目的:
ピロリ菌が胃がん発生の大きな要因であることを確認します。
ピロリ菌の「活躍」ぶりを確認します。
ピロリ菌除菌の有効性を確認します。
胃がんの治療には早期発見が一番であることを確認します。
ねらい:
ねらい:
胃がんの早期発見に心がけましょう。
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本項は、学士會会報2021-Ⅱ号掲載の
浅香正博 北海道医療大学学長の
「わが国から胃がん撲滅を目指す戦略とその成果」
のご紹介です。
その要旨が以下のように記載されています。
日本人の胃がんの大半はピロリ菌感染が原因であり、
ピロリ菌を除菌すれば、
胃がんを含む90%近い胃の病気を予防できると考えられる。
(上野注:以下の内容からすると、それは若干誇大と思われます)
2013年に慢性胃炎の除菌に保険適用が認可されて以来、
ピロリ菌の除菌数は飛躍的に増加し、
現在1千万人に近づいてきている。
それに伴い、40年以上にわたって5万人を維持してきた
わが国の胃がんの死亡者数は減少を始め、
2019年には4万5千人を切った。
この胃がん死亡者数の減少は、
除菌の効果以上に、
内視鏡検査で早期がんが発見されるケースが増えた効用が大きいと考えられる。
このレポートの本文は、以下の内容の大作なので、
ピロリ菌に関する私の関心事を中心にまとめさせていただきました。
第1章 禁煙と感染症対策で日本人のがんは減る:予防に優る治療はない
第2章 ピロリ菌とは何か ピロリ菌研究の歴史
第3章 胃がん撲滅計画 ピロリ菌除菌で胃がん予防は可能か
第4章 わが国のがん死亡者の推移
第5章 何故、胃がんの死亡者は急減しているのか?除菌の直接効果ではない
以下は、上野による要約です。
1.がんの予防対策
1次予防 がんの発生を抑制する
禁煙、アルコール制限、肥満防止
ピロリ菌除菌
2次予防 検診でがんの早期発見と早期治療を行う
内視鏡検査は胃がんの発見に効果大
WHOは1次予防を推進しているが、
日本は2次予防のみに特化している特殊な国である。
2.日本の胃がん罹患者・死亡者の状況
胃がんによる死亡者の状況は以下の図のとおりです。
(1)80歳未満の死亡者数は急激に減少している。
(2)減少理由は、以下の3点
1)塩分摂取量の減少
1955年の17g強から2015年の10g未満へ
2)2013年のピロリ感染胃炎治療の保険適用開始
この時の適用条件が内視鏡検査を前提としていたために
胃がん早期発見につながった。
3)著者はバリウム検診は胃がんの死亡者を減少させていない、
と言っていますが、80歳未満には効果があるようです(上野)。
胃がんの罹患者数は減少していないとのことですが、
数値は示されていません。
3.ピロリ菌とは何か
1979年オーストラリアとウォーレンは胃の粘膜にいる菌を発見し、
マーシャルとともに菌の培養に成功し、ノーベル賞を受賞した。
1994年,NIH(アメリカ国立衛生研究所)が
「ピロリ菌は消化性潰瘍の主な原因である。したがって治療では
従来の胃酸分泌抑制剤に加えて、ピロリ菌を除菌した方が良い」
と勧告した。
このお墨付きにより、各国でピロリ菌除菌が、
胃・十二指腸潰瘍の治療法として保険適用されるようになった。
しかし日本では保険適用の条件が厳しく2000年にずれこんだ。
因みに、
ピロリ感染胃炎治療に対する保険適用は2013年になってからである。
4.ピロリ菌の感染源
ピロリ菌は胃酸が十分強くない乳幼児期に経口感染する。
したがって、乳幼児期の衛生状況、特に上下水道の整備状況に左右される。
1992年の著者の調査では、ピロリ菌の感染率は
40代(団塊の世代)より上の世代は80%超
30代より下の世代は40%以下、となっている。
団塊の世代が生まれた終戦直後までは井戸水などから感染した。
上野注:ということは現在65歳以上人口は約30%なので
日本人全体のピロリ菌感染率はかなり低いはずです。
5.ピロリ菌による発がん状況
WHOによると、2012年の世界の胃がん発生数は952千人で、
その60%は、日本、韓国、中国で、東アジアの風土病と言われる。
同年の胃がん死亡数は723千人で、死亡率は76%である。
しかし、胃がんの5年生存率は、日本70%、韓国60%弱で
欧米、南米、ロシアなどは10%~30%と低い。
日本と韓国は内視鏡による早期発見が進んでいるからである。
ピロリ菌に感染すると、防御のために白血球やリンパ球が動員され
それらが放出するサイトカインによって胃の粘膜が傷つき、
数週間から数か月で100%の確率で慢性胃炎になる。
慢性胃炎は放置すると、10年から20年で日本人の80%は
「萎縮性胃炎」に移行する。
その後、千人のうちの5-6人が「分化型胃がん」を発症する。
(他の理由で発生する胃がんもある)
ピロリ感染胃炎から、
胃・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、機能性胃腸症(FD)、
胃ポリープが発生する。
萎縮性胃炎を介さないで直接「未分化型胃がん(スキルス胃がん)」が
発生することもある。
6.ピロリ菌の除菌効果
2011年大分大学の調査では、
ピロリ菌除菌後の胃の粘膜の10年間の経過観察で
ピロリ菌感染胃炎は除菌後数か月で完治したが、
萎縮性胃炎は10年近くでようやく80%が完治した
(萎縮性胃炎まで進行すると完治しにくい)。
胃・十二指腸潰瘍はピロリ菌の除菌が成功すると
維持療法なしで再発がほとんど抑制される。
2000年に、胃・十二指腸潰瘍のピロリ菌除菌が保険適用されると
10年で60%発症が減少した。
特に、十二指腸潰瘍は90%近くで、今後10年で日本から姿を消す。
スキルス胃がんは無症状なので、発見した時には手遅れであるが、
ピロリ除菌をすればほとんどを予防できる。
しかし、ピロリ菌以外の原因による胃がん発生もあるので、
除菌による胃がん予防効果は35-40%である。
7.ピロリ菌の除菌方法
除菌治療が保険で適用されるためには、以下の手順が必要である。
胃炎等の症状に対してピロリ菌検査を実施。
陽性となった場合に、
内視鏡検査でピロリ感染胃炎であると診断されると
保険適用となる。
8.ピロリ菌の検査方法
これは、大塚製薬のホームページからのご紹介です。
何らかの胃の症状がないと保険適用されません。
- 尿素呼気試験法
- 診断薬を服用し、服用前後の呼気を集めて診断する、簡単に行える精度の高い診断法で、主流の検査法のひとつです。
- 抗体測定
- ヒトはピロリ菌に感染すると、抵抗力として菌に対する抗体をつくります。血液中や尿中などに存在するこの抗体の有無を調べる方法です。血液や尿などを用いて、その抗体を測定する方法です。
- 糞便中抗原測定
- 糞便中のピロリ菌の抗原の有無を調べる方法です。
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