歳で成熟 寿命10数年
        犬・猫(野生) 1歳で成熟 寿命5年


ヒトは脳が極端に大きく成熟年齢は遅く寿命が非常に長い。
妊娠期間だけは短い。


通常の動物の脳の大きさと妊娠期間からすると、
ヒトの妊娠期間は3年あってもおかしくない、
しかしそれだと大きくなりすぎて
出産できなくなるので未熟状態で生まれてくる。
これを「生理的な早産」と言います。


未熟な子は親だけで育てるのが困難なので
親以外の個体が多数関わって育てます。
これを共同繁殖と言い、
人間以外でもマーもセット、マングースなど数種類います。


他の霊長類と比較したヒトの特徴は
1)産み始めが遅いため、繁殖可能期間が非常に短い。
  チンパンジーは10歳、ヒトは15歳からで
  35歳以降急落する。


  少子化の進行の最大の要因は産み始めが遅いことです。
  昔の社会や現代でも一夫多妻の社会や早婚の社会では
  産み始めが早いために多産でした。


2)繁殖可能期間終了後に20年の寿命が残されている。
  「おばあさんの力」と呼ばれ、
  孫を育てる「共同繁殖」に貢献する。


【人類の少子化問題の本題】
ヒトはもともとK型(少産少死)ですが、
全世界はますますK型環境に移りつつあります。


アジアやアフリカやイスラム圏でも、
1970年以降、合計特殊出生率は低下しました。


欧米ではもっと早く1900年~1940年に急落。
フランスは最も早く1880年頃から低下し始めました。


日本は戦後も1949年頃までは5前後で推移しましたが、
その後急落し1995年頃から2.1前後になり、
1975年には2.0を割り込みました。


終戦後出生率が急落したのは
官民挙げて「夫婦子供二人」を標準世帯とするキャンペーン
を展開したから。


1948年に優生保護法が成立し
人工中絶が合法化されたこともある。
1980年頃まで、
日本は世界の先進国の中で女性千人あたりの中絶数が
断トツに高かったのです。


【進化生物学の「少子化」研究の成果】
これまでの少子化に関する研究によれば、
1)先進国ではどこでも、
  夫婦が持ちたいと思う子供の数は極端に二人に偏り、
2)実際に持つ子供の数も極端に二人に偏り、
3)夫婦の年収と子どもの数に相関はない。


進化生物学の理論では
「資源が沢山あって余力ができれば、
子供の数は必ず増える」となっているので、
この状況は生物としてのパラドックスです。


【先進国では何故、夫婦の収入が増えても、
子供の数は二人なのか】




 「子供を持つことの満足感」は、
初めての子が生まれた時、最も大きい。
一方「子供を持つことのコスト感」は、
3人目を持とうとするときに一気に上がる。


満足感とコスト感の差が一番大きいのが、
つまり総量としての満足感が最大になるのが
二人なのではないかと私は考えています。


ヒトは進化生物学の観点で
「合理的根拠に基づいて計算した養育可能な子供の数」
を決めているではなく
「満足感」「コスト感」の感覚で子供の数を決めている。


結論
生態学的見解によれば、
「経済発展による環境の飽和とK型社会への移行によって、
必然的に出生率が低下する」となります。


行動生態学の男女の葛藤の理論を使うなら、
「男女の力関係において、
女性の力が増えれば出生率は必ず低下する」
(男性は多くの子を望むが
女性は育児に手間がかかるので少子を望む)
となります。


上野注:オスは一般的に量の力によって子孫を残そうとし
メスは質によって強い子孫を残そうとする。
精子と卵子の数を見ればそのことは自明。魚の産卵も同様。


現代日本では、
「女性の生理的負担感より、経済的負担感の方が少子化の要因」
である可能性もあります。
しかし有配偶者に限ると、
結婚した夫婦が実際に持つ子供の数は、
1970年以降大きく変化していません。


つまり「非婚化と晩婚化こそ日本における少子化の最大の原因」
なのです。


やはりそういう結論になりますね。

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