2019年9月24日火曜日

日本の労働生産性が低いわけ

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 労働生産性とは何かを再確認いただきます。
 日本の労働生産性が低い原因を究明します。
 なかなか根が深い問題であることを再認識いただきます。
ねらい:
 何としても、この問題を解決しないと日本は生き残れません。
 少しずつでも改善の努力をしましょう!!
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「日本の労働生産性が低い」の原因究明を
アリス・モデルで実施した例を挙げます。
アリス・モデルは、
私がアリストテレスのモデルをベースに作成したものです。

 この分析は1年ほど前に実施したものなのですが、

当ブログに挙げ忘れていましたので、今回挙げさせていただくものです。


アリスモデルは、以下の図のように、
ものごとを発生させている要因を4つに分けて図示するものです。
その解説を以下で行います。

1.前提条件の確認:労働生産性の現状

(1)労働生産性とは

・まずは労働生産性という言葉の意味の確認をいたします。

・「労働」生産性という言葉から、
 労働者の働きの効率を示しているのではないか
 と思っている方が多いようですが、それは誤解です。


・労働生産性の定義は以下のようになっています。

   国の労働生産性=国のGDP/就業人口または総就業時間



・分子の「国のGDP」はその国全体の稼ぎ高を示します。

・分母はそれをどれだけの人数で稼いだのか、
 またはどれだけの時間をかけて稼いだのかを示します。



・就業時間のデータが取れない国もありますので、
 国際比較で使われるのは就業人口です。


・分母の就業人口の対象の就業者の働きぶりが悪い
 (効率的でない)と生産性は下がります。
 一般に「労働生産性が低い」と言っているのは
 このことを指しています。


・分子のGDPが大きい、
 すなわち「お金になる」ものが多いと生産性は上がります。
 千円で売っていたものを、
同じ手間で2千円で売れるようになれば
2倍の生産性になるわけです。


・現在の国際比較での順位は
 以下の表1のようになっています。
・その上位の国の状況はこうです。

・1位のアイルランドは、法人税率を低く抑えたために、
 多国籍企業が本社を置くようになっています。
 世界の売上がここで上がるのです。


・2位のルクセンブルグは人口60万人の小国ですが
 低い法人税率での企業誘致のほか、
 生産性が高くなりやすい金融・不動産などの比率
 が高いのです。

(2)日本の労働生産性

・日本は、この表のように1970年からずーっと低いのです。

 
  出典:日本生産性本部「労働生産性の国際比較2018」

・この表は就業者一人当たりですから、
 長時間だらだら働いているので生産性が低い
 ということは当たりません。


・日本が高度成長をして「ジャパンアズナンバー1」と言われた
 1979年でも国民総生産(GDP)では米国に次ぐ2位ですが
 労働生産性では20位なのです。


・日本全体でみると、
 生産性の高い産業のウェートが高くないということです。


・日本が強かった製造業の労働生産性も、
 2000年迄は世界一でしたが、その後どんどん下がっています。

2.日本の労働生産性が低い要因

・以上も踏まえ、なぜ日本の労働生産性が高くないのかを
 整理してみましょう。
(1)環境要因:
     低い労働生産性を生みだしている日本の環境

・低い労働生産性となる背景となっているのは
 環境要因ですから、環境要因を先に見ます。

・日本人の思考法の基本は、
 長い間の農耕文化から生まれた保守性です。
 変化を好まないのです。

・「1億総中流」になって、
 「このままでいいや」と満足してしまった面もあります。

・これも歴史の産物ですが、「お上」思考があり、
 通常は言われたことをそのままする、
 という行動が習慣化しています。
 これは「ものごとをあまり深く考えない」
 ということにつながります。

・その結果、変化対応が遅れることになります。
 「日本の国民性はゆでガエル体質だ」と言われたりします。
 明治維新や敗戦のような時は、湯から飛び出しますが、
 それ以外の変化が緩やかな時は、
 対応しないで湯だってしまうということです。

・変化をする時の思考原理は「目的思考」
(何のために変わるのか)でなければならないのですが、
この思考法が苦手です。
 (上野則男著「価値目標思考のすすめ」
  故堺屋太一氏推奨)

・かたや、
農耕文化で変化が少ない生活を送ってきたことは、
 微妙な細かいことに気を配るようになり、
 国際的に見ると過度の品質要求につながっています。

・一方、変化の少ない文化は、
改まっての教育の必要性の認識が低く
OffJT(研修)が少なく変化対応力を低めています。

・以下の図を見てください。
      出典:厚生労働省 平成30年版労働経済の分析

・日本のOffJTは、先進国中かなりの低位です。
 ヨーロッパ諸国の10分の1以下、米国の20分の1、
 しかも15年間で4分の1になっています。

 ・私は研修に携わる者として、
 「このような教育軽視の短期思考は将来に禍根を残す」
 と常時、問題提起をしているのですが、
 この傾向は変わっていません。

(2)目的要因:
  低い労働生産性を生みだしている当事者の意識・思考

・このテーマの主体である当事者は、
 国全体の政策誘導者「国」、経営者、従業員です。

・国の産業政策は、
 既存の産業保護が中心で(いわゆる「族議員」がはびこる)、
 新産業創生・支援に熱心ではなかったのです。
 ようやく最近変わりつつあります。

・多くの経営者は、
 変化の少ない環境で育ち、革新性に乏しいのです。
 そういう経営者は、変化対応の経営者としては失格です。
 例外的に革新性のある経営者が気を吐いていますが、
 本来は全ての経営者がこうでなければなりません。

・多くの従業員も環境要因に染まり、
 革新に積極的ではありません。

(3)間接要因:
     低い労働生産性を生みだしている社会の状況

・環境要因・目的要因を受けて、
 日本全体としては以下のような状況が一般的です。

・多くの製造業は革新的な製品を出せずに、
 価格競争の世界に身を置くことになっています。
 掃除機とかでダイソンに後れを取る
 なんてことになってしまうのです。
 儲かるわけがないですね。

・労働者は、終身雇用に安住し、
 生産性の高い産業に移ろうとしません。

・現在の雇用を維持することは、
 産業の停滞を招くことにつながります。
 デンマークなど北欧各国は、
 失業保険と休業期間の教育を強化して
 転職を促進しています。

・日本の伝統ある商店主や町工場の経営者は、
 後継者難でもあり、
 極めて低い収入で事業を続けています。
・この人たちは教育をしても転職はできないでしょう。

・1950年代には400万人程度だったサービス業従事者が
 最近では2000万人になっていますが、
 このほとんどは厳しいサービス品質が要求される仕事です。

・また、企業内では、現状維持の力が強く、
 業務の改善・改革はよほどのことがないと実施されません。

・単純事務の機械化も遅れていました。
 最近ようやくRPA(Robotics Process Automation
 の導入進展によって
 大企業の事務作業は削減されつつあります。

(4)直接要因:日本の労働生産性が低い直接原因

・日本の低労働生産性を生みだしている
稼ぎが悪い(低収入)のは、以下の人たちです。
 数値は、日本の各種統計から私が抽出しました。

・この人たちが、不本意ながら
 日本の労働生産性の足を引っ張っている
 ことになります。
     1.低生産性サービス業従事者 960万人
   ・飲食・宿泊がその代表で、
   外国人の比率も高くなっています。

 2.自営業者  220万人(農林業・士業を除く)
  ・前掲のように変われない人たちです。

 3.単純事務 64万人
  ・筆者の経験的判断で、
   製造業・卸小売業の3%と見ましたが、
もっと多いかもしれません。

 4.窓際族 65万人
  ・日本の終身雇用制度の弊害で、
   全国の1000人以上の企業の
従業員約1300万人のうち、
5%65万人(筆者の推定)が、
   社内でまともな仕事をしないで所得を得ています。  
   ・全体ではもっと多いかもしれません。

 5.非正規労働者 2000万人
  ・同一労働同一賃金が徹底している国では、
 非正規労働が即低生産性要因となる
 わけではありません.

・日本はその動きはこれからですから
 低生産性の要因となります。
・経済が停滞した平成の間に
  1400万人も増えたのです.

・以上の分析をまとめますと、
 日本の労働生産性が低いのは、
 日本の国民が生産性の低い業務に従事している
 ことが主原因で、
 労働者の働き方が悪いのではないのです。

・したがって、働き方改革だけでは改善できません。

 

2 件のコメント:

Unknown さんのコメント...

かいた汗と得られる報酬が歪んでいるのではないでしょうか?
生産性の高い産業が、サービス価値と価格が適切だといいですが、マッチしてない業も多いように思いますがいかかでしょうか?

上野 則男 さんのコメント...

コメントありがとうございます。
かいた汗と報酬が見合わない産業が多い、そういう国になってしまったということです。
国民全員が知恵を出さないといけないのです。
国のトップがその旗振りをしないとそうならないでしょうね。
そういう総理が欲しいです。
進次郎さんのような方に期待したいです。