2019年9月17日火曜日

「貧困専業主婦」

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 「貧困専業主婦」の存在を認識していただきます。
 「貧困施業主婦」の実態を知っていただきます。
 「貧困専業主婦」の発生原因と対策を認識していただきます。
ねらい:
 周りに「専業主婦」がいましたら、「おせっかい」をしましょう。
 (著者も社会的な「おせっかい」が必要だと言っています)
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これは、周燕飛さんという大阪大学国際公共政策博士、
労働政策研究・研修機構(JILPT)の主任研究員が
書かれた書名です。
この書の分析は、
JILPTが実施した調査や国勢調査のデータを駆使して
実証的に行われています。


久々に論旨明快で分かりやすい書物に出会いました。
一気に読んでしまいました。
(著者は美女ですし??)
今まであまり知られていなかった
「貧困専業主婦」の問題を明らかにしたことは
著者の大きな社会貢献だと思います。


こういう論旨です。


1.一般に専業主婦はゆとりある家庭の選択肢と思われているが、
 かたやに厳しい生活を強いられている貧困専業主婦層がいる。


 貧困の定義は,OECDの貧困線の定義(所得中央値の50%)に従い、
 厚生労働省発表によると、2015年の貧困線は
 単身者世帯で年122万円、2人世帯173万円、3人世帯211万円、
 4人世帯244万円、5人世帯273万円である。


 本書では、
 年間の手取り収入がこの金額を下回る世帯を貧困世帯と定義している。


2.2011年調査では、子どものいる夫婦世帯の貧困率は以下のとおりであった
 共働き世帯 妻が正社員       7.2%
 同       妻が非正規・パート 11.8%
 専業主婦世帯             12.0% 推定54万人


3.労働環境が改善された2016年には以下のように改善された。
 共働き世帯 妻が正社員       2.4%
 同       妻が非正規・パート  8.5%
 専業主婦世帯              5.6% 推定21万人


 著者コメント:労働環境が悪化すれば、非正規・パート層は、
 専業主婦世帯に逆戻りする可能性がある。


4.貧困専業主婦世帯は以下の状態である。
 1)「必要な食料を買えないことがある」が20%
 2)「子供が持病・障害あり」が非貧困世帯の2倍以上
 3)育児放棄の経験がある母親の割合は非貧困の2倍以上


5.貧困専業主婦は、夫の稼ぎが少ないのに
 以下の理由で仕事につけないでいる。
 (「不本意型」貧困専業主婦の2-3割と分析)。 
 1)家庭環境(介護しなければならない者がいる、など)
 2)自身のメンタルヘルス問題
 3)子供が保育所に入れないので子育てのため


6.自ら仕事につかない選択をしている貧困専業主婦もいる
 (「自己都合型」)。
 1)得られる給料と保育料のアンバランス
 2)子供は自ら育てたいという意思


7.自己都合型の選択は、以下が原因
 1)欠乏の罠
  日々の生活で精一杯になっている時には、
  人々は将来のことを考える余裕がなく、近視眼的に行動する。
  長期的視野に立てば、
  なんとしてでも仕事を継続した方がマシな一生を送れるのにそれをしない。


 2)制度の罠
  税制上、社会保障上、妻の無業または低収入が優遇されている。


 3)離婚制度の罠
  日本では離婚はしにくく専業主婦の存在を助長している。


8.貧困家庭では、十分な学業チャンスを与えられず、
 貧困が引き継がれる可能性が高い。


 上野注:
 2019年7月6日の日経新聞に以下の記事が載っていました。


 3歳を超えて幼稚園にも保育園にもいかない「無園児」は
 約10万人(3%)いる。


 無園児は以下の特長がある。
  親の年収が低い方が高い方の1.5倍
  両親どちらかが外国籍の場合が1.5倍
  兄弟が多い子や発達遅れの子も無園児に多い。
  歯科検診の受診率は幼稚園・保育園に通う子は99%
  無園児は僅か13%、虫歯も多い。
 
 目黒虐待死の女児も無園児だった。
  無園児は社会のセーフティネットから外されている。


9.無業の状態で離婚しシングルマザーになると、
 極めて厳しい生活環境となる。
 (上野想定:幼児虐待死の可能性もでてくる)


10.貧困専業主婦の改善策は,NUDGE(軽い誘導)である。
 1)就業が得であることを啓もうする。
 2)貧困の場合は保育園料金が軽減されることを知らせる。
 3)就業支援をする。


11.就業が得であることを認知させるアイデア
 このようなアイデアが示されていました。
 
 現在、ほとんどの会社の給与明細には、
 当月の賃金額しか示されていません。
 そのため、手取りで月額10万円を稼いでいる女性であれば、
 その15万円の所得減少を退職のコストとみてしまう場合が多いのです。
 
 しかし、仮に給与明細の片隅に
 「賃金額は、勤続年数と働いた実績によって増加します。
 現時点の賃金総額・退職金見込額および定年まで働き続ける場合の
 賃金総額・退職金見込額は試算できます」と記して、
 それぞれの試算額を示す欄を追加した場合にはどうなるでしょう。
 
 離職の潜在コストを際立たせることになり、
 将来の賃金や退職金を含めた生涯所得を強く意識した
 就業選択をおこなえるようになるかもしれません。


 実現の障害はありそうですが、
 アイデアを出すということは前向きで良いことです。


12.結びはこうなっています
 
 「制度的罠」を取り払うことと「NUDGE」の導入は、
 一定の効果が期待できる実現可能な政策手段であるものの、
 抜本的な解決策とはならないことが留意すべき点です。


 「制度的罠」の除去と「NUDGE」の導入がいくら進んでいても、
 慢性的な長時間労働、頻繁な配置転換、転勤など
 「場所や時間の無限定な」働き方が求められている限り、
 子育てしながらの就業継続にはそもそも無理があります。


 正社員と非正社員の垣根を取り払い、
 短時間社員、転勤や配置転換義務のないジョブ型正社員
 (エリアや職種など限定)、在宅勤務可能なテレワーク社員など、
 柔軟で多元的な就業形態の選択が可能となるような
 雇用社会に移行しない限り、多くの女性が
 「専業主婦」コースを選び続けるでしょう。
 
 その意味では、
 「ワーク・ライフ・バランス型」の働き方改革の樹立こそが
 改革の最終目標となります。


 やはりそうなるのですね。
 貧困専業主婦問題は、日本の労働・就業問題の一つの歪みですから、
 根本問題を改善しなければならない、ということです。

2 件のコメント:

Unknown さんのコメント...

企業のモデルが、限界な来てるのかもしれませんね。

上野 則男 さんのコメント...

歪みに目を行き届かせて、行政・政治が動くようにしないといけないのです。
「見えざる手」が良い方向に導いてくれるということはないでしょう。