2021年10月7日木曜日

「英語の思考法」つづき――英語の使い方

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 英語の実社会での使用法を研究いただきます。
 英語の使用法について「なるほどそうなのか」と知っていただきます。
ねらい:
 今後、英語を使うときに参考にしましょう。
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本テーマは、当ブログの「『英語の思考法』ですって」を見られた
米野忠男氏からいただいた文章のご紹介です。
私の前掲ブログは、まさに「思考法」に力点をおいた紹介だったので、
英語の表現法自体についての解説は不十分でした。
本稿はそれを補う意味があります。

米野氏は、私の帝人時代の同期生で2度ほど寄稿いただいています。
米国生活での体験に基づき、
英語の実社会での使用法について解説されており、
なるほど!と感心しきりの内容です。

そうしましたら、彼は以下のように英語マニアなのでした。
ビックリです。
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私も長年英語に関わったので、実は数年前のある会合で、
「英語と日本語の発想の違い」と題して小文を用意して話したことがあります。
勿論アカデミックなものではなく、
体験に基づいて(面白おかしく?)纏めたものです。

またこれは私の趣味みたいなもので昔から関心があり、
長年集めたネタを
「英語の言葉遊び(英語の回文,アナグラム,なぞなぞ,語呂合わせなど8項目)」としてまとめました。
きっかけは近くに住む国家資格をもつ英語のガイドで、
来日外国人の東京案内をしている人から、
英語の面白い話があれば教えてと頼まれ、
バラバラにメモを用意して話したことでした。
8項目それぞれ2ページぴったりに纏めたので、
全16ページのやや長い小文です。
結構苦労したもので、限られた人にしか配布していませんが、
勝手に転送した人がいたようで、
自分は英文科を出たが英語に回文があるとは知らなかったので面白かったと言ってきた人がいました。
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以下、米野氏のレポートです。
「英語の思考法」雑感

(上野氏メルマガ2021年9月号へのコメント)

上野則男氏の9月度ブログで書籍「英語の思考法」が紹介されている。
早速購入して興味深く読み終えた。
著者は英語の核心として
「独立」、「つながり」、「対等」の三つを挙げて、英米人のコミュニケーション文化論を展開している。
最初は三つのキーワードの意味が分かりにくいが、
読み進むにつれ著者の言わんとすることがだんだん分かるようになり、
英語を使う際にいかに重要かを理解できた。
本書を読んで私のアメリカでの生活体験も踏まえて思ったり、
思い出したりしたことを少々まとめ、
良書を紹介してくれた上野氏への感謝の気持ちを込めて、
ブログへのコメントとさせていただきます。

1.ファーストネーム
ファーストネームはその人だけの独立した個であり、
ファーストネームで呼び合うことは、
「独立」と「つながり」の二つの英語の核心が交差した
コミュニケーションの慣習と説く。
その人だけの名前のファーストネームで呼ぶことは親密な態度の表れで
友人同士ファーストネームで呼びあえば、
「対等」であることを意味する。
著者が強調する英語の三つの核心で説明できるということだ。
確かに日本では考えられないがアメリカの会社では、
部下と上司がファーストネームで呼び合うことは珍しくない。
英米ではファーストネームで呼ばないとニュースになる。

GMの中興の祖と言われたアルフレッド・スローンは1923年に社長に就任すると、大量生産方式を推進し、今ではどの会社もやっている定期的なモデルチェンジで
需要を喚起する販売方式を初めて導入した。
フォードを追い抜いて米国一の自動車メーカーに成長させた伝説の経営者だ。
スローンは仕事以外でもスローン財団を設立して慈善事業を行ったり、
経営者育成のため母校のMIT(電気工学専攻)の
ビジネススクール(Sloan School)設立に多額の寄付をした。
スローンは威厳があり、近づき難い雰囲気があったようで、
親しい人からも決してファーストネームでは呼ばれなかった、
と昔読んだ彼の評伝に書いてあった。

2.謝る,感謝する,謙遜する
日本人は
謝る,感謝する,謙遜する言葉の表現ではどれも「し過ぎる」が、
英米では受ける方が居心地が悪いと感じる場合もあるから、
英語ではもう一つの核心である「対等」な関係を適度に保つことが重要と説く。
著者は日本語の「すみません」があまりにも広い意味で使われるので、
つい「I’m sorry(ごめんなさい)」とか「Exuse me(失礼します)」を、本来少し異なるニュアンスなのに、ごちゃまぜに使ってしまうと説明するが、なるほどと頷ける。
確かに日本では何かを貰った時にも,恐縮ですという意味合いで、
軽く「すみません」と言うことがあるが、
「I’m sorry」と言ったら相手はびっくりするだろう。
同じように日本語では「どうも」とか「よろしく」など曖昧に使うことが多いが、状況に応じて異なる英語にしないと意味が通じないだろう,と私は思う。
へりくだったり謙遜する言い方は日本語には多いが、
英米人だって謙遜することがあり、
いくつかの英語表現例を紹介している。
しかしここでも「対等」の配慮をすることが大事だという。

本書では「I’m sorry」や「Exuse me」の謝り方の説明をしているが、
なぜ「I beg your pardon」に触れてないのかと、
上野氏は問題提起した。
ここでその用例を一つ思い出した。
アメリカの講演会で質問者が「I beg your pardon,sir」と
前置きしてから質問を始めたのを何度か聞いたから、
一種の決まり文句だろう。
先ず話の内容を確認してから質問や自説を述べる場合だ。
「I beg your pardon」には,もし自分の聞き違いや理解違いがあったら
お許し願いたいというニュアンスがある。
だからこういう場合「I’m sorry」とか「Exuse me」とは言わない。

3.アイムソーリー法
前項に関連するが,英米人は日本人に比べあまり謝らない。
アメリカでは交通事故を起こしても、
後で裁判になった時に不利になるから謝らないという背景がある。
私もアメリカに住んでいた時に、
交通事故を起こしても「I’m sorry」とは絶対に言うなと教わった。
しかしこれでは人間関係がギクシャクするので、
本書にはアメリカのいくつかの州で
「I’M SORRY Law」という法律があると書いてある。
「I’m sorry」の発言を裁判の判断材料にしないということだ。
上野氏もこの法律は興味深いと述べているが、
私もこの法律は知らなかった。
この法律は交通事故だけでなく、
医療現場に適用されることが多いとある。
医師が患者が死亡した際に、
お悔やみの気持ちで「I’m sorry」と言うと、
遺族から賠償金目当てに訴えられかねない。
実際にアメリカでは医療訴訟が頻繁に起こる。

アメリカの医師が何度も裁判ざたになって
弁護士に多額の費用を払うことになり、
こんなことはやってられないと医師を辞めて弁護士になった
というウソくさい話もある。
アメリカの医療費の高い理由の一つが、
病院や医師が裁判に備えて高額の保険を掛けるからだが、
日本ではあまり知られていないかもしれない。
アメリカのジョークに医師になるなら三つの理由で
皮膚科がよいというのがある。
皮膚病で死ぬ患者はいないから訴えられない、
急患がないから夜中に起こされない、
最後のオチが秀逸で、
皮膚病は完治しないから患者は減らずラクに喰っていけるというもの。

4.プライバシー
本書ではプライバシーという概念は、
英語の核心の一つである「独立」志向の最たるものと位置付けている。
よほど親しい間柄でない限り、
プライバシーに関わる話は避けるべきとなる。
年齢、結婚、収入、政治信条、宗教などだ。
個人の「独立」した領域には立ち入るべきではないということだ。
私もアメリカ時代、宗教の話題、
また女性がいる場合には容姿一般の話題も避けるように気を付けた。
アメリカの男は下ネタの話を口に出す人も多いが、
ユダヤ人に対してはこういう話題はご法度と知って注意した。
こうなると初対面の相手との会話では、
天候とかスポーツなどの話題を選ぶのが無難だ。

特に女性に年齢を尋ねるのはタブーとされる理由として、
若さに価値があると思う人が多いからとの本書の説明は、
感覚としてはすぐにはピンとこない。
相当高齢の人には
日本でも海外でも年齢を訊くのは構わない理由として、
高齢でも元気なことに価値があるからという。
年齢に関係なく、
そもそも年齢を訊いて何の意味があるのかと思われるから、
避けた方が良いとの説明は頷ける。
さり気なく女性の年齢を尋ねる技として、
歴史上の事件が起こった時「貴女はどうしていたか」と訊いて、
「まだ生まれてなかった」とか「確か高校生だった」
と答えてもらえれば年齢を推定できる。
年齢ではなく「貴女の誕生日はいつ」と訊かれた女性が、
質問の意図を知って「私の生まれた日」とだけ答えたそうだ。

5.ジョークでスピーチを始める
日本にはない慣習だが、
英米ではジョークでスピーチを始めるのが一般的だ。
話す人と聴衆の「つながり」志向と本書では説明している。
今では「Opening Jokes」でネット検索すればいろいろ出てくるとして、
本書にはいくつかの文例が紹介されている。
確かに難しいテーマの講演の前にジョークで一息入れ、
聴衆の緊張を和らげるのは、
その後の話を集中して聞いてもらうのに役立つと私も思う。
ノーベル賞を受賞した山中伸弥博士が海外で講演を頼まれると、
頭のジョークをどうしようかといつも悩むと言っていた。
同じジョークを何度も使えないから、山中先生も大変だろう。

私がハーバード・ビジネススクールに留学した時、
ソニーの盛田会長が米国進出25年の記念講演を
ハーバード大学ですると聞いて、翌日の授業への準備で忙しかったが、
夕方川を渡って大学へ出かけて講演を聞いた。
英語に堪能な盛田さんはやや長いジョークで話を始めた。
「経営者の講演では過去の自慢話をする人が多いが、
私はそんなことはしたくないから,未来の話をしようと思う。
そうなるとソニーの新製品について話をしなければならないが、
今後10年以内に出る新商品は、現在研究中の中からしか出ない。
私は研究中の商品をすべて知っているから、
ソニーの秘密を漏らすことになる。
それはできないから,やはり過去の話をします」
と聴衆(ほとんどが学生)を笑わせた。
講演後に盛田さんを囲むパーティがあると聞いて、
会場に潜入し人垣をかき分けて盛田氏に近づき、
会社からビジネススクールに来ています、と挨拶した。
「君んとこは社長が亡くなって大変だね」と即座に言われた。
戦後の吉田内閣で大臣を歴任した有名社長が亡くなった年だった。

6.単数と複数
英語名詞の単数・複数について著者は英語の核心のキーワードを使い、
「独立」した「個」が関わると説明する。
例えばfishやsheepの例を挙げて、
群れをなす動物や魚は「独立」した個と認められないから、
単数・複数の区別をせず単数扱いになるという。
西部劇ではカウボーイが牛の群れを追い回すが、cowの複数はcowsだ。
となると本書の説明はしっくりこないし、
クレームが出るかもしれない。
日本の英語教育ではdeerやcarpなど単複同形名詞を
理由なしに暗記する(させられる)。
つまり受験対策で例外から先に学ぶ。
アメリカではこういう教育が行われないから、
アメリカではdeersと言う子供が結構いるとアメリカにいた時に聞いた。
誰かに注意されて自然に正しい言葉を学ぶのだ。

また「Thanks」や「Apologies」のように
感謝や謝罪を名詞形で言うときは複数形が使われるが、
複数には「たくさん」とか「いろいろ」のニュアンスがあると説明している。
また「おめでとう」は「Congratulations」と複数が正しく、
単数で言うのは間違いと断じている。
ネイティブのアメリカ人に理由を聞いても分らないと言うと書いてある。
この例のように、私は言葉は理由なく慣習で決まるものも多いから、
理屈は学者先生にお任せして、
理由など詮索しないで黙って覚えた方が気楽と思う。
日本語だって理由を付けられない表現も多いと思う。
日本語に堪能なライシャワー博士が、,
かってある講演で
「私たち夫妻は(夫人は日本人の松方ハル)」と言ったので、
あのライシャワーさんでもと話題になった。
日本人なら「私たち夫婦」とは言うが、
「私たち夫妻」とは決して言わない。
外国人から何故と訊かれても、慣習としか答えようがない。

そもそも日本語には複数形がないから不便な場合がある。
私の好きな小説家の一人であるロシアのツルゲーネフの代表作に
「父と子」があり、私はこのタイトルの文庫本で読んだ。
ある評論家が,
社会主義者の作者が親子ではなく世代間の問題提起をした本だから、
原題通り複数とすべきと言った。
英訳本を調べたら確かに「Fathers and Sons」と複数形だ。
この評論家の言葉を気にしたのか、
後に別の出版社から「父たちと子たち」という題で出版されたが、
本のタイトルとしてはヘンな感じだ。
小説を読めば分かるのだから,
私はそこまでこだわる必要はないと思うが、
日本語に複数形がなくて困る例だ。

7.「つながり」志向の英語(挨拶とあいづち)
日本で店に入ると「いらっしゃいませ」と声を掛けられるが、
客は何も答えない。答える決まり文句もない。
英米では店に入ると
店員は初めての客にも挨拶やご機嫌伺いの言葉を掛ける。
客も軽く「Hi」とか答えるのが普通で、
本書では英語の核心の一つである「つながり」文化と説明する。
日本では店員と客の会話は一方通行だから「つながり」は生まれない。
また会話中に英米人は日本人より頻繁にあいづちを打つが、
会話の相手との「つながり」上,非常に重要だと説く。
この「あいづち」の英文例をかなりたくさん紹介しているが、
日本人はたかが「あいづち」と軽視しがちだから参考になる。
アメリカのレストランでは料理が出た後で、
必ずウエイター(ウエイトレス)が客のところに来て、
「Everything OK ?」と言って来るが、
これは「つながり」志向ではなく(著者に同意してもらえるかな)、
チップを忘れないでねのリマインドなのだ。

確かにあいづちを打つのは、
相手の話をしっかり聞いてますよと示すことだから、
礼儀にかなっているのだろう。
しかしあまり頻繁にあいづちを打つのも
相手を馬鹿にした響きになりかねないから難しいところだ。
聞き上手といわれた竹下首相は、
話を聞いている間に「なるほど」と何度もあいづちを打ったそうだ。

8.褒め言葉と受け方
誰でも褒められれば嬉しいから、
褒めることは「つながり」志向の基本と著者は主張している。
お世辞とか社交辞令と思われない程度に褒めるのがよいが、
本当に褒めたい時は、
少し大げさに感情を込めた感じで称賛するのがよいと、
本書では薦めている。
見知らぬ人同士では,褒め言葉で話のきっかけを作ったり、
良い人間関係を築くことになるかもしれない。
褒め方の文例が紹介されているが、
とっさに出るように単語だけでもいくつか覚えておくといいと思う。
褒められた時の受け方として、
本書では三つのパターンを紹介していて参考になる。
(1) 受け入れる、
(2) 否定する、
(3) 褒められている状況を回避する。

(1) は単純に感謝すればよい。
(2) 英米ではほとんどないケースだが、
日本人が謙遜して「そんなことはない」と否定すること。
(3) は褒められていることは持ち上げられて対等な関係でなくなり、
居心地が悪い場合などでの応え方。
例として話題を変えて不均衡状態を回避する(著者のオーバーな表現?)。
例えば自分が褒められたら、「それを妻にも言ってくれないか」と返す。

米国の政治家ヒューバート・ハンフリー(Hubert Humphrey)は
ジョンソン大統領の時の副大統領で、
その後も民主党の上院議員として長年勤めた。
温厚な政治家として党派を超えて愛された人だった。
彼が末期がんを公表し亡くなる前年の1977年に、
現役議員としては異例の両院合同会議で演説の機会が与えられた。
多くの議員が彼の功績を称えるスピーチを行った後、
ハンフリーが応えた言葉を新聞で読んだ。
「I know all of your comments are compliments,
 but I am old enough to accept and appreciate ・・・」。
なお故郷のミネソタ州ミネアポリス市にあるドーム球場は
彼の名前を冠している。
私はこの表現が気に入って印象に残っていたので覚えていた。
後に年をとってから1年間の国際プロジェクトに参画し、
ロンドンでの最終会議で環境技術関係の報告書を
米国代表から褒められた時に、
とっさにこの言葉を思い出してそのまま使った。

9.英語の使役文
英語で「誰かに何かをさせる」という使役文では、
let・get・have・makeの四つの動詞が使われるが、
その違いを被使役者(何かをさせられる人)の「独立」した意思が
どういうものかによる、と例によってやや難解な説明をしている。
これら四つの使役動詞の特徴を簡単に示していて、
興味深いし大変役に立つ。
 makeは「むりやり」
 letは「なすがまま」
 getは「自発的にやらせる」
 haveは「自発的だがむりやり」

紹介されているそれぞれの例文を読むと、ニュアンスの違いを理解できる。
この使役構文について、
英語の核心の一つである「独立」のコミュニケーション文化が
文法や構文に反映されている良い例だと結んでいる。

本書にも書いてあるが、haveとgetには相手に何かをさせるだけでなく、
相手に何かをしてもらうというニュアンスもあるから、
私の感覚では英米人はhaveとgetをよく使うと思う。
アメリカで学校の先生が授業を始める際に、
「Let’s get started」というのが普通だが、
目的語(この場合は授業)が省かれている。
言わなくても分かるから省略するのだろう。
日本語でも「さあ始めましょう」と何をとは言わないのと同じか。
 
              (2021年9月30日 米野 忠男 記)

2 件のコメント:

ノボちゃん さんのコメント...

久し振りに英語の社会を覗かせて頂けたお便りでした。
英語の世界へ誘ってくれる誘惑に勝てそうもありません。
ご紹介有難うございました。
のぼちゃん

上野 則男 さんのコメント...

ノボちゃん
これは本当に素晴らしいレポートですよね。
誘惑に負けてください。