2012年4月23日月曜日

これは凄い!!「成熟日本への進路」

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 日本経済の現状を的確に知っていただく。
 成熟社会の指導原理を知っていただく。
 所得の再配分にはどのような方法があるかを
               知っていただく。

 成長を維持している国(米、デンマーク)の政策の
     特徴を知っていただく(これは驚きです)。
 これから日本が力を入れるべき産業を認識いただく。

ねらい:
 皆様次第かと思います。
 私は、日本経済が成長する方策を検討してみました。

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「成熟日本への進路」(波頭 亮氏著)を最近読みました。
2010年6月に初版がでているのです。
なぜ今まで話題にならなかったのか不思議です。

ビックリしました。
何から何まで「ごもっともです」の一言です。
これだけのことが解明されていて
なせ、日本中が認めていないのでしょうか。

波頭 亮さんは、私はこれまで知りませんでしたが、
独立の戦略系コンサルタントで
社会経済学者という範疇に入るようです。

大学教授ではないのが、
権威主義の日本では、
今いち評価されない原因かもしれませんね。

うがった見方をすると、
それだけ解明されて悔しいと思う人がいるのかも。
それほどに感心しました。

以下にその概要をご紹介します。

1.日本は成熟社会である

 ・名目GDP推移 1997年から横ばいである。



 

 



















・実質GDP成長率 90年代以降低成長である。
   70年代 4.2%
   80年代 4.7%
   90年代 1.1%
   00年代 0.8%

 ・1人当たりGDP 先進5カ国中で
    95年のダントツ1位から
      2006年には最低に落ち込んでいる。

  


















2.成長社会でなくなった要因

1)労働力の増加が限界である
 ・就労者数は人口低下状況にあって増えていない。
 ・主婦・高齢者の就労も多くを期待できない。
 ・労働時間は、減少したとはいえ先進国中上位であり、
                        増加は期待できない。


















2)資本ストックの増加に繋がる貯蓄率が最低である

・日本の高度成長を支えた「有名な」高貯蓄率は
            今や見る影もなく、最低水準である。
   (これはびっくりしました。
      日本人は貧乏になってしまったのです)


















3)技術進歩率(労働生産性の伸び)

 ・労働生産性の推移


 ・(上野注)国民平均の労働生産性は、
   生産性の高い産業から
    生産性の低いサービス業等への労働対象のシフト
   によっても低下する。

 ・それは先進国共通の傾向である。
 ・それにしても、
       以下のように日本は最低水準である。
95年から主要先進国中最下位を続けている。
  
 2008年 米国   9.9万ドル
         フランス 8.0万ドル
         ドイツ  7.6万ドル
             日本    約6万ドル

 どれを見ても、良いところは一つもありませんね。

3.成熟社会の指導原理

 ・成熟社会の指導原理は、
        成長社会の指導原理とは異なる。
 ・成長社会では、産業を発展させれば
        みんなが満足できる状態を作れた。

 ・成熟社会の指導原理は、
  国民の誰もが医・食・住を保障される」
                 ことである。

 ・したがって、
 国民の誰もが医・食・住が補償されるように
   いかに所得を再配分するかの「分配論」が
  主テーマである。

4.分配指向の租税制度

 ・分配型の租税制度はこうあるべきだ。
 ・まず前提となる現状の国民の負担率
  (収入に占める税と社会保障費の率)は低い。

  ・ まだまだ負担増は可能である。
  (上野注:ですが日本の1人当たりGDPは低い、
   つまり貧乏なのではないですか!)

1)消費税

・先進国の消費税率は、15―20%が主流であり、
 増税余地がある。

・しかし、この税は、
 逆進性(所得の低い者ほど負担率が高い)
 の欠点があり、限界がある。

2)金融資産課税

 ・お金持ちに負担いただこう、その一つである。

 ・個人金融資産1400兆円に対して
   固定資産税と同率の1・4%とすると
   年間20兆円の税収となる。

3)相続税の増強

 ・遺産額の50%を相続税とすると、
  毎年の遺産額は金融資産18兆円、不動産10兆円
  なので、税収は14兆円になる。

4)試算

 ・消費税率10%アップ、金融資産課税0.5%、
   相続税の実効税率20%で、
   合計33兆円の税収アップになる。

5.これからの経済政策

1)成長戦略は要らない

 ・95年以降226兆円が投入された
   経済を好転させるための緊急景気対策は、
  公共事業が中心で、その行き先は土木建設業であった。
 

・雇用の維持には貢献したが、
  日本経済が成長軌道に乗るための
  産業構造の変化は起きず、
  旧来の日本の産業構造を温存させただけである。

・しかも多額のつけを残してしまった。

2)これから伸ばすべき産業は福祉産業と輸出産業
                      である

 ・高齢化社会を迎え、社会保障・福祉サービスを担う
                     福祉産業
 ・エネルギと食料の確保をするために必要か外貨を稼ぐ
                     輸出産業
 ・この二つの産業を重点的に強化すべきである。

6.福祉産業の強化

1)医療従事者・介護従事者の不足状況とその原因

 ・上野注:的確に分析されています。たとえば、
 ・特養老人ホームへの入居待ちをしている
  24時間要介護の高齢者が42万人存在する。

 ・このニーズを吸収し、
  それなりの介護サービスを行うには
  380万人の雇用増が必要である。

 ・現在の失業者数は340万人であり、
   これをすべて吸収できる規模である。

 ・施設が増えない理由は、
          規制と従業員調達難である。

2)対策

 ・上野注:具体的に示されています。
 ・たとえば、「
  介護従事者に対しては「直接給付」の形で
   給与補てんをすべきである」

3)福祉産業の強化に対しては、
   国は直接介入し助成策を講じるべきである。

7.輸出産業の強化

1)期待できる産業

 ・日本が得意とする「ハイテク型環境関連」
  が中心で、
  「太陽光発電」
  「原子力発電」
  「水関連」    が基本である。

EV(電気自動車)は、
         成長に対して負の要素もある。

2)輸出産業の強化は、
        業界の競争原理にゆだねる方がよい。

7.これからのこの国のかたち

1)「国民の誰もが医・食・住を保障される国家」
  を運営する仕組みはどんなものか。

    これから毎年、
  労働力人口の1%に当たる77万人が減少するので
    1%を上回る生産性の向上がないと
   GDPは減少していく。

    高福祉高負担の典型である北欧諸国は
  どの国も66―70%の国民負担率でありながら、
   高い経済水準を維持している。


    高い国民負担率でありながら、
    経済が活性化できる仕組みが必要である。

2)その模範例はデンマークである

 ・デンマークの国民負担率は72%で
  スウェーデンと並んで世界最高水準である。

    それでいて、デンマークは二つの幸福度の調査で
   共に1位である。

    デンマークは
 市場メカニズムの徹底的な尊重を行っている。

3)市場メカニズムを尊重する仕組み

 ・米国は、先進国中最低の国民負担率
  (「自由経済」)でありながら、
  先進国中トップクラスの経済成長を遂げている。

    この米国と、
   高い国民負担率で経済成長を遂げているデンマークに
   共通の仕組みがある。

    それは以下の二つである。

3.1)教育への投資が世界トップ水準であること

 ・国家全体で投入される教育費の
           GDPに対する比率が高い。

 ・教育は、成長の基本条件である。


 ・近年の高収益産業であるIT、バイオ、金融は
   高度な知的集約産業である。

・米国は、70年代に「ゆとり教育」を行ったために
   自動車産業の衰退を筆頭に
  全産業に及ぶ競争力の低下が発生した。

 ・そこで、
 レーガン大統領のとった「教育の徹底的強化」政策
  によって、小中学校における授業時間数の大幅増、
   大学の教育カリキュラムのレベルアップなどが
   強力に推進された。

 ・その成果が、
  その後のマイクロソフト、ヤフー、アマゾン、
 グーグル等のIT系ベンチャの輩出につながった。



3.2)労働者を解雇しやすい

 ・デンマークは社会保障が行きとどいていて
             解雇されても困らない。
 ・米国はアングロサクソン系の自己責任思考に
                  よっている。

この前提があると、
 新産業・新事業への労働力のシフトは
 比較的容易である。
 ・(上野注:これは「目からうろこ」の着眼です)




4)官僚主導の排除

・この点については、
     なぜ官僚主導が悪いのか
     なぜ官僚は強いのか
     どうすればよいか
 について
 具体的に多くのページを割いて記述されていますが、
 今回のご紹介からは割愛させていただきます。



まとめ

以上のように、厳しい現状認識から始まって、
ではどうすればよいのか、について前向きにかつ具体的に
数値を上げながら検討されています。

非常に素晴らしい分析・提言であり、
日本の今後を考える上で
良きバイブルになるものだと思います。

この本は、
これだけのことが書いてあって
新書版で僅か780円です。
是非お読みになることをお勧めします。

別項「日本経済立ち直りの鍵 介護事業経営者の育成方法」
で、このバイブルに基づく私見を述べさせていただきます。

1 件のコメント:

Hitoshi Itoh さんのコメント...

これからの産業として、豊な日本の自然を活かした農業と林業が抜けていると思います。
これからの農業について、大規模化、企業の参入による企業的経営感覚、最近はコンパクトな水耕栽培セットが注目されていますが、これらは日本の農業を再生させることは難しい。
化学肥料に依存した農業ではなく、自然の力、微生物の力を活かした有機農業は、TPPの対象ではなく日本の土地に合った小規模農業に注目すべきです。虫の付かない農薬不要な農法が少しずつ広がりをみせています。
この農業のすごいところは、土を発酵型に変え、野菜が発酵体質になり虫が寄り付かなくなり、ミネラル豊富な発酵型食品を人が食べることにより、健康になることです。医療費の削減、ガンやアレルギーその他が減少する他、低体温に現れている血液循環の悪さを改善し、最近起こる異常行動を減らすことができます。
多くの人に実感して頂く活動として、プランターで生ごみで元気野菜作りの活動として、広がりをみせていることです。
定年後は国の福祉にだけ頼るのではなく、定年後の第二の人生として、若者が自分の力で自立できる農業、併せて林業の再生で出る資源は自然農業にとって、微生物の最高の餌となります。このようなサイクルが実現できないか、と日々構想と小さな畑で仲間を募り、皆で実践しているものです。
手法として注目しているものは、「生ごみで元気野菜づくり」と「炭素循環農法」と「EMによる農業」です。EMは減染効果があるだけでなく、放射能のエネルギーを活かして作物の収量を増やし、野菜への放射能の吸着はこれまで不検出との報告もあります。東北の救世主になる可能性を秘めた唯一の手段であるかもしれません。