2021年11月1日月曜日

「アイデア資本主義」とは何?

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 「アイデア資本主義」の内容をご紹介します。
 少し、その批判もさせていただきます。
ねらい:
 その着眼にご関心を持たれましたら、
  ぜひ本書をお読みください。
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「アイデア資本主義」とは、若干32歳の英才(かつ美人?)
国際大学GLOCOM主任研究員大川内直子さんの著書名です。



この著書では、
これまでの人類の歴史での「資本主義」がどう変遷してきたか、
とこれからは資本主義はアイデア資本主義になる、
という2点の主張をしています。

32歳の若さで、こういう主張がおできになるということは驚きです!!

検討の前提として、著者は、資本主義を以下のように定義しています。
「将来のより多い富のために現在の消費を抑制し投資しようとする心的傾向」
したがって、その定義の資本主義は、農耕時代から始まるのです。
収穫した穀物を全部食べてしまわないで、
来年以降の収穫の種として保存(投資)するからです。

この定義は、一般の用語法とは異なり、
言うなれば、一般用語法よりも広い定義となります。

1.資本主義の変遷と限界
著者の定義の資本主義の投資対象は、
空間的、時間的、生産・消費のいずれの面でも、
その限界に達していて拡大余地がない(フロンティアがない)状態である、
とされています。

1)空間的
 全地球を網羅してしまい未開の地はない。
2)時間的
 日、年単位の先を超えて、法人は未来永劫を目指すようになっている。
3)生産・消費
 現状では、ほとんどのものが需要超過になっていて、
 生産・消費の拡大余地(フロンティア)はほとんどない。

この点について、ポイントをついた論旨展開をされています。
著者の専門は文化人類学で人文科学系なのですが、
本書の展開は、非人文科学的で素晴らしいものです。

第1部 資本主義のフロンティアの消滅
第1章 資本主義の歴史の紐解きかた
 資本主義の再定義
 資本主義と計算と時間
 資本主義は拡大を志向する
 フロンティアの開拓と消滅の歴史

第2章 空間のフロンティアとその消滅
 資本主義の発生
 フロンティアとしての地中海(12-15世紀)
 フロンティアとしての大西洋・新大陸(16-18世紀)
 フロンティアとしての太平洋。アジア(19-20世紀)
 フロンティアとしてのアフリカ(21世紀)
 新たなフロンティアとしての宇宙

第3章 時間のフロンティアとその消滅
 時間的射程とは何か
 時間的射程の拡大:1日から1年へ
 時間的射程の拡大:一生、そして子孫へ
 時間的射程の拡大:ゴーイング・コンサーンへ

第4章 生産・消費のフロンティアとその消滅
 生産・消費のフロンティアとは何か
 生産・消費と資本主義
 産業革命と資本主義
 イノベーションとコモディティ化のサイクル
 消費のフロンティアとその消滅
 労働力のフロンティアとその消滅
 資源のフロンティアとその消滅

要するに、資本主義は過去の延長では拡大の余地がない、
というご託宣です。

第2部 アイデア資本主義の到来
そこで、これからは、アイデアが資本になる、
資本主義の投資対象がアイデアになる、という論の展開です。
著者はアイデア資本主義を以下のように定義しています。
「(アイデアが生産手段の前駆体としての位置づけを脱して)アイデアそのものが独立した投資対象になっている状況」

アイデアが、空間・時間・生産・消費面で限界に達した投資対象の
新たな投資対象となる、ということです。

アイデアが重要になるという発想自体は、目新しいものではなく、
堺屋太一さんの「知価社会」とも同じです。
工業社会が終わる・知価社会が始まる」1985年刊行。
この考え方に反対する人はいないでしょう。

著者は、その事象を資本主義の発展形として捉えているところが
新しい発想なのです。
この点については、批判する点はまったくありません。

第2部の最後の第4章である「資本主義のこれから」では、
どのような主張をしているのでしょうか。

資本主義を脱すべきとする議論の背景には、
経済成長に対する懸念の他に、
資本主義自体が悪であるという考えがあります。

たしかに、資本主義が成長と効率を志向した結果として、
環境破壊や公害、経済格差の拡大などが引き起こされてきたのは
紛れもない事実です。
こうした負の側面を解決していくのは
私たちに課せられた使命に違いありませんが、
だからといって欠点があるからシステムごと取り替えようというのは
いささか安易な考えであるように思われます。

それというのは、
第一に資本主義は一方で経済格差や環境破壊といった
諸問題を引き起こしてきましたが、
他方で様々なメリットももたらしてきており、
私たちは日日々その恩恵に預かっているのです。
(中略)
あくまでも強調したいのは、
物事の正負の両面を正しく評価する必要があるということ、
そしてそれは資本主義においても例外ではないということです。
資本主義自体は善を志向しているわけでも、
悪を志向しているわけでもありません。

とありますが、ここでの「資本主義」は、著者の定義の資本主義ではなく
(著者の定義の資本主義であれば、人類の生存の知恵ですから、
それが問題を引き起こすということはありません)、
民間資本が経済活動の主体となる経済体制のことを指しています。
民間資本のやりたいままに放っておくといろいろな問題を引き起こす、
ということです。

したがって、この論考の「資本主義」は
「民間資本が経済活動の主体をなす資本主義」
あるいは「民間資本が活動の主体となる経済体制」
とでもすべきです。
ということは、この議論に入る前に、
「現代の資本主義 民間資本が経済活動の主体をなす資本主義」
という章を設けて、その解説をすべきなのです。
そうしないと読者は、頭の中が整理できません。

そうであれば、この論考の続きとして、
以下の記述はすんなり理解できます。

例えば、環境問題への解決策として、
地球の資源をコモンズ(共有財産)として共有し、
自治的に管理することが提案されています。
漁業において漁場がコモンズ的に管理されている例もあることですし。

より一般的なのは、
ガイドラインを制定したり排気ガスの量を制限したりするアプローチ
かと思いますが、これも経済活動を市場の外から規制するという点で、
資本主義に対して抑制的な手法です。
一方で市場原理を活かしながら
環境問題に対応しようとするアプローチも有効です。
例えば環境税のように外部不経済を内部化するやり方は
経済的手法と呼ばれます。
(中略)
個人一人ひとりが環境意識を高め、
より環境負荷の低い製品を選択することは、
企業が環境負荷の低い製品開発に取り組むインセンティブとなります。

このように、環境の汚染を防止する方法は一つではありません。
資本主義が続いていく中でも、
最大多数の最大幸福や持続可能性を実現するような
多元的なアプローチをバランス良く組み合わせていくことが重要であり、
これによって
資本主義を適切にコントロールしながら発展させていくことが、
資本主義を良い方向へアップデートするための
建設的かつ現実的なアプローチです。

あらためてそういう目で、
上記の論考「資本主義のこれから」を確認してみますと、
特に新しいことを主張しているのではないことが分かります。

本書の価値は、以下のとおりであると理解いたしました。
(◎、〇、△は私なりのその評価です)
◎1)「将来のより多い富のために現在の消費を抑制し投資しようとする心的傾向」
   が歴史的にどう発展してきたのかを明らかにした。
〇2)これからは、アイデアが資本になる、という主張。
△3)現在の資本主義は、
 「将来のより多い富のために現在の消費を抑制し投資しようとする心的傾向」
 という観点から見て、自然の発展形であり、
 手を加えて有効化が可能である、という見解。
 
3)の掘り下げはもっとすべきです。
現在話題になっている「新しい資本主義」もその検討の一環です。
そのテーマは、本書の手には負えません。
著者の今後の検討にも期待いたしましょう。

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