2020年8月11日火曜日

トム・ピーターズ著「新エクセレント・カンパニー」に期待する!

 【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 親友米野忠男氏の「上野則男のメルマガ」への感想文をご紹介します。
 アメリカでの興味深い経験談が中心です。
ねらい:
 皆様もぜひ感想をお寄せくださいませ。
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上野氏メルマガの8月号で紹介している著書の中で,
トム・ピーターズの「新エクセレント・カンパニー」
に興味を持ちました。
旧著の「エクセレント・カンパニー」は昔読んだ本で,
廃棄したと思ってましたが,
ほぼ同じ時期にベストセラーになったビジネス書の
マイケル・ポーターの「競争の戦略」と並んで書棚に残っていました。

実は最近断捨離の一貫として本を大量に処分した。
私の好きな作家の一人である藤沢周平が生前に
「年を取ったら人生の軌跡を消すことが大事だ」
と言った言葉の重みが増してきたからでしょうか。

トム・ピーターズが前書から38年も経った今年に新著を出した
ことをご教示いただきありがとうございます。
前書はコンサルタント会社のマッキンゼーに勤務したことがある著者が,マッキンゼーにいたかつての同僚との共著で,
マッキンゼーの日本代表だった大前研一氏が翻訳したものです。

60社ほどの米国企業の事例をベースにしていますが,
勤勉・社員重視などの日本型経営を高く評価している。
上野氏がブログで
「人を大事にする経営モデルとして日本に見習えという風潮があったようです」と述べているように,当時は正しくその通りだった。

1979年にエズラ・ボーゲルの「ジャパン・アズ・ナンバーワン」
が出てベストセラーになったが,
ここでも日本型経営が評価された。
1980年前後は世界的に日本型経営が高く評価された時期だった。

1960年代末には日本のGDPは米国に次ぐ世界第2位になり,
2010年に中国に抜かれるまでその地位を保持した。
当時私はニューヨーク駐在でアメリカ人から,
カリフォルニア州より小さい日本がGDP世界2位ということは
日本の国中に工場があって,
景勝地(Scenic wonder)はないのではないか,
と真面目に訊かれた。
日本の70%は人が住めない山岳地で,
多くの景勝地があるから日本に来て見て欲しい
と答えたらびっくりしていた。

私がハーバード・ビジネススクール(HBS)のマネジメントコースに留学したのが1980年で,驚いたことに授業の中に「Case Japan」があった。
日本型経営が注目されたからで,
日本の産業界と政府(通産省, MITI)の連携が経済成長に大きな貢献をしたと教師が説明した際,
50人のクラスで唯一の日本人である私に意見を求めたので,
「私は民間企業に勤めているからわかるが,
政府の役割を過大評価している,
例えて言えばボートレースで漕ぎ手は企業で,
政府には漕ぐ力はない,コックスの役割しかない」と言ったら,
すぐに教授から
ボートレースで一番重要なのはコックスだと切り返された。

HBSではどの授業でもそうだが毎回大量の資料が配布され,
資料に基づいて議論する。
事前に目を通しておかないと,
片っ端から指名されるから意見を言えない。

Case Japan」で配布された資料で興味深いものがあった。
戦後のマッカーサー司令部の日本統治に関するもので,
トップのマッカーサー以外の軍事スタッフは,
日本に恨みを持たない欧州戦線の従事者だけから選ばれた
ことを初めて知った。

一つの国を改造する機会などめったにないことで,
かつての敵国日本を二度と戦争ができないように,
軍事力を持たない,またその為にも大きな経済力を持たない国,
東洋のスイスのような理想の国造りに,
彼らが真摯に熱心に取り組んだことを知り感動した。

しかし朝鮮戦争が起こり共産主義国家に対抗するために,
アメリカは憲法で禁じた軍隊(自衛隊)の創設を認めた。
米国は共産主義の脅威を過度に恐れ同盟国の赤化を憂慮した。
この状況を熟知していた吉田首相はダレス国務長官に,
そんなことをしたら日本は共産主義国家になると脅かし,
交渉の切り札にした。

朝鮮戦争の特需が日本の経済復興を促進し,
アメリカが目論んだ日本のスイス化プランが実現しなかったことを,資料を読んで改めて感慨深く認識した。

朝鮮戦争が起きなかったら,日本は今どうなっていたのだろうか。

HBS在学中に忙しい勉強時間の合間にハーバードのロースクール,政治学研究所(ケネディセンター)やライシャワーが在籍した東アジア研究所などへ勝手に出かけた。

東アジア研究所に行った時に
幸運にもエズラ・ボーゲルに面会し短時間会話を交わすことができた。
私は「Japan as Number One」が日本でベストセラーになっており,興味深く読んだと伝えた。

特に本の中で日本の高級役人に汚職がないのは,
退職後に政府機関や企業などを渡り歩き,
その都度高給を得て退職金も何度も受け取ることができるので,
少々の賄賂を受け取って未来の権利を失うリスクを負うことは
割に合わないからだと書かれており,
正当な観察で外国人にはあまり知られてないだろうから
有意義だと述べたら,ボーゲルさんは喜んでくれた。

しかしボーゲルさんも私も間違った。
その後何年か経って
防衛省と文部省の次官が金銭がらみのスキャンダルで辞任した。

日本の経営が世界的に評価を高めたのは,
日本にとっては悲劇だったと私は考える。
日本は戦後アメリカを理想として追いつくことを目標にしてきた。
高度成長を達成し高い評価を受け,
もうアメリカから学ぶことはないと有頂天になってしまった。
「追いつけ」の目標を失い,
海図のない船のように漂流することになった。

考えてみればアメリカと日本は,
個人主義対集団主義,契約主義対信条主義,競争主義対平等主義,さらに長い歴史的背景の違いなど,
日本とは対極にあるアメリカをモデルとして
無批判に受け入れて変革に取り組んできた。
今その歪が出てきたのではないだろうか。

アメリカを過小評価することは間違いだ。
アメリカの経済力の強さは,
なんといっても新しい企業が続々と出てくることで,
ベンチャー企業が育つ社会的な環境ができていることは,
他国はまねできない。

アメリカンドリームを求めて世界中から
優れた人材がアメリカに殺到することもその背景にある。
移民は簡単には市民権を得られず,
大企業には就職できないから自分で起業する。
成功すれば雇用に貢献し多額の納税をするから
市民権を得ることができる。

IT企業のGAFA(グーグル,アップル,フェイスブック,アマゾン)4社はいずれも小さい会社からスタートし今や世界を席巻している。
コロナ禍の中でも,いやコロナのおかげで好調な業績を維持している。

昨日アメリカの有人宇宙船が無事帰還というニュースが流れた。
テスラ自動車(今や電気自動車を年間100万台以上生産)で成功した南アフリカ出身のイーロン・マスクが,
今度はスペースX社を設立して成功し,
ついに宇宙産業でも政府に代わる役割を果たしている。

全くの素人が自動車を作ったり,
ましてや宇宙船を打ち上げるなど信じられないが,
米国には終身雇用制はないので好条件を提示すれば,
いくらでも必要な人材を大企業からでも雇い入れることができる。

雇用の流動性があってこそ無経験からでも後発企業として成長できる。
終身雇用制に関連するが,
HBS在学中にソニーの盛田会長が
米国進出25周年記念の講演をハーバード大学で行うことを知り,
授業が終わってから川を渡って聞きに行った。

講演の中で,
「アメリカでは不景気になるとレイオフ制度があって
簡単に社員の首切りができる,アメリカの経営者が羨ましい。

だが社員に辞められると
企業秘密を簡単に持ち出されるからソニーだったら大変困る。
となるとアメリカの経営者に同情する」とユーモアを込めて話した。

講演後パーティーがあったので,
会場に潜入し人垣をかき分けて盛田さんに近づき,
帝人からビジネススクールに来ていると短く挨拶したら,
すぐに「君のところは大屋社長が亡くなって大変だね」と言われた。
翌日の地元の有力紙「Boston Globe」一面に盛田講演の記事が掲載された。

トム・ピーターズの新著はタイトルがいかにも前の本の続編と思わせるが,原題から見ても全く新しい観点から,
著者(今年78歳のはず)の50年のコンサルタント経験の集大成として書かれたものではないかと思われます。

上野氏の今月号のブログの2番目のコラムであるAIにも関連するが,
トム・ピーターズの新著では,
AIが人間の仕事に脅威になるといわれるが,AIはあくまで人間が使うもので,
AIを生かすのは人間力だと主張するのだろうか,
新著をぜひこれから読んでみたいと思っています。
ご教示あらためてお礼を申し上げます。
20208月 米野 忠男 記)

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