2020年5月12日火曜日

ドイツの国情、メルケル首相の名スピーチ!

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 ドイツの国民性等について知っていただきます。
 メルケル首相の、今回の危機対応に対する
  国民への力強いメッセージを確認いただきます。
ねらい:
 国民性の近いところのある日本も頑張りましょう。
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この項は、
私の帝人勤務時代の同期の友人米野忠男氏からいただいた
メールのご紹介です。
たまたま「米野忠男」は「上野則男」と2文字共通です。


米野氏は、技術畑の英才でドイツ勤務でも活躍した方です。
現状でたいへん参考になる内容ですので、そのままをご紹介します。
最後に、メルケル首相が国民に呼びかけたメッセージの全文が
掲載されています。
関係者すべてに対する心配りがあり、非常に心がこもった内容ですね。


因みにドイツは、厳しい規制が成功して、
5月6日に、新規感染の現象が続いていることを前提に、
規制を緩和し経済再開に向かって前進しました。
メルケル首相が、得意げに?自ら発表を行っています。


メルケル首相は、2018年秋の地方選挙敗北を受けて
2021年の任期満了後の首相継続はないことを宣言しています。
今回のリーダシップ発揮(復活)で、その状況に変化があるでしょうか。
メルケル首相はまだ66歳です。
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ドイツのコロナ対策の優秀性に対するコメント(修正版)
(上野さんの51日付ブログに対して)



1.ドイツ政府の外出制限令

3月にメルケル首相は国民へメッセージを出して呼びかけた。
日本のメディアでもその内容の一部が紹介され,
国民へアッピールする名スピーチと高く評価された。


自由が制限された東ドイツ出身の首相ならではの内容だ
とのコメントもあった。
ドイツに住む知人から送られたメルケル演説の全文を読んで,
ドイツ国民に強く訴える内容だと痛感した。


役人の書いた原稿を棒読みするようなどこかの国の首相とは
大違いですね。

 
2.強固な医療システム

メルケル首相は国民へのメッセージの中で,
「ドイツには優れた医療制度があり,
世界でもトップクラスです」と述べ,
コロナ対策の最前線で戦う医療関係者へ感謝しています。


私はドイツ滞在中に何度か医師の世話になった。
ドイツはアメリカと同じようにホームドクター制が確立している。
ホームドクターの専門外の診察が必要なら,
紹介された専門医師の所に行くが,
結果はホームドクターから伝えられる。


しばしば高額になる歯科では,
診察後に詳細な見積書がコンピューターから打ち出され,
承認するサインをしてから治療が始まる。


私は痛む親知らず1本を抜くのにも,
麻酔から始まる各処置の治療時間や処置費用の明細が記載された
見積書を見て驚いた。
医師の患者への対応は日本とかなり異なるが,
信頼できるシステムだ。


3.高齢者のライフスタイル



「子供と同居しないことが多い」と書かれているが,
同居したくてもできないのだ。
アメリカもそうだが,子供の親離れは早く親は寂しい。

私がデュッセルドルフに赴任してすぐに仕事でベルリンへ行った時,
森鴎外記念館(かって鷗外が下宿した家)に寄った。
人が少なく女性館長から日本語で話しかけられた。

日本語が達者なのは早稲田大学に留学したからだと知った。
その時彼女に突然,「ドイツ人は孤独なんです」
と言われてびっくりした。

親は寂しいから犬を飼い,犬税(パリには猫税あり)を払う。
地下鉄の家族割引は「親2人,子供2人,犬1匹」がセットで
割引料金が適用される。
犬や自転車を電車に乗せるには有料だ。
ドイツのレストランガイドには犬同伴の可否が示されることが多い。

イタリーでは市内勤務から帰った子供からウィルスをうつされた
親が多いと報道されたからドイツとは異なる。


4.住環境



確かにアメリカと比べればドイツの家は必ずしも広くはない。
ただ住宅は広さだけではなく質も重要だ。
ドイツのボンにも住んだ犬養道子の40年も前に刊行された
「ラインの河辺」というエッセーで,
ドイツの優れた家の構造を何故日本の建築家は見習い導入しないのか
と憤激している。

開閉方向がワンタッチで変えられる窓のドアを例にあげ,
手書きの絵で説明している。
私が住んだ家の窓も全く同じ構造で,犬養さんと同じく感動した。

建具を嵌める外枠は規格化された鋼鉄製だから,
ドアや窓など簡単に他の部屋のものと替えられる。
私もガラス窓のついた客室のドアを
窓なしの他の部屋の重いドアとの交換を試み,
一人で簡単にできて,日曜大工の好きなエンジニアは感激した。

またドイツの家は古くても堅牢で,
例えば100年たった家の床材は無垢の厚い板材だから,
特殊なカンナで削り塗装すれば新品同様の床になる。

ドイツ人は食事と衣服には金をかけず,
家と旅行に金をかけるといわれるが,ドイツに住むと実感できる。
街には旅行代理店がひしめいているし,欧州各地に旅行すれば,
ほとんどのレストランには英語とドイツ語のメニューが置いてある。



5.国民性


コロナウィルス伝搬を防ぐための国をあげての対策には
国民性は重要な要素でしょう。
まず言えるのは,
ドイツ人のルールを守るという道徳観が非常に強いこと。
これは子供の時からの学校教育や家庭の躾の影響が大きいと思う。


信号のない交差点には
日本なら優先権のない側に「止まれ」の表示があり,
アメリカなら「Yield(譲れ)」の表示があるが,
ドイツでは表示は全くない。


右側優先のルールが徹底しているからだ。
左側に車が見えても減速せずに突っ走るし,
右側に車が見えれば停止する。


子供の時から「右は権利」と教わるらしい。
英語の「right」は「右」と「権利」の両方の意味を持つ。
ドイツ語も同じで「Recht」は「右」と「権利」の意味を持ち,
Recht ist recht」と覚える。


ドイツ人はおせっかいで,
自分はルールを守るが他人にも守らせる気質があり,
交通ルール違反の車のナンバーを警察に密告する人もいる。


人通りが全くない駐車禁止の小道に短時間車を停めると
不思議に駐車違反のチケットが貼られている。
老婆が窓から顔を出しているのを見て,やられたと思う。
一人暮らしの老婆が,
今日もささやかな社会貢献をしたとほくそ笑んだに違いない。

ドイツでは赤信号で渡った歩行者を轢き殺しても無罪の判例がある。

ルールを守らない方が悪いとの考えだ。
アメリカではさすがに,
運転者は赤信号を渡る人を轢き殺す権利はないとの考えだ。


交通ルールを守らない車を見ると,
ドイツ人はイタリー人だろうからしょうがないと言うし,
イタリー人はドイツ人は頭が固くルールを守り過ぎるから,
バカで危険だと貶す。


車が全く見えない深夜の交差点で,
ドイツ人は赤信号で青になるまで停まるが,
イタリー人に言わせればドイツ人はバカか,
こんな場合は安全だからと信号無視だ。


街中の青信号では,
ドイツ人は周囲を全く見ずに突っ走るから危ない,
イタリー人は青信号でも信号無視の車がないか注意して渡るという。
ゲルマン民族とラテン民族の違いが分かる。


そういえばドイツの信号が日本と違うことに,
現地で車を運転しない旅行者は気付かない。
日本なら赤から青に変わるが,ドイツでは赤から黄色を経て青になる。


ドイツ人に赤からすぐ青でいいじゃないかと言うと,
真面目な顔で絶対必要で,
黄色で発進準備をして青になった瞬間に飛び出すためだという。
ドイツ人はせっかちだ。


ドイツの地下鉄(鉄道も)には改札がない。
ホームの自動販売機でチケットを買い,
ホームか車内の刻印機に通す。


出るときはまったくフリー。
誰でもルールは守るという性善説が前提だ。
検札はたまに来るが,
委託された民間人が私服で証明書を見せて行う。


無賃乗車が見つかっても罰金は軽い。
定期券を買うより見つかった時に罰金を払う方が安くつくと,
毎日仕事で利用する移民の人などがいると聞いた。


私は一度郊外電車に乗りチケットを買ったが,
車内の刻印機に通すのを忘れた。
その時検札があって慌てたが,
「自分は日本人で慣れてなく刻印を忘れた,罰金は支払う」
と言ったら,
「その必要はない,ここで刻印すればよい」
とあっさり無罪釈放だった。


他国なら大勢が無賃乗車するだろう。
自分は律するが他人の不正には寛容な道徳観は
どこから来るのだろうと思い続けた。


多くのドイツ人と関り話を聞くうちに辿り着いた私の結論は,
「不正を行えば人は罪悪感を感じ不幸になる。
不正が成功しても罪悪感を持つという罰を受けるからそれでよい,
そういう奴はほっとけばよい」
とドイツ人は考えるのだ。

 
これはルールを守ることに通じるのかもしれないが,
ドイツ人の自己責任という道徳観を知らないと
ドイツ社会を理解できない。


ドイツで運転免許を取得して驚いたのは,
免許は更新手続きなしで終身有効なこと。
失明しても手足が動かなくなっても免許は有効で,すべて自己責任だ。
日本では考えられないだろう。


アメリカでは3年ごとの免許更新時に簡単な身体機能検査があった。
日本で免許更新に関わる人は大勢いるだろう。
ドイツの行政コストは信じられないほど低いだろうし,
それでドイツの交通事故死亡者が多いわけではなく,
むしろ統計では少ないのだ。


ドイツ人に聞くと,
高齢の親には家族会議で免許返納を薦めるようだ。
私のドイツ免許も死ぬまで有効だから,
退職後の海外旅行で国際免許なしにレンタカーを利用できて便利だ。


日本では昔から,
お上の言うことは正しいからお上の言うことに従えばよい,
困った時にはお上がなんとか助けてくれる,
と自分で責任を取ることを放棄してきたから,
自己責任という概念は生まれなかったと思う。

 

6.リスクと未来

 
久野勝邦氏の講演を紹介したブログに,
(注:米野氏のコメント対象になっている私のブログに登場している)
日本人は現在を重視し未来志向がない,
リスクの日本語もないとの記述がある。


これに関して思い出したのが,
在独中にバイオテクノロジーが話題になった際,
ドイツ人が後ろ向きだったことだ。


この分野でヨーロッパをリードしている英国の産業界が,
バイオテクノロジーは
今後あらゆる産業分野で重要な役割を果たすから,
ドイツがもっと真剣に取り組まないと,
ヨーロッパはアメリカや日本に後れを取ると警告した。


確かに遺伝子組換えの食品などには
ドイツ人は忌避感を強く持っていた。
私も仕事上関りを持った
ドイツの化学・医薬大手のバイエル社は,
バイオテクノロジーの研究拠点を米国バイエル社に置いた。


ドイツ人の専門家を含めて何人もの人に聞いたが,
例えば1本の木に1万個もできるトマトを
今後100年間食べ続ければ,
人体にどんな影響が出るか誰も分からないだろう,
神の摂理に反することはできないと言う。
「未来の巨大になるかもしれないリスク」
を負うべきではないということだ。

 

7.日本の文化と欧米の文化の比較

 
久野勝邦氏の関連でこの項目がある。
私の滞独中に親日ドイツ人が書いた「ドイツと日本の類似性」と
いう本が話題になった。


「ドイツと日本の文化の差は,
ドイツとアメリカの文化の差よりはるかに小さい」
と書いてある。


口約束など守らないアメリカと異なり,
ドイツも日本も信義信条を大事にする点は同じ,
ドイツ語のHeimat(故郷)には
安らぐ雰囲気という意味合いもあり,
日本の身内の甘えに通じるとも書いてある。

 
日本とドイツには,恥を知るという文化がある。
これが一因で
ドイツではアメリカのようなベンチャー企業が育たない。
起業して一度失敗すれば恥を知り二度と立ち上がれない。


アメリカでは起業家は一度失敗しても,
恥の文化などないから何度でも起業する。
その背景にあるのは,事業が成功して上場すれば,
投資家の方が起業家より利益を得る仕組みになっているから,
失敗しても立場はチャラと考える。


さらにアメリカには失っても惜しくない金があり,
もしかして巨大な利益を得る夢を持てる投資をしたい
と思う金持ちがたくさんいる。


投資先がわからない金持ちと起業家の間を取り持つ
ベンチャー・キャピタリストが存在して,
起業家を含めての三位一体のシステムが機能するので,
アメリカには次から次と新興企業が生まれ,瞬く間に巨大になる。


これがアメリカ経済の他国にない大きな強みだ。
アメリカほどではないが,
欧州でベンチャー企業の育つ環境があるのが英国で,
医薬分野などで新しい企業が生まれるインフラができている。

 

8.中国・日本・アングロサクソンの思想比較

 
これも久野勝邦氏の関連での項目になっている。
このテーマで思い出すのが,
昔読んで感銘を受けた渡部昇一の名著「アングロサクソンと日本人」だ。


今のドイツ北部に住んでいたアングロサクソン人は
ゲルマン民族の一部族で,5世紀に英国に渡り定着した。
だから英国人とドイツ人の根っこは同じ。


今では英語とドイツ語は異なる言語になったが,
根っこは同じで,古英語はドイツ語の方言のようなものだから,
ドイツ人は古英語を理解できるというのが渡部説だ。


因みにノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの小説
「忘れられた巨人」はアーサー王亡き後の
7世紀の英国を舞台にしたアングロサクソン人の物語だ。


こんな時代の話を5歳まで日本で過ごした日本人(今は英国籍)が,
英国人が驚く流麗な英語で小説を書くなど信じられない。
確かに英語とドイツ語は発音が違っても共通する点も多い。


また日本人が英語と思っている言葉が
実はドイツ語だったりする例もある。
日本で精力的と言う意味で,エネルギッシュな人と言うが,
energish」と言う英語と思う人が多いだろう。
こんな言葉は英語にはない。
勿論英語では「energetic」だ。
エネルギッシュはドイツ語の「energisch」に由来する。

 
多民族から成り立つ欧州の出来事を正しく理解するには,
各民族の国民性や法制度を含む社会構造の違い,
昔からの歴史的変遷などを知る必要がある。


ユーロ通貨の誕生や英国のEU離脱もしかり。
10年ほど前に,
ある会合でユーロ通貨の話をしてくれと頼まれた時,
冒頭で「英国がユーロ通貨に加入することは永久にないが,
EUから離脱することは近い将来にあるかもしれない」と述べたが,
その通りになった。

 

9.欧州の過去のパンデミック

 
よく知られているように,
欧州では14世紀と17世紀にペスト(黒死病)が大流行し,
各地で人口が激変するほど死者が出た。


欧州滞在中にこれに関して気付かされたことがあった。
ロンドンから仕事で北へドライブした時,
小さな村で行列に出会った。


何事かと車を停めて聞いた。
17世紀に村の洋服屋の主人がロンドンから生地を仕入れて帰り,
ペストに感染したことが分かった。
村の牧師を中心に村から誰も出ず,
誰も村に入れないと決めた(今でいうロックダウン)。


お陰でその村では多数の死者が出たが,
近隣の村々には伝染させなかった。
村人は先人の徳を偲び毎年パレードをするとのことだった。

 
私は山歩きが好きだが,
特にオーストリアのチロルの山々や純朴な人々に魅了され,
滞独中や帰国して退職後も何度もチロル地方を車で回った。
チロル地方最大の都市インスブルックの街中で立派な碑を見つけ,
ペストの死者への追悼碑だと知った。
こんな所までと妙な感動を覚えた。

 
英国とフランスの共同プロジェクトとして建設した
英仏トンネル(ユーロトンネル)には,
二つの鉄道が通る大きなトンネル(直径7.6 m)と
一つの保守用の小さなトンネル(直径4.8 m)の三つのトンネルがあるが,
それらの中央部にネズミなどの小動物の移動を阻止するために
高圧電線が張りめぐらされている。


伝染病を恐れる英国側の強い要望だったと聞く。
どのぐらい効果があるのか知らないが,小動物の移動は防げても,
エイズ菌を持つ人間が鉄道に乗って自由に移動するではないかと
英国人に言った。


この高圧電線の話は現地では報道されたが,
ウィキペディアを含めインターネット情報で見つからないので,
この伝染病対策はあまり知られてないかもしれない。

 
因みに建設に際し,すでに日本の青函トンネルが完成していたので,
日本からアドバイザーを招聘した。
英国人は日本からアドバイザーが来たから,
こっちのトンネルを日本より短くさせられたと言う。


ユーロトンネルの全長50.5 kmに対し,青函トンネルの全長は53.85 km
わずかに青函の勝ちだ。
しかし海底部分の長さは,英仏トンネル37.9 kmに対し,
青函トンネル23.3 kmだから断然英仏の勝ちだ。

 

10.強力なリーダーシップ

 
上野さんのブログに書かれた最後のテーマ。
コロナウイルスのパンデミックは、
第二次世界大戦以来の人類の危機と言われ始めた。
こういう危機では強力なリーダーが必要だ。


私が思い出したのは世界大戦に参戦した英国の危機を,
チャーチルが劣勢を跳ね返して首相になり,
リーダーシップを発揮して救ったことだ。


英国の参戦後すぐに,ドイツの猛攻で英仏軍は追い詰められ,
まだ参戦してなかったイタリーのムッソリーニを介して
ヒットラーと休戦交渉しようという勢力が支配的だった。


参戦時のチェンバレン首相は
ミュンヘン会談でヒットラーと不戦を約束した人で,
不信任で退陣した際,
国王も次期首相に当時海軍大臣のチャーチルではなく,
ハリファックス外相を望んだといわれた。
しかし不戦派の上院議員のハリファックス外相は
選挙で選ばれていないので固辞した。


対独強硬派のチャーチルは
ラジオ放送で国民へ歴史に残る演説を行った。
「戦って敗れても国の未来はあるが,
戦わずして屈辱的な条件を呑まされれば国の未来はないと」と。


国民や議員からも圧倒的な支持を得て首相に就任した。
あの時チャーチルが首相にならなかったら英国は
どうなっていたのだろうか。


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【メルケル首相の3月の国民に対するスピーチ全文】



親愛なるドイツ国民の皆さん!

現在コロナウィルスは私たちの生活を著しく変えています。
日常生活,公的生活,
社会的な人との関りの真価が問われるという,
これまでにない事態に発展しています。


何百万人もの人が職場に行けず,
子供たちは学校や保育施設に行けない状況です。
劇場,映画館,店などは閉鎖されていますが,
最も辛いことは、これまで当たり前に会っていた人に
会えなくなってしまったことでしょう。


このような状況に置かれれば,
誰もがこの先どうなるのか,
多くの疑問と不安を抱えてしまうのは当然のことです。


このような状況の中,今日,
首相である私と連邦政府のすべての同僚たちが
導き出したことをお話ししたいと思います。


オープンな民主主義国家でありますから,
私たちの下した政治的決定は透明性を持ち,
詳しく説明されなければなりません。
決定の理由を明瞭に解説し,
話し合うことで実践可能となります。


すべての国民の皆さんが
この課題を自分の任務として理解されたならば,
この課題は達成される,私はそう確信しています。


ですから,申し上げます。事態は深刻です。
どうかこの状況を理解してください。
東西ドイツ統一以来,いいえ,第二次世界大戦以来,
我が国においてこれほどまでに
一致団結を要する挑戦はなかったのです。

連邦政府と州が伝染病の中ですべての人を守り
経済的,社会的,文化的な損失を
出来る限り抑えるために何をするべきか,
そのためになぜあなた方を必要としているのか,
そしてひとりひとりに何が出来るのかを
説明したいと思います。


伝染病について私がこれから申し上げることは,
ロベルト・コッホ研究所のエキスパート,
その他の学者,ウィルス学者からなる
連邦政府協議会からの情報です。

世界中が全力で研究していますが,
まだコロナウィルスの治療薬もワクチンも
発見されていません。
発見されるまでの間に出来ることが
ひとつだけあります。

それは私たちの行動に関わってきます。
つまり,ウィルス感染の拡大の速度を落とし,
その何カ月もの間に
研究者が薬品とワクチンを発見できるよう,
時間稼ぎをするのです。

もちろん,
その間に感染し発病した患者は
出来る限り手厚く看護されなければなりません。


ドイツには優れた医療制度があり,
世界でもトップクラスです。
しかし,
短期間に多くの重症患者が運び込まれた場合,
病院には大きな負担がかかります。

それは統計上の単なる抽象的な数字ではなく,
父または祖父,母または祖母,パートナーであり,
彼らは人間です。

そして,
私たちはすべての人の命に価値があることを知る
コミュニティで生活しているのです。

まずこの場を借りて,
医師,そして看護施設,病院などで働くすべての方に
お礼を申し上げます。


あなた方は最前線で戦っています。
この感染の深刻な経過を最初に見ています。
毎日,新しい感染者に奉仕し,
人々のためにそこにいてくれるのです。
あなた方の仕事は素晴らしいことであり,
心から感謝します。  



さて,ドイツでのウィルス感染拡大を遅らせるために
何をするべきか。
そのために極めて重要なのは,
私たちは公的な生活を中止することなのです。


もちろん,
理性と将来を見据えた判断を持って
国家が機能し続けるよう,供給は引き続き確保され,
可能な限り多くの経済活動が維持できるようにします。

しかし、人々を危険にさらしかねない全てのこと、
個人的のみならず、社会全体を害するであろうことを今,
制限する必要があります。


私たちは出来る限り,
感染のリスクを回避しなければなりません。  

すでに現在,大変な制限を強いられていることは
承知しています。
イベントは無くなり見本市,コンサートは中止,
学校も大学も保育施設も閉鎖,
公園で遊ぶことさえ出来ません。

州と国の合意によるこれらの閉鎖は厳しいものであり,
私たちの生活と民主的な自己理解を阻むことも
承知しています。


こういった制限は,
この国にはこれまであり得ないことでした。
旅行や移動の自由を苦労して勝ち取った
私のような人間にとって(注※メルケル首相は東独出身),
そのような制限は絶対に必要な場合にのみ正当化されます。

民主主義国家においては,
そういった制限は簡単に行われるべきではなく,
一時的なものでなくてはなりません。

今現在,人命を救うため,
これは避けられないことなのです。
そのため,今週初めから国境管理を一層強化し,
最も重要な近隣諸国の一部に対する入国制限を
施行しています。  

経済面,特に大企業,中小企業,商店,レストラン,
フリーランサーにとっては
現在すでに大変厳しい状況です。

今後数週間は,さらに厳しい状況になるでしょう。
しかし経済的影響を緩和させるため,
そして何よりも皆さんの職場が確保されるよう,
連邦政府は出来る限りのことをしていきます。


企業と従業員がこの困難な試練を乗り越えるために
必要なものを支援していきます。
 
そして安心していただきたいのは,
食糧の供給については心配無用であり,
スーパーの棚が一日で空になったとしても
すぐに補充されるということです。
スーパーに向かっている方々に言いたいのです。
家にストックがあること,
物が足りていることは確かに安心です。

しかし,節度を守ってください。
買い溜めは不要で無意味であり,全く不健全です。
また普段,
感謝の言葉を述べることのなかった人々に対しても,
この場を借りてお礼を申し上げます。


スーパーのレジを打つ方々,
スーパーの棚に商品を補充される方々は,
この時期大変なお仕事を担われています。
私たち国民のためにお店を開けていてくださって,
ありがとうございます。  



さて,現在急を要すること,
それはウィルスの急速な拡散を防ぐために
私たちが効果的な手段を使わない限り,
政府の措置は意味を持たなくなるということです。

私たち自身,
誰もがこのウィルスに感染する可能性があるのですから,
すべての人が協力しなければなりません。


まず今日,
何が起こっているかを真剣に受け止めましょう。
パニックになる必要はありませんが,
軽んじてもいけません。
すべての人の努力が必要なのです。

この伝染病が私たちに教えてくれていることがあります。
それは私たちがどれほど脆弱であるか,
どれほど他者の思いやりある行動に依存しているか
ということ,それと同時に,
私たちが協力し合うことでいかにお互いを守り,
強めることができるか,ということです。 



ウィルスの拡散を受け入れてはなりません。
それを封じる手段があります。
お互いの距離を保ちましょう。
ウィルス学者は明確にアドバイスしています。
握手をしてはいけません。
丁寧に頻繁に手を洗い,
人と少なくとも15メートルの距離を置き,
出来るだけお年寄りとのコンタクトを避けましょう。
お年寄りは特にリスクが高いからです。

この要求が難しいことであることは承知しています。
こういった困難な時期にこそ,
人にそばにいてもらいたいものですし,
物理的な近接,触れ合いこそが癒しとなるものです。


残念ながら現時点ではそれは逆効果を生みます。
誰もが距離を置くことが大変重要であることを
自覚しなくてはなりません。  



善意のある訪問,不必要な旅行,
これらはすべて感染を意味し,
行ってはならないのです。
専門家が「お年寄りは孫に会ってはいけない」
と言うのには,
こういった明白な理由があるからです。

人と会うことを避ける方は,
毎日たくさんの病人の看護をしている
病院の負担を軽減させているのです。
これが私たちが人命を救う方法なのです。


確かに難しい状況の人もいます。
世話をしている人,
慰めの言葉や未来への希望が必要な人を
ひとりにはさせたくはありません。
私たちは家族として,あるいは社会の一員として,
お互いに支えあう他の方法を見つけましょう。

ウィルスが及ぼす社会的影響に逆らう
クリエイティブな方法はたくさんあります。


祖父母が寂しくないように,
ポッドキャストに録音する孫もいます。
愛情と友情を示す方法を見つける必要があります。
Skype,電話,メール,
そして手紙を書くという方法もあります。
郵便は配達されていますから。

自分で買い物に行けない近所のお年寄りを助けている
という素晴らしい助け合いの話も耳にします。
この社会は人を孤独にさせない様々な手段がたくさんある,
私はそう確信しています。  



申し上げたいのは,
今後適用されるべき規則を遵守していただきたい,
ということです。
政府は常に現状を調査し,
必要であれば修正をしていきます。

現在は動的な情勢でありますから,
いかなる時も臨機応変に他の機関と対応できるよう,
高い意識を保つ必要があります。
そして説明もしていきます。

ですから私からのお願いです。
どうか私たちからの公式発表以外の噂を
信じないでください。
発表は多くの言語にも訳されます。

私たちは民主国家にいます。強制されることなく,
知識を共有し,協力しあって生活しています。
これは歴史的な課題であり,
協力なしでは達成できません。
私たちがこの危機を克服できることは
間違いありません。

しかし,
いったいどれほどの犠牲者となるのでしょう?
どれだけの愛する人々を失うことになるのでしょう?
それは大部分が今後の私たちにかかってきています。


今,断固として対応しなければなりません。
現在の制限を受け入れ,お互いに助け合いましょう。
状況は深刻で未解決ですが,お互いが規律を遵守し,
実行することで状況は変わっていくでしょう。


このような状況は初めてですが,
私たちは心から理性を持って行動すること
で人命が助けられることを示さなければなりません。
例外なしに,
一人一人が私たちすべてに関わってくるのです。


ご自愛ください。
そしてあなたの愛する人を守ってください。
ありがとうございます。
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