2021年8月16日月曜日

「賢い人がなぜ決断を誤るのか?」

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 「賢い人がなぜ決断を誤るのか」をご紹介します。
 決断を誤らない方法も提示されます。
 ついでに、MIND-SAの意思決定論もご紹介します。
ねらい:
 決断を誤らない方法として参考にできます。
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本項は、仏ビジネススクールHEC経営大学院の
オリヴィエ・シボニー教授の「賢い人がなぜ決断を誤るのか?」
のご紹介です。


著者は、マッキンゼーに25年在籍していました。
この内容は、その経歴から「さすが!」と思わせる
広範囲の知識・情報に基づいています。

本書の内容は以下の3部構成です。
第1部:9つのトラップ
 決断を誤る落とし穴を解説しています。
 基本的には「認知バイアス」(そうだと思い込むバイアス)による。
第2部:意思決定の方法を決める
 認知バイアスに陥らないための意思決定の方法を解説しています。
 基本的には「協働と適切なプロセス」だとしています。
第3部:意思決定アーキテクト
 適切な意思決定をするための具体策を提言しています。

ですがよく見てみると、本書は書名で示していますように
「決断(意思決定)を誤る」原因と対策を示しているのであって、
成功する意思決定の方法を示しているのではないのです。

経営戦略の意思決定は、
確定していない未来を予測することに基づきます。
したがって根本的な成功の対策は、
未来の予測能力をどうやって高めるか、になります。

それと、この環境変化の激しい現代では、
成功には意思決定の迅速性も重要です。
優れた予測をしても、周回遅れでは勝ち目がありません。
的確性と迅速性のバランスの勝負なのです。

これには単純かつ汎用的な正解はないと思われます。
したがって、意思決定の100%成功はあり得ません。
成功率が高ければ良しとせざるをえないでしょう。

日本電産永守社長の場合は、47年間で、
国内26案件、海外40案件のM&Aを成功させてきています。
失敗は1件もない のだそうです。
これは永守社長個人の力量で実現できているので、
他の人は真似ができません。

そういう前提で、本書の概要をご紹介します。
第1部 9つのトラップ
僭越ながらよく整理できていると思います。

トラップ

説明

代表的事例等

ストーリテリング・トラップ

魅力的な「話」に乗せられてしまう。

「空からの探査で石油鉱脈を見つける」

模倣トラップ

「偉人」の行動を模倣しようとする。

アップルのジョブスを真似しようとする。

直観トラップ

成功体験に基づく直観を信じる。

アップルでの成功者ロンジョンソンがJCペニーで失敗した。

自信過剰トラップ

楽観主義で過大な自信を持つ。

 

惰性トラップ

過去にこだわる、影響される。

 

リスク認知トラップ

小さなリスクを拒み、大きなリスクを取る

小さなリスクは理解しやすい。

時間軸トラップ

短期主義で近くを重視する。

 

集団思考トラップ

集団の意向を重視し、遠慮する。

 

利益相反トラップ

代理者が依頼者の利益に相反して行動する。

 


以下、本書の項目見出しは、その内容を理解しにくいので
(原著でなく翻訳のせいかもしれません)、
私が改訂(上野案)を示しました。

第2部 意思決定の方法を決める 
 →(上野案)トラップの発生原因と基本対策
 トラップの発生原因は、認知バイアスである、
 認知バイアスを自らで避けるのは困難なので、
 協働による意思決定とそのプロセスを改善する必要がある、
 という主張です。

1.認知バイアスは諸悪の根源か
 →(上野案)トラップの発生原因 認知バイアス
 著者はこういう整理をしています。たいへん分かりやすいと思います。
 
2.自らのバイアスを克服できるか
 →(上野案)自らのバイアス克服の困難性
3.協働とプロセス
 →(上野案)バイアス克服の基本対策、協働と適切なプロセス
4.よい判断とは、正しい方法で下された判断
 →(上野案)3.と合体させる。

第3部 意思決定アーキテクト
 →(上野案)意思決定の正しい方法
1.対話   →(上野案)対話を重視する
2.意見の相違→(上野案)異なる視点で見る
3.組織の力学→(上野案)意思決定のプロセスと文化を変える

以下のようなこの個々の内容はたいへん良くできています。
しかし、以下の問題点含みです。
1.対話の重視は、迅速な意思決定の阻害要因となります。
2.は意思決定者が自ら取り入れれば有効な対策となりますが、
 迅速な意思決定の阻害要因となる可能性もあります。
3.の改善は、意思決定の責任をあいまいになるリスクがあります。

ということで、
あくまでトラップ・認知バイアスを避けるための対策であって
優れた意思決定をするための方法ではないことに
留意する必要があります。
これらの対策を完全に実施しても優れた意思決定になる保証はない、
ということです。

1.対話を重視する

1

認知的多様性を十分に確保する

2

時間をかける

3

対話を議題にする

4

パワーポイントの使用を制限する

5

誤解を招く「たとえ話」を禁止する

6

結論を急がない

7

「バランスシート」を使って異なる意見を奨励する

8

「悪魔の代弁者」を任命する

9

代替案を義務化する

10

選択肢消去テストを実行する

11

別のストーリーを語る

12

プレモータムを実行する

13

臨時委員会を招集する

14

メモをCEOの引き出しにしまい込む


興味深いのは、
4 でパワーポイントについて以下の記述があったことです。
「パワーポイントによるプレゼンは、
会議を(作成者側の)単一の視点による一方通行なものにして、
深い議論の妨げになる」ということで、
サンマイクロシステムズ、アマゾン、ネットフリックスが
使用禁止にしている。代わりに(長文の)メモを使用している。
かつ事前配布をしないで当日説明としている。
その理由は、
読んでいる前提で議論を開始するが
実際にはほとんど読んでいないからだ、というのです。

私たちは以前から、真藤恒NTT初代社長の
自分宛の資料は1枚になっていないものは受け付けない
の主張に賛成していました。
「自分が、たくさんの資料を見なくてすむ」のと、
「1枚にするには作成者が提案内容を練りに練る」
からだというのです。
明快な論理です。

システム企画方法論MIND-SAの企画提案書5W2Hは、
基本内容を1枚に収めるようにガイドしています。

2.異なる視点で見る

15

非公式のアドバイザーを育てる

16

フィルターに通す前の専門家の意見を聞く

17

コンサルタントに予断を与えない

18

社外チャレンジャーを起用する

19

レッドチームとウォーゲームを活用する

20

群衆の知恵を借りる

21

リアンカリングでアンカリングと戦う

22

複数のアナロジーで確証バイアスと戦う

23

デフォルトを変えて現状を打破する

24

標準化されたフレームワークを使う

25

意思決定の基準を事前に定義する

26

仮説のストレステストを行う

27

参照クラスに基づく「外部視点」を取り入れる

28

新データを入手したら考え方を更新する

3.意思決定のプロセスと文化を変える

29

友好的な雰囲気をつくる

30

「発言する」分化を育てる

31

報酬システムと組織の利益を一致させる

32

無料で学ぶ方法を見つける

33

失敗を恐れず実験する

34

成功も「検死」する

35

コミットメントを徐々に増やす

36

ミスを犯す権利ではなく失敗する権利を認める

37

テキサスの狙撃兵のような戦略を練る

38

堂々と意見を変える

39

権限をシェアする

40

インナーサークルをつくる


因みに、システム企画研修社の提供するシステム企画方法論
MIND-SAでは
意思決定についてこう解説しています。

意思決定の本質
 意思決定に正解はない。
  「正解は何か?」と追い求めるな。
  「市場調査をしたら分かる」というものでもない。
  正しかったかどうかは結果により決まる。
 
 意思決定者の判断により決める。
  関係者は意思決定者に自らの判断や情報を提供するが、
  決めるのは意思決定者である。
  判断を誤ったら責任を取る、という前提で判断する。
 
「正解はないのだから、あれこれ悩まず決めなさい」という考えです。
 
そして、以下のように考えています。
意思決定は、
メリット(効果)とデメリット(費用)のバランスの判断
により決まる。
メリットとデメリットをどう見るかにより。答えが変わる。
一般にはデメリットの判断には幅はなく、
メリットの判断に個人差があり答えが変わるのである。

別項「なぜ東京オリンピック開催に反対論があったのか?」
をご参照ください。

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