2019年9月24日火曜日

「残業学」ですって!!

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 「残業学」を一緒に勉強しましょう。
 「残業学」では、残業問題の解決は
 「組織の生産性を根本から高める」ことである、としています。
 その点について考えてみましょう。
ねらい:
 お仕事をされている方は是非本書をお読みください。
  (当書の副題は
 「明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?」 です)。
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「残業学」は中原淳立教大学経営学部教授の書かれた本です。
残業学という名称は、中原教授が勝手に命名したものです。


残業に関わる問題を「パーソル総合研究所」と共同実施した
調査データに基づき総合的に分析している貴重なレポートです。


こういう構成となっています。


ようこそ!「残業学」講義へ
第1講 残業のメリットを貪り尽くした日本社会
第2講 あなたの業界の「残業の実態」が見えてくる
第3講 残業麻痺ーー残業に「幸福」を感じる人たち


第4講 残業は「集中」し、「感染」し、「遺伝」する
第5講 「残業代」がゼロでも生活できますか?
第6講 働き方改革は、なぜ「効かない」のか?


第7講 鍵は「見える化」と「残業代還元」
第8講 組織の生産性を根本から高める
最終講 働くあなたの人生に「希望」を


私は、残業問題を検討する際の重要な視点は、
以下の3点だと思います。
1)ビジネスの視点で見ての残業の必要性・有効性
2)個人の視点で見ての残業の必要性・有効性
3)第3者の視点で見ての過剰残業の危険性


現在は、残業問題ではもっぱらこの第3の視点が中心で
議論がされています。
「残業=悪」という認識に立っています。


第2の視点は、個人としては非常に重要な問題です。
現実問題として残業代がかなりのウェートで家計を支えてきました。
それに対して、
「残業代は臨時収入だろう、無くても当たり前ではないか」
というエセ正論で、残業規制論が幅を利かせています。


本書ではその論に乗ることなく、
第5講、第7講で取りあげられています。
その点はたいへん結構なことでです。


本書でも記載されているSCSK社の残業代還元は、
このように行われました。

このブログでもご紹介しました。2015年2月2日
「当たり前の経営」と言いますがたいへんな変革の実現報告です!!
http://uenorio.blogspot.com/2015/02/blog-post_2.html


親会社の住友商事の出身だった中井戸会長が
有給取得の徹底、残業削減の方針を英断されたのです。


当時この業界は、「残業当たり前」で、
そんな方針を進めると業績が下がると反対の声もありました。
しかし結果は、業績が下がるどころか上がりました。


そこで会社は、
残業代見合い金額を一律で社員に賞与で還元しました。
最初から還元を想定していたのではありません。
それでも、社員は頑張ったのです。


中井戸会長の先見の明による英断の成果です。
このような方針は決して、「下」から出るものではありません。


しかし、その本書でも第1の視点は取りあげられていません。
私はこの点について、過去のブログでこう書きました。
「なぜ、残業はなくならないのか、 
なぜ日本の労働生産性は低いのか?」(2017年5月30日)
ある程度の残業は必要だ、ということです。


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私はこう整理します。
1.恒常的に残業が発生するのであれば、それは人員不足である。
2.ある時期、残業が発生するのであれば、正当な企業経営である。
  
一般的業務では、仕事量が毎日一定だということはありません。
たとえば、
 週末に仕事量が多い。
 月末に仕事が集中する。
 季節的にある時期に仕事量が多い。
 予算編成時に仕事が増える。
 ランダムに仕事量にばらつきがある。


一般的なビジネスの状況では
以下のような繁閑のばらつきがあるということです。





その場合に、ピークに合わせて人員を用意していれば残業は発生しませんが、
ピーク以外はアソビが出る、ということになります。


営利目的の民間企業では、
そんな非効率な経営はしません。
ある水準を目安に人員を設定し、
それを超える仕事量は残業(超過勤務)で対応するのです。
その水準以下の場合は、
納期条件の緩い業務(学習を含みます)を行います。


ですから、残業=悪なのではなく、
通常は残業=必然なのです。


その残業がどの程度かが問題であって、
恒常的残業の場合は、人員不足で経営の責任です。


政府が規制しようとしている月間最大100時間は
正規な労働時間を150時間(7.5時間×20日)とすると
67%になります。


対案の60時間でも40%でかなりの高率です。
150時間を平均労働時間だとすると、
こんなイメージになります。



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本書は全般的には、
データに基づき客観的な分析をされているのですが、
視点の限界も感じられます。


例:残業麻痺の項
  注:エンゲージメントとは、仕事に向かう活力ある、
    生き生きとした心理状態、だそうです。


著者は
「残業時間が40-60時間より60-80,80以上の方が
幸福感が高いのは不可解です」と言っています。


これは因果関係の把握が逆です。
使命感のある人あるいは仕事にやりがいを感じている人が、
残業を多くしているのであって、
その人たちの幸福感が高いのは当然でしょう。


そうではなくて、
やらされ感または生活のためにやむを得ず残業を多くしている人
は幸福感が高くなります。


その両者の平均値なので、幸福感の絶対値は高くないのです。


「不可解」と思うのは、
残業=悪という先入観で見ているからではないでしょうか。
残業は悪なのでしょうか。


それはそれとして、残業問題対策は、
まずは「実態の見える化と効果の従業員への還元」(第7講)
中長期的には以下の「組織の生産性を根本から高める」(第8講)
という主張はたいへん素晴らしいものです。


詳細は是非本書をご覧ください。


1)「罰ゲーム化」したマネジャーを救え!
 管理職になると残業代はなくなる、責任は重くなる、
 これでは誰も課長になりたくない。
 ここを何とかしなくてはならない。


2)「希望のマネジメント」に必要な3つの力
 組織に希望を持たせるマネジメントには、
 以下の3つの力が必要
 ジャッジ力(迅速に状況判断・指示する能力)
 グリップ力(現場の状況や進捗を把握する能力)
 チームアップ力


3)「やることはいくらでもある」わけがない
 重要性から必要事項を判断すべきである。


4)部下への声かけは「2割増し」で
 部下へは完全には伝わらないので2割増しで伝える。

5)「抱え込み上司」にならないために
 抱え込みは責任のはきちがえである。


6)「残業の組織学習」を解除する「3つの透明性」
 業務の透明性
 コミュニケーションの透明性
 時間の透明性


7)重なりあう「マネジメント・トライアングル」
 



8)「希望の組織開発」の鉄板フレーム
 見える化
 「ガチ対話」
 未来づくり
9)組織開発を実際にやる際のコツ
 現場に武器=ツールを手渡す
 トップの強いコミットメント


私も、長年各社の業務改善のお手伝いをさせていただいてきて、
特に最後のコツはまったくそのとおりだと思います。
トップのコミットメントがなければ現場は動きません。
動いているふりをしてごまかします。


本書で挙げられている武器=ツールの例はこういうものです。
 改善するための知識やスキルの教育
 マネジャー向けのコーチングやファシリテ―ション研修
 改善の進め方のテキストやワークブック
 事例を共有する機会の提供、など。


まったくそのとおりです。

2 件のコメント:

Unknown さんのコメント...

みんなで助けあい、小集団活動で知恵だし、日本のお家芸が消えつつあるのが、一番問題ではないでしょうか?

上野 則男 さんのコメント...

コメントありがとうございます。

日本のお家芸が失われ、代わりの得意技を生み出せていない、
ということですが、別項の「日本への警告」で指摘されているように
根が深い問題です。
愚痴を言っているばかりではダメです(自省!!)。
どうしたものでしょう??