2020年8月25日火曜日

コロナウィルスの正体はどれだけ分かったのでしょうか?

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 新型コロナウィルスについて
 現在までに分かってきていることについて整理いたします。
 随時更新してまいります!!
ねらい:
 これだけ重大な影響を及ぼしている敵のことについて
 正しい認識をしておきましょう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
以下のような構成となっています。
1、そもそもウィルスとは 
2.新型コロナウィルスとは
3.新型コロナウイルス感染症の罹患状態
4.新型コロナウィルスの感染力
5.新型コロナウィルスの脅威
6.新型コロナウィルスに対する免疫
7.新型コロナウィルスの合併症・後遺症

1、そもそもウィルスとは 
以下の図出典:大幸薬品ホームページ



ウィルス細菌真菌(カビ)
大きさ














ヒトの細胞とウィルス、細菌、真菌(カビ)の大きさの比較
基本的な構造














ウイルス















細菌















真菌(カビ)
人への感染ウイルスは単独では増殖できないので、人の細胞の中に侵入し増殖する体内で定着して細胞分裂で自己増殖しながら、人の細胞に侵入するか、毒素を出して細胞を傷害する人の細胞に定着し、菌糸が成長と分枝(枝分かれ)によって発育していく
酵母細胞では出芽や分裂によって増殖する
おもな病原体ノロウイルス、ロタウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、コロナウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、肝炎ウイルス、ヘルペスウイルス、HIVなどブドウ球菌、大腸菌、サルモネラ菌、緑膿菌、コレラ菌、赤痢菌、炭疽菌、結核菌、ボツリヌス菌、破傷風菌、レンサ球菌など白癬菌、カンジダ、アスペルギルスなど
おもな感染症感染性胃腸炎、インフルエンザ、かぜ症候群、麻疹、風疹、水痘、肝炎(A型、B型、C型など)、帯状疱疹、エイズなど感染性胃腸炎、腸管出血性大腸菌(O157)感染症、結核、破傷風、敗血症、外耳炎、中耳炎など白癬(水虫)、カンジダ症、アスペルギルス症など
治療ウイルスは細胞膜がなく人の細胞に寄生しているため、治療薬は少ししかなく、開発段階のものが多い

抗ウイルス薬としては、ウイルスに直接作用するものと、免疫機能を調節するものがある

ポリオ、麻疹、風疹、おたふくかぜ、日本脳炎などのウイルスに対しては、ワクチンの予防接種で予防するが、さまざまな深刻な感染症のウイルスについてはワクチン開発中若しくはない
細菌の細胞に作用、あるいは増殖を抑制する抗菌薬が有効な治療薬で、細菌の特性に応じたさまざまなタイプのすぐれた抗生物質と合成抗菌薬がある真菌の細胞膜を破壊したり、細胞膜の合成を阻害する抗真菌薬がある


(1)定義・構造
 a.ウイルスの大きさは、数十nm~数百nmで、 
   一般的な生物の細胞(数〜数十μm)の100〜1000分の1程度。
 b.ウイルスの基本構造は、粒子の中心にある核酸と、
   それを取り囲む カプシドと呼ばれるタンパク質の殻から
   構成された粒子である。
   ウイルスによっては、エンベロープと呼ばれる膜成分を持つ。
 c.ウイルスの核酸は,DNAかRNAのいずれかしか持たない。

  注:DNA:遺伝情報の伝達において機能
    RNA:タンパク質合成において機能   
    DNAウイルス (DNAしか持たないウイルス) は、
    増殖の際に一度RNAに変換してから タンパク質を作る 。
    RNAウイルス (RNAしか持たないウイルス)は、
    RNAが遺伝子の役目を兼務しつつ タンパク質をつくり増殖する 。

(2)種類
 ・国際ウイルス分類委員会の分類では、
  全部で3万種くらいのウイルスが見出されている。
 ・そのうち、哺乳類と鳥類に感染するウイルスは約650種である。
 ・1つの種はいくつものタイプに分けられる(100とか)。

(3)増殖法 出典:Wikipediaを基に上野が要約
  1)細胞表面への吸着 以下の3.(2)感染の仕組み参照。
      2)細胞内への侵入 同上
  3)脱殻(だっかく)
   細胞内に侵入したウイルスは、そこで一旦カプシドが分解されて
   その内部からウイルス核酸が遊離する。
  4)部品の合成
   脱殻により遊離したウイルス核酸は、
   次代のウイルス(娘ウイルス)の作成のために
   大量に複製されると同時に、さらにそこからmRNAを経て、
   カプソマーなどのウイルス独自のタンパク質が大量に生成される
  5)部品の集合とウイルス粒子の放出
   別々に大量生産されたウイルス核酸とタンパク質は
   細胞内で集合する。
   細胞内で集合したウイルスは、細胞から出芽したり、
   あるいは感染細胞が死ぬことによって放出されたりする。

(4)変異
 ・ウイルスは、突然変異を日常的に発生させその特性を変化させる。
 ・そのため、
  インフルエンザワクチンもその特性に合わせた対応が
  必要になっている。
 ・新型コロナウイルスの場合は、
  1か月に2個のゲノム塩基の変化が起きているという。

2.新型コロナウィルスとは
 1)新型ウィルスとは 出典:Wikipedia
  ・新型インフルエンザしんがたインフルエンザ)は
   インフルエンザウイルスのうち、
   ヒト-ヒト間の伝染能力を新たに有するようになった
   (ということは他の動物由来です)インフルエンザウイルス
   を病原体とするンフルエンザウイルス感染症である。
  ・という定義からすると、
   新型ウィルスというのは他の動物由来のウィルス
   ということのようです。

 2)コロナウィルスとは
  お馴染みのこの図です。
  ・太陽のコロナ(光環)に似ているところから
   つけられた名称です。
  ・コロナだからといって感染力等が強いわけではありません。
  コロナウィルスの図(国立感染症研究所の資料による)










 3)新型コロナウィルスとは
  ・新型であるコロナウィルスです。
  ・既存のコロナウィルスは6種類あります。
   SARSコロナウィルス
   MERSコロナウィルス
   ほかの4種は感染しても軽い風邪程度
  ・これに今回のコロナウィルスが新型として参加したのです。

3.新型コロナウイルス感染症の罹患状態
 以下の表にまとめてみました。
 日本の数値は、世界に比べてそんなに良いことはありません。

項目
日本
世界
PCR検査者数
8/27 1,397千人
 (人口比1.1%)
陽性者数64.7千人
 陽性者率 4.6
日本の100万人当たり検査件数は世界で159番目の低位
感染者数/感染率
8/27  64.8千人
 人口比感染率0.05
(2000人に一人)
 無症状者がいるので、実際はもっと多い。
8/28  2427万人
 人口比感染率0.3
 (日本の6倍)
入院治療を要する者
8/27   10.4千人
  陽性者数比16%
  感染者数比16%

死亡者数/死亡率
8/27  1,226人
 感染者数比1.9%
  (50人に一人)
 
8/28  82.8万人
 感染者数比3.4%
  (30人に一人)
注:日本の感染者数はGoogleとりまとめ数値
それ以外の日本の数値は厚生労働省発表数値
世界の数値は、米国ジョンズ・ホプキング大学の発表数値

(1)PCR検査者数
 「少ない」「少ない」と言われ続けている日本の検査状況です。 
 日本の人口当たりの検査者数は、世界で159位!!
                    出典;Yahooニュース 
   世界各国のコロナ関連の統計を集計している米ウェブサイト
   「worldometer」に、衝撃的なデータがある。
   感染者数や死亡者数、重症者数などを列挙しているのだが、
   注目すべきは100万人あたりの検査件数。
   ナント、日本は28日時点で、
   世界215の国・地域の中で159位なのだ。

(2)感染者数・感染率
 日本の感染者は、人口2,000人に一人ということですが、
 これを多いとみるか少ないとみるかです。
 世界の感染者率の人口比0.3%は日本の6倍程度で
 日本がそれほど低いわけではありません。

(3)入院治療を要する者・重症者数
 日本の「入院治療を要する者」の数値は
 8/8時点では13千人だったのが
 8/27で10,4千人に減少しています。

 表には載せていませんが、
 8/27時点の重症者数は238人となっています。
 死亡者は1,226人となっていますので、
 重症にならずに急に死んだ人がいる計算になります??
 このあたりのデータは信頼できないようです。
 
(4)死亡者数・死亡率
 日本の1,226人は、
 年間500人程度で推移している熱中症の死者数、
 通常の季節性インフルエンザの近年の死者数3000人前後
 と比較してどうみるかです。
 日本の人口比では10万人に一人です。

 世界の感染者数比3,4%は、やはり高い感じです。
 かかると30人に一人は死ぬのです。
  
4.新型コロナウィルスの感染力
(1)ウィルスの生存時間
 ・空中では数時間
 ・繊維・段ボールに付着 24時間
  (その物質の水分吸収性による)
 ・プラスチック・ステンレスの表面 2-3日
 ・なぜか銅では4時間

(2)感染の仕組み 
   図出典;日本経済新聞5月11日

  ・ウィルス表面にあるスパイクたんぱく質が、
   感染する細胞側にあるACE2という受容体と結合する。
  ・細胞にある分解酵素によりスパイクたんぱく質が切断され、
   ウイルスの膜と細胞の膜が融合しウイルスが細胞内に侵入する。

(3)感染・重症化に影響する要因
 1)喫煙、高齢、心臓病、糖尿病、呼吸器疾患、高血圧、肥満

 2)男性(日本では,ECMO使用の79%が男性)

 3)血液型
  a.ドイツの約2千人対象の研究では、
   呼吸不全の起きる率はA型は平均に対して45%高く、
   O型は35%低かった。
  b.米国の75万人対象の研究では、
   O型の感染率は他の血液型に比較して9-18%低かった。
  c.新型コロナ以外では、東大他の研究で
   O型の十二指腸潰瘍の発生率は、A型の1.4倍となっていた。
   米国の研究では、
   ノロウィルスやがん・心筋梗塞と血液型との関連
   も指摘されている。

 4)その他の遺伝情報
  慶応大学、京都大学等では、
  日本を含むアジア地域の人口当たり死亡率が低いので、
  遺伝的要素があるのではないかと研究がされている。
  欧米でもその研究が開始されている。

(4)新型コロナウィルスの変異
 新型コロナウィルスも変異をしています。
 このウィルスの変異は198か所、
 分類でも17種類あるという報告もありますが、
 大きく見ると、次の3種です。
 a.中国型 原産の型でそれほど強くない。
 b.欧州型 中国型がヨーロッパに渡り強毒化した。
       これが世界バンデミックの犯人である。
 c.米国型 欧州型が米国で変異した。
 
 日本では、1-2月の中国型流入は封じ込めに成功しましたが、
 3月以降旅行者から欧州型が広まり全国に感染拡大しました。

5.新型コロナウィルスの脅威
 世界大不況を招くほどの影響を与えているのは、次の要因です。
 1)感染から発症までの期間が長い(通常5-6日)。
   そのため感染に気が付かずに感染を広めてしまう。
   これまでのインフルエンザは感染するとすぐに発症した。
 2)致死率が高い。
   日本の致死率1.9%は、季節型インフルエンザの1桁上で
   治療体制が今より悪い1920年の
   スペイン風邪の致死率1.6%死者数39万人)を上回る。
 3)ワクチン・治療薬が開発されていない
  (著名人の死亡情報が報道され、
   罹ったらおしまいだと思ってしまう)
 4)完全治癒しないで後遺症がある。
 5)これだけ大騒ぎをしているのに、分からないことが多い。
  (絶対の権威者がいない。人間は不明なことに恐怖心をいだく)

6.新型コロナウィルスに対する免疫
 以下が報告されています。
 ・新型コロナウィルスの抗体は2-3か月しか持続しない。
  (したがって、抗体の有無で感染したかどうかの判断はできない)
 ・症状の無い感染者の方が抗体が消失する割合が高い。
 ・しかし、抗体が消失したからといって
  免疫力がなくなるわけではない。
  (免疫力は抗体による方法とそれ以外とによる方法があるので。
   免疫の仕組みの解明はまだ十分できていないようです。
   ネットで調べても答えがでてきません

 ・新型以外のコロナウィルス感染者が
  新型に対する免疫(「交差免疫」という)を持っている人が
  かなりいる。
 ・新型コロナに感染したことのない人の2-5割が
  その免疫を持っている可能性があるという研究発表もある。
 ・その免疫は10年以上持続しているという研究成果もある。
 ・「交差免疫」の症状は、
  他のインフルエンザウィルスなどでも確認されている。

7.新型コロナウィルスの合併症・後遺症
(1)合併症
 多く報告されているのが、血管の目詰まりを起こす血栓症です。
  ウイルスが、血管に入り込み血管の内皮細胞を攻撃するのです。
 ・オランダの研究では,ICUに入った患者184人のうち31%で
  血栓の合併症がみられた。
 ・過剰な免疫反応が起きる「免疫暴走」の症状も発生している。
 
(2)後遺症  
 以下のようにかなりの人が完全回復はしていません。
 ・米国の調査では、感染者640人のうち9割が完全に回復していない。
  症状は平均して40日間続いている。

 ・中国武漢の医師団は、回復した25人の血液を分析したら、。
  ほとんどが正常な機能を取り戻していなかった。

 ・イタリアの呼吸器学会は、
  回復した人のうち3割に呼吸器疾患が残ると指摘。
  退院患者の9割が発症から2か月過ぎても体の不調を訴えている。

 ・ドイツの研究チームは回復した人100人の6割で
  心臓の炎症が続いている、
  感染から数か月過ぎても4割弱が息切れや疲労感が残っている、
  と報告。

 ・イタリアの入院治療後退院した143人の調査では、
  その後、以下の症状を訴えた。
  3つ以上の症状の人も55%に及んだ。
  疲労感53%、呼吸困難43%、関節痛27%、胸痛22%。
 
 ・倦怠感や頭痛が残る、という症状は世界中で報告されている。

2020年8月23日日曜日

失敗から学びたくない!?「失敗の本質」

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 「失敗の本質」について考えてみました。
 「失敗から学ぶ」の実態を分析してみました。
ねらい:
 やはり、個人としては失敗から学ぶべきでしょうね。
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野中郁次郎先生他の著書「失敗の本質 戦場のリーダーシップ篇」
(2012年刊)をあらためて読んでみました。
この著書は、1991年に刊行された
「失敗の本質 日本軍の組織論的研究」の続編です。

野中理論からしますと、
日本軍の失敗の分析をする意図はこういうことです。

暗黙知を形式知にすることによって人間社会は進化発展する、
「人間は成功よりも失敗から多くを学ぶ」ことからすると、
失敗の経験を形式知にすればよい。
しかし、失敗の状況は多くの場合明らかにされないので形式知化できない。
そこで、事実の記述がある戦争の失敗を分析して形式知にしよう。

この続編では、以下のような日本軍の失敗が記述されています。
硫黄島の戦い 2万人の日本軍の生存者は千人のみ
沖縄戦 6万人の兵士と10万人近い民間人が死亡 
インパール作戦 10万人の兵士が参加下が3万人が死亡、3万人が戦傷・線病
レイテ沖海戦 空母4艘、戦艦3艘、重巡6艘などを失う惨敗
モンゴル撤退、キスカ島撤退作戦は成功例として紹介されている。 

私は、これをざっと読んであまりいい気持がしませんでした。
状況がどうあれ、誰も自分の国が負けるのは嬉しくないものです。
したがって、その失敗から学ぼうという気にはなれませんでした。

前篇は、日本軍の失敗の分析は珍しかったので
大ベストセラーになったようですが、
そこから学んだ人はどれだけいたのでしょうか?
疑問に思います。

「人間は成功よりも失敗からより多くを学ぶ」と言われるのは
本当だろうか、と考えてその状況を2部に分けて整理してみました。

第1部 一般論
第2部 新型コロナウィルス対応

第1部 一般論
 表をクリックすると全体が表示されます。
他山の石」という言葉があります。
この場合は、他人の失敗を教訓にしなさい、ということです。

歴史はその題材をたくさん提供してくれます。
しかし、単なる興味本位で、他人事としてみていれば、
何も学ばないでしょうね。

また、自分としてうまくいくと思っているときには、
多くの人は、他人の失敗例は参考にしないでしょう。

では、自分の過去の失敗は、活かすのでしょうか?
小さな行動レベルのことであれば、反省して変えることをします。
「思いを伝えられずに失恋した」という場合は、
今度は思い切って言ってみようとして行動することはありそうです。

しかし、大きな失敗、たとえば、職業の選択や伴侶の選択は
簡単に取り返しがつきません。

でも、転職や離婚をする人も増えています。
そういう人は次のチャンスでは、
失敗を活かして成功しているのでしょうか。
数少ない成功者は、失敗から学んでいるのです。

結局、自分の失敗、他人の失敗から学ぶかどうかは、
個人の資質によるようです。
学ぶ人は成長し、学ばない人は脱落していくのです。

組織(チーム、会社、国)の失敗の場合は、
失敗を活かすかどうかは組織員一人一人の問題というより
その組織のリーダの問題なのです。

青学の原監督、日本電産の永守社長など創業経営者の多くが、
組織を発展に導いています。

国の場合は、
ナチスに負けなかったチャーチル、
筋を貫いた「鉄の女」サッチャー首相、
「ドイツのお母さん」と慕われるメルケル首相のリーダシップが
国を発展させています。

因みに、トランプ大統領が名大統領になるか、
最低の大統領になるかはこれからが勝負ですね。
私は中国封じ込めに成功すれば名大統領だと思います。

チームや国の場合、必ずしも失敗から学んでいるのではなく、
成功の道筋を掴んだ上でのリーダシップが成功要因です。

そうしてみると、
組織の場合は「失敗から学ぶ」のが重要ではなく
優れたリーダが出てくるかどうかがカギのようです。

本書の帯にこう書かれているのは正解です。
日本の企業・政府が
「失敗の拡大再生産」のスパイラルに陥ってしまったのは、
傑出したリーダが出現しないからだ。

本書で取り上げている敗戦の原因は、
すべてリーダの資質によるとされています。
組織の失敗=リーダの失敗なのです。

結論として
「失敗から学ぶ」のは個人としては成功の王道であるが、
組織としては、それよりもリーダの資質が大事である、
ということになるようです。

第2部 新型コロナウィルス対応
今回の新型コロナウィルス対応は、
失敗から学ぶという点ではどうなっているのか
を整理してみました。

1.世界の状況 さまざま
韓国と台湾は、
SARS(2003年流行)/MERS(2015年流行)の失敗経験から
法整備を行い、国として一元化した強力な権限を持った組織を作って
対応をしています。
早くに大流行の制御に成功しています。

中国も、強権で都市封鎖などを行い大流行を抑えています。
ヨーロッパでは、ドイツが、
メルケル首相のリーダシップで初期の封じ込めに成功していますが、
どの程度失敗に学んだのかは不明です。

失敗に学んでいないのは米国です。

ワクチン開発という点では、大流行病蔓延のあとに
ワクチン開発は各国・各製薬会社の重要課題になりましたが、
いつの間にか、力が抜け中断になっていました。
それが、今回の人類の失敗につながっています。
「喉元過ぎれば」は世界中の実績であり、世界中の責任です。
実績として、失敗から学んでいないのです。

2.日本の状況 大勢は失敗から学ばない
日本は、2009年の新型インフルエンザ大流行後に
以下の対策実施が提言されています。
 対策の選択肢を複数用意
 危機管理の専門体制強化
 PCR含む検査体制強化
 国民広報扱う組織の新設
 臨時休校のあり方の検討
 ワクチン生産体制の強化

これから見ますと、
太字部分が特に不十分で今回の対策後手を生んでしまいました。
失敗に学んでいないのです。

その原因の多くは、既得権益にこだわる官庁組織の壁でしょう。
国全体のことよりも、
自分たちの縄張り維持を優先しているのです。
阿部首相がいくらPCR検査能力の早期拡充を指示しても
「目詰まり」で実現しませんでした。

挙国体制の実現という点では、
韓国・台湾に完全に負けているのです。

過去の実績・権益にこだわるのは国民性
(連続・継続・実績重視主義)だと思いますが、
失敗から学ばないのも国民性なのでしょうか?

米国は、失敗しても再起のチャンスのある加点主義の国柄です。
日本は、失敗の許されない国柄です。
失敗したら、✖の評価がついて人生終わりになります。

したがって、失敗はうやむやにして
誰も責任を取らなくていいようにしているのです。
「なあなあ」「まあまあ」の世界です。
それが今までの日本の評価システムでした。

40年も前に、某電力会社で問題解決手法の研修をした際に
「過去の当社には、『問題』という言葉はなかった。
『問題』があれば誰かが責任を取らなくてはならないのだ」
と聞いてびっくりしたことがありました。
そんな体質では、
原発事故の責任など明らかになるわけないですね。

日本でも現在はそれが許されなくなってきてはいますが、
根っこにはその精神が残っています。
多くの人や組織は、
「失敗を認めない、したがって失敗からも学ばない」のです。

日本でも、失敗を認める人はいます。
そういう人は成功しているのです。
4月21日の日経新聞に、永守日本電産会長の以下のコメントが
掲載されていました。
 50年、自分の手法がすべて正しいと思って経営してきた。
 だが今回、それは間違っていた。
 テレワークも信用していなかった。
 収益が一時的に落ちても、
 社員が幸せを感じる働きやすい会社にする。

 そのために50くらい変えるべき項目を考えた。
 反省する時間をもらっていると思い、
 日本の経営者も自身の手法をかんがえてほしい。

「日本の品種はすごい」その1ナシとリンゴ

[このテーマの目的・ねらい]
目的:
 ブリーダー(育種家)たちの素晴らしい活動を知っていただきます。
 ナシとリンゴの品種の整理をさせていただきます。
ねらい:
 ナシとリンゴの品種を再認識していただきます。
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竹下大学氏著「日本の品種はすごい」のご紹介です。
「この本はすごい」です。
著者は、千葉大学園芸学部卒後、
キリンビールで育種プログラムを立ち上げなどをされました。

2004年に米国で初代「ブリーダーズ(育種家)カップ」
を受賞されているプロフェッショナルですが、
著書は、対象植物の感覚的紹介から始まり、
生物学的記述、その植物の開発経緯の紹介まで、
美学、自然科学、人文科学の領域をカバーしている
「すごい」ものなのです。

本書では、
ジャガイモ、ナシ、リンゴ、ダイズ、カブ、ダイコン、ワサビ
の育種が紹介されています。

「すごい」を実感していただくために、
リンゴの章の一部をご紹介します。
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青森のリンゴを世界へ
青森県に内務省から配られた3本の苗木が植えられたのは、
北海道よりも6年遅い1875年(明治8年)であった。
ここから始まるリンゴ栽培のおかげで、
青森の人々は飢えと無縁の生活をてにいれることになる。

今や、青森県は日本産リンゴの半分以上を生産している。
そしてそのうち3割近くを占めるのが弘前市だ。
実に弘前市の生産量は、県別生産量第2位の長野県よりも多い。

津軽富士とも呼ばれ、空に浮かぶ稜線に見惚れてしまう岩木山。
美空ひばりの「リンゴ追分」でも歌われたこの山の裾野一面に広がるリンゴ畑は、一度見れば忘れられない光景である。

秋に1本のリンゴの老木がしなった枝に折れんばかりに抱える果実の重さは、300キログラムを超える。

明治維新直後といまとを比べたときにもっとも目立つ変化は、
津軽地方においてはリンゴの木の多さである。
140年間かけて大都市にビルが立ち並んだように、
津軽のリンゴの木も人の手によって大きく育った。

この岩木山麓に、リンゴの生産、販売、加工、輸出を手掛ける
片山りんご株式会社がある。
片山寿伸が経営する片山りんごは、21ヘクタールものリンゴ畑を所有し、日本屈指の生産量を誇る。
青森県ですらリンゴ生産者の平均耕作面積は1ヘクタール程度であるから、規模的にも図抜けた存在だ。

しかし、片山りんごももともとこれほど大規模な生産者だったわけではない。
農産物全般にいえることだが、生産者は消費者の嗜好の多様化、
輸入品との競争、生産者の高齢化といった問題を抱えている。

青森県のリンゴの耕作面積もまた減少の一途をたどっており、
実に毎年100ヘクタールを超えるリンゴ畑が耕作放棄地に変わっている。
そんな逆風に立ち向かうかのように、
リンゴ生産を続けられなくなった生産者の畑をそのまま買い取る形で、
一気に耕作面積を増やしたのである。

片山は先祖代々続くリンゴ農家ではない。
津軽では新参者といってよい。
だが片山の父信光は、弘前で最初に無袋栽培に取り組んだ人物でもある。

果実に紙袋をかける有袋栽培は、
シンタイムシを防ぐ目的で明治半ばから広まった日本独自の栽培方法である。
害虫だけでなく果皮の傷も防ぎ、さらに貯蔵機関を延ばすことができたために、リンゴで流行って当たり前の技術となっていた。

一方の無袋栽培とは、果実に袋かけをしないで生産する方法である。
メリットは糖度が高まり味がよくなることと、手間が格段に省けること。
ただその一方で、果皮の発色が悪くなるため、
見た目は袋かけしたものと比べてかなり劣ってしまうという問題があった。

見た目の悪さは出荷価格に跳ね返ってくる。
そのため弘前の生産者は誰も無袋栽培に切り替えようとはしなかったという。

片山の父は、生産者の生活を楽にする前例を作ろうと、
信念を持って無袋栽培を続け、販路を自ら切り拓くことに成功する。
今ではスーパーで普通に見かけるようになった
「サンふじ」「サンつがる」「サン陸奥」と呼ばれる商品がそうだ。

頭についている「サン」は、あくまでも
降り注ぐ陽の光を十分に浴びた無袋栽培のリンゴという意味であって、
品種自体は「ふじ」「つがる」「陸奥」とまったく同じである。

片山は、自分の役目は青森のリンゴの風景を残し、
しっかりと次の世代に引き継ぐことだという。
「リンゴの木はだいたい20年で一人前の量が採れる大人の木になり、
60年は楽に生きるんです。
大事に育てれば100年を超えても元気に育ちます。
これって人間に似ていますよね。
さらに収穫は1年に1度きり。
ですからリンゴの木は
昔から人と同じペースで一緒に歴史を刻んできたんです。
そんな木を人間の都合で簡単に棄ててしまってよいのでしょうか」

こう語った後に、
中国で1個2000円で売れた「大紅栄」という
紅色の大きなリンゴを取り出してくれた。
地元の工藤清一さんが育種した品種で、期待の戦略商品だという。

はたして「大紅栄」は、
わたしがこれまで食べたことのあるリンゴとは明らかに違う風味だった。
様々な品種の特徴が次々に現れてくるような複雑な味。
ヒットしてほしい品種だ。
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本項では、本書の中から、ちょうど時期となる
ナシとリンゴの解説の整理をさせていただきます。
他の作物のご紹介は別の機会にさせていただきます。
ナシ 日本発祥の珍しき果樹
銘柄
姿味など
来歴等
長十郎
赤ナシ(茶色)、固く甘い。
日持ちが悪い。
大正時代は全国生産量の6割を占めた。
黒斑病に強く伸びた。
川崎市大師河原1889年梨園経営当間辰次郎氏が発見。
二十世紀
青ナシ(薄緑)、甘くザラザラ感なし。
千葉県松戸市で松戸少年が発見。
黒斑病を克服しでて長十郎を抜き、昭和の後半20年間首位だった。鳥取県は改良品種含め生産量が多い。
幸水
赤ナシ。早生、果汁豊富、キレのよい甘み、シャリシャリ感
平成元年から生産量トップ。
黒星病に弱かったが、埼玉県(農業試験場)が力を入れて育てた。昭和26年に試作を始め、命名は昭和34年で、栽培方法の確立は昭和42年である。
日持ちが悪い。
豊水
赤ナシ。中生。酸味のきいた味。大きさ・形・色で幸水の上を行く。
生産量第2位。幸水の交配改良種。日持ちの悪さを改善している。
果肉が透明になる「みつ症」の克服が課題。
新高
奥手の赤ナシ
大正4年母長十郎の交配で誕生。台湾の最高峰新高山に因んだ命名。現在生産量第3位。
韓国では、キムチの漬けダレとしてとして大量に使用されている。韓国の梨の消費量は日本より多い。
あきづき
赤ナシ中晩生種。味・食感は幸水に近い。豊水より大きい。
生産量第5位。新高・豊水、幸水の交配種。昭和60年誕生。
欠点は、日持ちが10日程度であまり長くない程度で、今後が期待できる。

リンゴ サムライの誇りで結実した外来植物
銘柄
姿味など
来歴等
国光
記述なし
1800年頃、米国で誕生。1871年に日本に導入され主力品種になった。
今や絶滅危惧種。
紅玉
小玉で真っ赤、酸味アリ
19世紀前半に米国で発見。英名はジョナサン。
日本には明治5年の導入された。
酸味が嫌われ生産縮小していたが、アップルパイなどの洋菓子に使用され復活。
デリシャス
ハート形のユニークな形。香りと味がよい。
1875年、米国のリンゴ園で幼木が発見され、1881年に初めて実をつけた。リンゴの2大病害(黒星病と火傷症)に強く栽培家の人気となる。日本への導入は1911年である。
スターキング
デリシャスが赤くなった変種。
1911年に米国で発見された。日本には1929年に千疋屋が導入した。
デリシャス系は日持ちが悪い。
ゴールデンデリシャス
黄色(金色)


1890年頃、米国の農場で発見された。
生産量世界一を占めていたことがある。
日本でも1950年から1977年頃まで主力品種のひとつであった。
つがる
記述なし
青森県農事試験場の1930年交配作品(ゴールデンデリシャスと紅玉)。
現在日本で生産量第2位。長野県が衆力産地。
ジョナゴールド
甘みとともにさわやかな酸味。
米国コーネル大学が1943年に交配(ゴールデンデリシャスと紅玉)、1968年に命名・商品化。日本には1970年秋田県園芸試験場が導入。
王林と生産量第3位を争っている。
陸奥
青りんご。大きく、甘く、みずみずしい。
1930年に青森県農事試験場でゴールデンデリシャスと「印度」の交配で誕生。
貯蔵性も優れている。
ふじ
味は高評価。
1939年、青森県藤崎町の園芸試験場で国光とデリシャスの交配により誕生。しかし戦争により育成は中断した。
1955年普及に力を入れだした。味は絶賛されるが色づきがよくなく形もいびつであることと栽培が難しかったことが普及の壁。栽培法を確立したのは青森の1生産者であった。この解決で一挙に全国普及した。
現在、リンゴ生産量世界一である。
1962年に品種登録されたが、海外に対して何らの知的財産権の主張(手続き)をしていない。
中国は世界最大のリンゴ生産国で、その半数以上が「ふじ」であるが、何らの権利主張もできない。
現在、国会提出中の種苗法の改正案でその点の補強が意図されている。
王林
青りんご
独特の甘い香りと味。
1952年に福島県のリンゴ生産者が開発。
現在日本で生産量第3位。
見た目が悪く農林省の品種登録で拒絶されている。
米国でも売れている。
レッドパール、いなほのか、いろどり
(赤い果肉のリンゴ)
多くの育種家が品種改良で育成中。




2020年8月19日水曜日

コロナ肺炎に有効な対策、放射線治療!!

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 低線量放射線がコロナ肺炎の予防・治療に有効であるという
 「事実」のご紹介です。
ねらい:
 早くこの治療法が認知されることを期待しましょう。
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本項は,
WILL2020年7月号掲載のモハン・ドスXLNT財団理事長談
「放射線の権威が説く コロナ肺炎には低線量放射線が効く」
というレポートのご紹介です。

このような大変な内容です。
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・低線量(少ない量)の放射線治療は、
 コロナ肺炎の予防と治療に有効である。
・放射線治療が肺炎に有効なことは、
 1930年に抗生物質治療が主流になるまで実績として認められていた。

・その理由は放射線が免疫力に対して有効な働きをするからである。
・放射線治療は他の薬剤による治療と比較して
 副作用がないことも有利である。

・現在、米国・イタリアなど世界何か国かの大学で
 コロナ肺炎に対する放射線治療の治験が実施されている。

・これだけ優れた治療法が一般に認められていないのは、
 放射線の害に対する誤った「LNT仮説」
 (放射線によるがんの発生可能性は量によらずに直線の関係がある)
 のせいである。
 (この仮説を唱えたマラー博士がノーベル賞を受賞したことも
 その仮説を認めさせる要因になっています)

・低線量放射線が人体に好影響を及ぼすという大々的な実験は
 行われていないが、偶然の結果によりその証明はされている。

・その一つは、1957年から1981年にかけて、
 何千人もの民間労働者が、
 米国の原子力推進の艦艇や潜水艦の修理をしている。
 こうした労働者は、低線量放射線にさらされている。
 この労働者は、
 対象群の労働者と比較しがん死亡率が低いことが証明された。

・もう一つの事例は1982年、
 台湾でコバルト60の放射線源が
 台湾北部の鉄鋼スクラップ産業によって誤ってリサイクルされ、
 多くのアパート建設の鋼製品に使われた。
 ところがその住民のがんの発生率は、
 台湾全体のがんの発生率よりも低かった。

・日本の2011年東北大震災の際にも多くの住民が避難したが、
 放射線を浴びて死亡した者はいない。

・早急にLNT仮説を棄却し、有効なコロナ治療法を確立すべきである。
・この治療法は
 既存の放射線(レントゲン)設備が利用できる点も有利である。
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良いことづくめではないですか!!
医学会は、こんなとんでもないことがまかり通っているのです。
早急な低線量放射線治療法の確立を期待しましょう。

因みに、
がん特に乳がんの治療には放射線治療が一般的に行われています。
この治療関係者からは、
乳がんの放射線治療で免疫力が低下するなどの悪影響はない、
という防衛的な意見表明が行われています。

代表例はこれです。
放射線治療で免疫力が下がる?正しく知ってほしい放射線治療 
https://www.akiramenai-gan.com/radiotherapy/86991/
害がないという主張で、有効であるという点の主張が弱いです。

なお、低線量放射線の有効性につきましては、
当ブログでも2011年から取りあげています。

「低放射線量は有益である」という証明


もう少し早くこの治療法が確立していれば、
今回のコロナ肺炎は問題なく克服できていた可能性があるのです。
俗説を疑わないという学者たちは学者ではないですね。


2020年8月17日月曜日

「稽古の思想」

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 「稽古」の本質を再確認していただきます。
 その本質は、一言でいえば「守破離」なのです。
ねらい:
 身の回りの「お稽古事」を振り返ってみてください。
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このテーマ名は、西平直京都大学教育学研究科教授の著書名です。
著者は、信州大学、東京都立大学、東京大学に学び、
立教大学、東京大学に勤務の後、現職という「渡り鳥」系の方です。

私は、この著書を、
自分が大学時代に空手の稽古をしたことから関心を持ち、
購入しました。
しかし、ぱらぱらと見たところ、
期待していたものと違っていましたので
しばらく机上に放置していました。

今回夏休みで改めて読んでみました。
著者の意図は「はじめに」によく書かれていますので、
そのままをご紹介します。
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(前略)
実は、大学の教師になりたての頃、
たくさんの学生の前で話をすることがとても苦痛だった。
どうすればよい授業ができるのか。
その手掛かりを求めて、あれこれ彷徨った挙句、
最後に「稽古の思想」に辿りついた。

正確には、世阿弥の伝書に出会い、授業を「舞台」と見立て、
「無心に舞う」ように授業をしたいと、
まるで滑稽なことをひとり考えていた。
それほど、追い詰められていたのである。

その意味では、「稽古の思想」はすべて自分の問題であり、
我が事であった。
武道・芸道など、ジャンルは関係なかった。
あるいは、
「稽古」の範囲も超え(修行も修養もレッスンやトレーニングも)
すべて関連しそうな話は「稽古の思想」として読んだ。
そしてたくさんの知恵を授かり、
同じだけ、たくさんの疑問を持った。

師匠はいなかった。
尊敬する方には何人もお目に掛かったが、
ある一人の師匠から教えを受け継ぐという仕方で
学んだことはなかった。
その意味では初めから「稽古」の原則を逸脱していたことになる。

稽古の「王道」は一人の師匠の下でその流派の技芸を学ぶ。
稽古はその流派の技芸と密接に結びつき、
他のジャンルとは交流しない。
他と交わらぬ純粋な継承関係が理想とされてきた
(縦の系列・師資相承)。

その伝でいえば、この本は「王道」から外れた者が、
道に残された言葉を頼りに、
その内側に秘められた知恵を尋ね歩いた
無謀な試みといういことになる。

稽古の言葉は現場の言葉である。
具体的な「わざ」に即し、
具体的な相手に向けて語られた(文脈依存性の高い)言葉であって、
その現場から切り離し、
言葉だけ相手にしてもその本当の意味は分からない。

あるいは、
それらの言葉はしばしば「反転」する仕掛けを秘めている。
それは聞き手に「気づき」を促し、聞き手の内側に
新たな地平を切り開いてゆくための仕掛けであって、
言葉だけ単独に検討しても、生きた知恵は伝わらない。

そうした理屈を痛いほど感じながら、
しかしその理屈をもって内向きになり、他領域との交流を避け、
秘伝として神話化しようとする傾向はもったいないと思われた。

あるいは逆に、そうした言葉を、
見栄えのするキャッチコピーとともに
「商品」として売り出そうとする傾向には、
どうしても馴染むことができなかった。

そうではなくて、声を荒げることなく、静かに検討する。
その語りの構図を整理し、
その内側に秘められた知恵の位相を慎重に確定する。
そうした地道な作業を願ったのである。

「稽古」などという古めかしい話には縁がなかった方々に、
その知恵の一端をご覧いただく機会になるのであれば、
こんな嬉しいことはない。
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本書の章構成は、若干ランダム(「人文科学系」)ですので、
私なりに以下のように整理してみました。
そうしてみますと、著者はずいぶん苦労されているようなのですが、
その極意は「守破離」なのです。

著者は、
その「守」「破」「離」の流れで解説されていれば、
より極意の奥深さが分かりやすく解説できたのではないか
と思いました。

また、私の空手での稽古の経験からみると、
著者がご自身で稽古を経験されていれば、もう少し苦労しないで
今の結論に到達されたのではないかとも思いました。

稽古の本質の結論だけでなく、以下の記述内容の詳細にご関心のある方は
是非本書をお読みください。

「稽古の思想」要約
【関連用語】
稽古
歴史的に明確な用語法が確立しているわけではない。稽古はそれを通して精神を鍛え、内面的な向上を目指すものとされている。練習が本舞台(試合)を目指した事前準備であるのに対して、稽古はそのつど本番である。稽古は常に全力で行われる。
稽古には師が必須であるが師は直接答えを教えない。その点が練習と異なる。修行は近い用語であるが、修練、鍛錬、研鑽、錬成、修行、修養、など類語・周辺語がある。
練習
基本的には、スキルの習得と理解されている。
しつけ
稽古と同じく、良いと悪いの区別を身に付けさせるが、しつけには技が含まれない。
力を抜く
力を抜くのは、力が入っているからで、はじめから力が入ってなければ「力を抜く」とは言わない。(なるほど!)
稽古の対象は、先人が創った、茶道、華道、武道、柔道、剣道、空手道、などの道である。音楽は道と言わない、俳句や和歌は日本の文化であるが道にはなっていない。
道場
稽古を行う場と言うことが多いが、仏法修行の場も道場と言われる。
道を修する場と限定せずに、「道が顕れる場」と理解すると、特定の場所に限定せずに日々の暮らしの場がすべて道場となる。
スキル
何かができる能力を言う。技術やテクニックを習得して実現する。
アート
スキルを身に付けた上で、スキルから離れて自然体で動ける状態をいう。アートを直接学ぶことはできない。
稽古のプロセス
似する、似せぬ、似得る
世阿弥。「似する」は、物まね(真似る、学ぶ)である。真似ができるようになったら、次の意図して真似ようとしないでできる「似せぬ」(離れる・明け渡す)になる。最後に「似得る」(自然に生じてくる)
状態に到達できる。
上野注:これは弁証法の「正反合」と同じ構図です。

守破離
守破離の元祖は千利休のようである。離は、型を使うこともできるし、使わないこともできる、自在に使いこなす状態を言う。
世阿弥は型と言わず形木と言った。型がないと習うことができない。
型は、からだの内側の動きを促すための土台であり、その道の先人質が様々な経験を重ねる中で最も基本とした「からだの流れ」である。
型を守り、型を破り、型から離れるのである。
「型があっての型破り、型がなければ形無し」という無著成恭の言葉もある(上野)
【稽古の到達点】
心身一如
道元禅師は心身脱落(しんじんとつらく)と言う。心は無心の境地となり体も無体となった上で一つになる状態を指す。
からだが自然に動く
稽古はからだで行う。からだの動作の反復が稽古の基本である。稽古が進むと考えなくても、からだが自然に動くようになる。
(上野注)スポーツはすべてこうなっている。考えて体を動かしていたら間に合わない。野球でもサッカーでもボクシングでもそのことは容易に理解ができる。芸事も同じである。
離見の見
世阿弥、自分の目で見ることを我見、他社の目で見ることを離見と呼ぶ。離見の見は他社の目で自分を見ることである。そうすることによって「からだの内側がおのずから動き出す」。ある面で無心の境地である。
修証一等
道元禅師、修行と証(悟り)一体で悟りを目指して修行してはならない。「悟っているから修行し恵みを受けられる」
平常心
禅ではこれを「びょうじょうしん」と言う。逆境にも順境にも動じることなく、ゆったりと悠々と自然にしたがって生きることである。現代の「へいじょうしん」は、普段通りの平静な心を保つこととして軽くとらえて使っている。
成就
世阿弥はこれを落居と言う。「然るべき過程を踏んだ後に、落ち着くべきところに落ち着いた」という納得・満足感である。
会得、悟り、解脱、心眼
上野意見:これらの言葉は、稽古・修行の到達点を表現する言葉であると思われますが、なぜか本書に登場しません。