2019年2月26日火曜日

「くらべてわかるオノマトペ」「オノマトペは面白い」

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 少し気分転換をしていただきます。
 オノマトぺについてご研究いただきます。 
ねらい:
 ご関心お持ちいただけましたら、原著をお読みください。
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「くらべてわかるオノマトペ」は、
オノマトペの第1人者小野正弘明治大学教授の著作、
「オノマトペは面白い」は、
官能小説研究の第1人者永田守弘氏の著作です。


実は私は、最近までオノマトペという言葉を知りませんでした。
たまたま、新聞のコラムで見つけ、
何だろうと思い2冊買ってみたのです。


ご存じの方が多いと思いますが、
オノマトペは、フランス語に由来するそうですが、
擬音語(動物の鳴き声や物音を人間の言葉に置きかえたもの)、
擬態語(ものごとや人間の様子、感情や感覚を、
言葉の持つ感性で表現したもの)の総称です(小野教授の著書)。


擬態語は、世界のどの言語にもあるというものではなく、
日本語、韓国語などで特に発達しているものです。
日本語の擬態語を深く細かく理解することは、
日本語の細やかさと深さを測ることにつながります(同上)。


「くらべてわかるオノマトペ」は、
似た意味をあらわす擬態語のセットを作って
そのどちらがその意味が強いか、を比較しています。
「ぷりぷり」と「つんつん」 どっちの方がおかんむり?
「へとへと」と「くたくた」 どっちの方が疲れている?
「こつこつ」と「せっせと」 どっちの方が真面目に取り組んでいる?
「ふわふわ」と「ぷにぷに」 どっちの方が心地よい?
など50組が取りあげられています。


単に、感覚の比較をするだけでなく、
古典に遡ってその語源を極めたりしています。
以下の例をご覧ください。
何気なく使い分けていますが、
あらためてニュアンスの違いを認識させられます。
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「にこにこ」と「にやにや」 どっちの方が好意を感じる?

「にこにこ」と「にやにや」、
どちらも〈軽く笑みを浮かべる様子〉という点が共通する
オノマトペです。


このどちらに好意を感じるかということですが、
少なくとも、私と同世代の五十代以上であれば、
当然、「にこにこ」の方が好意を持っていると答えると思います。


たとえば、次の例を比べてみましょう。

○無邪気に遊ぶ子供を「にこにこ」と眺める。
○無邪気に遊ぶ子供を「にやにや」と眺める。

これらの例の、「にこにこ」からは、
〈温かなまなざし〉を感じるのに対して、
「にやにや」からは〈軽くバカにしたようなまなざし〉を感じます。


もっと言えば、
〈粘っこい視線で薄気味悪く、
なにを考えているかよくわからない〉
といったニュアンスさえただよいます。

こんな視線を感じたら、その子供の親御さんは、
すぐに、子供をほかの場所に移すか、
視線をさえぎろうとするでしょう。


「にこ」と「にや」という要素を持つ、
別の言葉にも目を転じてみましょう。


「にこ」からは、
「にこっ」「にこり」「にこやか」などの言葉が思い浮かびます。
みな、〈温かみのある好意的なまなざし〉を感じる言葉です。


これに対して、「にや」からは、
「にやっ」「にやり」「にやつく」「にやける」
のような言葉を思いつきます。

これらからは、たいてい、
〈軽くバカにしたようなまなざし〉を感じますが、
「にやける」からは、必ずしも悪意を感じないようにも思われます。
そのことは後で述べます。


「にこにこ」の基本要素「にこ」は、オノマトペだけでなく、
和毛(にこげ)」「(にこ)(ぐさ)」のような普通の言葉も生み出します。
「和毛」は、産毛のような柔らかな毛で、
「柔草」は、今は耳慣れない言葉ですが、
葉や茎の柔らかい草のことです。


この「にこ」は〈柔らかい様子・穏やかな感触を持つ様子〉
を意味しています。
そのような、〈柔らかさ〉〈穏やかさ〉といった、
ずいぶん抽象的な意味感覚が、
「にこにこ」にも引き継がれているように思えます。


一方、「にやにや」は、
古くは〈ねばつく様子〉を意味していました。



そのことは、鎌倉時代につくられた語源辞書『名語記(みょうごき)』に
「ねばき物をにやにやとあるといへる、にや如何」
と書かれていることから、確認できます。


さきの「にやにやと眺める」に感じられた、
なにか粘っこい感じというものは、
ここに由来しているわけです。

そして、ここにも、
抽象的な感覚が流れ込んでいるのを見てとることができます。


オノマトペの意味が引き継がれるとき、
そこには、繊細で抽象的な感覚が橋渡しをしています。


また、「にやける」は、現在では〈だらしなく笑みを浮かべる〉
という意味ですが、
「生まれたばかりの娘の写真を見てはにやける」という例からは、
〈軽くバカにしたような悪意あるまなざし〉は感じられません。

「にやける」の語源には、実は諸説あって

「若気(にやけ)る」なのだとされることもあります。
「若気」とは
〈男が女のように色っぽく、浮わついた様子を見せること〉
という意味です。

「にやける」の〈だらしなさ〉は、
ここに由来するのかもしれません。


さて、最近の、特に若い世代における「にやにや」は、
感覚が変わってきているようです。

ブログにこんな例を見つけました。


○私はにやにやする話が好きです。
 その展開はかっこよすぎるでしょ―とか
 それは可愛すぎるでしょ―、とか
 そこでそんなこと言っちゃうの最高でしょ―とか
 思いながらにやにやしてしまう感じの。


この例からは、これまでの「にやにや」が持っていた
〈軽くバカにしたようなまなざし〉や
〈粘っこさ〉の感覚は希薄になって、
むしろ、好意的な微笑みに転じています。


ほかに、
「もらったプレゼントを見てにやにやする」みたいな例もあります。
これまでならば、
たとえば「にまにま」で表されていたような感覚です。


このような「にやにや」の意味の変化が進めば、
「にこにこ」と「にやにや」の、どっちに好意を感じるか
という感覚が変わってくるどころか、
意思疎通が世代間でうまくいかなくなるかもしれません。


「プレゼントもらって、すっごいにやにやしちゃった」
とうれしそうな娘に、
「そんなに変なものだったのか?」とお父さんが返してしまう、
なんてことになってもおかしくありません。
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「オノマトペは面白い」は、
著者が40年以上にわたり年間300編の官能小説を読破してきた
集積をまとめた「オノマトペ官能編辞書」です。


女性編、男性編と大きく分かれ、
それぞれが部位別に編集されています。
あまり露骨でないところで、お尻は「むっちり」「ムッチリ」などですが、
こういう言葉は400ページに亘り3000語以上の使用例がが
収録されているのです。


この蓄積には脱帽です。
具体的な使用例のご紹介は遠慮させていただきます。


間に10編ほどのコラムが入っています。
その1例を以下にご紹介します。
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「むっちりした白いお尻」

お尻を表現するオノマトペとして一般的に思いつくのは
「むっちり」「ぷりぷり」「ぶるるん」などがありそうだが、
官能作家の発想にかかると、
これまたバラエティに富んだものになる。


男性たちはだいたい女性のお尻が大好きだ。
おっぱいに執着する男性たちはいるが、
それでもお尻が好きでないというわけではない。


動物学者の一説によると、人間が三足歩行になる以前は、
女性の外見でいちばん目立つ性徴はお尻だったわけで、
お尻を誇示することは生殖行動の重要なポイントだつた。


二足歩行ではまず女性と対面して目立つのは乳房だが、
それでも前面からは見えないお尻の誘惑から逃れることはできない。
女漁りをすることを「女の尻を追いかける」
というのはそのためだろうか。


たとえば
「むっちりした白桃のような豊かなお尻」といった表現は、
いやおうなく男性たちの欲情をそそる。

大きめの白いお尻というのが、
おおかたの男性読者の好みのようで、
スタイルとしての小尻には人気のある昨今でも、
硬そうで小さなお尻というのは、
官能小説ではほとんどお目にかからない。


現実には若い女性たちの脚が長くなって、
相対的にお尻が小さくなっているらしいが、
ソレとコレは別なのでは?

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