目的:
女性の労働参加率と出生率の関係は
どうなっているか知っていただきます。
女性の労働力参加を促進するアメリカ型と北欧型を
知っていただきます。
ねらい:
日本の少子化はどうなっていくのでしょう。
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この本の著者は筒井淳也立命館大学教授です。
「仕事と家族」というタイトルで、
仕事と家庭の両立問題を論じているようですが、
どうも定かではありません。
女性の労働力参加を促進するにはどうしたらよいか、
出生率を高めるにはどうしたらよいか、
を論じているようでもあります。
実は女性の本格的な労働力参加を促進することが、
「仕事と家族の両立」をさせることになり、
結婚率・出生率を高めることになるのだ、
という主張なのです。
いくつかの論点をご紹介しましょう。
戦後の1時期には
「安定的に雇用された男性と家庭の責任を持つ女性」
という性別分業体制が各国でスタンダードとなった。
これは
先進国が高い経済成長率を経験している時期であった。
この体制を支えた経済環境の1970年代は崩れ去り、
それ以降、先進国はその道筋をはっきり分岐させた。
「高負担・高福祉」を堅持したスウェーデン中心の北欧型と、
「低負担・低福祉」路線に大きく舵を切ったアメリカ
という対比がしばしばなされるようになった。
もう一つがドイツの保守主義路線である。
自由主義路線のアメリカ:
経営者が賃金を自由に設定できるようにして、
雇用の総量を増やそうという狙いである。
雇用全体を流動化させ、競争による生産性の向上をはかる、
という戦略がとられている。
ここでは、女性の管理職比率が高い。
社会民主主義路線の北欧:
この路線の特徴は、積極的労働市場政策である。
それは、単に失業者に対して公的給付を行うのみならず、
政府が主導して職業訓練の機会をふんだんに用意し
失業者を労働市場に送り返す、
という方針である。
ここでは女性の労働力参加率が高い。
保守主義路線のドイツ
この路線の特長は、自由主義や社会民主主義と反対に、
労働力を縮小することを目指していることである。
労働力の縮小とは、就労者を非労働力化して
失業者を減らす作戦である。
すなわち、政府が助成金を出したり年金を用意したりして、
シニア労働者を引退させ(非労働力化)、
空いた職に若手失業者を流し込む。
さて日本は?
専業主婦の比率が最も高かったのは1970年代である。
それ以前の女性は農作業や家業に従事していた。
戦後の経済復興・脱農林漁業で
会社勤めのサラリーマンが一般化し専業主婦が生まれた。
(歴史的に見て「専業主婦当たり前」ではないのです)
その後、家計が厳しくなり、女性も仕事に出るようになり、
専業主婦は減少した。
出生率と女性の労働力参加率の関係はどうか
世界の出生率は、アメリカと北欧で高く、
いずれも女性の労働力参加率も高いのである。
女性が働いていない国の方が
出生率が高いということはない。
筒井教授は各国の長い期間のデータの分析をした後で
以下のような仮説を提示しておられます。
雇用労働に従事する女性が増えるにつれて、
どの国でも出生率が下がることになった。
しかし、女性の労働力参加が出生率へ与える負の影響は、
アメリカやスウェーデンといった少子化を克服した国においては、
ある時点から中和されるようになった。
おそらく、スウェーデンでは長期的には公的両立支援制度の影響、
アメリカでは民間企業主導の柔軟な働き方の影響で、
女性が賃労働と子育てを両立しやすくなったからだと思われる。
その後、女性の労働力参加と出生率の関係はいよいよ反転し、
女性が働くことは出生率に正の効果を持つようになる。
これは不況あるいは経済成長の鈍化の中で
若年者の雇用が不安定化し、
それへの対応として男女がカップルを形成し、
共働きによって生計を維持するというケースが増えたからである。
個々の雇用が不安定化しても、二人いれば家族としてやっていける、
という考え方だ。
こうして共働きが合理的戦略となり、
さらに仕事を子育てを両立しやすい環境が整っていれば、
女性が働くことは出生率に正の効果を持つ。
この転換の背景には、
スウェーデンでは女性が公的セクターに大量雇用されたこと、
アメリカでは民間セクターで
女性がますます活躍するようになったことがある。
女性が結婚・出産後も長期に働くことができる素地があれば、
経済の不調による男性雇用の不安定化に際して、
「共働きカップルを形成する」という選択肢が合理的となる。
そのことが女性の労働力参加と出生率のプラスの関係を生み出した。
ここで重要なのは、希望と現実のギャップ、
あるいは家計維持のために「共働き戦略」が有効であるには、
女性がそれなりに高い賃金で長く仕事を続けられる、
あるいは労働市場が柔軟で、女性が出産を機に一度仕事を辞めても、
ある程度条件のよい仕事に復帰できる、
という見込みがなければならない、ということである。
日本では1995年以降、男性正社員の賃金が伸び悩むなかで、
男性正社員とパート労働をするその妻という世帯でも
満足のいく生活ができないケースが増えている。
(ここで、男性正社員の稼ぎが増えないと、
女性が結婚に踏み切れない
という問題提起がされていることになります)
現状では、子育て後にパートとして再就労するのでは、
問題解決にならないことを多くの人が悟っているからこそ、
日本では未婚化が進んでいるのだ。
この後、日本の男性の家事労働への参加が低いレベルである
ことにも触れ、これの改善も女性の労働力参加に必要である
と主張されている。
介護等の負担を家族に負わせよう
というこれまでの日本の政策は限界にきている
ことにも触れておられます。
性別分業の克服、つまり「共働き社会」への移行というのが
(未婚化・少子化に対する)本書で導かれた答えである。
と結んでおられます。
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